ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

3 / 73
感想、出来れば書いてくれると嬉しいです。
特にハイスクールD×Dは初めてなのでアドバイスとかあると嬉しいですね。


2話 彼の相棒

 いつも通りに登校し、授業を殆ど聞き流しながら過ごす。

これが一誠のいつもの学園生活である。

何故ここまで不真面目なのか? 何故なら一誠は本意で学校に行きたかった訳ではなかったからである。

そもそも、一誠は高校受験をする気など無かった。

久遠と出会い仕事を仲介してもらって稼いでいた額もあって、普通に働くよりも其方の方が多く稼げることを知っていた。恩返しをするのには多くの金がいることを考えれば、より稼げる方を選ぶのは当然の選択だ。

だからこそ、中学卒業後はそのまま久遠に仕事を仲介して貰い、それを熟すその筋の『仕事人』を本格的に行おうとしていた。

それに待ったをかけたのは白夜園の園長である。

園長は当時から一誠が渡してきた金を受け取れないと言って断ってきたが、それを一誠は頼み込むようにして受け取らせていた。

それだけ真剣な一誠に園長は折れた。

危険な目に遭って欲しくはない。だが、それを言って聞く子供ではなかったのだ。

特に瀕死の重傷から復帰してからそれが顕著になっていた。

その稼ぎを一誠の頑張りに報いるため、貯金しつつも園のために使うことにした園長はただ感謝と己の不甲斐なさを噛み締めつつただ一誠に謝るしかなかった。

そんなことが続き、一誠が中学三年になった夏頃。

進路のことで園長に相談された一誠はそのままのことを話すと、今まで静かに聞いてくれていた園長が珍しく怒った。

そして泣きながら高校くらいは通わさせてくれとお願いされ、今度は一誠が折れたのであった。結果、一誠はその夏から苦手な勉強を無理矢理頭に詰め込んで近くの高校である駒王学園を受験、最底辺で何とか合格した。

そんな経緯でこの学校に通うことになった一誠だが、当然勉強など好きなわけもなく、結果こうして不真面目な生徒が出来上がる訳である。

 昼休みに入って一誠は一人、校舎の屋上へと向かう。

この学園の屋上は本来は出入り禁止になっているが、一誠は屋上出入り口の近くの窓の鍵が壊れていることを知って以来、こうしてそこから不法侵入して屋上に出ている。

屋上は春の暖かな空気と陽気に満ち、日差しが屋上を優しく照らす。

誰も居ない屋上を一人で満喫すべく、一誠は屋上の中央まで行くとごろりと仰向けになった。

真っ青な空だけが広がる爽快な風景、それは見る者の心を満たす。

だが………。

 

「ぐるるるるる~~~~~~~~」

 

腹は満たさない。

昼休みなのだからお昼はと問われれば、馬鹿を言ってはいけない。

この万年金欠男にそんな御馳走などない。

一誠は一日にかなり良くて二食、いつもは一食しか食事をとっていないのである。

それもこれも、自業自得としか言いようがないのだが。

一誠が屋上にくる理由はいくつかある。

一つ。空腹でふらついている時に美味そうな匂いを嗅ぎたくない。

二つ。そもそも、人が多い所にいたくない。

そして三つ目。一誠が『相棒』と会話をするためだ。

一誠は寝そべったまま左手を胸に当てると目を瞑り、虚空に向かって話しかける。

 

「……腹……減ったなぁ、ドライグ」

『お前が稼いだ金を殆ど渡してしまうからだろうが、相棒』

 

一誠の声に応じて、左手から男の声が返事を返してきた。

これが一誠が持っている『異能』に宿る魂だけの存在。名をドライグと言い、姿は見えないが人外の世界ではその名を轟かせたドラゴンらしい。

ドライグの存在は異能に目覚めた時から気付いた。

そしてずっと一緒にいたので、一誠にとってドライグは相棒であり親友であり何より家族であった。

その家族に注意され、一誠はバツが悪そうな顔で答える。

 

「そうなんだけどさ。お前だって俺が中途半端な真似は出来ないって知ってるだろ」

『それでも、もう少しは自分のためにとって置いてもいいだろう。あの園長なら寧ろ喜んで相棒のために返しそうだしな』

「だからだよ。殆ど全部渡しちまうのは。園長は優しいから俺を思って遠慮しちまうだろ。俺は迷惑をかけたんだから、遠慮されるのは困るんだ」

 

恰好良いことを言っているのだが、それを台無しにするかの如く一誠の腹は鳴る。

その反応にドライグから呆れたような気配を一誠は感じ取った。

 

「なぁ、ドライグ」

『何だ、相棒』

「お前の倍化の力で喰いモンを倍のサイズに出来ないかな」

 

その質問にドライグは少し無言になった。

しかし、その沈黙には頭痛で頭を押さえるようなビジョンが一誠には見えたような気がした。

 

『相棒……いくら食い物に困っているからといってそれはない。何より、このドライグの力をそんな下らないことに使おうとするな』

「そうか? 俺にとっては一大事なんだけどよ」

『この赤龍帝、ドライグの倍化の能力をそのような下らないことに使おうとする奴は初めてだ。あまりの悲しさに俺は泣きたくなってきたぞ、相棒。ちなみに言っておくが、俺の倍化は『力』に作用するものだ。物質には作用しない。それは使い手である相棒が一番分かっているだろう』

 

その言葉に一誠は肩を落としてがっかりする。

いや、彼とて分かってはいたのだ。だが、この空腹がそんな淡い夢を見させてしまうのである。そして相棒に現実を突き付けられ、一誠は内心でしょげるしかなかった。

仕方なく別の話を振ることにしたのだが、逆にドライグから話しかけられた。

 

『ところで相棒』

「なんだよ、ドライグ?」

『今回のコレはいつまで続くんだ?』

 

ドライグがした問い。

それは一誠がドライグの能力を使ってあることをしているのである。

それは誰が聞いても正気を疑う行為であった。

 

「ん? あぁ、『自分に掛かる重力を通常の四倍』にしていることか?」

 

一誠は何気ない口調で答えるが、言っていることは明らかに可笑しい。

彼はドライグの倍化の力を使い、今までこうして自分に様々な力を倍化でかけ、己を鍛えてきた。それも偏に、仕事人として他の人外に負けない様にするためだ。

ただ、彼自身身体を自分の意思で鍛える気が無いため、そうして無理矢理負荷をかけることで鍛えているわけなのだが。

 

『ああ、そうだ。今までいくつもの使い手に巡り会ってきたが、相棒みたいな力の使い方をする奴は初めてだ。昔から慣らしているとはいえ、四倍の重力で普通に動き回れる相棒はもう普通じゃない気がするけどな』

「そう言うなよ。俺だってしたくてしてる訳じゃない。けど、そうでもして鍛えないと、『アイツ』には適わないからな。今度こそ………勝つ!」

 

一誠は自分の幼い記憶の中に鮮明に残る『白』を思い出し、その目に好戦的な炎を燃やす。だが、それは直後になった腹の音で一気に消火された。

 

「なぁ、ドライグ」

『何だ、相棒』

「………今日の特売、何があった……」

『四時半にスーパーで卵の特売、お一人様一パック98円だ』

「お前と合わせて二パック買えたらなぁ……」

『無茶を言うな』

 

その前に赤龍帝ドライグにくだらない事をさせるなと言っていた割にこうして食料品の話に乗る辺り、ドライグも一誠に毒されているかもしれない。

 一誠はこんな感じに相棒といつも昼休みを過ごしている。

 

 

 

 放課後になり、一誠は周りに目もくれずに走り出す。

その速さは尋常ではなく、それだけ急いでいることが窺えるだろう。

時刻は四時二十分である。

そのまま凄い勢いでかけていく一誠に何事かと周りの生徒が騒ぐが、あまりの速さに姿を捕らえることが出来ないためそれが一誠なのか分からなかった。

そのまま速度を維持して校門を潜り抜けようとした所で一誠の前に人が立ちはだかった。

 

「あ、あのっ!?」

 

そう声をかけてきたのは長い黒髪をした可愛らしい少女だった。

全体的にほっそりとしているが、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいるという女性なら誰もが羨む体型をしている。

十人に美少女かと聞けば十人が美少女だと答えるだろう。

そのようなまさに一誠とは縁のなさそうな少女が一誠を呼び止めてきた。

その声に一応止まる一誠。

少女は止まってくれたことを喜び、頬を真っ赤に上気させながら一誠のことを見つめてきた。その表情は紛れもなく………。

 

「兵藤 一誠君……ですよね」

「あぁ」

 

何かを確かめるかのように聞く少女に一誠は緊張して答える。

そして少女は真っ赤な顔で力の限り精一杯一誠に叫んだ。

 

「ずっと前から好きでした、付き合って下さい!!」

 

それは少女の恋の告白。

春に誰もが期待する最高のシチュエーション。

そして、思春期真っ盛りの男子高校生なら誰もが羨む最高のイベント。それもこんな目の覚める様な美少女からの告白となれば尚更幸せだろう。

その告白を受けた一誠は………。

 

「ゴメン、急いでるから無理だ。それじゃ」

 

そう無情に返し、その少女の横を先程以上の速さで駆け抜けていった。

 

「え…………?」

 

少女は断られた事に気付くのに、その背中が見えなくなるまで気付かなかった。

一誠にとって今重要なのは恋人ではなく今日のための食糧である。

恋人はなくとも生きられるが、食糧はないと生きられない。

何より、一誠は今の自分のことで精一杯であり、そんな『余裕』はない。

 こうして一誠は初めて異性から告白されたが、即座に振った。

普通なら悔やむところだが、その後スーパーから出てきた一誠は卵一パックを持って満面の笑みを浮かべていた。 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。