絶対零度のお嬢様が往く 作:みか
最近ようやく少し時間が取れたので、ある程度書き溜め出来ました。グレム局長が最高に輝いていたあのシーンまで、更新が止まる事は無いっ! といいなぁ……。
「それで、どうして俺の部屋が会場なんだ?」
「一番広いから」
「なるほど、理にかなっている」
シエルの手を引きやってきたのはジュリウスの部屋。普段は殺風景極まりない部屋だが、今日は『歓迎』と書かれた妙に達筆な横断幕やかわいいリボン、色紙で作った輪飾りなんかでカラフルに飾り付けされている。
部屋の中央にはくっつけられた数卓のテーブルがあり、その上には魅惑的な料理たちが所狭しと並んでいる。
元々あったシンプルなテーブルだけでは、とてもこの人数分の食事を載せる事は出来なかったので、会議室、職員用の食堂などから長テーブルが運び込まれたのだ。
ふふん、ブラッドの隊長という事もあり、部屋が最も広い事が不運だったなジュリウス。(ちょっと悪役っぽい)
ちなみにジュリウスの部屋にはブラッドのメンバーを始めとして、エリナ、エミール、キグルミの極東3人組もやって来ているので、いくら広いとは言っても少し手狭に感じる。
おまけに、
「ジュリウス、お酒が足りませんよ」
「テキーラ、あるだけ持って来ーい」
何故かラケル博士とレア博士まで居る。
ついさっきまでは、「固くならなくていいのよ」とか、「シエルと仲良くしてあげてね」だとか、大人のお姉さんオーラ全開だったのに、お酒が入った途端、すぐにこれだよ。
神機兵の開発とかは大丈夫なのだろうか。
「だいじょうぶ、極東に着いてしまえばこちらのものです。あとは王の為に生贄が捧げられ……」
ラケル博士がワイングラスを片手に、誰も居ない所へ上機嫌で話し掛けているが、耳を傾けている人はいないようだ。
「ほらほらー、私のおでんパンが食えねぇってのか〜?」
「い、いただきます」
シエルはナナに絡まれ、困惑した表情を浮かべながら、おでんパンを頬張っている。
「ジュリウス、俺の半分やるから、それちょっとくれよ」
「ああ」
ジュリウスとロミオ先輩は親しげに歓談している。
「そこで、握り方を少し変える訳だ」
「なるほど……参考になります」
ギルとエリナは真面目な顔で戦闘談議をしている。(羨ましい)
残ったのは……
「さあナツキ、我々もいただこうではないか!」
「…………」
キグルミとエミールという、静と動の体現のような、まさに正反対の2人だった。
「うん…いただきます」
まあ、シエルが楽しそうだから良いんだけれど。
今日の主役ということで、みんなから引っ張りだこにされていたシエルがフリーになったのは、歓迎会が始まってから優に2時間は経過した後だった。
「少し風に当たってきます」と部屋を出たシエルを追い、私もエレベーター前のロビーへと向かう。
果たしてシエルはそこに居た。
開け放たれた窓から差し込む月の光が、彼女の綺麗な銀髪を照らしている。
「副隊長…?」
気配に気付いたのか、窓の外をぼんやりと眺めていたシエルが振り返った。
「や、やっほー」
片手を上げて挨拶する。
「何か御用でしょうか?」
いや、用と言うほどの事は無い。ただ何となく、シエルと話がしてみたかっただけだ。
「え、えっと…、歓迎会どうだった?」
もっと気の利いた事を言おうとしていたはずなのだが、緊張のあまり度忘れしてしまった。
「こういう事をして頂いたのは初めての経験ですので、よくわからないのですが……」
シエルは一度言葉を止め、僅かに微笑んだ。
「何だか…とても、暖かな気持ちになりました」
「そっか」
私もつられて笑顔になる。
「シエル、ようこそブラッドへ」
「はい…ありがとうございます」
〜〜
何となく並んでベンチに座り、他愛もない話をする。マグノリア=コンパスでのシエルの昔話、私の失敗談、ちょっとした趣味の話、ブラッドが現在行っている訓練内容なんかについてだ。
「あの…副隊長、これは私が考えたトレーニングメニューなのですが、少々確認していただけますか?」
訓練内容について話していた所、シエルがおずおずといった風にそう切り出した。
という事で、シエルのポーチから出てきた分厚い紙の束を見せてもらう事に。
『睡眠8時間、食事その他の雑事2時間、任務4時間として、戦闘訓練に4時間、座学に6時間。更に一人一人に合わせた個別メニュー』
個別メニューはわかりやすく項目分けされ、一つ一つ丁寧な説明が並んでいる。
「…………」
きっと、私達の為に一生懸命考えてくれたのだろう。会った事もない私達の為に…
ならば、私も正直に応える。
「いかがでしょうか?」
「足りない」
「え?」
うん、私達はまだやれる。
「もう2、3割負荷を掛けても問題(死な)ないと思うよ」
「そうなのですか?」
「うん」
「かなりきつめに設定したと思っていたのですが…流石は精鋭部隊のブラッド、勉強になりました」
大丈夫、人は死の瀬戸際から生還する事によって、大幅に能力を向上させることが出来るのだ。
ジュリウスとギルは言わずもがな問題無し、ナナは私がフォローしよう。ロミオ先輩は……強く生きろ。
「では、もう少し煮詰めておきますね」
「うん、ありがとう」
どの道、地力の底上げはこれから必要だ。
訓練でならいくら死にかけても実際に死ぬ事は(ほとんど)無いが、実戦では人の命は簡単に消えてしまうのだから。
もう私は、誰も失いたくない。
〜〜
シエルと30分程話した後、ジュリウスの部屋へと戻る。
扉を開けるとそこは……
「ふふふ、いいですかジュリウス、あなたは霊長の王になるのれす」
「はいはい、わかりましたから、先ずはそのよだれを拭いて下さい」
満面の笑みのラケル博士(レアだ)
「ウォッカ、あと5杯〜!」
「レア博士も落ち着いて」
机に突っ伏したまま、右手に持った空のグラスを掲げるレア博士。
「おお、何と素晴らしい、これが『おでん』と言うものか……具材をだし汁に漬け、煮込む。たったそれだけの事で素材本来の旨みを引き出している。ああ、具材同士が奏でる味のシンフォニー。だしの染みた大根に、丸みを帯びたキュートなゆで玉子、噛みごたえのあるコンニャク、口の中で旨味が染み出すがんもどき、ああ、何という事だ。僕は誤解していた。おでんとパン、そんなものが合う筈がない。そんな風に思い込んでいた。常日頃から見聞を広めたいと思っている、などと口走っていたくせに、自分自身でそれを否定してしまっていたとは……済まなかった、ナナ君。だが! 僕は今、新たに生まれ変わった。言うなれば、NEWエミール!! 今の僕ならわかる。この先に待つのはまさに(以下略)」
「エミールうっさい!」
おでんパンの新たな犠牲者はエミールさん達か。そしてその元凶は、といえば
「あはは、ロミオ先輩変なポーズ」
「は、早く次の指示を……」
「えー、もうちょっと見てたいんだけどな〜」
「は、早く」
「仕方ないなー、じゃあ次は、右手を青」
『グキンッ』
「ぎゃああああ〜!」
「ろ、ロミオーッ!」
「はいっ、キグルミさんの勝ち! ロミオ先輩罰ゲームね」
ロミオ先輩、強く生きろ。
とりあえずジュリウスの部屋が現在地獄絵図になっているという事だけはわかった。
シエルと顔を見合わせ、頷き合う。
「「見なかったことにしよう」しましょう」
2人でそっと扉を閉じたが、沈痛な面持ちのジュリウスに連れ戻された。
その後も宴は続き、色々と大変な事ばかり起こったが、笑顔の尽きない楽しい歓迎会だったとだけ言っておこう。
番外 酔いどれラケル先生
ラケル「ジュリウス、ジュリウス~」
ジュリウス「はいはい、なんでしょうか」
ラケル「ふふ、あなたを見つけたあの時、私は確信しました」
ラケル「あなたこそ、この荒廃しきった古い世界を壊し、新たな秩序をもたらすことの出来る存在だと」
ジュリウス「それより、今この場の秩序を取り戻したいのですが……」
ラケル「えっ、も、もう新たな世界を拓きたいのですか? だ、だめですよ、然るべき手順を踏まなければ」
ジュリウス「いえ、そんな事は言っていません……あ、待てナツキ、逃げるなぁ! 現実から目を背けるなぁっ! これは命令だ!」
がしっ
ラケル「よくやりましたジュリうす、さあナツキ、ここに座って、ほらここに」
ぎゅーっ
ラケル「あたたかい、まるでふわふわの湯たんぽのようですね」
ラケル「ナツキ、実は私は初め、あなたの事を警戒していたのですよ?」
ラケル「でもね、最近ブラッドの子たちが本当の我が子のように思えてきてしまって…」
ラケル「何なのでしょうね、この気持ちは」
ラケル「あーもう、どれもこれもうちの子たちがみんなお馬鹿さんで可愛いのがいけないのです。まったくもう」
ラケル「こうなったらデザートを私1人でぜんぶ食べてやります」
ラケル「私はあらがみなのですよー、はむはむ」
ナツキ「なにこれ可愛い過ぎる私を殺すつもりかぐはぁっ!」
おわり