絶対零度のお嬢様が往く 作:みか
「未来は見えているはずだよっ!」
私は今、ロングブレードでオウガテイルを切り裂いている。
横に居るのはジュリウスとナナ
忌まわしいおでんパン事件の後、訓練から帰ってきたナナに「血が出るほどおいしかった、ブラッドだけに」
と、渾身のギャグを披露してみたら「夏姫ちゃんって変わってるねー」と笑われてしまった。
何故だ、私は至って普通の常識人のはずだ。
……多分
今日は実地訓練を行うという指令を受け、ジュリウスに連れられてオウガテイルとドレッドパイクの群れを掃討しに『黎明の亡都』と呼ばれるエリアにやってきている。
いきなりの実戦で緊張している私達を餌だと思ったのか、ジュリウスの話を遮ってオウガテイルが飛びかかってくる、というアクシデントがありもしたが、全体重を乗せたカウンターパンチをお見舞いして、お帰り願った。
『シャキーン』
単体ならオウガテイルは案外脆いが、ドレッドパイクが同時に複数体やってくると、少し厄介だ。
ゼロスタンスから、一度後方にステップして距離をとり、銃撃を行う。
「当たって!」
訓練の甲斐あって、銃身の扱いは全体的に上手くなっている。この前作成したバレットも問題無く動作しているようだ。
「あ、弾切れだ」
ドレッドパイクを数体沈めた所でオラクルポイント(OP)が無くなった。
素早くブレードフォームに変形させ、残りのドレッドパイクに斬りかかる。
斬りつけられたドレッドパイクは、鳴き声を上げてよろめいた。
今が好機だ
「ここだよっ!」
すかさず力を溜め、プレデターフォームに変形
捕喰を行う。
「もらった」
「ごちそうさま!」
ナナとジュリウスもそれぞれバースト状態になったようだ。
私達3人の身体が淡い光に包まれる。
…ああ、肉が食べたくてたまらない
目の前のドレッドパイクを神機で噛みちぎると、そのままオウガテイルに殴りかかる。
それまでのジュリウス達の攻撃で弱っていたのか、私の力がバーストする事で上がっていたのか、もしくはその両方か…
とにかく、私の左拳を受けたオウガテイルが倒れ込んだ。
「もらったよ!」
隙だらけのオウガテイルに渾身の突きを放つ
ロングブレードがその身体に深々と突き刺さった。
地面に縫い付けられたオウガテイルは、しばらくの間ガクガクと震えると、動かなくなる。ひょっとすると、うまくコアを破壊出来たのかもしれない。
オウガテイルから神機を引き抜き、周りを見回してみると、ナナがブーストを起動して最後のドレッドパイクをタコ殴りにしている所だった。
どうやら、あれが最後の1体のようだ。
ジュリウスは脇でナナの動きを見守っている。
「とりゃー」
ブーストハンマーは恐ろしい武器だ、あれほどの重量でありながら、凄まじい速さで連続攻撃を浴びせ続けている。
アラガミに反撃を許さない様は、まるで嵐のようだ。
「ふー」
あ、タコ殴りラッシュが終わった。
ドレッドパイクが地に沈む。
「これで終わり?」
ナナの言葉に
「ああ、初の実戦にしては上出来だ。帰投しよう」
前髪から水がしたたっているジュリウスが優しく答える。
私も気になっている事を聞いてみよう
「帰りのヘリが落ちるとか…無いよね?」
「ああ」
……私の時は随分と素っ気なくないだろうか?
「ああ」って、2文字だぞ2文字。
これはまさか、日頃のジュリウスへの行いの差が原因なのだろうか?
確かに今日の戦闘中、誤ってジュリウスに蹴りをかましてしまったけど
まさか怒ってる?
謝った方がいいかな……
「あのー」
おずおずとジュリウスに話しかける。
「…どうした」
「ひょっとして…蹴っちゃったこと、怒ってる?」
「ああ、さっきの…」
「いや、戦闘中の事だ、気にしてはいない」
足元に水溜まりを作りながらもジュリウスは健気に強張った笑顔を返してくれた。
良かった、今日の事で怒っているのではないらしい。
でも、それなら一体何に……
まさか…庭園でぼーっとしていたジュリウスに、後ろから誤ってタックルを食らわせてしまったのが悪かったのか?
格好良い顔で、「ぐふっ」と言いながら池に落ちていくジュリウスは面白かった。
だが、あれは私だとはバレていないはずだ、すかさず支給物資を入れていたダンボール箱を被って隠れたんだから。
ずぶ濡れで池から上がってきたジュリウスは、可哀想に…何度も辺りを見回していた。
その時は流石に悪いと思ったので、ジュリウスの部屋の前に『あなたのファンより』とメッセージカードを付けてタオルを置いておいた。
今挙げた事はどちらも、決してわざとやった訳じゃないから許して欲しい。
ちなみに今日はタオルを持ってきていなかったので、池に蹴り落としてしまったジュリウスにはハンカチを渡してあげた。
あのドロップキックはオウガテイルを狙ったものであって、決してジュリウスをもう一度池に落としてやろうとか考えていた訳じゃない。
命がけの戦闘中に、進んで仲間を池に突き落とす馬鹿は居ない
ジュリウスの血の力とやら『統制』(と言うらしい)によって神機解放状態(バースト状態)になった所で、調子に乗ってアラガミに大技を食らわせようとしてしまったのがいけなかった。
いや、バースト状態で身体が軽くなっていたから…つい
あ、血の力と言えば、今日はジュリウスにブラッドアーツという必殺技を見せてもらったんだった。
『統制』の効果でバースト状態になっていて、興奮していたから、よく聞いていなかったけれど、特殊部隊であるブラッドに選ばれた私達は、あんな技が使えるようになるそうだ。
ブラッドアーツか…全く想像がつかない。
「今日の晩ごはん何かなー?」
「晩餐はラケル先生が用意して下さっている。メインはシェフのおすすめ、午後の貴婦人の口づけ、だそうだ」
「へぇー」
…それも全く想像がつかない。
主人公のお父さんはうっかりやさん。娘の為に護身術の先生を呼んだつもりが、誤ってプロの格闘家を呼んでしまったようです。
まさか…うちの娘は最強の格闘士とかを目指すつもりじゃあるまいな?