ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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遅くなって申し訳無いです。就活をしていたもので、中々書けなかったものですから。


月光校庭のエクスカリバー
24話 彼は敗北を喫する。


一誠は目の前の物を前にして、冷や汗を掻いていた。

これまで幾度となく強悪な人外と戦い勝ってきた彼ではあるが、今目の前に対峙している相手に関して、それまでの戦いでは感じたことの無い言いようのない恐怖を感じていた。

握る拳に力が入り、汗が溜まっていく。

額から汗が伝って流れ落ちるが、それを拭う余裕などない。

それほどなまでに、彼は追い詰められていた……目の前の敵に。

裏の世界に於いて、あの不死の悪魔『フェニックス』を余裕で叩き潰し、その悪名も更に知れ渡っている彼ではあるが、そんな凶悪な人物である彼でさえ、この敵を前にしては戦くことしか出来ない。

あまりの緊張に喉が乾き、内心で呻く。

いくら闘志を燃やそうとしても、目の前の敵を前にしては鎮火してしまう。

そんな彼を怯えさせる敵とは……………。

 

『キーン コーン カーン コーン……』

 

教室内の壁に設置されているスピーカーから昔懐かしい鐘の鳴る音が鳴り響く。

それと共に、今まで教室内を支配していた緊張が一気に解けた。

活気に溢れ出した教室内には様々な人達がいた。さも当然と言った様子で何食わぬ顔で教科書を引っ張り出す者や、達成感に満足し喜びの笑みを浮かべる者。そして……まさにこの世の絶望を一身に纏ったかのような、負け犬のような者。

その三パターンに分かれた教室内の人達の中、綺麗な金髪をした可愛らしい少女がある席に向かって駆け寄ってきた。

 

「イッセーさん、どうでしたか!」

 

天真爛漫な笑顔を浮かべその席の生徒に話しかけているのは、少し前にこの学園に転入してきたアーシア・アルジェントである。

外国からの生徒ではあるが、今ではすっかり馴染み日本語も本場の人間と遜色なく話すことが出来るようになった。

まさに純真無垢が似合う彼女にこのクラスの生徒は皆微笑ましい視線を向ける。

だが、それに比例するかのように男子からは憎々しい視線を向けられるのは、彼女に話しかけられた兵藤 一誠である。

何の奇縁か彼女は一誠に懐き、一誠もそれを悪く思っていない節がある。それを傍から見れば、金髪美少女に好かれている野郎にしか見えないとクラスのモテない男子達は僻んでいるというわけだ。

特にこの学園では特に女子から嫌われている松田、元浜の二人は血涙を流しそうな勢いで一誠を睨んでいた。

そんな視線を全く気にしていない一誠ではあるが、今回に限っては酷く落胆していた。

彼は自分の机の上で頭を押しつけ、如何にも落ち込んだ様子である。

アーシアに話しかけられた一誠は緩慢な動きで首を上げ、アーシアの方に顔を向ける。

その表情はナニカが抜け落ちたような、そんな顔になっていた。

 

「………駄目っぽい………」

 

力なくそう答える一誠。

それを聞いてアーシアは申し訳無い気持ちで一杯になり、慌てて謝り始めた。

 

「すみません、私ったら一誠さんがこんなにも疲れ切っているというのに……」

「別にそんなんじゃねぇから心配すんなよ。お前は悪く無い」

 

謝るアーシアに一誠はそうではないと答える。

何故こんな事になっているのか?

それを説明するのは、実に単純な言葉で事足りる。

それは学生ならば必ずある行事にして、絶対にぶつからなければならない壁の一つ。

 

『中間テスト』

 

である。

学生の本分は勉学なのだから、当然その能力を確かめ競う場もある。

つまり教室にいる三種類のパターンというのは、テストに余裕で打ち勝った者、何とか己の学力でテストを撥ね除けた者、そして見事にテストという怪物に飲み込まれ敗北を喫した負け犬ということである。

無論一誠の表情と反応を見ればどのグループに入っているのかは一目瞭然であった。

一誠はあまりのテストの出来の悪さからテンションは駄々下がり、覇気の欠片も無い感じになってしまっている。

これが本当に数週間前にあの上級悪魔、元72柱フェニックスを物の見事に下した人間と同一人物とは思えない。

そんな一誠をアーシアは何とか励まそうとするも、どうして良いのか分からない。

これまでを教会で過ごしていた彼女にとって、テストは初めてのこと。

故にその出来が悪かった場合の励まし方などを彼女が分かるはずが無い。

ここで気楽な者ならば、次があると励ますなり何なりと気楽に言うだろう。だが、真面目なアーシアはそのような無責任なことは言えないのであった。

そんな打ち拉がれている一誠に対し、困惑するアーシア。

そんな二人に対し、気楽に声をかけてくる者がいた。

 

「どーよ、二人とも。テストの出来は?」

 

実に余裕に満ちあふれた様子で二人に話しかけてきたのは、黒い髪をした何処にでもいそうな青年……久遠である。

久遠の登場によりアーシアは喜びながら挨拶をし、一誠は何も返さない。

そんな一誠の様子を見て、久遠はしたり顔で二人に話しかけた。

 

「イッセー、その様子じゃまた駄目だったんだろ」

「……うっせー…」

「久遠さん、そんなことを言っちゃ駄目ですよ」

 

一誠を虐めるかのように笑う久遠に一誠はぶっきらぼうに答え、アーシアはそんな久遠を優しく咎める。

落ち込んでいる人に追い打ちをかけるのは可哀想だと。

だが、久遠はそんなアーシアに優しそうな笑顔で答えた。

 

「いいんだよ、アーシアちゃん。この馬鹿が毎度赤点ギリギリなのは知ってるから。そもそも、テストがあるって分かっててもちゃんと勉強しないこいつが悪いんだからさ。そう、悪いのはこいつがクズだから」

 

常日頃から振り回されている所為か、自分の土俵で好き放題に罵る久遠。

そんな久遠を苛立ちが籠もりに籠もった視線で睨みつつ、一誠は久遠に話しかけた。

 

「その様子じゃテメェは余裕って感じだろ、どうせ」

「ご明察。自己採点でも余裕で平均75以上だ。お前とは頭の出来が違うからなぁ。これが出来る奴とそうでない奴との違いというものだよ、チミィ」

 

馬鹿にされまくった一誠は苛立ちに拳を強く握る。

もしここが誰もいないところだったのなら、久遠相手だろうと容赦なく赤龍帝の籠手を出して殴りかかっていただろう。

それぐらい一誠の怒りは溜まり、あと少しのところで噴火するところまで高まっていく。

だが、それは次に聞こえたアーシアの声によって静まった。

 

「えぇ~~~~~、そうだったんですか! そんなぁ、あんまりです~」

「やっちまったなぁ、アーシアちゃん。まぁ、もう済んじまったことだから仕方ねぇけどさ」

 

どうやらアーシアは久遠とテストの答え合わせをしていたようだが、アーシアの解答が一列ずつずれていたようだ。

更には漢字の読み間違えも多数発見されたようで、問題を間違えた所も出てきた。

それを聞いて可哀想なことに肩を落とすアーシア。

詰まるところ、彼女も一誠と同じ側に落ちたということらしい。

一誠に対して上機嫌にからかっていた久遠であるが、アーシアに対しては懸命に励ましの言葉をかけている。

彼は自称ではあるが、紳士なのである。女性を無下には扱わない。

 

「仕方ないよ。アーシアちゃんはこの間まで学校に行ってなかったんだし、それに日本語だってまだ完璧にはマスターしてないんだから。それが普通なんだから、そんな気にしなくていいよ。寧ろこれだけ短期間で普通に話せるようになった方が凄いんだからさ」

「ですけど、でも………」

 

自身の失敗に気落ちししゅんとなってしまうアーシア。

そんなアーシアを励まそうと久遠は四苦八苦する。その二人を見ていた一誠は内心でざまぁみろと久遠を笑っていた。

そんなことを思っていたからだろうか。久遠は必死になった挙げ句、アーシアを励ますためにある案を提案した。

 

「それにアーシアちゃん、考えようによってはこれは得かも知れないよ」

「え? それってどういうことですか?」

 

いきなり得だと言われても分からないアーシアは当然の様に首を傾げる。

その可愛らしい様子に周りで三人のやり取りを見ていた男子達は見惚れてしまう。

 

「もう今からでは追試は免れない。でも、それはそこにいる馬鹿も同じだ。なら、一緒に追試対策の勉強をすればいい。アイツも一緒だからアーシアちゃんも不安じゃないだろ。それにあの馬鹿は何だかんだと言って追試で今まで全部躱してきた奴だよ。だからアイツと一緒に勉強すれば、多分追試も躱せるはずだ。何より、アイツと一緒なのは嬉しいでしょ、アーシアちゃんはさ」

「あ、あぅ~~~~~~~」

 

久遠にそう言われ、アーシアは一回だけ一誠の顔を見た後に顔を真っ赤にする。

その恥じらう様子は同性である女子でさえ魅了するほど可愛く、近くにいた女子達がアーシアを見て頬を赤く染めていた。

アーシアにとって実に嬉しい提案を当然蹴るなどということはなく、アーシアは一誠に振り向き、恥じらいつつも彼にお願いする。

 

「あ、あの、イッセーさん! その……私と追試のために勉強を一緒にしてくれませんか!」

 

その可愛らしく一生懸命なお願いに、一誠が答える言葉は一つだけであった。

 

「……あいよ……」

 

その返事を危機、アーシアは華が咲いたかのような笑顔を浮かべ喜ぶ。

そんなアーシアの姿を見ながら一誠は思う。

 

(はぁ……仕方ねぇなぁ……)

 

何処までも『身内』には甘いのが、兵藤 一誠という男である。

『家族』にお願いされたのなら、皆の長男としてそれに応えるのは当然だ。

裏では悪魔ですら戦く最凶の人間も、身内にだけはとことん甘いのであった。

 こうして二人は追試に向けて、一緒に勉強することになった。

 

 


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