絶対零度のお嬢様が往く 作:みか
本文内に大きな間違いがありました。ニ文目の『とはいっても~』の部分。フライアは徐々に南下している筈なので、正しくは北の端です。大変失礼致しました。
到着しました極東地域。
とはいっても、まだ端の端でしかない。北の端っこ。
シエルが加わって、ブラッドは討伐任務に訓練に座学にと、更に忙しくなった。
加入当初のシエルは戦術にこだわるような姿勢を見せていたが、ジュリウスやギルの人間離れ、いや、この場合はゴッドイーター離れした動きを見て早々に考えを改めたようだ。
とても美しく、それでいて無駄の無い華麗な動きでした。と興奮気味に語る彼女を見て、私は思った。
頼むから、どうかシエルはまともなままでいてくれ。
最近、誰の影響かナナやエリナまで修行馬鹿に成りつつある。
エリナから笑顔で筋トレの手伝いを頼まれた時は、なんとも言えない気分になった。
気が滅入る話はここまでにしよう。
実は今日、ラケル博士からプレゼントを貰った。
新しい無線機、いわゆるヘッドセットというやつである。
片耳に装着し、スイッチを入れる事によって、いつでもフライアと連絡を取る事が可能になる。
これでいちいちバッグから無線機を取り出す手間がなくなった。
いやー、あれは地味に面倒な作業だったんだよ。
アラガミの攻撃を必死にかわしつつ、片手だけで取り出すのは普通。酷いときは足や膝を使って取り出したりもしたっけ。我ながら曲芸師一歩手前の動きをしていたような気がする。
片耳が聞こえなくなるのは戦闘において不利ではないかと考えていたが、無線機として使用していない時は集音機として機能するらしく、全く問題なかった。
おまけに、違和感はさほど感じないのに結構しっかり固定されているようで、空中回転しながらザイゴート(ダミー)を切り刻んでも外れたりしない。
ジャンプしながらシユウ(ダミー)の頭を叩き壊しても飛んでいったりしない。
流石はフライア、技術力は世界随一である。
さて、今日のミッションターゲットはラーヴァナ。
ラーヴァナさんとはヴァジュラ神属のアラガミで、大きな砲塔を持ち、素速い動きでこちらを翻弄してくる厄介なアラガミだ。
毒霧を放つというデータもあるので、念の為デトックス錠も用意しておく。武器はいつものように氷刀、参加メンバーは、過酷な訓練によりロミオ先輩が倒れたので、ギル、シエル、ナナ、そして私の4名。ジュリウスは責任を感じ、ロミオ先輩の付き添い看病をしている。
ロミオ先輩、お大事に。
後で何かお見舞いの品を持っていきます。
~~~
「ねぇ、ギル」
「何だ? 夏姫」
ミッションエリアである蒼氷の峡谷へと到着した私は、双眼鏡でエリア全体を見渡していた。
「どうしてラーヴァナが三体も居るの?」
「うん? ああ、偵察班が見落としていたんじゃないか? まあ二体くらい誤差だろ。さっさと行こうぜ」
……駄目だこの槍使い、もうおかしくなっていやがる。
「なんとかなるよー」
ナナは明るく笑っている。
かわいい……。
「どうしますか副隊長、あまりにハイリスクであれば撤退も…」
シエルはそう言ってくれるが、ナナとギルは既にやる気満々といった様子でウォーミングアップを進めている。
「いや、行こう」
きつい任務だが、今の私たちならこなせると思う。いよいよとなれば死ぬ気で逃げる。
「ギルはA地点付近のラーヴァナをこのポイントまでおびき寄せて時間稼ぎをお願い。無理はしないで、危なくなったら信号弾で連絡して」
「了解」
まあこの人なら問題ないだろう。
それどころか、直ぐに倒して私達の援護に来そうな気さえする。
「ナナとシエルは私と一緒にB地点付近のラーヴァナを狙う。途中で奥の一体が合流する可能性が高いから、警戒を怠らないで」
「了解しました」「うんっ」
大まかな作戦を立て、もう一度双眼鏡を覗く。何度見ても三体だ。
うん……頑張ろう。
『フライア聞こえますか、こちらブラッド、これよりミッションを開始します』
『フライア、了解しました。 …ご武運を』
「いくよ、みんな!」
フランさんの心配そうな声を聞きながら、高台を飛び下りる。
間違って神機が自分に突き刺さるなんて事がないよう、姿勢をきちんと制御しながらだ。
実は毎回地味に神経を使っている。みんなもきっとそう。
両足で着地し、数十メートル走った所で、旧世代の遺物を美味しそうに捕喰していたラーヴァナが振り返った。
ガラス玉のような瞳がこちらを捉える。
やはり聴力が高い。出来れば気付かれない間に後ろを走り抜けたかったのだが。
「ギル」
「了解だ、副隊長」
ギルは左手で一度帽子を押さえると、勢い良くラーヴァナに飛びかかっていった。
迎撃のフックは空中で大きく身を捻る事によってかわし、肩の部分へと槍を突き立てる。
あの態勢から動きを止める事なく攻撃を回避するとは……
何という変態機動。
「ギル、無茶は禁物ですよ」
「ああ」
「帰ったらみんなでおでんパン食べようね」
「ああ」
ギルはえぐり込むような鋭い突きを連続で繰り出し、ラーヴァナを牽制しながら、握り拳を作った左手を上げてみせた。
「……死なないでね、ギル」
出来るだけ音を立てないように走り、アラガミから距離を取る。
思わず縁起でもない事を呟いてしまったが、あんな変態(誉め言葉だ)を殺せるアラガミなんて、三倍の速度で動くハンニバルくらいのものだろうから、心配は無用である。
さて、ギルが一体を抑えてくれている間に残りの二体を叩かなくてはいけない。
とはいえ、二体と同時に戦うのは得策でない。
ならば……
「シエル」
「了解」
シエルが頷き、神機を変形させる。銃身はスナイパー。
「……」
姿勢は殆ど変える事なく、両足にいつもより力を込める。スコープを覗き、ほんの少し微調整。
それだけで、狙いは定まったらしい。
無駄のない体捌き。昔からの訓練で養ったその動きは、私みたいな素人とは全く違う。
上手くは言えないが、洗練された一種の美しさのようなものを感じる。
乾いた音と共に放たれたオラクル弾は、こちらに向け悠々と歩くラーヴァナの顔面に、当然のように命中した。
「流石っ」
「アラガミ、来ます」
こちらを補足し、怒りの雄叫びと共に凄まじい勢いで駆けてくるラーヴァナ。
シエルとナナが神機を構える。
「出鼻を挫く。ナナ」
「よっし、任せて」
凄まじい勢いで飛びかかってくる巨体をギリギリで左方にステップする事によって回避。ついでに顔面に蹴りを入れておく。
この蹴りは注意をこちらに向ける為だ。
怒りに染まった瞳でこちらを睨み付けるラーヴァナの砲塔が、
「くらえーっ!!」
飛び上がり、全体重をかけて振り下ろされた槌によって叩き割られた。
「チャンスです」
「だね」
悲鳴を上げて頭を震わせているラーヴァナめがけ、シエルと並んで疾走する。
胴体、右足、足首。
目に付いた部位を手当たり次第に神機で噛み千切っていく。
「まだまだっ!」
当然ながら振るわれるラーヴァナの爪攻撃を、前進し、すり抜けるようにしてかわしつつ、更に腕を動かす。
神機を振るう度、アラガミの血液(厳密には違うらしいが)と噛み千切られたオラクル細胞とが周りに散らばっていくのがわかる。
ラーヴァナに意識を向けたまま、ナナたちの方をちらりと確認する。
ナナはやや後方に控え、ラーヴァナの動きが止まった瞬間を狙ってハンマーを叩き込む、といった堅実な動きを。シエルの方はアラガミの視界の端に常に入り続けながら、攻撃と離脱を素速く繰り返す、というトリッキーな立ち回りで、私たちへ攻撃が飛ぶ頻度を減らしてくれているようだ。
なかなかいい調子で戦闘は進行している。
これなら意外と早く決着がつくか?
「…んっ」
休みなく動き続けていたラーヴァナが突如として立ち止まった。コアの部分が妖しげな光を発する。
…これは、ターミナルで見た毒霧の予備動作。
「二人とも、よけて!」
私が声を掛けるのとほぼ同時にシエルは範囲外へと飛び出して、ナナは装甲を素早く展開して、霧を吸い込むのを防いだ。
ブラッド全員、動きのキレが増している。訓練の成果は十分出ているみたい。
私はそんな事を考えながら、後方に大きくジャンプし……
「ぐっ!?」
とっさに爆発系のインパルスエッジを放ち、跳躍の機動を無理やり変える事によって、背後から迫っていた火球を回避する。
「あ、危なっ……」
崩れた姿勢を何とか立て直し、うつ伏せの状態で左手と両足を踏ん張って、滑るようにして着地。
眼前、ほんの数センチ先を火球が飛び去っていった。僅かにかすったのか、髪の毛の蛋白質が焼ける嫌な臭いが鼻につく。
今のをかわせたのは偶然だ。危機を感じ取った身体が反射的に動いた結果であり、二度目は無い。
…どうやら今日の私はついていたようだ。荒神ではない方の神に感謝しよう。
額に浮かんだ冷や汗を左袖で拭い、神機を構え直す。
「ナツキちゃん!?」
「副隊長!?」
背後から響いた爆発音に、ナナとシエルが喫驚の声を上げた。
「二人とも、後ろから二体目が来てる、注意して」
「っ、了解」
「あいあいさー」
すぐさま動揺を消し、再び臨戦態勢に入る二人。
頼もしい。
しかし、これで挟み撃ちされる形となってしまった。想定内とはいえ、不利な状況である事には違いない。
何らかの対策を打ち出す必要があるだろう。
奥の手である『ブラッドアーツ』を使いたい所だが、あれは溜めが必要だ。このような乱戦時には使いづらい。
どうしたものか……。
背後からの爪攻撃を上半身を傾けてかわし、振り向きざまに切り上げる。
当たり所が良かったのか、ラーヴァナが僅かに身じろいだ。
すかさず右上方から袈裟切り、再度の切り上げ、身体ごと回転しての横切り、という連続した攻撃動作を行う。
これはジュリウスから教わった動きのパターンだ。このように攻撃の型をいくつか決め、普段から練習しておく事によって、僅かな好機にも素速い対応が可能になる。
「よっ…と」
フィニッシュはゼロ距離でのインパルスエッジ。
先ほどのように加減したものでなく、正真正銘の全力で撃ち込まれたオラクル弾が、アラガミの皮膚表面で大爆発を起こす。
青白い光が瞬いた。
腹部を中心に身体を抉られたラーヴァナが、たまらず悲鳴を上げて大きく後退する。
インパルスエッジは属性依存。私の武器は氷刀、弱点属性をついた効果の程はご覧の通りだ。
アラガミが上手く動けず、よろめいているここで畳み掛ける。
「そっちいったよ」
追撃を加えようと一歩踏み込んだ所で、背後からの声が耳に入った。
同時に聞こえる大きな風切り音。
「ありがとっ、ナナ」
左手をついて斜め前方に転がり込む。後方を窺うと、先程まで私が居た場所に、もう一体が頭から突っ込んでいるところだった。
やはり二体同時というのは面倒だ、どちらかを早めに片付けなくては。
「副隊長、使って下さい!」
体勢を立て直した私に飛んできたのは、シエルからのリンクバーストだった。
ナイスタイミング、これならっ。
「お腹空いたし、一気に決めるよ」
「はいっ」「うん」「ああ」
……ギルバートさん、あなた何故此処に居らっしゃるのですか?
~~~
「つ、疲れたー」
ラーヴァナ二体による猛攻を凌ぎきり、何とか勝利を収めた私たち。現在、横たわるラーヴァナの前でフライアからの迎えを待っている所だ。
「いやー、なんとかなったね~」
ナナが汗を拭いながら言う。
「強敵でした」
「だな」
いや……
シエルの言葉に相槌を打っているが、ギルは余裕綽々だっただろうに。
何食わぬ顔して戦闘に潜り込みおって全く。
「しかし、副隊長の…」
「ああ、ブラッドアーツか」
「すごかったよね」
「ええ、予想以上でした」
シエルからキラキラとした目を向けられる。
照れちゃいますから、…そんな目で見ないで下さい。
「いや、まだまだ、ジュリウスのと比べたら月とスッポンだよ」
「スッポンって何だ?」
「トイレの詰まりを直すやつ?」
「それはカッポン」
ちなみにあれの正式名称はラバーカップと言うらしい。
話を戻して、ブラッドアーツだが、ジュリウスのは『疾風の太刀・鉄』という名称だ。
私のは『轟破の太刀・金』
……誰だ、こんな名前をつけた奴は。責任を問いただす必要がある。
責任者はどこか!
……上目遣いのラケル博士には勝てなかったよ。
ネーミングはラケル博士。
博士曰わく、フィーリングは科学者にとって重要な事なのですよ、とのこと。もう何でもいいや。
ブラッドアーツに関してはジュリウスの方に一日の長があり、今の私では相手にならない。
日々の精進を怠ってはいないのだが、追い付けるのは何時になる事か。
あの澄まし顔のイケメンめ、いつかぶっ倒してやる。
打倒ジュリウスに燃える私に、みんなが生暖かい視線を送っているような気がした。
~~
「あ、迎え来たよ」
瓦礫の上に立って辺りを見回していたナナが、ぴょんと飛び下りる。
「じゃあ帰ろう。みんな、忘れ物とか無い?」
「コアの摘出、完了しています」
「周囲に異常なーし」
「旧世代の遺物も回収済みだ」
よし、帰投準備は整っているようだ。
今日のミッションもかなりの難関だったが、みんなのお陰でなんとかなった。
ああ、今晩はよく眠れそうだ。
ちなみにロミオ先輩へのお土産は、その辺にあったよくわからない金属の塊にした。
心なしかオーラを纏っている気がする。紫色の
これを見て、いつもの元気を取り戻してくれ、ロミオ先輩。
帰投中、ジュリウスと一対一で闘う夢を見た。
普通に負けた。おのれジュリウス。
病室にて
ロミオ「暇だなー」
ジュリウス「ナツキたちから見舞いが届いたぞ」
ロミオ「え、マジ?」
ジュリウス「ああ」
ジュリウス「ナツキからはこれだ」
『紫のオーラが立ち昇るよくわからない金属』
ロミオ「なにそれ!?」
ジュリウス「超毒性メタルだ」
ロミオ「超毒性!?」
ジュリウス「レアだぞ?」
ロミオ「嫌がらせだろそれ!」
ジュリウス「これを見て早く元気になって下さい、だそうだ」
ロミオ「いや、思いっきり瘴気が立ち昇ってますけど」
ジュリウス「激レアだぞ?」
ロミオ「いいから蓋しといてくれ」
ジュリウス「わかった」
ジュリウス「続いてナナから」
『その辺に生えてた草』
ロミオ「やっぱ嫌がらせじゃねぇか!」
ジュリウス「いや、よく見ろロミオ。これは……」
ロミオ「これは?」
ジュリウス「毒草だ」
ロミオ「毒じゃねーか!」
ジュリウス「割とレアだぞ?」
ロミオ「少なくとも病人に持ってくるもんじゃねぇだろ、俺思いっきり臭い嗅いじゃったよ!?」
ジュリウス「だが、レアだぞ?」
ロミオ「レアかどうかは別に重要じゃねぇよ。というかさっきから何なんだそのコメント。気に入ったのか!」
ジュリウス「ああ、気に入った」
ジュリウス「ギルからはこれだ」
『毒』
ロミオ「毒じゃねーか!」
ジュリウス「だが、レアだぞ?」
ロミオ「だからレアはもういいって……」
レア博士「呼んだかしら」
ロミオ「呼んでませんから帰って下さい」
ジュリウス「だが博士だぞ?」
ロミオ「そうだよ! だから何だよ」
レア博士「残念ね」
ジュリウス「シエルからはこれだ」
『毒エキス』
ロミオ「なあ、俺なんか悪いことしたかな?」
ジュリウス「微妙にレアだぞ?」
ロミオ「ああ」
ロミオ「しかし、なんでこんなに毒ばっかり差し入れられるんだ」
ジュリウス「毒は使い方によっては薬にもなると聞く。そういう遠まわしな激励のメッセージなんじゃないか?」
ロミオ「全部、ド直球ストレートな毒だよ!」
ジュリウス「いや待てよ…、ロミオはブラッドにとって毒にも薬にもならないというメッセージでは……」
ロミオ「何か物凄く失礼な事を言い出した!」
ジュリウス「俺からのせめてもの見舞いとして、毒を吐いてみた」
ロミオ「どうもありがとう」
おしまい