ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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今回は結構熱めの戦闘回です。
レイナーレが戦ってるところってそこまでないので苦労しました。


11話 彼は叩き潰す。

 依頼のため、もっとも効率が良い突入方法………高々度からの突入によって教会その物を粉砕した一誠。

仮にも目的対象を殺すなと言われているのに、それをまったく考えていないかのようなこの方法に誰もが正気を疑うだろう。

何も脳筋で考え無しにこのようなことをしたわけではない。

寧ろちゃんと考えての行動である。

久遠からの情報の通りだとすれば、正攻法で真っ正面からはぐれ神父の集団と戦わなければならない。別にはぐれ神父の百人、二百人など一誠にとって相手にもならないが、面倒だし何よりもつまらない。

一誠自身より強い者と戦いたいと望んでいる所があり、明らかに弱いはぐれ神父とは戦う気にならないのだ。

つまり相手にしてやるだけ時間の無駄なのである。

なので相手になどせず、とっとと目標対象であるレイナーレを叩きに行きたい所だが、そうはいかないのが普通。何より、そんなそそくさとした行動など一誠の好むところではない。

ならどうするか?

全てを一遍に叩いてしまえばよい。

はぐれ神父は悪魔と戦うため、その身体能力は凄まじい。

だが、それでも所詮は人間。崩落した建物の重みに耐えられる程頑丈ではない。

故に教会その物の瓦礫で押し潰した。

それなら中にいる目標対象であるレイナーレとアーシアも無事では済まないと判断するのが普通だが、そこについても考えてはある。

堕天使というのは人間よりも上位の存在だと言われている。

少なくとも、本人達はそうだと言って憚らない。

それは誇張でなく、身体的能力や特殊の力の全てが人間よりも断然上なのである。

なら、人間が押し潰されてしぬ程度の攻撃如きで死ぬわけがない。それで死んだのなら、とっくに現代兵器で人間に負けているはずだから。

そしてアーシアが無事だというのも、ある程度の予想はしていた。

仮にも今回の儀式において最重要人物。奪い取る前に死なれては手に入れることが出来ないのだから、守るのは当然のことだろう。

それらを何となくで分かっているからこそ、一誠はこの突入方を行った。

学園での成績は極端に悪いが、こういう時だけはそれなりに頭が回るのである。

 そして現在、一誠の目論見通りに事は進み、レイナーレと一誠は対峙していた。

吹き荒れるはドラゴンのオーラ。

それにより一誠の周りの瓦礫は吹き飛ばされていく。

 

「で、あんたはどうする?」

 

一誠が口の端つり上げながら笑い問いかける。

口調は軽いというのに、その身に纏う雰囲気からはとてつもない重圧を感じさせる。

その重圧に呑まれかけ、レイナーレは若干後ろに引きつつも気丈に答えた。

 

「どうするですって? 決まってるじゃない! あんたを倒してその小娘から神器を抜き取るだけよ!」

 

レイナーレは当初の予定通りにそう答える。

それを聞いて一誠は呆れ返った声を上げた。

 

「おいおい。聞いてたのかよ? 俺はテメェ等のトップから依頼を受けたんだぜ。あんたが馬鹿やる前に捕まえろって。上からのご命令に逆らうのか?」

「くっ……そ、そんなこと、貴方の嘘よ! 証明なんて出来ないでしょ! 私は信じないわ!」

 

そう言い放ち、レイナーレは交戦の意思を顕わにして手から光の槍を出現させた。それを見て一誠の笑みは更に深まる。

一誠としてはこんなつまらない仕事をさせられたのだから、やはり暴れたりないのだ。

 

「OK、いいぜ。来な………叩き潰してやるよ!」

「やぁああああぁあああああぁああああああああああああああああ!!」

 

レイナーレは一誠の言葉を皮切りに光の槍を構えて投げつけた。

それはドーナシークよりも細い槍。だが、そこに込められた力はドーナシークの比ではない。

それが途轍もない速度で一誠に向かって投げつけられたのだ。

 

「イッセーサンッ!!」

 

その攻撃に見ていたアーシアは悲鳴を上げた。

堕天使の攻撃に普通の人間が耐えられるわけがないのだから。

だが、一誠はただの人間ではない。

アーシアはそのことに急なことで気付かなかったのだ。

普通に考えれば気付くはずのことなのに。普通の人間が教会を単身で崩壊させる力など持つわけがないのに。

それほどアーシアの精神が追い詰められていたということなのだが。

一誠はその槍を防ぐことはしなかった。

光の槍はそのまま突き進み、一誠の身体に触れる直前、赤いオーラによって砂塵の如く霧散する。

 

「なっ!? 何で人間如きに私の槍がっ!」

 

レイナーレの顔が驚愕に染まる。

そんなことが出来るのは上級の悪魔か天使、堕天使しかありえない。

それをたかが神器を持っている人間にやられたのだ。驚かない方が無理というものである。

だが、それを認めたら彼女の中にある堕天使としてのプライドが貶された事になってしまう。それをレイナーレは認める訳にはいかなかった。

それを察してなのか、一誠はレイナーレに向かって嗤う。

その顔を見た瞬間、レイナーレは掌に汗を掻き始め、無意識に足を引いていた事に気が付いた。

それが癪に障り、レイナーレは更に力を込めて光の槍を作り出した。

 

「認めない! たかが人間如きにこの堕天使が怖じ気付くなど!!」

 

そのまま槍を何本も一誠に投げつける。

それはまるで雹の如く、一誠に向かって降りかかる。

普通の人間なら肉片一つ残らないであろう怒濤の攻撃。

アーシアは今度こそ駄目だと思った。

その攻撃は一誠を捕らえ、その余波は周りの瓦礫を粉砕していく。

立ち籠めた土煙が教会跡を覆い、視界を悪くなる。

レイナーレはそれでも対象が消えていないと判断し、上空に跳び上がって更に槍の雨を降らせる。

その力は更に連鎖的な破壊を生み出し、一誠が居たであろう場所を爆発させ続ける。

アーシアには一応の結界を張ってあるので無事ではあるだろう。だが、それでもどうなっているのか分からない。

それぐらいの過剰攻撃が繰り広げられていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」

 

土煙が更に立ち籠める教会跡の上空でレイナーレは息を切らせる。

自身が感じた『恐怖』を誤魔化すために、過剰とも言える攻撃をしてしまったことに内心で苛つきつつ。

だが、これでもう終わりだろう。

この攻撃を受けて無事で済む者などいない。それだけの自負はある攻撃であった。

上級の堕天使や悪魔が相手でも手傷を負わせるには充分な威力である。

だが、その自身にとって全力と言っても良い攻撃は次の瞬間に絶望へと変わった。

立ち籠めた土煙が一瞬にして吹き飛んだのだ。

まるで内側から爆発したかの如く。

そしてその爆心地とでも言うべき所には、赤きオーラを纏った一誠が地面に拳を突き刺していた。

その身体には傷一つ見当たらない。

 

「中々の攻撃だったが………こんなもんかよ。これだったら、あんたの部下のおっさんの最後の攻撃の方が強かったぜ」

 

一誠はそうレイナーレに向かって言うと、突き刺さっていた左拳を引き抜く。

何てことはない。ただ、拳圧で辺りに立ち籠めていた土煙を吹き飛ばしただけである。

そのまま一誠はのらりくらりと言った感じに動き出す。

それは一件のんびりとした様子だが、その実隙というものが全くない。

レイナーレはその様子に心の奥底から恐怖を感じた。

目の前にいる『コレ』はなんなのかと。

神器を使っている。なら、神器持ちだ。

神器を持てるのは最初は人間。その後抜き取れば他の種族でも使える。だが、目の前の男からはそういった他の種族の気配を感じない。気配そのものは人間だ。

なら、目の前で不敵に笑う『コレ』は人間か?

否……レイナーレはそうは考えられなかった。

堕天使の全力の攻撃を受けて無事な人間がいるだろうか? 否である。

少なくともレイナーレの知る限り、そんな人間は存在しない。神器を持っていようともである。

逆に言えば………堕天使の全開の攻撃を受けて平然としている存在が人間であるはずがない。

つまり、目の前にいるのは……人間の形をした『化け物』だと。

そう考え、そして認めそうになってしまった。

それが更に屈辱感をレイナーレに与える。

人間相手に何を怖じ気付いているのかと。自分は人間なんかより遙かに高位な堕天使なのだと、プライドが心を震え立たせようとする。

だが、それに反して身体は直ぐにでも逃げたいと震え上がっていた。

心と体で反する矛盾。

それがさらにレイナーレの恐怖心を煽っていく。

 

「何なのよ! アンタは一体何なのよ!!」

 

その矛盾の苛立ちをぶつけるかのように、レイナーレは一誠に向かって槍を投げつける。

それは今までで一番の殺傷能力を持った槍だろうと、彼女自身無意識に思った。

人に当たれば塵一つ残らぬであろう高威力の光の槍。

それは槍とは最早言えない。圧倒的なエネルギーの籠もった柱のようにしか見えないであろう。

槍はそのまま一誠に向かって突き進む。行く先々にある瓦礫はその余波だけで消滅していく。

一誠はその槍を見て………笑った。

 

「おぉおおおおおぉおおおおおおおぉおおおおおおおおおぉおおおおおおおっ!!」

 

身体を捻ると共に、獣が如き咆吼を上げながら左拳を思いっきり振るう。

そして激突する槍と拳。

両者は拮抗し合い、紫電を散らす。

その余波だけで激突した両者の周りにあった瓦礫は粉砕され灰燼と化していく。

それは誰も介入することを許さない領域。

それは永遠に続くかと思う程長引く。

だが、その状況が一変するのは一瞬であった。

 

「らぁああぁああぁああぁあああぁああああぁああぁあああぁあああぁあああっ!!」

 

一誠の咆吼と共に、光の槍が激突している先から霧散していく。

そのまま突進する一誠。その拳はレイナーレの渾身の槍を内側から粉砕していく。

そして遂に……槍は破壊された。

 

「ひっ!?」

 

破壊され光の粒子へと変わっていく槍。

その中を突き進む獣のような笑みを浮かべた一誠を見て、レイナーレは恐怖し声をひくつかせる。

一誠は突進の勢いの拳を更に振るい、その拳は恐怖に顔を凍り付かせるレイナーレの腹へと吸い込まれた。

次の瞬間…………。

 

この場では聞いたことがない音が轟く。

 

それはまるでトラックが人を撥ね飛ばし、人が弾けたような音。

硬い何かがへし折れ砕ける音と共に、肉の潰れる音が聞く者の脳髄にこびりつく。

それは聞く者全てに嫌悪を抱かせる音であった。

その音の発生源、レイナーレの身体はくの字に曲がっていた。

 

「ッ!? ごぼっ…」

 

女性ならば誰もが望むであろうきゅっとくびれたお腹。そこに一誠の赤き左拳が深々とめり込んでいた。

その激痛にレイナーレは悲鳴が上がりそうになるが、先にこみ上げてきた血が口内や胃を満たして漏れ出し、声を上げることを許さない。

一誠はレイナーレの内臓が破裂した感触を感じながらそのまま拳を振り抜く。

レイナーレはそのままに吹き飛ばされ、少し離れた瓦礫の山に突っ込んだ。

 

「げほっ、ごほっ」

 

瓦礫に深くめり込んだレイナーレはその場で吐血し咳き込む。

その顔は青ざめており、血の所為で呼吸も間もならない。

そんな状態のレイナーレに一誠は歩いて行く。ゆっくりと、確実に。

 

「さっきに比べりゃあ格段にマシな攻撃だったぜ。だが、こんなんじゃ………まだまだ足りねぇなぁっ!!」

 

レイナーレの攻撃はやっと破壊の獣を起こすに足りたらしい。

一誠は力を振るえることに歓喜して咆吼を上げると、左拳を地面に叩き付けて反動でレイナーレに向かって飛びかかる。

 

「っ!?」

 

レイナーレはその姿に咳き込みながらも恐怖し、防ごうと咄嗟に防御結界を張る。

中級堕天使の防御結界。人間は勿論、中級悪魔でも破るのは難しい。

だが、一誠は気にせずに結界ごと殴り付けた。

 

「そんなもんで防げると思うなよっ!」

「ぐぅうううううううううううぅううぅうう!!」

 

一誠の拳と結界の間で紫電が走り火花が散る。

だが、その拮抗は即座に失われた。

 

「こんなもんで引いてられるかぁああぁああぁああぁああぁああぁあああああ!!」

「がぁああああぁああああぁああああああああ!! ぐぼっ!」

 

一誠のごり押しによって、レイナーレの身体は結界ごと押し込まれた。

その拳の圧力によって瓦礫にさらにめり込むレイナーレ。

結界をなんとか維持はしているが、一誠の拳の威力を押さえることは全く出来ていなかった。

突き出した両腕の骨はへし折れ、腕から飛び出してあらぬ方向に曲がっている。

身体は瓦礫に更にめり込み、内臓を圧迫し身体中の骨を軋ませる。

それにより更に喀血するレイナーレ。

美しい美貌は今や真っ赤な血で覆われた物へと変わっていた。

レイナーレの心は、この一撃で完璧に粉砕された。

もう誇りがどうのこうのではない。目の前の化け物には絶対に勝てないと、魂が理解してしまっていた。『聖母の微笑』があれば勝てるなどと踏んだ自分が愚かだったのだと。

いくら傷が治せようが、この化け物相手に戦って治している余裕などあるはずがない。

レイナーレは激痛で遠のきかける意識の中、もう逃亡する以外のことは考えられなくなっていた。

 

「い、いやぁああぁあああぁあぁあああああああああああああぁああああああ!!」

 

悲鳴を上げると共に翼を広げて上空に飛び出すレイナーレ。

激痛に悶え苦しみそうになるが、それでも目の前の化け物への恐怖から逃れたくて必死に飛び上がった。

そのままレイナーレは逃げだそうとする。相手は空を飛べないと考えれば、このまま上空から手の届かない距離で攻撃すれば良いと普通は考える。

だが、レイナーレの前にいる者は普通ではない。何があるか分からない以上、その考えでは甘いのだ。その事をレイナーレは本能で察した。

それは確かに正解だろう。だが、それでも………。

 

兵藤 一誠は規格外だった。

 

「おいおい、逃げんじゃねぇよ。まだ始まったばかりなんだからよぉ!」

 

一誠はそうレイナーレに話しかけると共に、左腕を地面に叩き付けた。

その途端、途轍もない轟音が轟き、レイナーレのいる上空に一誠が飛び出してきた。

それはまるで砲弾のように、通常では有り得ない速度を叩き出してレイナーレとの間の距離を零にした。

 

「逃がさねぇよっ!!」

 

一誠はそのままレイナーレの背後に回り込むと、飛行の要である二対の翼を掴んだ。

そして背中に足をかけると共に思いっきり力をかけて…………その翼を引き千切った。

 

「あぁああああああああああああああああああああああぁああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」

 

激痛に声にならない叫びを上げながら地面に向かって落下するレイナーレ。

そのまま瓦礫の山へと落下し、瓦礫を吹き飛ばした。

 

「あ、あが……がぎ………」

 

地面への落下と翼をもがれた激痛により言葉が出なくなるレイナーレ。

もう瀕死間近といった様子で、元の美貌は失われて見る影もなくなっていた。

一誠は余裕で着地すると、レイナーレに向かって歩き出す。

それはただ歩いているだけなのに、見る者によっては死神の足音にしか聞こえない。

レイナーレは血と吐瀉物と涙に汚れた顔で一誠に顔を向ける。

そこにあるのは怯えのみ。すでに彼女の心は砕けてしまっていた。

 

「た、助けて………も、もう、暴れないわ! 大人しくする。もしここで助けてくれるんだったら…げほ……あなたに私を好きにさせたっていいわ! この美貌を好きなように犯せるのよ、 だから…」

 

近づいてくる一誠に命乞いをするレイナーレ。

その姿は最早誇り高き堕天使ではない。ただの恐怖し怯えきった女である。

だが、一誠は歩みを止めない。

寧ろそれ以上に歩みを早めた。

そしてドラゴンのオーラが一斉に噴き出す。それは一誠の怒りを表しているかのようだ。

 

「ひっ!?」

 

その噴き上がったオーラの巨大さにレイナーレは言葉を飲み込んだ。

一誠はそんな怯えきったレイナーレにつまらなさそうな声で話しかけた。

 

「おいおい……ここでそんなつまんねぇこと言うなよ。あんたの部下のおっさんは泣き言一つ零さなかったぜ。それを上司のあんたがこんなんじゃ……駄目だろ。つけろよ……けじめって奴をよぉっ!!!!」

 

一誠は左拳を思いっきり振りかぶると、レイナーレの顔に向かって振り落とした。

 

「ごきゃっ」

 

その拳はレイナーレが悲鳴を上げる前に顔にめり込み、身体その物を吹き飛ばして回転させ、顔面を地面で何度もバウンドさせる。

殴り飛ばされたレイナーレはその身を外に生えていた大樹に激突させ、大樹をへし折った所で停止した。

意識はなく、目は瞳孔が開いていた。両腕は既に腕として機能しておらず、青黒く腫れ上がり飛び出した骨からの出血が止まらない。

腹は完璧に拳の形に陥没しており、内臓が潰されたことが良く分かる。

翼は根元から引き千切られており、骨と肉が丸見えであった。

そして顔は血と汚物にまみれ、右頬の骨が砕かれて原型がなくなるほど腫れ上がっていた。

既に死に体。人間なら死んでいるであろう大怪我である。

だが、そこは堕天使。まだ辛うじで生きていた。

そんなレイナーレを見て一誠は呟く。

 

「結局……こいつもつまんなかったな……」

 

その言葉は風に乗って聞こえなくなり、それを聞く者は誰もいなかった。

 こうして、この駒王町で起こった騒動の大本であるレイナーレは倒された。

 


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