やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第63話

 宦官と何進の激しい権力争いの隙をつき、董卓は国家の中枢を手中に収めた。董卓は権勢を欲しいままにし、圧政を敷いていく。多くの役人が粛清の嵐に悲鳴を上げ、民は重税に苦しんでいた。しかし董卓の暴虐も長くは続かなかった。義憤に駆られた諸侯達が立ち上がったのだ。諸侯らは難攻不落と言われた汜水関と虎牢関を傑出した武勇で突破し、都へたどり着く。

 形勢不利を感じた董卓は都から撤退しようとするも、諸侯達に機先を制され逃げ遅れてしまう。ついに巨悪董卓は追い詰められ宮廷内の自室にて自ら火を放ち自害する。

 

「と、めでたしめでたし」

 

 大仕事が一段落し、そうホッと一息ついた俺だったが、他の連中は何か異論があるようで誰からも同意は得られなかった。

 ここは洛陽の城壁外に設営された曹操軍の陣、その中でも厳重な警備が敷かれた中枢である。華琳を始め主だった将と荀彧、それと董……天使とその友人が集まっている。

 冬蘭が呆れ顔で呟いた。

 

「ここに自害したはずの人がいるわけですが」

「はあ? ここにいるのはエンジェルだから、董卓じゃないから」

「あの……えんじぇ、る? ではなく(ゆえ)と呼んでいただけませんか」

 

 冬蘭と俺のやり取りに困り顔で割って入ってきた天使・月。うーん可愛い。

 

「私達は董卓討伐連合軍なのにホントに本人連れて来ちゃうなんてねえ」

「それを今更言うか。文句があるなら作戦実行前に言え」

「えっ、華琳様が認めた策に文句なんてありませんよ」

 

 冬蘭がキョトンとした顔で首を傾げた。

 

「じゃあ今の意味ありげな発言は何だったんだよ」

「こんな事を考え付く頭の中身がどうなっているのか気になっただけですぅ」

「頭についてはうちで一番まともですぅ」

「それはないですねぇ」

 

 ふざけて冬蘭の語尾を真似たら両手で頬を挟まれた。手首を掴んで外そうとしたがビクともしない。力で俺が武将に勝てる訳ないだろ。卑怯だぞ。あと冬蘭の手スベスベ、なんで武器を素振りしたりして鍛えているのにスベスベなの? ドキドキするから自重しろ。

 とりあえず満足したのか冬蘭が手を放したので小声でボソっと皮肉る。

 

「お前と違って平和主義だし」

「ふふっ」

 

 俺の抗議にも冬蘭は「またまた~御冗談を」といった感じでにこやかに否定する。なぜだ、俺ほど死傷者を減らそうと知恵を絞っている人間は他にいないと思うのだが、どの辺りがおかしいと言うんだ。火か、火攻めが印象的に悪いのか? 今度からは水攻めにしようか。そうじゃない?

 

「先程の呼んで欲しいという名は真名でしょう。私達が呼んで良いのかしら?」

 

 華琳は俺と冬蘭の茶番には参加せず、董卓に話を向ける。

 董卓は迷いなく頷いて見せた。

 

「はい、私はこれから真名だけを使います。それを私の覚悟とお受け取り下さい」

 

 これには俺以外の全員がざわついた。

 真名だけを使う=誰に対しても真名を名乗るということだ。真名は信頼した相手や重要な相手にしか呼ぶことを許さないのがこの世界の慣習らしいのに、それしか名乗らないのでは誰にでも呼ばれてしまう。この世界の価値観的には相当ありえないことなのだろう。仲間に加わったばかりの董卓に対してまだ大した思い入れも無さそうな者達でさえ心配げな様子である。

 

「その覚悟受け取りましょう。(ゆえ)、貴方の働きに期待しているわ」

 

 華琳は満足そうに頷いた。

 董卓がこれほどの決意を持って傘下に入るのは想定外だったかもしれない。華琳は董卓が絶望的な状況から脱する為、一時従うふりをするだけの可能性も頭にあったはずだ。それがフタを開けてみれば皆が驚く程の覚悟を示した。

 普通敵だった者を引き入れた場合、元々の部下からの反発が懸念される。仲間に死傷者が出ているのだから当然の反応だが、内輪もめ程厄介なものはない。しかし今回董卓は自己紹介がわりに強烈な心意気を見せたことで、ここにいる主要メンバーの反発を封じてしまった。華琳からすれば董卓の覚悟と手腕を確認出来て大満足といったところだろう。

 

「八幡、良くやったわ。そろそろ貴方も土地と城を持っても良い頃だと思うのだけれど」

「遠慮する」

 

 華琳が示唆した褒美を俺が即座に断ると、先程董卓が真名だけを使うと言った時と同じくらいのざわめきが起こった。

 城といってもこの時代、それなりの街は城壁に囲まれていて一種の城塞都市である。多分この話の土地と城というのは大きめの街を中心にその周辺を任されるのだろう。これはちょっとした一国一城の主で男のロマンだ。普通の奴ならな。こちとら社会の荒波を嫌って専業主夫希望していたこともある人間だぞ。そんな責任重大なもん受け取れん。それにさ。

 

「俺は華琳の軍師だろ」

 

 俺は軍師であって他の事までやらないぞ。察しろよと華琳に視線を送る。

 領主的な仕事は俺の仕事じゃない。華琳の軍師ってだけで大変なのに仕事増やさないでくれますかねー。

 

『It's not my job』

 

 社畜の親父曰く、言ってみたいワード上位十位に入るこの言葉を遠回しに言ってみた。えっ、もっとストレートに言え? ば、ば、ば馬鹿怖くて言えない訳じゃないんだからね。天才華琳様ならこれでも察してくれるって。

 

「分かったわ。でもこれまで上げた功と褒美が釣り合っていないから、そろそろ相応の物を受け取って貰わないと私が吝嗇家(りんしょくか)の誹りを受けてしまうわ」

 

 ほらな、分かったってよ。さす華琳だな。代わりの褒美については少し考えがある。前々から華琳に頼みたい事があって機会を窺っていたので、それを代替案にしたら良いのではないか。

 

「料理を作って欲しい」

 

 俺の言葉にまた周囲のざわめきが大きくなった。城持ちになるチャンスを棒に振って料理を作ってくれなんて頼むのだから、驚かれるのも仕方ない。だが今回俺が頼もうとしていることは、ちょっと今日の晩飯作ってくれとかというレベルの話ではない。

 

「これは華琳にしか頼めないんだ」

「……どういう事かしら?」

「まず俺の故郷にある醤油という調味料を再現してもらう必要があるんだ」

 

 そう俺が華琳に頼みたかったのは醤油の再現、そして日本食を定期的に作ってもらいたいのだ。日本人海外旅行者の日本食が恋しくなるという現象を聞いたことがないだろうか。人間子供の頃から食べて育った料理が結局一番馴染むもので、いくらこちらで食べている物が美味くても日本食が食べたい時がある。あちらに戻れる見込みが無い現在、余計に欲求は強くなっていくばかりである。それに醤油の生産量ナンバー1は何を隠そう我が千葉である。つまり何が言いたいかと言うと日本食に必要不可欠な醤油、千葉の名産品である醤油は比企谷八幡にとって欠かせない物である。

 それから華琳でなければいけない理由は単純である。千葉県民の常識の一環として俺は醤油の大まかな作り方を知っている。小学校とかで良くある社会科見学や地域の産業についての授業おいて高確率で登場するからだ。しかし、俺が知っているのはあくまで【大まかな作り方】である。もしかしたらやってみたら意外と簡単にそれっぽい物が出来上がる可能性も無きにしも非ずだが自信はない。だが【大まかな作り方】だけでも高確率で製造を成功させそうな人物がいる。それが華琳なのだ。なんと天才華琳は趣味で酒造りをしており、その出来は一級品らしい。特に職人の下で修業したわけでも、手を借りた訳でもなく独学でやってのけたと春蘭が我が事のように自慢していた。この話から華琳は高い醸造の技術やセンス、それに加え道具や施設などを持ち合わせていることが分かる。

 あと、この件については俺の食欲だけが理由ではない。日本食を広めることが出来れば、それに欠かせない醤油の生産流通は一大産業に成長する可能性を秘めている。

 断る理由も無いので華琳はすぐに承諾してくれた。

 

「分かったわ。帰ったら作ってみましょう。それにしても褒美に料理なんて前代未聞よ。子供じゃあるまいし」

「単に食い気だけで言っているわけじゃない。詳しい話は帰りながら説明する」

「前に食べた肉まんも美味だったから天の料理には私も興味があるわ」

 

 醤油の製造は結構手間がかかると思うが、それを知るよしもない華琳は気軽なものだ。いや、まあ華琳なら気軽に作れちゃうかもしれないし、今水を差すようなことを言う必要も無いな、うん。

 俺と華琳の話はまとまった。そこで理由は分からないが荀彧がとんでもない顔でこちらを凝視していた。「とても怖かったですまる」と小学生の日記並の感想が出てしまった。何なんだアイツ?

 




幕間

八幡「料理を作って欲しい」
八幡「これは華琳にしか頼めないんだ」
華琳「……どういう事かしら?」

荀彧(こ、これはま、ま、ましゃか、一緒に家庭を築いてくれという話!?)
荀彧(盛りのついた変態男が華琳様と、だなんてゆ、ゆるさ)
あまりの衝撃に荀彧の頭には何も入ってこなかった。

その後、話し合いが終わったのに微動だにしない荀彧を不審に思った春蘭にシバかれ正気に戻り、呆然としていた間のやりとりを秋蘭に聞き勘違いだと気付く。

春蘭「華琳様が八幡と家庭を? 馬鹿か貴様」
秋蘭「私は一向にかまわんッッ」
春・荀「かまうわッッ!!!」
冬蘭(全ては私の手の平の上、お可愛いこと)


嘘次回予告2

 かつて闇に葬られた計画があった。その名は中華全土千葉化計画。黒の御使いと恐れられた男が進めた〇ッキーをも恐れぬ邪悪な企み。謎のネ〇ミパワーにより一度はこま切れにされた計画だったが、男は諦めていなかった。千葉が誇る全国シェアトップの生産量である醤油を手に入れ、食文化から侵略を再開する。
 計画が順調に進み、男はネズ〇ー面(暗黒面)にまたもや手を出す。都市開発と宿泊施設の運営ノウハウを活かし、海に面した景勝地にリゾート地を整備した。

レミング・シー

 天の知識を惜しげも無く盛り込んだリゾートは大当たり、リゾート王八幡の誕生であった。だが栄華は長くは続かなかった。似ても似つかない名前なのにブランドの使用料を払えと、ちゅーちゅー煩いクソフレンズが襲い掛かってきたのだ。

「お願い、負けないで八幡あんたが今ここで負けたら、レミング・シーはどうなっちゃうの? 言い訳はまだ残ってる。ここを耐えれば、ネズ〇に勝てるんだから!」

「次回八幡敗訴」

読んでいただきありがとうございます。

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