絶対零度のお嬢様が往く 作:みか
A.そのまま「お兄ちゃんだよね!?」と詰め寄ればいい。
ジュリウスの血の力とブラッドアーツ、ついでに未知の夕食のメニューに一通り思いを馳せたあと、私達は無事フライアに帰投した。
ジュリウスはラケル博士に呼ばれたとかで、到着するなり足早に歩いていってしまったので、私はエントランスにあるソファーに座って、ナナとこの前出来なかった分も合わせてお話をする事にした。
「ジュリウス、すごかったねー」
「そうだね」
「なんかー、ズバーン、バシューン、シャキーン!って感じで」
「ごめん、最後のシャキーンは多分私だ」
「でもさー、血の力って言われても、なんかピンと来ないよね」
「うーん……昔、本で見たんだけど、危なくなったら目から血を飛ばして攻撃するカメレオンって動物がいるらしいよ」
「…それとは違うんじゃない?」
「そうだね」
そんな他愛もない話をしていると
「ふふふふーん、ふふふふーん、ふふふふ、ふふふふ、ふふふふー」
「ふふふふ、ふふふふ、ふふふふー、ふふふふー、ふふふふー、ふふふ、ふふっ! ふふっ!ふふーっ!」
『運命はこの様に扉を叩く』とでも言いたげな人がやってきた。
まずい、『ふ』を多用し過ぎて、『ふ』がゲシュタルト崩壊だ。……というか手抜きだと訴えられても仕方ない。
何故鼻歌が『運命』だったのか、どうしてそんなに必死に鼻歌をうたう必要があるのか、色々と問い詰めたり、言ったりしたい気持ちはあるが…
あえて、あえて一つだけ言わせてもらえるなら
この人私とキャラが被っている。
主に頭部の色合いが
私こと天王寺夏姫はショートの金髪、この人も短め(男性にしては長い方なのか?)の金髪。
私は白いリボン(うさぎみたいで可愛いんじゃないか? と自分では思っている)を頭につけているが、この人は上質そうな白いニット帽を被っている。
目の色だって似ている。
私もこの人もどちらも青っぽい。
この人はまさか…
生き別れたお兄様?
まあ、残念な事に私にはお兄様は居ないんだけれども
そんな事をその少年がこちらに近付いて来るまでの、わずかな間に思案していた。
「おっ?」
少年がこちらに気が付いたようなので、ぺこりと一礼しておく。
「見ない顔だね、君ら」
「あ、つい先日ブラッドに配属された、天王寺夏姫と申します」
「お、同じく香月ナナです」
人との出会いは最初が肝心だ。私とキャラが被っている少年に、すぐさま笑顔で挨拶をする。
何故か真横からナナにガン見された。
ひょっとすると私の笑顔は不自然だっただろうか?
確かに、笑顔を作るのはずいぶんと久しぶりな気がする。
私は昔からあまり表情を見せない質らしく、お父様やお母様によく心配された。
昔に比べれば、最近は結構わかりやすいと思うけれど。
とにかく、お父様達を心配させたくなかったので、私は『完璧な笑顔の作り方』という本を参考に、物凄く速く、ごく自然な笑顔を作れるように特訓したのだ。
今では0.3秒もかけないうちに『完璧な笑み』(自称)を浮かべる事ができる。
最も、その練習は生半可なものではなかった。
家の外で練習していると、私の笑顔を見ていた人達からは『怖い』『不気味』『子どもがひきつけを起こした』
家の中で練習していると、お父様からは『具合でも悪いのかい』お母様からは『もう頑張らなくて良いのよ』窓から覗いていた人からは『子どもがひきつけを起こした』
そんな、心が折れそうになるお言葉を沢山いただいた。
あの時は本気で泣きたくなった……
おっと、話が逸れた。
私とキャラが被っている少年、名前はロミオというらしい。
彼は私達の先輩に当たる人だった。
気さくに「何でも聞いてくれよ」と言ってくれたので、
「お兄ちゃんだよね!?」
と詰め寄ったら、即座に逃げられた。
ちょっとしたジョークだったのだが
その後しばらくナナに抱き付かれながら、庭園で日向(人工灯だ)ぼっこをしていたら、ラケル博士との話が終わったのか、ジュリウスが歩いてきた。
やってきたジュリウスは何故か真顔だったので、慌てて姿勢を正す。
私達の前で立ち止まったジュリウスは、
「お前がまさか、ロミオの妹だったとはな」
「ぶふーっ!」
開口一番、そんな事を口走った。
〜〜
「悪い、冗談だ」
「あー、びっくりした」
ジュリウスは時折真顔でボケるから油断ならない。
今度、天然ボケピクニック野郎と呼んでやろう。
今回のジュリウスの発言は、普段の意趣返しの意味もあったらしいが、半分は私から事情を聞く目的だったという。
何でも、先ほどロミオ先輩に「なあジュリウス、俺に妹が居たんだけど、どうしたらいいと思う……?」
と相談を受けたらしい。
「あの時は流石の俺も一瞬、真顔で固まったな」
それはいつもの事だ。
結局、ジュリウスはフリーズしたままで「家族が出来てよかったな」と返したらしい。
何という事だ……彼に冗談だったと伝えてあげたい。
ロミオ先輩は見た目によらず、真面目な性格だったのか。
「うへへー」
「…所で、ナナはどうしてお前の膝を枕にして寝ているんだ?」
「さあ?」
〜〜〜
「ラケル先生、ジュリウスです。ブラッド候補生、天王寺夏姫、香月ナナ、以上2名を連れて参りました」
「どうぞ、入っていらっしゃい」
ジュリウスに連れられ、ナナと2人でラケル博士の研究室へと入室する。
「あ、ロミオ先輩だ」
「げっ……」
中には既にロミオ先輩もいた。
「よく来ましたね、ブラッドの候補生の皆さん……」
用意してあった椅子に全員が掛けると、ラケル博士のありがたいお話が始まった。
「今日は皆さんにブラッドとしての心構えを……」
お腹がすいた。
「強い願いが強い意志を……」
うん、博士は今日も可愛いなぁ。
「あまねくゴッドイーター達を……」
そして相変わらず博士の話は長ったらしい
うん? 何?
私が不真面目な奴だって?
しっけいだな君、名を名乗れ。
まったく……私は不真面目なようでいて、要点はきちんとメモを取るほどの真面目さんだ。
ゴッドイーター内で『真面目・ザ・イヤー』とかがあれば準優勝くらいはできる。優勝はもちろんジュリウスだが。
「その日が…」
さて、ラケル博士の台詞を要約するなら、とっとと血の力に目覚めて、他のゴッドイーターを先導できる程の実力を身につけやがれ、といった所だろうか。
この人も結構な無茶を言ってくれる。私達(ひょっとすると私だけかもしれないが)は、つい最近まで一般人だったんだぞ。
まあ…可愛いから許すが。
「…ますよ」
「「はい、頑張ります」」
ラケル博士に返事をしようとして、私とロミオ先輩の台詞が被ってしまった。
思わず顔を見合わせる。
が、怯えたようにすぐさま逸らされた。
むう……
ラケル博士がこの後歓迎会を開いてくれるそうだから、そこでさっきのは冗談だったと伝えてあげよう。
ベースは無表情です。今回珍しく表情を出しました。