ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
感想、じゃんじゃん待ってます。
少年は現在、焦燥感の追い立てられ生命の危機に直面していた。
「一体何なんだよ、こいつっ!」
そう吐き出さずにはいられないくらい、彼は切羽詰まっていた。普段の彼はあまりそのような言葉は吐かない。それだけ今が彼にとって非常事態だということは、彼の真っ青な顔を見れば分かるだろう。
彼の周りには彼が着ている制服と似たような制服を着た女生徒が数人いたが、皆何処かしら怪我をしており血を流していた。
彼女達も又、彼同様に怒りと焦りを表情に出しながらそれと対峙する。
その手に持っている武器を恐怖でカタカタと震えさせながら。
その中でもしっかりしていると窺える二人の女生徒は他の者達と違い、恐怖感を感じさせない気丈な立ち振る舞いで皆を鼓舞しつつ、『それ』に攻撃を仕掛けようとする。
少年少女達に襲い掛かり、脅威を振りまいていた『それ』。
それは……一体の獣であった。
獣と聞こえればどこにでもいる動物を想像するかもしれない。
だが、それは彼等が知るどの生物にも当てはまらない外見をしていた。
現在における生物の生態系からは明らかに突き離れた姿。その大きさは誰がどう見ても異端。
その異端の生物が、何故こんな所にいるのかは誰も知らない。
彼等が分かっているのは、今現在、その異端に襲われているという事だけである。
ただ、死にたくない一心で戦うことを選んだ彼等。
その心は、この場に着た当初の説明を思い出し、そして毒づいた。
((((何が比較的安全な森だよっ! 化け物がいるじゃないか!))))
そう声に出さずにはいられなかった。
彼の名は匙 元士郎。駒王学園2年生にして生徒会書記という肩書きを持つ少年である。
その正体は「元72柱」シトリー家の次期当主、ソーナ・シトリーの下僕だ。
彼は今年、駒王学園の生徒会に入った。それには、入学当初から憧れていた先輩、支取 蒼那に少しでもお近づきになりたいという思いがあったからである。
それまで彼はその想い人、『支取 蒼那』が悪魔『ソーナ・シトリー』であることを知らなかった。だが、彼が生徒会に入りその身に神器を宿していることに気付いたソーナ彼を悪魔として勧誘。思慕の念を抱いていた相手から誘いに彼は心良く応じ、悪魔の駒(イビルピース)によって転生悪魔となった。
その際に彼は兵士の駒を4つを消耗し、それにより彼に眠っている神器がより希少であることが判明。彼は後に神器『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』を覚醒させた。
これは『黒邪の龍王・ヴリトラ』の魂の一部が封じられている神器であり、その希少性はかなり高い。
彼はこの神器に覚醒めた事により、ソーナ・シトリー率いる生徒会悪魔メンバー期待のルーキーとして活躍する。
悪魔としての仕事も順調に熟し、主であるソーナにもその働きを認められつつあった。
それにより、彼はついに『使い魔』を持つことになった。悪魔にとって使い魔は必要不可欠な存在であり、いて当たり前の存在。使い魔を持ってやっと悪魔として認められると言っても良い。
その事にソーナから認められていると彼は歓喜した。
そして生徒会のメンバーは彼のために冥界にある『使い魔の森』へと繰り出した。
使い魔の森とは、冥界に広がる森の一つで悪魔達が使い魔にする魔獣が数多く生息する森である。中には危険な魔獣もいるが、比較的安全な所だ。
そのガイドには、新人悪魔などに使い魔を斡旋する通称『使い魔マスターのザトゥージ』が着いて行く。
彼等からすれば、それはピクニックと然程変わらない遠出のはずであった。
その予想通り、最初はただ楽しいだけの時間。彼は見たこともない世界、見たこともない動植物に好奇心を掻き立てられて、胸を流行らせていた。
だが、森の深い所に踏み込んだ途端………。
その気持ちは一瞬にして砕け散った。
突如彼等の進路先に巨大な何かが飛び出して来た。
その大きさから森は震え、地面も揺れる。
咄嗟のことに警戒したソーナ達はまず目の前に飛び出して来た物を確認し、そして驚愕に目を剝いた。
それは『蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)』であった。
名前の通り雷撃を放つ蒼い鱗のドラゴンで、かなりの上位クラスであり本来悪魔に決して降らず、心の清い者にしか懐かないとされている気性の荒いドラゴン。
それがソーナ達の前に飛び出して来たのだ。
だが、それはソーナ達を警戒してのことでは無い。何故ならその身は全身傷だらけであり、既に虫の息になった状態で倒れ込んでいたのだから。
蒼き身体は最早血で真っ赤に染まりきり、その目には力強さが感じられない。
既に死に体の蒼雷龍に皆事態の可笑しさに気付く。
何故そのようなドラゴンが死にかけで目の前に現れたのか。
それは勿論、目の前の強大なドラゴンをここまで追い詰める『何か』がこの場にいるからに他ならない。
そう判断したとき、ソーナの耳は此方に向かって飛来する何かの飛来音を捕らえた。
その瞬間に走る怖気。それに従い、彼女は即座に下僕とザトゥージに叫ぶ。
この場から逃げろ……と。
その声に皆が従おうとした瞬間、それは来た。
彼等の目の前で、それまで虫の息で生きていた蒼雷龍の身体が弾け飛んだのである。
飛び散った血肉、吹き飛ぶ生首。雨のように降り注ぐのは、蒼雷龍の血であった。
それらを一身に浴びた彼等は、そのあまりの事態に硬直する。
普通なら恐怖で狂乱状態になる所だが、それは彼等の目の前に……先程まで蒼雷龍がいた所にいる存在に目が行ってしまい、それどころではなかった。
それは一見、獅子のような獣であった。
人間界の獅子よりも二倍以上大きく、鋭い爪と牙が窺える。
だが、それ以上に目に着くのはユニコーンのような長く鋭い一本の角と、背に生えているドラゴンの様な翼、そして身体を覆う鋼殻化した鋭い皮膚だ。
見ようによっては機械的に見えなくもないが、その金色に光る瞳には生物の根源から感じさせる恐怖を感じさせた。そのような威圧感を感じさせる物が機械である訳が無い。
その獣は軽く首を振って辺りを……彼等を見回すと、まるで世界を震え上がらせるような咆吼を上げた。
それは生物が出して良いような鳴き声ではなかった。
その轟声に上級悪魔であるソーナですら萎縮してしまう。
そしてその獣は、口から魔力の塊を彼等に向かって吐き出してきたのだ。
咄嗟に回避する彼等だが、地面に激突した途端に爆発した余波を喰らってしまい、各自で負傷してしまう。
そうして現在、彼等はこの未知の魔獣を前にして窮地に立たされているというわけである。
「椿姫、皆を守りなさい! ここは私が!」
「ですが会長!」
ソーナは自分の女王である真羅 椿姫に指示を出し、その獣を迎撃すべく両手に魔力を込めて水の玉を発生させる。だが、その指示に椿姫は戸惑い対応が遅れてしまっていた。
その隙を突かれ、その獣はソーナに向かって飛び出した。
何者をもかみ砕く顎を開き、ソーナに襲い掛かったのだ。
その速さにソーナも椿姫も対応出来ず、驚きに目を見開く。強靱な牙がソーナの白い柔肌に向かって下ろされるその様は誰が見ても、もう間に合わないことがわかる。
だからこそ、彼女を慕う彼は……匙 元士郎は叫ぶ。
「会長ぉおおぉおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおお!!!!」
何も出来ない、ただ無力な自分を呪う事しか出来ない。
彼の目にはこの光景がゆっくりと見えた。
ソーナに向かって開かれた口が、その牙が、確実にソーナに向かって行くのを。
見ていることしか出来ない自分がどうしようもなく許せない。
直ぐ目の前で襲われてる想い人を助けられない自分を殺したいとさえ思った。恐怖に打ち震え動かない身体が恨めしくてしょうがない。
だから……ただ、叫ぶしかなかった。
だが、いくら声を出そうがもう遅い。
二人が気付いた所で、もうソーナは逃げられないのだから。
彼が絶望に取り込まれかけた時、目の前で信じられない奇蹟が起きた。
いや、奇蹟というにはそれはあまりにも平凡で、それでいて……。
あまりにも凶暴であった。
その獣の牙がソーナの肌にめり込みかけた瞬間、突如としてその獣は真後ろに吹き飛んだのだ。
まるで何かに激突したかのように。
その光景に皆が驚き、特に襲われていたソーナと椿姫は突然の事態に思考が追いつかなくなっていた。
獣は6メートルくらい吹き飛んだ後に体勢を立て直し、警戒する唸り声をソーナがいる方向に上げていた。
ソーナの目の前には、一人の男が立っていた。
彼等が通っている駒王学園の制服を着た、茶髪の少年がそこにいた。
その左腕には赤い籠手が装着されており、そこから赤いオーラが立ち昇る。
その少年は後ろにいるソーナ達など眼中にないのか、気にせずに一歩前に歩を進めた。その瞬間、身体中から赤いオーラが噴き出し森の木々を震わせる。まるで森がその少年を畏れているかのように。
「やっと見つけた……」
少年の口からはちょっとした安堵と苦労がにじみ出すような、そんな声が漏れた。
そして次の瞬間、少年は顔を上げると凶悪な笑みを浮かべながら叫んだ。
「やっと見つけたぜ、このクソ猫! 大人しくしろよぉ! 何せテメェを生け捕りにしなきゃならねぇんだからなぁっ!!」
目の前の獣に負けない程の咆吼を上げながら少年は左腕を地面に殴り付けると、その反動を使って砲弾のように獣に向かって突進する。
叩き付けた拳の衝撃が地面を揺らし、その揺れの強さに彼等は体勢を崩してしまう。
だが、そんな事よりも彼等の目はその少年に釘付けであった。
突如として現れた窮地を救ったヒーロー。
だが、ヒーローというにはあまりにも凶悪で………。
彼等の目には、獣以上に凶暴な獣が争い始めたようにしか見えなかった。
獣のモデルはエ〇ジーラ〇ガーです(笑)