絶対零度のお嬢様が往く   作:みか

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第14話 エミール・フォン・シュトラスブルクの華麗なる挑戦


 

今日のミッションエリアは『鉄塔の森』と呼ばれる場所。

 

 

かつては立派な発電施設であったらしいが、現在はアラガミの侵喰により荒廃。施設の大部分が水没しており、グボログボロやウコンバサラといった水中でも活動出来るアラガミが集まりやすい傾向がみられる。

 

 

 

本ミッションの参加者は4名。

 

何故かエントランスのベンチで力無くうなだれていたエリナと、ナナに紅茶の素晴らしさを延々と説いていたエミールさん。訓練所でヴィーナスの突進みたいな動き(ジュリウス談)を延々と繰り返していたギル。

 

 

まあ、要するに暇な人が集まったという訳だ。

 

 

早速、私とエリナ、ギルとエミールさんの2チームに分かれて索敵を開始した私たちだったが、

 

 

「ここは、僕に任せてくれ。僕の騎士道を…君たちに示してみせる!」

 

 

ウコンバサラを見つけたエミールさんがギルに言い放った一言。

 

 

この一言が後に彼を追い詰める事になる。

 

 

「ぐわあぁぁ!」

 

 

というか、現在進行形で追い詰めている。

 

 

「まだまだ、この程度では……」

 

「ぐあああぁぁ!」

 

 

「負けるものか、闇の眷属共め!」

 

 

「ぎゃあああぁ!」

 

 

まあそういうわけで、私はエミールさんが吹き飛ぶ様子をギル達と一緒に眺めているのだ。

 

 

「ファイト、エミールさん」

 

 

「エミール頑張れー」

 

 

ちなみに、エリナは棒読みである。

 

 

「敵の動きが鈍くなってきたぞ、そこだ、突っ込め」

 

 

「ぎゃあああ〜!」

 

 

ギルの声を受け果敢に突撃するも、ウコンバサラの尻尾に吹き飛ばされた。

 

 

「やっぱり駄目だったか…」

 

 

 

 

 

「ちょっとくらい助けてくれたまえよおぉぉ〜!」

 

 

既に泣きが入っているエミールさん。

 

助けてあげたいのは山々なのだが、

 

 

「ある程度の苦戦を経験しなくては成長は見込めない。それにあそこまで啖呵を切ったんだ、きっちり仕留めて貰わないとな」

 

 

ギルバート師匠のお言葉に従い、私とエリナは心を鬼にして待機しているのだ。

 

 

「極東にはまだまだ色んなお店があるんですよ。今度案内しますね」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

 

断じてさぼっている訳ではない。

 

 

「ぐはぁっ!」

 

 

一際大きくエミールさんが吹き飛ばされた。

 

 

何度か地面をゴロゴロと転がった後、うずくまる。

 

 

「うう…」

 

 

 

これは流石に助けにいかないとまずいのでは?

 

 

神機を構え、エミールさんの元へと走り出そうとしたが、ギルに右手で遮られた。

 

 

「ギル…」

 

 

「騒ぐな、ここが正念場だ」

 

 

 

ギルの言葉に応えるように、エミールさんが力を振り絞って立ち上がった。

 

本当に満身創痍といった様子だ。

 

 

「ご、ゴッドイーターの戦いは、ただの戦いでは無いッ!」

 

まだ喋る余裕があったか!

 

 

とでも言わんばかりにウコンバサラが猛攻撃を仕掛けている。

 

ああっ、尻尾が! 尻尾が!

 

 

「この絶望の世において、神機使いはッ、人々の希望の依り代(よりしろ)だ!」

 

 

凄い…全ての攻撃を避けている。これが死に際の集中力というものか。

 

 

「正義が勝つから民は明日を信じッ、正義が負けぬから皆、前を向いて生きるッ……!

 

と思ったら、踏ん張って吹き飛ばないようにしているだけだった。

 

 

「故に僕は……、騎士は…絶対に倒れるわけには、いかないのだッ!」

 

 

 

猛攻を何とか凌ぎきったエミールさんは、力強くそう言い放つと神機の形態をハンマーからブラストへと変化させた。

 

 

「見るがいい……我が盟友より賜りし必殺技を」

 

 

そのまま目をつぶる。

 

 

その姿はまさに隙だらけ、美味しく喰ってくれと言っているようなものだ。

 

 

目の前のウコンバサラは、凶悪な顎を一際大きく開くと、常人にはとても捉えきれないスピードでエミールさんに肉迫する。

 

そして、『ガキンッ』と大きな音がしてウコンバサラの顎が無情にも閉じられた。

 

 

「…どうやら、一皮剥けたようだな」

 

 

感心したようなギルの声。

 

 

 

 

ウコンバサラの牙がエミールさんを捉えんとしたまさにその瞬間、

 

 

エミールさんが宙に舞った。

 

 

あれは噂に聞く…月面宙返り(ムーンサルトジャンプ)!?

 

 

 

目をつぶったまま感覚だけでアラガミの動きを捉え、空中に舞う様は

 

認めたくは無いが……

 

華麗だ。

 

 

ウコンバサラの遥かに頭上を取ったエミールさんがカッと目を見開く。

 

 

ウコンバサラ、上だっ!

 

 

 

「見ていてくれ、エリック」

 

 

先ほどの突進の反動か、未だ動けないでいるウコンバサラのタービンを目掛け、逆さになっているというのに妙に自然な動作でブラストを構えた。

 

 

『華麗なるッ、エミールゥ……シューーートッ!!』

 

 

『ズダアアアン!!!』

 

 

エミールさんの持つブラストが轟音と共に巨大な火を吹いた。

 

ウコンバサラのタービンが丸ごと吹き飛ぶ。

 

凄まじい威力だ。

 

 

着弾と同時に辺り一面に砂煙が舞った、と言えばその威力の程がわかっていただけるだろうか。

 

ただ、撃った本人への反動も威力に見合うものだったようで、

 

 

「ふわあぁぁぁっ!!」

 

 

エミールさんが凄いスピードで吹き飛ばされていった。

 

 

飛ばされる先には……壁

 

 

このままのスピードで叩き付けられたとしたら、エミールさんはかなりのダメージを負うだろう。弱っている今のエミールさんなら、そのままぽっくり……

 

 

それはまずい。

 

「ッ!」

 

 

右足に有らん限りの力を込めて前方に大きく飛び込む、

 

…届かない

 

 

多少の擦り傷を覚悟して、身体全体で滑り込む

 

 

手を大きく前に伸ばし、何とかエミールさんの身体に触れる事に成功した。

 

 

そのままエミールさんを抱え込み、勢いを殺すために何度も斜め前に転がる。

 

 

5回転程してようやく勢いが収まった。

 

うまく勢いを逃がせたから、腕の中のエミールさんにはほとんど衝撃を与えていないと思う。

 

 

ただ、私の方はちょっと足に力を込め過ぎたらしく、足首が悲鳴を上げている。

 

踏み込んだ時、グベキッ、みたいな鈍い音が聞こえたから、これは多分ねんざでもしたのだろう。

 

 

「大丈夫? エミールさん」

 

 

だが、私は痛みをおくびにも出さず、エミールさんを気遣う。

 

今重要なのは、この痛みではなく、エミールさんの安否だ。

 

 

パッと見た限り、大した怪我はしていないと思うのだけど

 

 

「おお、ナツキ……すまない」

 

私の腕の中でエミールさんが弱々しく声をあげた。

 

 

「きちんと着地も決めるつもりだったのだが、力足りずこの様だ……」

 

「だが、途中までは…華麗だったろう?」

 

「うん、格好良かったよ」

 

 

「ふっ……」

 

エミールさんの身体が脱力する。

 

 

「あ……」

 

これはまずい。

 

向き合って喋っていたので、私がエミールさんを正面から抱きかかえるような体勢になっている。

 

『ふにっ…』

 

 

おまけに脱力した左手が

 

 

その……

 

 

むn…ゴホッゴホンッ、に

 

 

まさか狙った訳では無いだろうが、エミールさんめ……

 

 

意識があったら数十メートル先から助走をつけて渾身の蹴りをかまし、怯んだ所にコークスクリューブローの連打。グロッキーになった所にトドメのデンプシーロールをお見舞いしてやるのだけれど。

 

 

運が良い人だ。

 

 

まあエミールさんは頑張った事だし、今回は勘弁してあげよう。

 

「くー……」

 

 

しかし何度見ても器用な体勢だ。とりあえず息ができるのか心配になる。

 

 

「夏姫さん、あとついでにエミール、大丈夫ですか?」

 

 

「よく頑張ったな」

 

 

エリナとギルが駆け寄ってきた。

 

「エミールさんは無事だよ」

 

 

片手でエミールさんを支え、もう一方の手を2人に向けて振る。

 

エリナが笑顔になり、ギルが帰りのヘリを要請しようと無線に手を伸ばした瞬間

 

ポロッ

 

 

恐らくそんな音を立てて、私の制服の胸元が半分露わになった。

 

見てみると制服に大きな穴が空いている。

 

さっき、ずざああぁぁぁと勢い良く飛び込んだからか、制服があちこち破けて……

 

 

 

 

「ハルさん、世界は終わりなき円環でしたよ……」

 

バタンッ

 

 

「エリナ、救護に入られます」

 

バタンッ

 

 

「え……」

 

結果、私以外の全員が戦闘不能になった。

 




フラン「想定外でした」

バタンッ

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