やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第57話

 俺達は陳宮と虎牢関からの投降兵を連れて、先に戦い終えていた本隊が張った陣地へ向かった。投降兵は千人ちょっといる為、そのまま陣地内へ入れるのは躊躇われる。この兵達の投降がこちらに潜り込む為の手段であり、玉砕覚悟で内部から破壊工作をする可能性もゼロではない。そして限りなくゼロに近くても、ゼロでない限り警戒は解くわけにはいかない。

 うちの本隊からすれば千人程度ならまともに戦えば一瞬で全滅させられる戦力である。しかし内部から荒らされるとなると被害は大きくなる。それについ先ほどまで敵対関係にあった者同士なのだから、不用意に近づけると荒事に発展しかねない。元董卓軍の者達には、うちの陣の隣で休んでもらった方が賢明だろう。

 

「恋や投降した兵達はこの辺りに待機してもらって……ええと、細かい事は冬蘭に任せて良いか?」

「はい、お任せを。とりあえずは怪我人の手当てと軽い食事とかですかね」

「頼む。俺は華琳に報告してくる」

 

 俺が陣に入ると皆怪我人の治療など戦いの事後処理を進めていた。俺達は董卓討伐の為の連合軍だが、陣自体は袁紹達からは少し離れた所に置いている。仲間(仮)どころか仲間(狩り予定)な関係なので仕方が無い。そんな俺達の陣なのだが、勝利後の割に妙に空気が重い。規律正しい曹操軍でも普通勝った後は多少緩むか、盛り上がったりしているものだが、今は兵達の困惑したような雰囲気を感じる。

 嫌な予感が頭をよぎる。状況を確認しようとキョロキョロしていると丁度良い所に秋蘭がいた。

 

「秋蘭、何かあったのか? 兵の様子が……おいどうしたんだ」

「あ、あぁ八幡か」

 

 話し掛けてから気付いたが、秋蘭は顔色が悪く、俺の問いかけにも力ない反応だった。そのただならぬ様子に嫌な予感は強まる。

 

「何があった?」

「姉者が……姉者が怪我を」

「なっ」

 

 予想外の事態で言葉に詰まる。

 あの春蘭が怪我をしただと。いつも相手が大軍であっても先頭を走り、正面から粉砕して見せたあの春蘭が怪我をしただと。信じられん。しかも秋蘭の様子を見る限り、相当深刻な怪我のようだ。

 

「張遼がこちらに下ったという報告を受けた時には、そんな話は無かったぞ」

「将の怪我は士気に関わる。姉者は兵達が動揺して士気が落ちないように、傷を物ともしない姿を周囲に示したのだ」

「手当は?」

「済んでいる。しかし……」

 

 秋蘭が言葉を濁し目を伏せる。冷静な秋蘭が言いよどむほどの重傷なのか。

 

「そんなに、その、酷いのか?」

「左目に矢が、な。命に別状は無いが、こんな姿を華琳様には見せられんと塞ぎ込んでいる」

 

 華琳達は厚い信頼関係で結ばれた主従であるが、それだけではなく所謂【深い関係】だ。それゆえの苦悩だろう。春蘭は普段は脳筋マックスだが、あれで意外に華琳関係の事となると恋する乙女である。傷ついた顔を見られるのは辛いだろう。

 

「華琳には知らせたのか?」

「ああ、今姉者に会いに行っている」

「そうか……華琳なら大丈夫だな」

「当たり前だ」

 

 秋蘭が強く言い切る。今春蘭に必要なのは華琳の言葉だ。他の人間がどんな慰めを言ったところで春蘭にとっては意味をなさないだろう。それに華琳なら傷ついた春蘭を受け止め、支えられる器量を持っていると思う。人の心なんてあやふやなものについて、ああだこうだと断言出来る根拠は俺には無い。しかし華琳なら、と思う。

 誰かと時間を共有して、それでその誰かを知った気になって、勝手に期待して……そんな事はもうないと思っていたのにな。そうさせる程の何かが華琳にはあるのかもしれない。

 怪我をした春蘭に直接俺がしてやれることはない。なら今は俺にやれることをやるしかない。

 

「秋蘭、俺はやる事が出来た。華琳はしばらく手が離せないだろうから大変だと思うが陣については」

「任せろ。八幡の方こそ相手は呂布で大変だっただろうに、気が回らなくて済まない」

「こっちは問題ない」

 

 表面上は取り繕ってその場を離れた。

 華琳は将来、王になるだろう。それは三国志の知識からくる予想だけでなく、実際に華琳やこの世界の事を知った上での分析だ。袁紹や劉備といった三国志で有名な人物とその陣営を見て、それでも華琳がこの乱世を制する本命だという確信がある。

 だが華琳が王を名乗る頃、うちの陣営の面子は全員無事なのだろうか。皆優秀なのは確かだ。ただし不死身という訳ではない。この先今回のように怪我人は出るだろうし、考えたくもないが俺の直接知っている人間の中から死人が出る可能性もある。

 戦いの中では怪我や死が厳然と存在している。俺は今まで知り合いのそれらが嫌で様々な作戦を立案したり、陣営の強化に励んできた。しかし俺は心のどこかで油断していたのではないか。大して三国志に詳しい訳でもないのに、主要な面子は三国志の終盤まで生存が約束されているかのように考えてはいなかったか。

 それに恋をこちらへ引き込めた事からも分かるように、俺や北郷という存在によって歴史の流れは変化する。今まで大まかな流れは三国志の通りだったと思うが、これから先は大きく変わるのではないか。呂布が曹操の配下になるというのはかなり大きな影響があるはずだ。

 俺はどうすれば良い?

 頭がズキズキ痛む。

 俺はどうすれば良い?

 三国志を再現するように動く? 今更である。これまでの行動を無かったことには出来ない。それに三国志の流れ自体が俺にとって好ましいものかどうかすら分からないのだから論外だ。

 つまり俺に選択出来る手は一つ。今まで通り、いや今まで以上に陣営を強化するしかない。

 何処の誰が相手でも、俺の知っている奴が無事でいられるくらいの強さが必要だ。

 とんでもなく自分本位で、傲慢な考え。利害関係を調整し、利用し、誑かし、唆し、誘導する。俺にはそれ以外に取れる手段を知らない。だが必要ならやるしかない。

 それにしても頭痛が酷い。今から大事な仕事があるのに勘弁して欲しい。

 陣から出て、近くで休憩している投降兵達を見回し、ある人物を探す。一番目立つ恋の傍にいた為、そいつはすぐに見つかった。

 俺は近寄り前置きもせず本題を切り出す。

 

「なあ董卓ってどんな奴なんだ?」

「きゅ、急になんなのです!」

 

 陳宮が驚きに目を見開いている。

 こいつは何を慌てているんだ。仮にも呂布の軍師的なポジにいるんだったら、分かるだろう。董卓の情報が必要だから聞いているんだよ。




読んでいただきありがとうございます。

今年の夏は暑い、暑すぎる。しかもリビングのクーラーが壊れちまったアアアアア。
もう駄目だあ、お終いだああ。

まあ、すぐ買い替えたんですがね。手痛い出費でした。薄い本買えなくなっちゃうだろぉ!!

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