ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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戦闘校舎のフェニックス
14話 彼は新しい依頼を受ける。


 アーシアが一誠の生活に加わって少し経ち、最早それが当たり前になりつつある今日この頃。もう慣れてしまった一誠はアーシアの好きなようにさせてはいるが、毎朝来るアーシアを見て内心はげっそりとやつれていた。

その日の朝もいつも通りアーシアは一誠を起こしに来た。

一誠はいつも通りに起きると、もう当たり前に香る朝食の香りに包まれる。

程良く焼けたパンの香りに熱々の湯気を放つコーンスープ、それと瑞々しい色とりどりの野菜サラダといった健康に良さそうで実に美味しそうな朝食がテーブルに広げられている。

その見事な朝食に一誠の腹は素直に空腹を訴え、一誠もそれに従うようにテーブルに着こうとする。

ここまではいつも通り。

ただし、次の瞬間からこの『いつも通り』はなくなっていた。

 

「いやぁ~、アーシアちゃんの作る朝食は美味しいねぇ。こんな美味しい朝食を食べられるイッセーは本当に幸せ者だよ」

 

一誠の目の前には、何故かテーブルに並べられている朝食を食べている久遠の姿が映った。久遠はアーシアが作った朝食を実に美味そうに食べている。

 

「いえ、そんなことないですよ~」

 

久遠に褒められたアーシアは照れ笑いを浮かべ喜ぶ。その年相応の可愛らしい笑顔は年頃の男子を魅了するに充分な魅力を持っているだろう。

だが、一誠はその笑顔よりもまず気になることを久遠を不機嫌に睨み付けながら言った。

 

「何でテメェがここにいんだよ、久遠!」

 

一誠が言いたいことはそれに尽きた。

確かに一誠は久遠とよく連む。だが、だからといって勝手に部屋に上がることを許したことなど無い。仕事上の相棒だとしても、プライベートな部分には踏み込ませないようにしている。だというのに、何故ここに居るのか。それが一誠には突っ込まずには居いられなかった。

対して久遠は待ってましたと言わんばかりにニンマリと笑って答える。

 

「ん、そいつは勿論、イッセーと朝の爽やかな登校をしになぁ。あ、アーシアちゃん、スープのおかわり貰える?」

「あ、はい、どうぞ!」

 

久遠におかわりの催促をされ、心良く応じるアーシア。

作った料理を美味しく食べて貰えることが嬉しいらしく、アーシアは嬉しそうにスープのおかわりを装う。だが、それが久遠に渡される前に一誠によって中断される。

 

「そんな気持ち悪い理由が信じられるかよ! しかも勝手に人ん家で何勝手に飯食ってやがる!」

「別にいいじゃねぇかよ、そんな硬いこと言うな。アーシアちゃんが誘ってくれたんだよ。な、アーシアちゃん」

 

話を振られたアーシアは機嫌悪そうにしている一誠に少し戸惑いつつも、何とか答えた。

 

「は、はい! 久遠さんがイッセーさんに用があるというので、でしたら上がって貰おうと思いましたので……あの、駄目……でしたか?」

 

瞳を潤ませながらそう聞くアーシアに、一誠はバツの悪さを感じながら仕方ないと答えた。その姿からは妙に苛立ちが抜けて力を感じられない。

 

「別に駄目とは言ってねぇよ。もうお前も上がってるんだし、今更一人増えた所で何も変わらねぇ」

「あ、ありがとうございます!」

 

一誠に許して貰えたことで心底嬉しそうに喜ぶアーシア。その笑顔を見て一誠はもう一回深い溜息を吐いた。

 

「何だ何だ? あの天下の『赤腕』も美少女には弱いってことかなぁ? なぁ、イッセー君?」

「うるせぇぞ、久遠。次からかおうとしたらテメェの顔面を思いっきりぶん殴る」

「おぉ、こわ! そんなに直ぐ怒んなよ。せっかく『イイ話』、持ってきてやったんだからよぉ」

 

久遠にからかわれ、再び機嫌を悪くする一誠。

既にストレスのゲージは全開を振り切っており、直ぐにでも久遠を殴りかかろうとする。そんな一誠を宥めるためにも、久遠は今回本来の目的を切り出した。

それを聞いて一誠は繰り出す予定だった拳を引くと、改めて久遠の事を見た。

 

「イイ話? そいつは新しい仕事か?」

 

それが聞く気の表れだと判断し久遠もその話について話し始める。

 

「おお、そうよ。今回の依頼人は悪魔の大公様だ。何でも、ここ最近冥界の森、通称『使い魔の森』に可笑しなもんが入って来たって話でなぁ。そいつの駆除が今回の依頼だよ」

 

その依頼を聞いた途端、一誠は顔を顰めた。

何故なら、彼には過去にその森で面倒な目にあったことがあるからである。

その時の記憶を思い出し、一誠の顔は不機嫌一色に染まった。

 

「おい、まさかまたスライム狩りかよ。だったら俺は降りるぜ。あんな面倒臭ぇのは二度と御免だ」

「まだ誰もスライムとは言ってねぇだろ。それにお前からしたら、あんなもん数にもはいらねぇだろうが」

「そういう問題じゃねぇ。誰が好き好んであんなもん駆除したがるよ。あん時は相当面倒臭かったんだからなぁ」

 

当時を思い出し荒れる一誠に、久遠はまるで暴れ牛を静めるかのように声をかけた。

そうでもしなければ本当に断る勢いだったからだ。

 

「そいつは前に嫌って程愚痴を聞いたよ。だから今更掘り起こすんじゃねぇって。いいか、よく聞けよ。今回の仕事はそんなんじゃねぇ。もっとデケェ代物だ。何でも……キメラらしい」

「はぁ? キメラだぁ?」

 

久遠の話を聞いて驚いたのか少し大きな声を上げる一誠。

そんな一誠に驚いたのか、アーシアは少しビクッと身を震わせた。

そしてさっきまで聞いていた二人の話に自分も加わり始めた。

 

「あの……キメラってなんですか?」

 

その質問を聞いた一誠は何とも言えない顔をし、久遠は待ってましたとばかりにアーシアに説明を始めた。

 

「よく聞いてくれた。生徒が質問してくれるのを待っていたよ、先生は」

「は、はぁ…」

「いいかい、アーシアちゃん。冥界にも数多くの生物、通称魔獣が生息しているんだ。その生態も様々で、中にはペットや家畜、それに悪魔の使い魔なんて様々に取り扱われてるやつもいる。これはこっち、つまり俺達の世界でも一緒なのは説明でわかるよなぁ」

「はい、大体は。牛さんからお乳を貰い、鶏さんから卵をいただきますし。それに犬さんとか猫さんとか可愛らしいですから」

 

アーシアの説明にうんうんと頷く久遠。

その様子は出来の良い生徒を褒める教師のようだ。

 

「教会で悪魔は汚わらしいやら何やらと教わってるかもしんないけど、実際の所悪魔も人間もやってることはそこまでかわらないんだよ。そこには当然、研究者なんてのも存在する。その分野も多種多様で、当然魔獣について研究者もいるってわけ。それでその研究者達が考えている夢の一つってのがキメラ……つまり『合成獣』なのさ」

「合成獣?」

 

慣れない単語を聞いてアーシアは首を傾げるその様子は可愛らしいものだが、この場にそれに対し反応する男は居ない。

久遠は合成獣について、こちら側の世界での技術での例を持ち上げる。

 

「簡単に言えば品種改良だな。アーシアちゃんはラバとかゼブロイドとかライガーとかって知ってる?ちなみにライガーってのはライオンと虎の雑種ね」

「え、え~と……あまりそういうのに詳しくなくて……」

 

イマイチ理解が追いつかないアーシアに久遠は少し苦笑しながら別の考えで答える。

 

「そうだな……例えば、鳥の羽を付けた馬、ペガサスは知ってる?」

「はい、それでしたら! とても神聖な幻獣ですよね」

 

自分の知っているものが出て喜ぶアーシアに久遠も微笑む。

 

「そうそれね。それを人工的に作るのが合成獣ってわけ。こっちじゃ遺伝子の問題とかがあるけど、魔獣だと魔力とか色々あって融通が利くんだってさ。それでいくつもの生物の特徴やら部品やらを組み合わせたのがさっき言ってたキメラなんだよ」

「ちょっと……怖い感じがしますね……」

 

生物を異なる物へと変質させる、ある意味に於いては神を冒涜する行いにアーシアは恐怖を感じる。

確かに今までに無い、様々な生物の特質をを持った異形の存在というのは生物の本質的な部分で恐怖を感じるもの。その世界にはない、生態系からも外れた存在はそれだけに異端であり、どう存在しようが害しか出さないのだ。

怖がるアーシアに対し、一誠は励ますかのように声をかけた。

 

「別に驚くもんでもねぇよ。さっき久遠が言ってただろ、品種改良だってなぁ。こっちだって色んなもん改良してんだ。別にそれとなんもかわんねぇよ」

「そ、そういうものなんですか?」

「そんなもんだっての」

 

一誠の言葉を聞いてアーシアは少し安心したのか恐怖が薄れていくのを感じた。

その様子を見て一誠は大丈夫だと判断し、久遠の方に顔を向ける。

ちなみに一誠は頭は悪いが、そういった豆知識は結構知っている。それもこの業界ならではのことで、そういった情報が仕事で役立つこともある。

 

「それで……そのキメラをどうすればいいんだ、俺は?」

 

本来ならばそのままぶっ殺すと言う台詞をアーシアの前なので抑えめにする一誠。そんな一誠に合わせてか、久遠も少し緩めに話す。

 

「お前に頼みたいのはこのキメラの『捕獲』だよ」

「はぁ? 捕獲だって? 何でそんな面倒臭ぇことをそれにその前は駆除って言わなかったか?」

「そう言うなって。そいつを語るにはまず事のあらましを言わなきゃなぁ」

 

そう言ってコーンスープを一口啜る久遠。

一誠もそこで気にせずにトーストに囓りついていた。

 

「まず、何でキメラなんてもんが使い魔の森に入ってきたのかって所からだ。それにはキメラを研究してる奴がいたんだが、よりにもよってヘマをやらかしたのさ、そいつはな。御蔭で件のキメラが脱走、使い魔の森に逃げ込んじまったってわけだ。そのことが大公にばれてそいつは今も大公に雷を落とされ中。それで危険だからってんで大公がウチに依頼してきたってわけ」

 

それを聞いて一誠は呆れ返った顔をした。

 

「そいつはただの自業自得じゃねぇか。その後始末をしろと来るとはなぁ。だが、どうにも臭ぇな、その話」

「というと?」

「こっちのことなら依頼してきても不思議じゃねぇが、冥界なんだろ? だったら部外者に頼むよりもテメェの所の部下でも使った方が速ぇだろうによぉ。そいつをしねぇってのはてのは何だか裏があるんじゃねぇか?」

 

一誠の意味ありげな笑みと問いに、久遠も黒い笑みで答える。

 

「正解。実はこのキメラってのがやっかいでな。何でも、かなり戦闘力の高い魔獣を束ねて作った生体兵器なんだとさ。その戦闘力ってのがかなり高いらしくて、上級悪魔でも危ねぇらしい。数が減ってる彼方さんは被害を恐れてウチに依頼したってわけさ。それに奴さん達、何でも近々何かあるらしいからそっちに人が持ってかれてな」

「それでか。まったく、腑抜けてやがる」

「そう言うなって。それで駆除を依頼したのが大公。ちなみに報酬は300万だ」

 

それを聞いた一誠は顔を顰める。そしてそんな低い金額なら止めると言おうとしたところで久遠に止められた。

 

「まぁ待てっての。確かに大公の報酬だけだと低い。そんな金じゃあお前が動かないのは知ってるっての。そこでもう一件、依頼を受けてきたんだからなぁ」

「もう一件?」

「あぁ、そうさ。そのキメラを作った張本人からのご依頼で、内容は生け捕りだ。それの300万で二つあわせて600万の金って寸法だ」

 

久遠の話を聞いて一誠は理解する。

つまり久遠は二つの依頼を同時に熟すことで報酬を得ようとしていたのだ。大公には駆除したと報告し、裏では生け捕りにして制作者に引き渡すと。

そして二人で黒く笑い合う。

 

「お前、相変わらず黒いなぁ」

「そうでもしなきゃこの商売、やってられねぇよ」

 

そして一誠は改めて久遠の顔を見た。

その顔にははっきりとした意思が感じられる。

 

「OK、わかった。その依頼、受けようじゃねぇか」

「おう、まいど」

 

そして二人で馬鹿らしく笑い出す。

そんな二人を見て、アーシアが心配そうに一誠に声をかけた。

 

「あの、イッセーさん。また『お仕事』ですか?」

「ん。あぁ、そんなもんだ」

 

一誠の返事を聞いてアーシアは少し泣きそうな顔をする。

彼女自身、一誠の仕事については一通り知っている。だからこそより心配になったようだ。

 

「あまり無理はなさらないで下さいね」

 

泣きそうな顔をしているアーシアに向かって一誠は仕方ねぇなぁと呟くと、アーシアの頭を乱暴に撫で始めた

くしゃくしゃになる頭に驚いているアーシアに一誠は安心させるように言う。

 

「こんな仕事、余裕だっての。すぐ戻るんだから気にするなって」

 

その笑みを見たアーシアは顔を赤くしながらもどこか嬉しそうに微笑んだ。

 

「はい、でしたら……お気をつけて」

「あいよ」

 

アーシアにそう声をかけると、そのまま朝食に更にかぶりついた。

 こうして、一誠は新たな仕事を受けつつ真新しい生活を送ることになった。

 


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