やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第62話

 董卓達から一応の承諾を得た俺は、今後の具体的な動きについて話を進めることにする。

 

「これから董卓を討とうとする連合軍をどうにかしないといけないんだが」

「どんな策を考えているんですか?」

「まあ、連合の自称まとめ役である袁紹は単純な奴だからな。分かりやすい結果をこちらで用意してやれば簡単に食いつくだろう。今は董卓を倒すことを目標にしているが、もっと派手で分かりやすいものがあればそちらへ目がいく」

 

 俺のここまでの説明に董卓達は異論を挟まなかった。董卓達からしても袁紹はそういう人間だと認識されているらしい。

 

「手段としては今のところ別の討伐対象を用意するか、死を偽装するのが良いと思う」

「そんなに都合の良く別の討伐対象なんて……」

「いくらでもいるだろ。今の宮廷は腐敗の温床、いや腐ってない所を探す方が難しいって噂は地方にまで伝わってきているぞ」

「確かにそうだけど、月以上に目立つ標的となると難しいわよ」

 

 不安をこぼす賈駆に即答するが、納得させるには至らなかった。この国は上も下も関係なく腐敗が進んでいるが、確かに董卓以上のビッグネームはなかなかいないか。だがそれでもゼロではない。

 

「何進か十常侍はどうだ?」

「それは……」

「十常侍はもう死んでいます」

 

 言い淀んだ賈駆に代わり董卓が感情のこもらない声で十常侍の死を告げた。可憐に見えても一国の実質的なトップに上り詰めた少女だ。単純な能力だけでなく清濁併せ呑む器を持っているのを感じさせる。油断はならないが、味方に出来れば大きいだろう。

 

「もう処分済みってことか」

「いえ私達がやったわけでは……」

 

 じゃあ何進にやられてんのか。都の権力争いはヤバそうで正直ドン引きだな。俺が拾われたのが華琳でホントに運が良かった。こっちで拾われていたら陰惨な暗闘に強制参加させられていたところだ。

 董卓は少し何か考える様子を見せた後、意を決した顔になる。

 

「何進は捕らえていますが、彼女に私の罪を着せるのは止めてください。国を立て直す為邪魔だった彼女を拘束しましたが、これ以上の処置は無用です。他の手があるならなおさらです」

「同情か?」

「いえ自分の罪を他人に着せるのは気が進まないだけです」

 

 とはいえ先に言っていた「他に手があるなら」というのが彼女らしさだろう。誠実さと必要ならそれを横に置いておける柔軟性。腐敗と権力争いに満ちた厳しい環境だからこそ、こういった優秀な人間が育つのかもしれない。

 えっ、俺? 俺は温室育ちだからデリケートに出来ているぞ。雨にも負け風にも負け、雪にも夏の暑さにも弱いからな。扱いには気を付けてくれ。

 董卓は続けて質問する。

 

「それで死の偽装とはどういった方法でしょうか?」

「追い詰められて火を放って自決って形でやるのが色々好都合だ。背丈が同じくらいの死体を用意して焼けば、判別出来ないだろ?」

 

 現在進行形で俺に集まった視線の温度がグングン下がっている。真冬の北風並に冷たい。本格的な冬将軍の到来だな。ああ、あったかいマッカンが飲みたい。世の中は俺に冷たく、人生は苦いことばかりだから飲み物くらいは、あたたかくて甘くあるべき。

 賈駆がボソっと呟く。

 

「……やっぱり火あぶりとか好きなんじゃないの」

「違うから、あくまで誤魔化しやすいからだから」

 

 めっ、人聞きの悪いことを言うんじゃありません。さっきまでのお前達みたいに俺のことを誤解する奴が出て来たらどうするんだ。そのうち俺に関する新たな噂が流れそうで本気で嫌なんだが。「ヒャッハー汚物は消毒だ!」と言って火炎放射器を構えている自分の姿を想像する。速攻で秘孔突かれて死にそう。でも秘孔なんて関係なくあんな筋肉ムキムキマッチョな暗殺拳伝承者に殴られたら即死する自信がある。北斗百裂拳とかあんな化け物に百発殴られたら大抵の奴は秘孔に当たらなくても死ぬよな。

 董卓は俺の言い分に一応納得した様子だ。

 

「火の勢いが強ければ死体は本人かどうか確認出来ない様な状態になる、と」

「まあな、背丈が同じ位の死体を用意しておけば良いだろう。本人かどうか疑う奴はいるかもしれんが、証明のしようがないから問題ない」

 

 現代ならDNA検査や歯医者の治療記録など本人確認の方法がある。しかしこの世界ではそれも不可能だ。こちらに来たばかりの頃の俺なら誰かの死体をこんな企みに使うなんてもっと抵抗があったはずだ。だが気が進まないからといってやらなければ、味方からより多くの死体が生まれることになる。まともに戦えば死人が出るのが必然、最悪俺自身や知っている奴が死ぬことだってある。そもそも董卓を勧誘するのも、陣営の戦力を盤石にして俺や知り合いの安全を得るのが目的だ。

 

「さて、この方法で良いならより細かい段取りを始めるぞ」

 

 董卓達は了承した。

 

「極力小さな戦闘で事を終わらせたいです」

特に都内(みやこない)での大規模な戦闘は避けるべきね。出火でもしたら大変よ」

 

 賈駆が俺をチラっと見た。

 火なんて付けないよ。ホントだよ。八幡嘘吐かない。

 

「そちらに裏切り者が出て、そいつの手引きで一気に宮廷へ侵入することに成功。追い詰められた君は自室に火を付けて自害というのでどうだ」

 

 董卓と賈駆が視線を一度交わしてから頷く。

 

「でもその裏切り者の役はボク絶対やらないから」

「ああ、別にその役は誰でも良い。助命と名を明かさないことを条件に裏切らせたとでも言えば良いだけだ」

 

 賈駆は大きく一度溜息を吐くと、関心と呆れが混じったような何とも言えない表情になった。

 

「はあ……良くもまあスラスラと案が出るものね。こんなところまで想定していたの?」

「全て想定内だと言えれば恰好がつくんだろうが、流石に無い」

「それはそれで凄いですね。天の御使いならではの力なのでしょうか?」

「波瀾万丈の人生だったからな。臨機応変にやっていくしかなかっただけだ」

 

 董卓の称賛を軽く受け流す。良く言えば臨機応変だが、小手先や口先で乗り越えて来ただけだ。一般人としては滅茶苦茶頑張っている方だと思うが、自信満々にこれが天の御使いの実力だ(ドヤァ)とは言い辛い。言ったら言ったで、夏蘭経由で華琳や冬蘭に伝わって弄られそうだからなあ。

 

「あと気を使う必要があるのは、都内の戦力を今回の計画に影響しないように宮廷から遠ざける事と董卓の自害を偽装した後の速やかな事態の収束ぐらいか」

 

 董卓が死んだと聞いて都にいる兵が全てすぐに降伏してくれれば楽なんだが、そう上手くいくだろうか。董卓を追いつめる役は少数精鋭での強襲なので、董卓側の残存兵が本気で反撃してくれば一溜まりもない。賈駆が速やかな投降を呼び掛けるのも問題がある。賈駆が董卓を特別慕っているのは周知の事らしいので敵討ちか、共に自害するかの二択以外の行動は不自然に思われる可能性がある。

 議論が煮詰まり俺は頭をかく。

 

「いっそ袁紹をおだてて強襲部隊に参加させちまうか。そのまま討ち死にしてくれれば」

「流石八幡外道過ぎて関心するな。だが袁紹を暗殺まがいの手で処理するのは華琳様が認めないだろう」

 

 今まで話に入ってこなかった夏蘭が珍しく意見した。

 気付くとまた俺に視線が集まっていた。だから視線が冷たいって、なんなの真冬なの? この部屋だけ北極にでも転移させられちゃったのかと思ったぞ。

 

「これは……あれだ、天の手法なんだよ。途中で出た案に対して批判をしないことで、とにかく自由に多くのアレを出すことによって固定観念をアレする手法だから」

 

 苦し紛れの言い訳は酷い出来だった。もう俺自身何回アレって言ったのか分からないし、当社比二倍くらい早口だった。

 正しくはブレインストーミングという手法だったはずだ。確か高校時代玉縄だか、しめ縄だかが言っていたような気がする。

 

「はあ、じゃあ天の(わざ)でも知識でも良いから手っ取り早く解決案を出してくれ」

 

 夏蘭の奴、投げ槍だなあ。自分が元から頭脳班ではなく肉体労働班だと割り切っているのでこちらへ丸投げだ。

 

「天の業や知識と言ってもそんな簡単にポンポン出ねえよ」

 

 知識にしても本来董卓は洛陽から長安へ拠点を移した後に討たれ……。

 

「あっ、その手があった。洛陽から長安への遷都を名目にして撤退命令出せば良いんだよ。連合軍は寄せ集めで長期的に維持出来ないだろうから時間稼ぎをする、と説明すれば一応理屈は通るだろう。忠誠心や戦意が高めの奴を長安へ先行させれば戦いに参加してこれない。そして撤退の間に合わなかった董卓は自害する」

 

 こんな所だろと董卓を見る。つい自分の考えにのめり込み過ぎて呼び捨てにしてしまったが気にしている様子は無い。

 

「問題無いと思います。先程は謙遜されていましたが、やはり天の御使いの実力は確かなものですね」

 

 今日初めて俺に対して董卓が柔らかい表情をした。うーん天使かな。純粋さと快活さが合わさった戸塚とは違うが、物静かな可憐さが眩しい。目が浄化されそうだ。俺アンデットだったのかな。

 董卓達が俺の案をすんなり受け入れたおかげで早く終わった。後は華琳の所へ戻って実行に移すだけだ。

 思い返せば年を経るごとにより波風が立たない生活を求めるようになってきたのだが、その思いとは裏腹にどんどん山あり谷ありになってないか俺の人生。

 奉仕部に強制入部させられてからの依頼による諸々の面倒事、ただのボッチだった時には関わる事がなかった人間関係のトラブルに頭を悩ませた。あげく奉仕部の連中とは距離をとることになり、大学進学後にトラックに轢かれ気が付けば異世界にいた。しかも三国志っぽいのに有名どころは揃って美少女や美女ときた。そこで俺なんかが軍師をつとめているんだから笑えてくる。




おまけ

八幡「なんで俺には転生特典が無いんだ」
八幡「やはり俺の異世界転生は間違っている」
八幡「と、いうことでFAして別の世界への行きたい」
八幡「何か良い移転先がないものか……やはり王道はファンタジーかな」
八幡「これなんかどうだろう。ゴブリン〇レイヤー、小鬼とかザッコw」
八幡「えーヒロインは初めての冒険でパーティー壊滅、仲間は食べられるかレイ…」
八幡「リョナグロはちょっと」
八幡「やはり舞台は日本が良いな。こっちにしようゴールデンカ〇イ」
八幡「アイヌ少女と旅しながら少女の父に会いに行く」
八幡「出版社は集〇社、ジャンプかな?」
八幡「主人公は不死身の元軍人、脱獄囚の皮を剥いで隠された金塊を探す…不穏になってきた」
八幡「脱獄囚は連続殺人犯や獣〇魔、あとヤク〇のホモ組長」
八幡「時々頭の中身が漏れ出るキチ軍人も出てくると、ホントにそこ日本?魔境じゃない?」
八幡「やはり日本は日本でも現代でないとダメだな」
八幡「抱かれたい男1位に〇されています。だ、ダメだ。タイトルから既に腐臭が」
八幡「海老名さんが鼻血で出血多量になっちまう」



読んでいただきありがとうございます。本作において今後新たな異世界への移動はありません。

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