やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第68話

 俺は本陣で華琳達と共に戦況を見守る。

 まずは春蘭率いる前衛部隊が前進する。春蘭を先頭に軽い駆け足程度の速度で袁紹軍へと走っていく。徐々に徐々にその速度は上がっていき、あと百メートルくらいのところで春蘭は大剣を振り上げ咆哮した。そこからは一気に加速し、敵前線へ突撃を敢行する。その間、敵の反応は鈍く散発的な弓矢が放たれただけである。

 春蘭達が敵とぶつかった。目に見えて分かるほど春蘭達が敵を押し込んでいる。間髪入れずこちらから張遼の騎馬隊と秋蘭の弓隊が出陣し、春蘭達前衛部隊を掩護するように動き出す。

 華琳はその展開に淡白な感想を漏らした。

 

「敵の動きは思った以上に鈍いわね」

「はい、袁紹が無様を晒したのが効いているのでしょう」

 

 華琳の傍に控えていた桂花の言葉も間違ってはいないと思う。だがトップが口上戦で負けたことによる単なる動揺だけではないだろう。

 権力だけは超絶持っている我儘トップが、口喧嘩に負けて顔真っ赤で戻ってきたら、部下達は扱いに困るだろう。下手に触れると怒りが自身へ向けられるかもしれず、さりとて無視することも出来ない。あちらの配下の方々にとっては地獄だな。やはり働くって行為は不幸しか生まないな。ニート最高。社内ニートでも可。

 あちらに比べて俺の方は天国だ。ここからの作戦は華琳と荀彧主導で立てられており、なんと嬉しい事に俺の役割はほとんど無いらしい。今も主力の春蘭が敵前衛を押し込みつつある。そのうえ張遼が騎馬隊を率いて敵側面へ攻撃を仕掛け敵が態勢を立て直すのを遅らせ、秋蘭の弓兵が突出しつつある春蘭隊を包み込もうとする敵を牽制している。本当に見ているだけで良いかもしれない。

 順調な滑り出しに気を良くした荀彧が得意げに胸を張る。

 

「どう? あんたの活躍の場はもうなさそうよ」

「良いことだ」

 

 荀彧は俺に悔しがって欲しかったようで眉を歪めている。マンガだったら荀彧の左上辺りに【ぐぬぬっ】と書かれていそうだ。

 

「さっきも仕事が無いって聞いて、よしとか言っていたし、やる気あるのっ!」

「やらなくても良いなら、それで良いじゃねえか」

 

 ニートに対する皮肉の一つに、働かずに食べる飯は美味いかというものがある。だが俺はその皮肉に対してこう断言する。美味いに決まっている。働かずに食う飯は美味い。なんだったら他人の金で食う飯も美味い。当然だ。もし美味く(うま)感じないなら料理自体の味が悪いんだろ。

 

「荀彧は効果的な作戦を立てたことで功を上げれて嬉しい。俺は仕事をせずに済んで嬉しい。最高の関係だな。こういう関係を俺の住んでいた所ではウィンウィンの関係と言う」

 

 俺はにやりと笑い、「ウィンウィン」と言いながらダブルピースを作り人差し指と中指をくいっくいっと曲げて見せる。

 荀彧はそれを見ると、手で自分の口を抑えて顔を背けた。

 

「う、気持ち悪っ」

「八幡さん……いくら煽られたからって仲間を呪うのはどうかと思いますよ」

「呪ってねえよ!」

 

 近くに控えていた冬蘭の反応が結構本気っぽくて不安になる。また変な噂が増えそうだから止めてくれ。それに俺はまだ三十歳にはなってないから魔法使いじゃない。だから呪いなんて使えないぞ。

 

「でも、なにか奇妙な動きしていたじゃないですか。こう、うぃんうぃん?」

 

 冬蘭がやるとかわいいじゃねえか。呪い要素なんて無いな。

 気分が良いので荀彧に追加の称賛を送る。

 

「俺の仕事を減らしてくれるなんて、荀彧……お前最高に(都合が)良い奴だな」

「いやああああああ」

 

 荀彧が自分の背中や首を掻きながら「全身が痒くなる」と喚いている。

 まあ、いつものことだ。荀彧の男嫌いは今に始まったことではない。最初の頃の、一緒の部屋にいるだけで孕まされるとか言っていた状態を思い返せば大分マシになった。ちょっとしたアレルギーみたいなものだと考えれば特に問題ではない。

 だが何故か俺が無実なのは確定的明らかなのだが同意してくれる者はいない。そして何故か華琳が俺の右肩に手を置いて微笑んでいる。

 

「八幡も桂花を責める悦びに気付いてしまったのね。桂花はこう見えて責め立てられるのが好きなのよ」

 

 聞きたくも無い情報を得てしまった。お願いだから同好の士を見つけたみたいな顔で頷かないでくれ。

 こいつら百合な関係だけでなくSとMなアレも嗜んでいるのかよ。業が深い。俺も男だ。美少女達のそういう話は嫌いじゃない。しかし、どうせ触れることすら出来ないのに聞かせられてもただの生殺しだ。

 

 

 さて、そんなことより大事なのは戦況である。都合の悪いものは見ざる聞かざる言わざるが俺のモットーだ。

 袁紹軍もいつまでも混乱状態ではないはずだ。とは言え心配はしていない。事が想定通りに進んでいるのは、華琳や荀彧の余裕のある様子を見れば分かる。

 馬鹿話が終わってから何分経っただろうか、伝令が来る。

 報告内容は春蘭に対して相手が文醜を送り出して来たこと、それによって春蘭隊の前進が止まったことの二点だった。

 文醜は袁紹陣営では恐らく一番の武勇を誇る将だ。董卓討伐連合関連で一言二言話した事がある程度の関係だったが、印象としてはノリの良さそうな少女だったのを覚えている。まさか春蘭の前進を抑える程の力があるとは。この世界の女の強さは一見しただけでは全く分からないのを再確認させられる。

 ただまだ想定の範囲内である。袁紹軍で名の通った将は文醜と顔良の二人しかいない。こちらの主攻である春蘭隊が前進を続ければ、それを抑える為にこの二人のどちらかが出て来るのは必然である。そして、それは袁紹の片腕が塞がったことを意味する。

 秋蘭はこのまま春蘭のフォロー役に徹するにしても、張遼は自由に動けるし、他にも動ける将がこちらには何人もいる。総兵数こそ袁紹軍が上回っているが、将の質と量はこちらが上である。ゆっくり全軍同士で正面衝突すれば袁紹の兵数の利が生きるだろう。しかし張遼が実践している通り、この開けた平野では陣形の制約はなく、騎兵による機動力を武器にした横撃も可能だ。ヒット&アウェイに相手は対応出来ずに被害は増え続けている。

 そんなに都合良くいくのか、多勢に無勢ではないのかと思うかもしれないが、前提としてこの世界の有名武将とそれ以外の兵の間には戦力面で越えられない壁が存在する。百人くらい平気で倒す。恋に至っては万単位で黄巾党を狩ったらしいし。だから無理せず駆け引きをしながらヒット&アウェイを繰り返すくらいなら難なくこなせても不思議ではない。

 まあ、駆け引きなんて出来ない春蘭は正面からぶつかって前進を止められているみたいだが。押し込み続けている間は良いが、敵陣で止まってしまえば損害は大きくなる。春蘭隊が全滅するまでに張遼隊が相手を削り切れるかもしれないが、こちらにはまだ余裕があるのだからさっさと追加の部隊を出した方が良いだろう。

 

「そろそろ待機している隊を投入しないか」

 

 あ、もちろん俺と虎豹隊のことじゃないぞ。華琳達に届け俺の願い。

 華琳は蠱惑的な笑みを浮かべて首を傾げる。

 

「あら仕事が無くて嬉しいと言っていたのに、本当は打って出たかったのかしら」

 

 願いは届かず。いやこの顔は分かっていてあえてか。猫がネコじゃらしにじゃれ付くような戯れのつもりなんだろう。でもね、華琳さんや。陰キャボッチの俺からしたら、貴方は猫は猫でもライオンや虎だから軽くじゃれたくらいでも致命傷なっちゃうよ。自重しろください。

 

「投入するのは俺じゃない、他にもいるだろ」

「はい、華琳様っ! 私に案があります」

 

 さっきまで吐きそうな顔で体を掻きむしっていた荀彧が俺の言葉に被せ気味に声を上げる。

 頼むぞ荀彧。お前なら俺を仕事から遠ざけてくれるよな。俺達ウィンウィンな関係だろ。

 

「その気持ち悪い視線をこちらに向けないで、体中を虫が這いずり回っているような不快感があるわ!」

「虫が這っているように感じるって、ヤバイ薬でもやってんの?」

「やってないわよ!!」

 

 こいつ元気だなあ。反応が良いもんだからつい余計な事を言ってしまう。

 華琳がまた「分かるわ」というような表情で俺を見ている。本当に俺は同類じゃないから、その顔を止めろ。

 華琳は続けて俺へ向けて声には出さず、口だけ動かして「わ、た、し、の、よ」と伝えて来た。

 背筋がぞくぞくする。風邪かな? みんなにうつしたら悪いからもう早退すべき、そうすべき。仕事をしていないのに異常に疲れを感じる不思議。




読んでいただきありがとうございます。


荀彧「忌々しい比企谷と一緒に仕事をすることが多いからか、背中が妙にかゆい」
荀彧「朝起きたら背中だけでなく、腕にも腫物が出来ていた」
荀彧「夜、体中 あついかゆい」
荀彧「かゆい うま」
八幡「比企谷菌と呼ばれていたものは、実はTウイルスだった?」

バイオ発売当時に実際プレイしてこのファイルを読んだ人って、もうあんまりいないかなあ。寄る年波を感じる今日この頃。


>袁紹軍で名の通った将は文醜と顔良の二人しかいない。

そんな訳ないんですが、初期恋姫とかでは割とこんな感じ。

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