ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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まだ本格的な戦闘にはなりませんよ~。


10話 彼は救出の狼煙を上げる。

 月明かりが辺りを明るく照らし、草木のざわめきも虫の囁きも聞こえない静かな夜。

本来ならばあってもおかしくないはずの物が聞こえないというのは、得てして不気味としか言いようが無い。

そんな雰囲気の中、一誠と久遠は教会に向かって歩いて行く。

目的は此度の騒動の原因足る堕天使の捕縛。そして個人的には縁が出来た恩人の救出。

堕天使という人外との戦い。通常ではまず有り得ないであろう戦いが繰り広げられることが予想されるだろう。

だが、二人の足取りは軽い。

まるで気軽に散歩に行くような、近所の自販機でコーヒーを買いに行くかのように、その歩みに緊張は感じられなかった。

久遠はそんな足取りで一誠にこれからの作戦について話す。

 

「さて、これからイッセーには例のお馬鹿さんをシバきに行って貰うわけだが、何か質問はあるかね」

 

悪ふざけで偉そうな教師のような口調で一誠に話しかける久遠に、一誠は呆れ返った目で返事を返した。

 

「どうせ聞きたいこともわかってんだろ?」

「何だ、面白くねぇなぁ」

 

久遠は一誠がノってこなかったことに若干不満そうにしつつ話し始める。

 

「例の教会だけど、調べてみたら地下があるんだよ。たぶんそこにお馬鹿はいる。当然お前さんの恩人ってのもなぁ。んで、そこに至る最中にはそんな堕天使様を崇め奉るはぐれ神父共がわんさかいるってわけだ。それと後の二人は外で警戒って感じだな」

 

久遠の話を聞いて一誠は軽く頷く。

先ほどの話で敵の居場所と敵の規模については理解出来ただろう。

はぐれ神父だけでも三十人は超えると思われる。この戦力なら悪魔にだって負けはしないと思われる。

だが、それを聞いても一誠の顔に怯えはない。

寧ろつまらなそうな顔をしていた。

 

「そんなもんか。絶対につまんねぇ仕事になりそうだ」

「普通なら絶望しそうなもんだが、お前さんにはそれでも退屈にしかならないってね。これからシバかれるお馬鹿さんが可哀想だよ、俺は」

 

そのまま二人で笑い合う。その様子はジョークを言い合って笑っている子供にしか見えない。これから強大な力を持つ人外を相手にするとはとても思えない光景であった。

 

「今までなら外の二人を叩いて、その上で教会に真っ正面から挑むってのが俺達のやり方だが……今回は時間がないんでなぁ。外の二人は相手にしなくていい」

 

久遠は笑いながらそう言うが、実際そうではすまない。

結界が張られているであろう教会の付近に近づけば、当然察知される。となれば戦わざる得なくなり、無視など出来るはずがない。

 

「それはつまり……お前が相手をするってことか?」

「まっさか~、俺は自分でやるのは好きじゃねぇよ。そういうのはお前さんの担当だろ。『お姫様と愉快な仲間達』にそいつ等は任せるよ。彼方さんも教会に向かっているようだしなぁ」

「あぁ、そういうことか」

 

リアス達もこの件に付いて動いているらしい。

あちら側としても自分の敷地内に堕天使が忍び込んでいるのは我慢ならないらしい。

久遠の話を聞いて一誠はリアス達も教会に向かってきているのだと、何となく理解した。

だからこそ、リアス達に堕天使二名を押しつけることにしたのだ。

押さえてくれるのなら問題無し。仮に殺されたところで時間稼ぎには充分だし、殺してしまっても一誠達に不利益はない。もう既に一人殺してしまっているのだから、それが後二人増えようとそこまでの問題にするようなことではない。

本丸さえ捕まえられればよいのだから。

もし邪魔するようなら…………一誠は容赦せずに叩き潰すだけだ。

そのまま二人は笑いながら歩き続ける………教会に張られた感知用の結界のすぐ側まで。

すると久遠が何かを感じ取ったらしく、ニヤリと笑みを深めた。

 

「どうやら予想通り、お姫様が張り切ってるらしい。早速戦り合ってるようだぜ」

 

それを聞いた一誠も顔の笑みをとり凄惨なものへと変えていく。

この知らせは二人にとって、作戦開始の合図と言っても過言ではない。

だからこそ、より楽しげに二人は笑う。

 

「イッセー、祭りが始まったんだ。なら、派手にかましてやれよ。ド派手な花火をよ」

「あぁ、そうだな!」

 

一誠は久遠に勢いよく答えると共に、左腕を胸元に構え自身の異能を展開する。

 

「いっくぜぇ! ブゥーーーーステッド・ギアッ!!」

 

声と共に左腕に現れたのは赤き籠手。

三大勢力から畏れられた二天龍と呼ばれ龍の片割れの魂が封印されている神滅具、『赤龍帝の籠手』である。

一誠は装着された籠手を確かめるように左手の人差し指から順に握っていき、最後に親指を閉じて拳の握りを確かめる。

そして封印されしドラゴンの魂に向かって話しかけた。

 

「ドライグ、せっかくだから『3分の1』出すぞ。そいつでまずは花火を上げてやる」

『相棒、それはいいのだが……それでも〈片腕〉なのか』

 

ドライグの言葉を聞いて一誠はニヤリと笑う。

 

「当たり前だ! 『本気』はあの野郎と戦り合う時に取っておく。だから、この程度なら片手一本だけで充分だ!」

『ここまで凶暴な宿主は初めてだ。だが、その思い切りの良さは心地良い』

 

一誠はドライグにそう言われると共に左腕を高々と上に上げる。

 

『Boost』

 

ブーステッド・ギアから流れる人工的な音声により、一誠のその身に宿している力が二倍にされる。

その感覚に一誠は笑みを浮かべずにはいられない。

 

『explosion』

 

籠手の音声と共に倍化された力が発現する。

その途端、一誠の身体が赤いオーラに包まれた。

ここで気を付けなければならないのは、コレが一誠の力をそのまま倍にしたというわけではないということ。

それまで何倍にもしてきた、あらゆる負荷の力をかけられた状態での倍化である。

つまりは本気ではないということ。

だが、それでも久々のちょっとした力の解放は一誠の気分を高揚させる。

 

「いっくぜぇええぇえぇえええええぇええええぇえええええええええええええッ!!」

 

その気分を表すかのように、一誠は握った左拳を地面に向かって叩き付けた。

激突した瞬間に辺りに轟音が響き渡った。

殴られた地面は罅割れ陥没し、まるで隕石が落下してきたかのようなクレーターを作り上げていた。

それ程の破壊を顕わにした一誠は、その反動を使って上空へと跳び上がっていた。

いつもよりも遙かに高い空へと。

跳び上がった高度はかなりのものであり、見回せば駒王町全体どころかその隣の町の全貌も見渡せるほどである。

そのまま反動の勢いが収まるまで跳び上がると、一誠は獣のような笑みを浮かべ、力を出せることによる歓喜の咆吼を上げながら地表にある教会に向かって落下し始めた。

 

「らぁああぁあああぁあああぁあああああああああああああああぁぁぁああああああぁああああああああああああッ!!」

 

その姿はまさに赤き流星。

落下速度に加え、一誠自身が身体から湧き出すドラゴンの赤きオーラを噴出させて推進剤にすることでとてつもない速度を叩き出している。

その速度は肉眼で捕らえることは難しく、またその威力を防ぐことは出来ない。

結界に感知されようが、それでも追いつかない速度で教会に突っ込めば結界など関係無いのだ。だからこそ、この突入方を選んだ。

赤き流星はそのまま落下を続け、堕天使が張っていた結界を紙のように破り、そして教会を…………。

 

粉砕した。

 

そう、打ち崩したのでもなく、穴を開けたのでもない。

文字通り、教会という建物その物を破砕したのだ。

その衝撃で辺りの木々はへし折れ、まるで戦車砲が直撃したかのような有様になり、教会という建物は消滅してしまった。

そこにあるのは最早ただの瓦礫の山。

建物という概念はもう失われていた。

その破壊は地表だけに留まらず、久遠の言っていた地下のまで及び、地下室の大半を吹き飛ばした。

 

 

 

 

「なっ……………!」

 

レイナーレはその事態に言葉を失った。

突如感じた膨大な何かの力。魔力や光の力とは違う物だが、その密度は測り知れないほどに強大な力を。

それが此方に向かってくると判断した途端、咄嗟に自分と貼り付けにしているアーシアにできる限り強力な結界を張った。

それが張り終えると同時に、教会はその衝撃に激震し吹き飛んだ。

レイナーレはその衝撃に結界を張ったというのに吹き飛ばされ、アーシアの十字架も根元から折れて吹き飛んだ。

身体中に走る痛みに顔を顰めながら起き上がったレイナーレが目にしたのは、先程までの儀式の用意が終わった暗い地下室ではない。

月明かりが当たりを煌々と照らす、瓦礫まみれの空間だった。

それまであった怪しい空気など微塵もない、ただの抉れた空間がレイナーレの目の前には広がっていた。

防衛のために用意したはぐれ神父達は崩れてきた瓦礫の押し潰されたのだろう。誰一人として姿は見えなくなり、瓦礫から偶に滴る赤い液体が見え隠れしていた。

その悲惨な光景にレイナーレは言葉を失っていた。

 

 

 

 アーシアは絶望に打ち拉がれていた。

信じていた者達に騙され裏切られたことに。

教会を追放された身でも、神への信仰を忘れたことはない。それは堕天使に教会に誘われたときも変わらなかった。

彼女は心優しい子だ。堕天使が何故堕天したのかも、きっと訳があったのだろうと思い、神への信仰を忘れてはいないと疑っていなかった。出なければ、神の力足る光の力を使うことは出来ないから。

だが、そうではなかった。

堕天使は悪意を持ってアーシアに近づき、騙し、こうして彼女は十字架に貼り付けにされた。それでも、彼女は信じたかった……レイナーレ達のことを。

しかし、レイナーレはそんな彼女の心を嘲笑う。

騙していたことを教え、如何に彼女が愚かなのかを語り、どうしてこうなっているのかを嬉々としてアーシアに語った。

それを聞いて彼女は絶望と悲しみに包まれた。

騙されていたことにも、自分が愚かだということにも、そして何より、神を信じられなくなってきている自分に。

いつも……いつも同じように頑張ってきた。神への信仰を忘れず、常に努力しようと。さすれば必ず報われると。

それが心の支えになっていた。神は皆を愛しておられ、必ず見て下さると。

だから辛いことがあっても、これは神が与えた試練だと受け止めてきた。彼女の信仰が試されているのだと。

だが………もう限界だった。

幾度となくそう思うことで心を騙しながら頑張ってきたが、それでも神は応えてくれない。

もう…………つらいだけだった。

それをレイナーレに指摘され、彼女は涙を流し続けていた。

信じようとする心と、信じても応えてはくれない神への不信感に。

そんな彼女の心は、最後に助けて貰った人物のことを思い出していた。

最初にこの町に来て、迷子になっていたアーシアを助けてくれた少年のことを。

そして少年が別れ際に言っていたことを思い出す。

 

『あんたが困ったときは声をかけてくれ。助けてやるからさ』

 

その言葉の暖かみを感じながら、最後の言葉になるだろうと思いその少年の名をアーシアは呟いた。

 

「……イッセーサン……」

 

その名を呟いたと共に、彼女は唐突に来た衝撃で吹き飛ばされた。

 

 

 

 一誠は瓦礫に突き刺さっている左腕を引き抜きながら辺りを見回す。

派手に壊した教会の様子を見て、それなりに派手にやったことを自覚して満足そうに笑う。

そしてたぶん無事であろう堕天使とアーシアを探すと、端の方で十字架に吊されているアーシアを見つけた。

アーシアは一誠と目が合うと、口をパクパクと開き驚愕しているようだ。

その様子に無事な事を察した一誠は、その場に不釣り合いな軽い口調でアーシアに話しかける。

 

「よ、久しぶりだな。あんた、困ってそうだから助けてやるよ。飯の礼だ」

「ア…………ア、ア…………」

 

一誠の言葉を聞いて緊張の糸が切れたアーシアは、言葉を発しようとするも上手く口が動かない。

だが、それでも、目の前に現れた一誠の名を彼女は呼んだ。

 

「イッセーサン!!」

「あいよ」

 

アーシアの叫びに一誠は不敵な笑みで応えると、起き上がりつつあるレイナーレを見つけた。

 

「あんたがここでやらかそうとしてる堕天使か?」

 

その言葉を聞いてレイナーレは一誠を睨み付ける。

無様な姿を見られたこともそうだが、変身していたとは言え一度会っているはずなのに覚えていないということが彼女自身許せなかったのだ。

それほど自分の存在は薄いのかと。

 

「だ、だったらどうだっていうのよ!」

 

怒りをぶつけるレイナーレに、一誠はアーシアに向けていたのとは違う凄惨な笑みを浮かべた。

 

「だったらよかった。テメェのとこのトップからの依頼でな。馬鹿をやる前に踏ん捕まえて来いってよぉ。だから大人しく捕まってくれれば面倒がなくていい。まぁ、暴れてもいいがよ。そん時は………」

 

そこで一端言葉を切ると、一誠の身体から赤きドラゴンのオーラが噴き出した。

その力は地面の瓦礫を易々と吹き飛ばす。

 

「容赦なく叩き潰させて貰う!」

 

 教会の崩壊跡地にて、一誠の声が大地を震わせた。


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