やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第58話

 虎牢関攻略が完了した俺達は、そこで一泊した。そこで見栄っ張りな袁紹は、休む俺達を見てこれ幸いと進軍した。ただ練度、士気共に微妙な袁紹軍は大した距離を稼げず近くで野営することになったようだ。荀彧が袁紹に斥候を付けていて分かったことだが、その報告を聞いてまた俺の中の袁紹株が暴落した。あっ、とっくの昔に底値だったわ。

 一晩明けて俺達はゆっくり出発の準備を整える。

 俺は昨日陣営強化のために董卓が使えるんじゃないかと思い付き、陳宮から董卓の情報を引き出した。その結果交渉する価値のある相手だと判断した。そのことについて早く華琳と話したいのだが、今俺の方から会いに行くのは控えたい事情がある。それは昨日片目を負傷した春蘭を華琳が慰めていたはずだからだ(意味深

 あいつらが特別な関係なのは陣営内では皆知っているし、昨日は俺以外の奴らも気を使って華琳の天幕には近付かなかった。流石にもう行為の最中ということはないだろうが、華琳の天幕を訪ねて事後の残滓を感じてしまったら気まずい。

 結局俺から華琳の所へ行くことはなく、出発の段になってやっと顔を合わせることになった。もちろん昨晩はお楽しみでしたか、なんて冗談は言えない。

 

「大事な話があるんだが」

「何かしら? そう言えば呂布の引き抜き、上手くいったようね」

「ああ」

「褒美は何が……大功をあげたのに不景気な顔ね」

 

 機嫌良く褒美について話そうとした華琳が俺の様子を見て訝しむ。

 恋を仲間に出来たのは俺も大きいと思うが、その後春蘭の負傷を知ってからは先行きの不安を感じてしまう。元来ネガティブな俺では「なんとかなるさ」という思考にはならない。どうしても強迫観念のごとく「なんとかしなければ」という考えに寄ってしまう。今から華琳に切り出そうとしている話題もそれゆえだ。

 今の段階で他の誰かに聞かれる訳にはいかないので声を潜める。

 

「董卓と交渉したい」

 

 俺の一言で空気が凍った。 

 俺達は何もその場の思い付きで董卓討伐の連合軍に参加しているわけではない。色々な理由から董卓と戦っているのだ。それなのに二つの難所を攻略して董卓本人とついに直接対決か、という時分に本来言い出すことではない。

 華琳は表情こそ変えなかったが、身にまとう雰囲気がピリピリしたものになった。他の者なら、それこそ春蘭辺りなら先程の俺の発言で大騒ぎし始めていただろう。

 

「董卓討伐を含め、今後の方針は既に話し合ったはずよ」

 

 華琳は確認するようにこちらを見つめる。

 董卓討伐の連合軍への参加は時流に乗り遅れない為と、連合の発起人である袁紹との敵対を先延ばしにする為だと俺達は以前話していた。にもかかわらず俺がそれをひっくり返すようなことを言い出したのだから、困惑しそうなものだ。まあ華琳は困惑というより真剣味が増しただけだが。

 

「何か方針を転換しなければならない理由でも?」

「ああ」

「まさかとは思うけれど呂布を説得するのにそういう条件でも付けたのかしら?」

「いや、それはない」

「では呂布に何か言われて絆されでもした?」

「本気で聞いていないだろ、それ」

 

 俺は肩をすくめる。俺が絆されたなんて理由でいきなりこんな事を言い出したら、華琳は現時点でブチ切れていると思う。少なくとも今の華琳は、そういう認識はしていないはずだ。

 

「そうでもないわよ。貴方は意外と優しい所があるから一応ね」

「まあ俺の半分は優しさで出来ているからな」

「残り半分はどんな猛毒で出来ているのかしら」

「なんで残りが毒確定なんですかねー」

「それで結局どういう理由で交渉したいの?」

 

 華琳は俺の質問を華麗にスルーして話を戻す。

 これ以上突っ込んでも藪蛇になりそうなので俺も蒸し返しはしない。

 

「もう董卓との戦いは決着がついたも同然だろ」

「まだ董卓本人とは戦っていないでしょ」

「聞いた話では董卓陣営の武は呂布、張遼、華雄の三人が担っていたらしいからな。その三人を失ったんだから戦闘に関してはもう決着がついていると言って間違いないだろう」

 

 陳宮の話では董卓は、恋や張遼のような武勇を誇るタイプの将ではないらしい。まだ都にはそれなりの数の兵がいるとのことだが、それを率いる武将はいない。正確には指揮が出来る者はいるが張遼レベルの指揮をとれる者はおらず、恋程強い武人も存在しないらしい。まあ、あんなのがその辺にゴロゴロいたら困る。

 戦いの趨勢が既に決まっているという俺の主張に華琳も異存は無いようだ。だが問題はそれだけではない。

 

「私はともかく他の軍は止まらないわよ。それともこの連合を裏切って背後から襲い掛かるとでも?」

「他の軍というか、袁紹だろ止まらないのは。それにそんな手が認められるなんて思うかよ」

 

 俺自身は袁紹を攻撃するのになんの抵抗もないが、今言ったような騙し討ちを華琳が良しとするわけがない。それくらいは俺にも分かる。しかし手段ならいくらでもある。

 

「董卓を死んだことにしても良いし、他に悪役を用意するなりやりようはある」

「やっぱり猛毒じゃない」

「どこがだよ。董卓は酷い政治をやっていた訳じゃないらしいからな。本当の腐敗と圧政の大元は十常侍や何進って話だからソイツらに責任を取ってもらう。筋を通すだけなんだから、これぞ正道・王道と言っても間違いじゃないだろ」

 

 元々董卓が圧政を行っているというのは、袁紹の主張と噂レベルの情報が根拠だった。俺の情報収集では確たる証言は無かったし、都に独自のコネがあるらしい華琳も董卓の情報はあまり無い。代わりに十常侍を中心に宦官と役人の腐敗についての情報は、それこそ腐るほど耳に入ってきている。それこそ俺の目より酷い腐り方で。 

 華琳はじぃーと俺を見詰めている。圧が凄い。それでも俺の言い分は即否定されてないことから、一考の余地くらい感じてくれているようだ。もう死に体の董卓陣営を討つことに華琳も大して魅力を感じてないので、その点に関しては納得してもらえると思う。

 

「……貴方は交渉によって何を董卓に求めるつもりなの?」

「出来ればこちらに引き込みたい。それが難しくても最低限協力関係にはなっておく」

「まがりなりにも相国(しょうこく)である董卓を相手に、引き込みたいとは大きく出たわね」

 

 華琳は口では揶揄するようなことを言いながら、どこか楽し気だ。

 相国とは皇帝に仕える臣の中で最高位である。しかしそれがどうした。俺の口角が自然につり上がっていく。

 

「どんな御大層な役職でも討伐される寸前の状態ではなあ」

「弱みにつけこむ詐欺師みたいな悪い顔になっているわよ」

「なってねえよ。窮地に陥った董卓に手を差し伸べてやろうって話なのに詐欺師はないだろ、詐欺師は」

「追い込んだ側でしょ貴方も」

 

 ごもっとも。董卓から恋や張遼を奪っておいて「手を差し伸べてやろう」なんてのは完全なマッチポンプだ。が、だからといって遠慮していたら、これからの乱世は渡っていけない。ほら、なんせ渡る世間は鬼ばっかりだから仕方ない。

 

「何か問題があるか?」

 

 俺の質問を聞いて華琳は距離を詰めて来た。反射的に体を逸らそうとした俺の服を掴んで逃がさない。こちらの目の奥まで覗き込んで覚悟を測ろうとしているかのようだ。華琳の真意は分からんが、普通に照れるから止めてくれ。

 

「貴方の方こそやれるの?」

「ま、まあ、なんとかする」

「そこはもっと自信を持って言うところでしょ」

 

 華琳はどもる俺に苦笑する。

 いや俺がどもっているのは董卓との交渉に自信が無いんじゃなくて、お前が急に近づいたからだからな。とは言えない。ドSな華琳の前でそんなことを言ったら弄り倒される未来しか見えない。

 華琳は大きく息を一つ吐くと、納得したのか俺を捕らえていた手を放した。

 

「良いわ。董卓との交渉は任せるから貴方はそれに専念しなさい。他の仕事は私と桂花でやっておくわ」

 

 華琳が任せて置けというのなら何の問題も無いだろう。そう思わせるだけの自信に満ち溢れている。これをさっきの俺に求めているのなら、ちょっとハードルが高過ぎるぞ。

 それにしても最近の俺は交渉事ばっかりやっている気がする。俺コミュ障なんだけど。とはいえ武器を持って戦う方が無理があるので仕方ないのか。やはり専業主夫が天職なんだよなあ。

 

「ただし交渉の事実が本初の耳に入れば……」

 

 まあ袁紹が知ればこの連合は即泥沼の仲間割れになるだろうな。だから今バレるのは拙い。最低でもこの連合が円満に解散する流れを確定させておかなければならない。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

今季のアニメ良いっすね。あそびあそばせ、すこ。オリヴィアのスパイシーなアレを確かめてみたい。

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