ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

27 / 73
気が付けばお気に入りが800を超えました! 感謝ですよ~。


26話 彼は再会する。

 会長に勉強を教えてもらえることになり、一誠とアーシアは放課後の図書館で一時間だけ勉強を見てもらうことになった。

会長の教え方は的確でわかりやすく、アーシアは勿論、頭の残念な一誠でさえ理解出来るくらい優秀だ。

それにより、アーシアは日本語の読み間違い以外は間違えることはなくなり、一誠も随分とマシな頭へと成長した。

そのことにアーシアは感謝し、一誠も何だかんだと言いつつも感謝していた。

このまま行けば、二人とも余裕で追試は合格出来るだろう。

その見返りというわけではないが、一誠とアーシアの二人は会長の愚痴に付き合うようになっていた。

駒王学園はは巨大な学園だ。それ故に生徒会長の責務は多く、責任は重大である。

それを一身に背負う彼女は自らの矜恃にかけても完璧に熟す。

だが、それでもまだ十代の少女なのだ。

いくら悪魔だろうと、ストレスが溜まるのは人間と変わらない。

彼女は下僕には話せないであろう内容の、あまりにも疲れるような話を一誠達に話すようになっていた。

それは偏に、この時間だけ彼女が生徒会長であることを忘れられるから。

自ら望んでなった役職。悪魔という身分。それは己の存在を縛り付ける。

別に嫌では無い。だが、それでも時には疲れてしまう。そんなことを同族に話せるわけが無いのだ。悪魔というのはプライドが高い故に、話せば無能と見下される。

それについて、多種の存在はもっての他である。悪魔の業界を知っている存在など、同じように裏の存在くらいだ。それらに弱気を見せれば嘗められるのは当然。

そんなこと、彼女は断じて許せない。

だが、一誠になら話しても良いと思った。

この強大な力を持つ人間を前にすれば、自分など周りの同世代の人間と変わらない小娘だ。嘗められるわけでも侮辱されるわけでもない、純然たる結果がそうなのだから、言いようが無い。

それに、一誠の性格は少し触れただけでも分かるくらい単純であり、彼が戦う以外の相手に対し、見下したり貶したりしないということを彼女は理解している。

だからこそ、彼女も安心して愚痴を漏らすことが出来る。アーシアの優しさもそこに加味されているのは勿論である。今でも信徒であるアーシアでも、彼女は差別しない。それはアーシアの純粋な善意を理解しているから。それがまごう事なき物だと分かっている。

そんなわけで、一誠とアーシアは勉強を教えて貰うかわりに、会長の愚痴に付き合う。

そんな日々が三日ほど過ぎた辺りに、その話は会長から出た。

 

 

 

 その日、もう定番となりつつある図書室への勉強に出向く一誠とアーシアの二人。

当然着けば静かに勉強するのみである。

会長はいつも少しすると来て二人の勉強を見るのだが、この日はいつもより少しばかり遅かった。

そして会長の顔もいつもより疲れが見える。

そのため、アーシアが心配して声をかけた。

 

「あの、会長さん……どうかしたんですか? 何だかお疲れのようですけど……」

「すみません、ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ」

 

アーシアのいたわりの籠もった声に会長は顔を綻ばせ、感謝の言葉を述べる。

もしここで彼女の下僕である匙 元士郎が彼女の顔を見たら、きっと顔を真っ赤にしていたかもしれない。それぐらい、彼女の笑みは早々見られないのだ。

会長はアーシアに心配をかけたことを申し訳なく思いながら、それでも愚痴を口にしようか悩んでいた。

今までのちょっとした愚痴なら口にしていたかもしれない。

だが、今回の内容はそんな些細な物ではない。

最悪、再び三大種族の戦争を引き起こしかねない内容の物だ。簡単に口にして良い問題ではすまない。

それ故に彼女の顔は僅かだが歪む。

それを見ていた一誠はソーナに話しかけた。

 

「今更そんな面してんなら聞いてくれって言ってるのとかわらねぇよ。そんな気になるならとっとと吐いちまえ」

 

一誠の言葉を聞いて口元を少し歪めるソーナ。

少しでも話して胸の内をスッキリさせたいという気持ちと、無関係の一誠達を巻き込むわけにはいかないという気持ちがせめぎ合う。

それを見越してなのか、一誠は更にソーナへと話すよう促す。

 

「別に、言うだけは無料なんだからよ。それで楽になるってんなら、話した方が得だぜ。その分ちゃんと教えるんだったら、それで充分釣りが来る」

 

それを聞いて、ソーナは少しばかり笑ってしまう。

責任感が強い彼女にはまず考えられない考え方。それが少し可笑しく、それでいて羨ましく思った。

話すだけなら無料。聞くだけなら無料。どうするかは言わないし何もしない。何も取られないのなら、損はないだろうと一誠は言ってきたのだ。

それでも気になるなら、もう少し追試回避のために勉強を見てくれとも。

お気楽で単純、何よりも闊達。

その気楽さをソーナは笑い、その通りだと思うことにした。損が無いなら話したところで問題も何も無いのだから。

 

「すみません、兵藤君、アルジェントさん」

「別にいい。さっさと吐いちまえ」

「そうです。こんなにお世話になっているんですから、少しでも会長さんの胸のつかえが取れるならお話くらい何回でもお聞きします」

 

二人から快く返答を返されたソーナは、一回だけ深い溜息を吐いて胸の内にある疲れの根源を吐き出した。

 

「実は……今、此方の業界ではある問題が上がっているんです。もしかしたら戦争を引き起こし兼ねない程に危険な事が……」

「なんだよ、それ?」

 

危険ということを聞いて一誠が愉快そうな笑みを浮かべる。その笑みは黒い物で、見る者を怯えさせる物だ。

凶悪さを垣間見せる一誠に少しばかりソーナは戦きつつも、続きについて話す。

 

「何でも、教会で保管されていた聖剣『エクスカリバー』が三本、何者かによって強奪されたらしいのです。聖剣は悪魔にとって致命的なダメージを与える物。それがなんと、この町に持ち込まれたという情報が来ました。悪魔として、そのような危険物が間近にあることは看過出来ません。ですが、流石に教会内で起きたことに対し、下手に我々が関与するわけにも行かない。下手に事をこじらせれば、それは協会側との……つまり天界との戦争に発展しかねませんから」

 

自分達悪魔が納めている土地に勝手に危険物が持ち込まれた。

その事に怒りを感じないソーナではないが、下手に此方から出れば天界と悪魔の休戦状態が崩れてしまう恐れがある。そのため、手を出せない現状に彼女は歯がゆい思いをしているようだ。

だが、それは向こうも同じである。

天界とて、過去の大戦ではかなりの深手を負った。しかも悪魔と違い、種を増やす方法を持たない天界は更に悪魔側との戦争を望みはしないだろう。

双方ともそんな事を望んではいない。

 

「今は双方とも消耗している状態から復帰のために尽力をしている最中です。ですから争うだけ余計な被害を出すだけであり、得など無い。故に双方とも不干渉で行きたいところなのです。ですが、それではみすみす互いに危険に身を晒すのみ。強奪者の脅威から身を守るためには、その者を捕らえ、聖剣を奪い返すしか無い。協会側からも、自分達の不始末を内々に片付けるために、二名ほど聖剣使いをこの町に派遣したそうです」

 

そこで一旦言葉を切るソーナ。

事の重大性を感じ、顔を真っ青にするアーシア。彼女は元が着くとは言え教会所属のシスターだ。聖剣が奪われた事に関し、それがどれだけ非常事態なのかを良く分かっている。

対して一誠はあまり深くなど考えていなかった。

彼からすれば、教会のお宝を盗んだ盗人がこの町に来ている。それは悪魔には有害な物だから悪魔としては直ぐにでもどっかに行って欲しい。協会側は盗まれた事が世間様に知られるのが嫌だから、バレる前に秘密裏に奪い返したい。

そんなところである。彼の目の前に立ち塞がるのならともかく、そうでないなら相手にする気などサラサラない。そんな物を相手にするのなら、まだスーパーの特売に精を出している方が余程有意義だ。最近はアーシアの御蔭で美味い食事にありつけている一誠だが、その分エンゲル係数は上がっているのだ。少しでも安い食材を手に入れなければ金欠に更に拍車が掛かり、日干しになってしまうのである。

その程度にしか考えていなかった。彼からすれば、自分の所にちょっかいをかけられなければ好き勝手にしろというのが本音であった。

本来ならそこに何故同じ名前の聖剣が七本もあるのかなど、聞くべき事は多いはずなのだが、この男に限ってはそんなこと気にならない。そんなものは同じ名前で少しだけ違う物が七個ある程度にしか思っていない。良くあるジュースの味違い程度にしか認識していないのだ。

だからこそ、特に聞き返す事をしない。

ソーナは二人の反応を見て、更に悩みの核心について話し始めた。

 

「その派遣された聖剣使いなのですが……私達悪魔への謁見を求めたのです。まずは私の所へ、そして今頃はリアス達の所です。内容は『聖剣奪取に一切悪魔は関与せずに見て見ぬ振りをしろ』という物でした」

 

疲れた様子でそう言うソーナに、アーシアは居たたまれない表情を浮かべる。

その時の話し合いがどのような物か、彼女には何となく想像が付いたのだろう。

悪魔と教会の人間が如何に仲が悪いのかを知っていれば、大体は予想が付く。

それに対し、一誠もニヤリと笑みを浮かべる。

一誠も大体仕事をしていれば、どのようなものかは分かってくるからだ。その上で彼は笑い、そして聞く。

 

「それで、その後はどうしたんだよ? その様子だと、それだけじゃねぇ感じだろ」

「えぇ、そうです。私は一応許可を出しはしましたが、あくまでも決めるのはリアスですから。なのでリアスと話し合うよう勧めました」

 

そう答えるソーナは、苦渋の選択をしたような顔になっていた。

彼女自身、自分だけで決めることは出来なかったから。自分の言い分一つで戦争になるかもしれないと思うと、容易なことは言えなかった。

ソーナの表情から察したアーシアはどうすれば良いのか悩む。慰めの場合によるということを彼女は知っているから。

それに対し、一誠は普通に口を開いた。

 

「別にいいんじゃねぇか、それで。あんたの判断は間違いじゃねぇよ。確かこの町を治めてんのはグレモリーの姫さんの方だろ? だったら町の問題も姫さんが決めれば良い。その話は結局あの姫さんの所に回るんだからよぉ。妥当な判断って奴だと思うぜ、俺は」

「で、ですが、リアス一人に重責を負わせる訳には………私も悪魔、この学園を治める物としてのプライドもありますし……」

 

一誠が言っていることは、案にリアスの全部丸投げしろと言っているようなものだ。

町の事を決めるのにはどうしたってリアスと話し合う必要があるのだから、決定権はリアスにあると。

だが、それでは流石にソーナの気が済まない。

幼い頃からの友人として、この事態をリアス一人に押しつけるのは酷いのではないかと思うから。

良心の呵責に悩むソーナに、一誠は叩き斬るように真っ直ぐに言い切った。

 

「そうぐちぐち悩むんじゃねぇよ。あんたはその話を聞いてどう思ったんだよ。率直になぁ」

「そ、それは……此方から手は出せないのですから、何とかして貰えるならそれに越したことは無いと………此方に被害が出るのなら別ですが……」

「そう思ったんならそれでいいんだよ。あんたがそう思って、そして決めたんだ。決めたんなら、後はテメェを信じて突っ走れ。それがあの姫さんに任せるのに、一番大事な事なんだからよ。テメェでも信じられねぇことで他人が納得するわけねぇんだ。だから信じろよ、あんた自身の選択をよ」

 

それを聞いたソーナは少し泣きそうな、苦しそうな、そんな顔で少しだけ悶えると、一誠とアーシアに笑顔を向けた。

 

「そうですね、兵藤君の言う通りです。自分の判断を信じられないのに人に任せるなんて可笑しな話でした。確かに、自分の信じたことに責任を持てなくて何がプライドですか。そんなもの、自分を信じられない者が持って良いわけないのに……すみませんでした、愚痴を聞いて貰って、その上相談まで。でも、これでスッキリしました。ありがとうございます、二人とも」

 

爽やかな笑みを浮かべるソーナにアーシアは喜び、一誠は鼻を鳴らす。

彼からしたら、ぐちぐち悩んでるんじゃないと言う程度の話。だが、それでも悩んでいた者にとって、その意見は確かにその者を救ったのだ。

 こうして少しは気分が晴れたソーナは、感謝の代わりにいつも以上に二人に勉強を教えることにした。

それにより喜ぶアーシア、そしてきついことにげっそりとする一誠であった。

 

 

 

 

 ソーナからいつも以上に勉強を見て貰い、クタクタになった二人。そんな二人を校門で待ち構えている者がいた。

 

「よぉ、二人とも。勉強お疲れさん」

「あ、久遠さん!」

 

現れた久遠に笑みを向けるアーシア。一誠は付かれもあってか軽く睨み付ける程度だ。

それを挨拶と受け取った久遠はそのまま一誠達と合流。

そのまま三人は世間話に華を咲かせる。

久遠が冗談を言い、アーシアが笑い、一誠が突っ込む。

もうアーシアが一緒になってから毎度のように行われていく下校風景。

その中の会話に一つに、その日の夕飯についての話が上がった。

 

「あ、イッセーさん! 今日の御夕飯はカレーですよ」

「何々、今日はイッセー、夕飯はアーシアちゃん手作りのカレーかよ。羨ましいなぁ~、この、この」

「うるせぇよ、久遠!からむんじゃねぇ」

「あの、でしたら久遠さんも一緒にどうですか? みんなで食べた方がご飯も美味しいですし」

「え、マジイイの!」

「おい、アーシア、マジかよ………はぁ……」

 

週に二日くらいはアーシアは一誠の夕飯を作るように今ではなっていた。

そのためか、一誠はますますアーシアに強く言うことが出来なくなっている。どこの家庭も台所を預かる者が一番の強者なのである。

世間ではそれを尻に敷かれると言う。勿論、両者にそのような意識はない。

そんな会話をしている最中、三人は奇妙なものを見つけた。

それは真っ白いローブに身を包んだ二人組。

二人の間には鍋の様な物が置かれており、そこには僅かどころか雀の涙以下の小銭が入っている。

そんな二人は周りに聞こえるよう、なけなしの声を絞り出しているような声を出していた。

 

「迷える子羊にお恵みを~~~~~~~~~~!」

「天の父に代わって、哀れな私達にお慈悲を~~~~~~~~~~!」

 

それを見た途端、爆笑する一誠と久遠。

今まで見たことの無い、明らかにアホらしい二人に我慢が出来なかったのだ。

そんな二人に対し、アーシアは苦笑を浮かべる。元シスターからすれば、二人組ことを笑うことなど出来ない。

すると二人組は笑う一誠達に気が付いたようで、此方の方を向いてきた。

そして一誠を見て、片方が声を洩らした。

 

「え……もしかして、イッセーくん?」

 

その言葉と共に頭から外れるフード。

フードが隠していた部分が顕わになり、そこにいたのは茶色い髪をツインテールにした可愛らしい少女だった。

その少女の顔は驚きで固まっている。

一誠の名を知っているということは、彼と何かしら付き合いがあったのかもしれない。

だが、一誠が発した言葉は……。

 

「あれ? あんた………誰だ?」

 

少女の感動を打ち砕くような、そんな恍けた声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。