やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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決戦(笑)の序曲

 ある晴れた日、雲一つない青空の下俺達は大勢の仲間と共にお出かけ中である。ピクニックかな? 残念、今から君たちには殺し合いをしてもらいます。完全に死亡フラグですありがとうございます。

 俺のすぐ後ろには曹操軍二万ちょっと、前方遠目に袁紹軍三万が布陣している。さっきまで華琳と共に指揮所にいたのだが、場の空気が息苦しかったので袁紹軍の様子見を口実に今は前線まで来ている。開戦までには少し時間があるが用心の為、冬蘭も付いてきている。

 戦前(いくさまえ)の緊張を下らない脳内コントで紛らわしていると、傍にいた冬蘭が怪訝な顔でこちらを見ていた。

 

「何ニヤニヤしているんです。また型破りで悪辣な策でも考えていたんですか?」

「ニヤニヤなんてしてないし、人聞きが悪いぞ。危ない人みたいだろ」

 

 冬蘭が何が楽しいのか俺の肩をこそばゆい軽さでつついて微笑んでいる。

 

「ニヤニヤしていましたし、危ない人ですよ」

「おかしい。真面目で慎ましい生活をしているのに何故部下から罵倒されるのだろうか」

 

 存在が空気みたいな俺は人畜無害に決まっているだろ。俺は悲しいよ、部下から危ない人認定されるなんてな。何が悪かったんでしょうねえ。

 

「日頃の行いじゃないですか

ね。今回の決戦もお膳立てしたって聞きましたよ」

「案を出しただけだ」

「その案が突然侵攻してきた相手に果たし状ですか。普通出てこない考えですよ。まあ、受ける方がさらにおかしいんですが」

「ホント、そうだよな。決戦の申し込みを受けさせる自信はあったが、受けるくらいなら最初から奇襲なんてすんなよ、面倒くさい」

 

 愚痴る俺に冬蘭は呆れたような視線を向ける。

 

「やっぱり前言撤回します。どっちも同じ位変人です」

「悪化してるんですが、それは」

「それより早く華琳様の所へ行きましょう。そろそろ始まりますよ」

 

 冬蘭は俺の手を引き歩き出す。

 何が始まるのかって? そらもちろん口上戦だ。戦に際して自らの正当性や優位性を主張し、敵の非をあげつらう決戦前の弁舌による前哨戦みたいなものだ。

 口喧嘩みたいなもの? そんなチャチなものじゃない。味方を鼓舞し、敵の戦意や結束にダメージを与える事が出来、後の決戦にも影響を及ぼす大事な戦いだ。

 冬蘭に引っ張られて歩く姿はさながら親に連れられた子供のようだろう。気恥ずかしさはあるが、圧倒的な力の差があるので抵抗は無駄である。別に少女の手の平の感触に戸惑いを覚えて抵抗するのを忘れていた訳じゃないんだからね。

 

「……八幡さんのお膳立てのおかげで華琳様も意気軒昂といったご様子。またお手柄ですね」

「そうか?」

 

 果たし状を送ると決めた後、ずっと張り詰めた感じで話しかけ辛い状態が続いていたんだが。

 

「そうですよ。八幡さんに負けていられないと張り切っておられました」

「相手は袁紹であって、俺に勝つも負けるもないだろ」

「それはそれ、これはこれなんですよ」

「いや意味が分からん」

 

 冬蘭はふふっと柔らかそうな唇に微笑みを乗せて俺へ顔を向けた。

 

「ご褒美に夏蘭姉さんの胸をひと揉みするくらいなら許してあげますよ」

「……それ俺、死にませんかね?」

 

 とんでもない発言に俺は一瞬呆けてしまったが、すぐにツッコミを入れる。

 夏蘭が敵の突き出した槍を素手で叩き折っているところを俺は見たことがある。そして俺の手や首は槍より頑丈だったりしない。あとは分かるよね。

 

「姉さんならあんまり気にしないと思いますよ」

「仮に夏蘭が気にしなくても俺の評判は底値更新間違い無しだからな」

「そうですね。まあそういう事がしたければ今度功を挙げた時に華琳様にお願いしてみたらどうです」

 

 胸を揉むって俺が言い出した話じゃないのに、まるで俺の願望みたいに言わないでくれますかね。功を挙げた時に胸を揉まして欲しいと頼む、そんな部下なんて俺なら絶対関わりたくない。こいつは俺を何処へ導くつもりなんだ。

 

「やっぱ死ぬよ、それ。春蘭や荀彧の耳に入った時点で頭と胴体がお別れしちゃうだろ」

「へえ華琳様は怒らないという読みですか……」

「多分ゴキブリを見るような目をされるか、笑い飛ばされるかのどっちかじゃないか」

 

 どっちも嫌だ。想像しただけで背筋がゾクゾクする。決して興奮しているわけではない。美少女に冷たい目を向けられて喜ぶ趣味は……無い(小声)まああったとしても命を懸けるほどじゃない。

 何が楽しいのか冬蘭は蠱惑的な表情で囁く。

 

「私はもっと面白いことになると思いますよ」

「ふーん、もっと面白い死に方するってことだな」

「そういうことにしておきましょうか」

 

 俺イジりに満足した冬蘭から追撃は無かった。助かったな。あと少しで胃に開く穴が一つから三つになるところだった。戦いの前なのにヒットポイントゲージが赤色に変わりかけたが、無事華琳のもとに到着する。

 俺達が合流してからしばらくすると、ついに華琳と袁紹が自軍から進み出て舌戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 開始数分後。

 

『髪型パクリのくせにバーカバーカ!! 』

 

 

 顔真っ赤で涙ぐみながら自陣に引っ込んで行く袁紹の姿があった。

 これは酷い。数万人の前で口喧嘩に負けた小学生のような袁紹の振る舞い、俺なら恥ずかしさのあまり引きこもりになるレベルの黒歴史を見てしまった。それに舌戦の内容自体もなかなか酷かった。

 最初は袁紹が自身の生まれの高貴さと地位を理由に「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」的なジャイアン理論を振りかざした。それに対して華琳が漢王朝から認められ、この地域を治め発展させてきた自身の実績を理路整然と並べて正当性を主張、もうこの時点で差が大きく出ていた。そのうえ袁紹の弁舌が低レベル過ぎて華琳は途中から軽くあしらい始めてから、袁紹のイライラは誰が見ていても分かるくらい増していった。

 華琳は袁紹が何か言うたび「でも貴方文武どちらも私に劣っているわよね」「一騎討ちでもしましょうか?」と挑発を繰り返す。

 どうも子供の頃からの腐れ縁で事あるごとに袁紹は華琳にちょっかいをかけるも一度も勝てなかったらしい。途中から華琳は面倒がって今のように口で軽くあしらうようになったと近くにいた秋蘭が教えてくれた。

 そんなこんなで今日こそ決戦で華琳を打ち負かすんだと意気込んでいたのに、こんな大人数の前で言い負かさたうえ幼い頃からのコンプレックスを抉られてしまった為、さっきの負け犬袁紹の遠吠えが生まれたのだ。

 では舌戦で圧勝した華琳はご機嫌かといえばそうでもない。

 

「あの()と話していると疲れるわ」

 

 舌戦が終わり本陣に戻って来た華琳は、こめかみをピクピクさせながら吐き捨てるように言う。話が通じないレベルのアホと話すのはストレスマッハだったようだ。どれだけ理屈を述べても理解しない、もしくは聞く気すらない相手だと全てが徒労に終わる。やりたくもない無駄な事をするのは耐えがたい苦痛を感じるだろう。とある小説にひたすら穴を掘って埋めさせる拷問が書かれていたが似たようなものだろう。意味の無い事をやり続けるというのは、精神を著しく摩耗させる。俺も学生時代数学の授業中いつも感じてた。こんな何の役にも立たない数式になんの意味があるんだって、えっ例として合ってない? そんなことないだろう。まあいいや。

 それより舌戦が終わると同時に戦闘が始まるものだと思っていたが、そうはならなかった。舌戦が締りの悪い終わり方をしたせいで、流れに任せて突撃とはいかなかったのだ。特に大将が無様を晒した袁紹軍は遠目でもざわついているのが分かるくらいだと、華琳の護衛として近くに控えていた秋蘭が証言した。

 

「私の兵を目の前に随分呑気なものね。目を覚まさせてあげましょう」

 

 華琳が獰猛な笑みを浮かべ合図を出す。

 本陣から銅鑼の音が響けば華琳の剣、武力の象徴である春蘭率いる中央前衛部隊が前進を開始する。

 華琳麾下(きか)で最強の武人は誰かと聞かれれば多くは恋を挙げる。恋、呂布と言えば対象を漢全体に広げても最強であることに異を唱える者は少ないだろう。しかしこと華琳の武力の象徴という点で言えば、春蘭の方が相応しいと言う者が、少なくとも華琳麾下では多いはずだ。陣営が大きくなる前から華琳に最も近い場所で剣を振るい支え続けた春蘭こそ象徴足りえる。この一大決戦において春蘭が先陣を切ることは最初に決まり、異論も出なかった。

 そのおかげか作戦会議の時点で俺の前線での役割が今回はあまり無いと言われている。

 仕事が無い、これほど素晴らしい言葉はなかなかない。感激のあまり「よしっ」という声と共にガッツポーズをしてしまった。華琳は微妙な顔をし、荀彧は目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

検証してみた。穴掘りに精神的ダメージを与える効果はあるのか?。

 

【挿絵表示】

 

 

実際に穴をいくつか掘って埋めるを繰り返してみたが、本編で挙げたような精神を摩耗させるような効果は認められなかった。これが想像力の限界なのだろうか。

 

予想された精神への効果が表れなかった原因はなんだろうか。

考えられる原因その一

暑さなど厳しい環境下での重労働によって身体的疲労が激しく、相対的に精神的疲労が矮小化された。

 

考えられる原因その二

運動によるストレス軽減効果。穴を掘って埋めるという運動によって精神的ストレスが多少発散された。

 

考えられる原因その三

暑すぎて精神を病むほど作業が続けられない。

 

考えられる原因その四

作者が穴を掘って埋めるという行為に快感を覚える変態だった。それによって「意味の無い無駄な」作業の繰り返しという前提条件が崩れてしまった。




今回の八幡に対する各キャラの評価

冬蘭→華琳様に対して脈があるかどうか揺さぶりをかけるも、判断材料がまだ少ない。

華琳→これさえなければ完璧なんだけど

桂花→なんなのコイツ!!!! 見てなさいよ。奇策だけが軍師の能力の決定的差ではないということを、教えてあげるわ!!!


読んでいただきありがとうございます。
暑い。

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