ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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結構オリジナルで疲れました。


29話 彼は追試を控える

 イリナとゼノヴィアを止めてから数日が経ったが、特に何かあるというわけも無く、日々は進んでいく。

一誠とアーシアは変わらずソーナから勉強を教えて貰う日々が続き、アーシアは確実、一誠も下手なことさえ間違えなければほぼ赤点は回避出来るレベルにまで到達した。

その事に感謝するアーシア。一誠も何だかんだと言いつつ感謝をしていた。

そして追試を明日に控え、二人はソーナに礼を言う。

 

「ありがとうございます、会長さん! 御蔭で明日は頑張れます!」

「まぁ、何だ……助かったよ、会長。御蔭で明日は何とかなりそうだ」

 

二人から礼を言われ、ソーナは少し嬉しそうに微笑む。

 

「別にお礼なんていいですよ。私は愚痴を聞いてくれるお礼として、少しばかりお節介をしたにすぎません。頑張ったのは貴方達なのですから」

 

謙虚にそう返すソーナだが、それでも感謝されるのは嬉しいようであった。

そんなソーナにアーシアは更に感謝し、一誠は軽く礼代わりに別の事を言う。

 

「世話になったんだ。だったら、今度はあんたが何か困ったときにでも声をかけてくれ。俺で出来る事なら手を貸すよ」

「あ、でしたら私も手伝います! 会長さん、何でも言って下さいね」

 

一誠の提案にアーシアも同調する。

その提案を受けて、ソーナはそんな大したことでもないのにと苦笑するが、それを受け取らないのも失礼だと判断して受け取ることにした。

 

「わかりました。何か困ったことや人手が足りなさそうなことがあったら、その時はお願いしますね」

「はい!」

 

そして礼を言い終えた二人は明日の追試に備えるべく、一緒に下校する。

その様子をソーナは満足そうに見ていた。

 

 

 

 

 学園を出た二人は、一緒に道を歩いて行く。

行き先は同じ一誠のアパートの部屋。ほぼ毎日と言って良い程に夕飯を作りに来ているアーシアに何も言えない一誠は、最早暗黙の了解のように納得せざる得なかった。

駄目だと言えばアーシアが泣き出しそうになるので、一誠はそういったことが苦手なこともあり言えない。

すっかり孤児院の一員になっているアーシアはもう一誠の家族も同然。家族に泣き顔をされては、一誠は泣き止ますのが苦手である以上、言うことを聞く以外ない。

この現象を世間では尻に敷かれているというが、それを一誠は理解出来ないだろう。

世間でこの言葉は強気の女房に頭が上がらないことを指すが、一誠の場合、アーシアは別に強気ではないし、一誠に無理難題を押しつけているわけではないのだから。

そんなわけで、今日も夕飯の材料を買うべく一誠とアーシアは二人で帰る。

その道中話すことは、今日学校であったことやソーナに教えて貰ったこと、そして明日の追試についてである。

基本アーシアが話題を振り、一誠はそれに返事を返す。

会話と言うには相互の言葉の量が違うが、それでもアーシアは嬉しそうに話していた。話しを聞いてくれる人がいて、そして返事を返してくれるということが嬉しいのだ。それが一誠だというのなら、尚のこと。

 

「会長さんも悪魔なんですよね。でも、とっても親切で優しくて……私、憧れちゃいます」

 

ソーナに勉強を教えて貰った日々を思い返し、アーシアは瞳を輝かせながら一誠に話しかける。

アーシアの目にはソーナが所謂『出来る女』に映ったようで、アーシアはソーナに憧れたようだ。

その様子に一誠は苦笑を浮かべつつも答えた。

 

「別に悪魔だからって何かあるってわけでもねぇよ。確かに魔力やら何やら使うが、普通に飯食って普通に生活してる。そこまで俺等とか変わらねぇよ」

 

その言葉にアーシアは喜びを顕わにして頷く。

異形の存在は恐ろしい物だが、身近に感じられて嬉しかったのだろう。

悪魔だろうと素晴らしい人物は素晴らしい。人格者は人格者だと。

彼女は未だに神を信じながらも、素晴らしい悪魔に尊敬の念を抱いた。

それが神への冒涜だと分かっても、彼女はその尊敬を止めはしない。素晴らしい人格を尊敬することに貴賤など無いのだから。

まぁ、そこまで小難しい話ではない。

年頃の少女は、自分より優れた女性に憧れを抱く。ただそれだけの事である。

そんな嬉しそうなアーシアと一緒に帰る一誠。そのことに悪い気はしない。

もうすっかりとアーシアがいるのが当たり前になりつつある日常を、彼なりに楽しんでいるのだ。

そんな二人は傍から見れば兄妹かカップルか、そのように周りからは映るだろう。まぁ、アーシアは生粋の外国人なので兄妹には全然見えないのだが。

世間の男からみれば羨ましい限りの一誠ではあるが、勿論この男に限ってそんな事など感じているわけもない。

二人はそのまま会話をしながら歩き続ける。

たまには道を変えて行くのも悪くないと、二人は林の脇道へと入って行った。

気分転換程度の、そのような理由で。

アーシアは林を見てハシャぎ、一誠は仕方ないといった様子で苦笑を浮かべる。

そんな二人であったが、少し歩いた後に目に入った物を見て動きを止めた。

 

「なっ……イリナさんッ!?」

 

二人の目に入ったのは、ボロボロの姿のなったイリナだった。

黒い身体のラインが出る独特な戦闘衣は殆ど用を成さずに切り裂かれ、肌が多く露出しその殆どが真っ赤に染まっている。

見るからに瀕死状態で、アーシアは泣きそうになりつつも大急ぎでイリナの元へと駆けつける。

そしてまだ意気があることに安心し、両腕をイリナに添えて自分の神器を発動させた。

アーシアの両手から溢れるように優しい光がイリナの身体を包み込み、そして傷を修復していく。

 

「誰がこんなことを………酷い……」

 

悲痛な声で悲しむアーシア。

一誠は念のため周りを警戒するが、辺りからそれらしい気配を感じないことからそれを解く。

傷を治し終えたアーシアは一誠に向かって真剣な表情を向けた。

 

「イッセーさん!」

「わかってる」

 

そう答えると、一誠はイリナを持ち上げる。

このままここに放置しておける訳も無いので、取りあえず一誠の部屋へと運ぶことになった。

のだが……。

アーシアは持ち上げられたイリナを見て、顔を真っ赤にして一誠に叫ぶ。

 

「イッセーさん、そのままじゃ駄目です! イリナさんのが見えちゃいます!」

「あ? それってどういう……」

 

意味が分からずに一誠はイリナを改めて見ようとする。

だが、一誠の目はイリナを見る前に視界が真っ暗になった。

 

「い、イッセーさんでも駄目です~!!」

 

アーシアの懸命な叫びに一誠は内心で首を捻る。

だが、アーシアのこの行為は仕方ないことであった。

何故なら、イリナの着ていた戦闘服はもう服の用を成さない。そのためほとんどの肌が露出してる。つまり……乳房も露出していたのだ。

歳のわりにしっかりと発育したわわに成長した乳房。それは男なら殆どの物が生唾を飲み込むくらい素晴らしい。

だが、見られる側にとっては大事どころではすまない程に恥ずかしいことだ。同じ女性であるアーシアには、その恥ずかしさが痛い程に分かる。

だからこそ、彼女に恥を掻かせまいと一誠を止めたのだ。それと同時に一誠が彼女の胸を見ないように急いで一誠の目を塞いだ。

一誠にイリナの胸を見て貰いたくないという気持ちが殆どであったが。

と、そんなわけで一誠はアーシアから目を瞑ることを強く命じられ、そして制服の上着を剥がされた。

一誠の上着を使い、アーシアはイリナの身体を出来る限り隠すと、そこでやっと一誠に目を開けるよう言い、一誠は首を傾げながらも目を開ける。

そしてイリナの状態を見つつ、今度こそ自分の部屋へとイリナを運び始めた。

まぁ、アーシアの考えは世間的には正しいのだが、この男に限ってはそうではなかった。倒れているイリナを見た時から乳房は見えていた。

だが、この男はそのことに一切欲情したりしない。

アーシアが懸命に隠そうとしたが、ある意味無駄だったのかもしれない。

 

 

 

「う、ここは………」

 

イリナは目の前の灯りに気付き、声を漏らす。

さっきまで自分がどうなっていたのか。それを思い出そうとするが、頭が覚醒しきらないのか上手く思い出すことが出来ない。

そんなイリナに気付き可愛らしい声が上がった。

 

「あ、イリナさん、気が付きました!」

 

その声を聞いて、イリナは近くにいる人物が誰なのかを何となく理解した。

 

「もしかして……アーシアちゃん……」

「っ……はい、そうです!」

 

アーシアは意識がはっきりし始めたイリナに抱きつき、心配したことを身体で伝える。その重みと力を受けて、少しばかり顔を顰めるイリナ。

 

「ちょ、アーシアちゃん、ぐるじい………」

「あ、すみません!」

 

自分がやっていたことで苦しがっていたイリナに気付き、アーシアは慌ててイリナから離れた。

その様子が可笑しかったのか、イリナは少し笑ってしまう。

その笑みを見て、アーシアもイリナがちゃんと治ったことを理解し、そして安心した。

イリナの回復が見られたことで、早速一誠はイリナに事情を聞くことにした。

 

「それで……どうしてあんな所で倒れてたんだ、お前?」

「そ、それは…………」

 

聞かれた途端に口を紡ぐイリナ。

言いたくないというよりも、言えないといった感じだろうか。

一誠達を巻き込みたくないと、そんな感情が察せられる。

だが、心配そうに見つめるアーシアの瞳を見て、イリナは静かに語り始めた。

 

「その……ね。前にイッセーくん達に言ったじゃない、聖剣を盗んだ犯人『バルパー・ガリレイ』のこと。そいつがさ、はぐれ悪魔払いにその盗んだ聖剣を使わせて私に襲い掛かってきたのよ。負けないと思ってたんだけど……相手は盗んだ聖剣三本を一つにまとめ上げててさ……負けちゃった。それで私が持ってた聖剣『擬態の聖剣』も奪われちゃった」

 

自分が負けただけでなく、教会から貸し出されていた貴重な聖剣を奪われたことにショックを受けているイリナ。苦笑をするが、その目はまったく笑ってなどいない。絶望の闇をその目は宿していた。

 

「それだけでも厄介なのに……あんな強力なのが出たら、勝てるわけないじゃない……」

 

悔しさから涙を流し始めるイリナ。

そんなイリナをアーシアは優しく抱きしめる。

アーシアに抱かれたイリナは、それまで堪えていた感情が溢れ出し、アーシアの胸にしがみついて泣き始めた。

その痛ましい様子にアーシアは、ただひたすら優しく抱きしめること鹿出来ない。

それだけでも、イリナの心は多少でも楽になっていく。

一誠はそんな様子のイリナを見て、大体の事情を察する。

奪われた聖剣を取り戻そうとしてイリナ達は向かい、そして敗れた。

その時、主犯であるコカビエルも一緒にいたことを。

これが勉強の時に出来ればまず赤点など取らないのかも知れないが、それが出来るほどこの男は器用では無い。

それを察した上で、一誠はイリナの様子を見て話しかける。

 

「おい、イリナ。一緒にいたゼノヴィアとか言う奴はどうした? 一緒じゃなかったのか」

 

一誠の問いを受けて、イリナは少し苦しいような、そんな顔で返す。

 

「ゼノヴィアには逃げてもらったの。あの場で私達が勝てる要素はなかった。だから少しでもその可能性を上げるために、彼女には応援を頼むように言って、無理矢理逃がしたのよ。この事態は私達の手に負える問題じゃない。それにゼノヴィアは最後まで反対してたけど、悪魔の人達に助けて貰うよう強く言っておいたのよ。彼女達だって自分の土地で堕天使が勝手に動き廻ってるのを我慢出来るわけないから。それに、ゼノヴィアの聖剣『破壊の聖剣』ならあのコカビエルにだって傷を負わせられるかもしれない。私の擬態の聖剣じゃ、まず無理だもの。だからゼノヴィアを逃がすために、私は囮になったの」

 

それを聞いてアーシアは更にイリナを慰めるように抱きしめる。

信徒である彼女は、その選択がどれほど苦しい物か分かるから。

その気遣いにイリナは感謝しつつ、一誠を見つめる。

それはこの話を聞いて、一誠がどう思うのかを知りたいというものだった。

別に、助けてとは求めない。

確かに一誠は裏の事を知っている人間だと知っている。だが、それまでだ。

彼はただの人間だ。何も出来るとは思えない。自分でさえそうなのだから、聖剣も何も無い一誠に助けを求めるのは筋違いというものだ。

だからこそ、イリナはそんなことを思わなかった。

対して一誠が思った事は、

 

自業自得だった。

 

仕事だから仕方ないというのはわかる。

自分の能力を鑑みてゼノヴィアに託した判断も問題はない。

だが、それでこうなったのは自分の責任だ。

寧ろそいつ等に嘗められた結果といっても良い。本来なら死んでいるはずなのに殺されていない。それは案に、殺す価値も無いと嘲けられたに他ならない。

だからこそ、こうなったのは自業自得だと、一誠は思った。

敵討ちをする理由は無い。

確かにイリナは幼馴染みと言っても良いが、それまで。

彼女には何の借りもない。

だから、一誠はこの件に関して何もしないことにした。

暴れるのは好きだが、利も何もないのに暴れる気は無い。ただ、それだけ。

そんな一誠を見てか、イリナは深い溜息を一回だけ吐くと力を抜いて更に話す。

 

「その時に聞かされたの、コカビエルの目的を。あの堕天使はこの悪魔の町で盛大に暴れることで悪魔の陣営を揺さぶり、再び戦争を引き起こそうとしてるって。それで手始めに、あの赤い髪の女悪魔と共に、あの学園を消し飛ばすって……だからイッセーくん……急いでこの町から離れて! ここは戦場になるかもしれない。だから……」

 

真剣な表情で一誠を見つめるイリナ。

それは一誠やアーシアの事を本当に心配してのこと。

その真剣な言葉を聞いて、一誠の表情が変わった。

 

「何だって………」

 

それは怒りにも似た表情。

さっきイリナが言っていた言葉の中に、一誠が聞き逃せない事が二つ入っていた。

一つはこの町が戦場になるということ。そしてもう一つ……やられたならば、絶対に許せないことがあった。

故に一誠の気が変わり始めた。

イリナのは自業自得。助ける気はないが、自分の周りに影響を出すようなことされて黙っていられるほど、一誠は大人ではないのだ。

そう思うと一誠は笑いがこみ上げてきて仕方ない。

暗く黒く、それでいて苛烈なまでの闘気が身体中を駆け巡る。

 

「やってくれるじゃねぇか……えぇ、堕天使さんよぉ」

「イッセーさん……」

「イッセーくん……」

 

一誠の様子が変わったことにアーシアとイリナは気付き声をかける。

一誠の様子に二人とも戸惑っているようだ。

それに拍車をかけるかのように、突然扉が開いた。

 

「よぉ、イッセー。随分と滾ってるようじゃないか」

 

開いた扉の先にいたのは久遠であった。

その姿を見て、アーシアとイリナは驚いてしまう。

そんな二人に微笑みながら、部屋に入ってきた久遠は一誠にニヤリと笑いかけた。

如何にも悪そうな笑み。

その笑みを浮かべる時の久遠を一誠は知っている。

故に此方も相応の悪い笑みを返した。

久遠はそんな一誠に笑いかけながら、彼が期待しているであろう言葉を告げた。

 

「イッセー、仕事だぜ、仕事」

「あいよ」

 

久遠の言葉に返事を返すと、一誠はゆっくりと立ち上がり、玄関の方へと歩いて行く。そして扉から出る前に、アーシア達の方へと振り返った。

 

「お前等はゆっくり留守番してろ。これから俺はちょっと野暮用があるんでな。まぁ、明日までには帰る。だって明日は……追試だからな」

 

その言葉を聞いて、アーシアは心配しつつも嬉しそうに頷いた。

そして一誠の背を見送る。確かに心配はしている。一誠がこの後危ない事をすることは分かっている。だけど、彼女は信じている。一誠は絶対に約束は守ると信じているからこそ、その背を見守るようにして見送った。

そして一誠には失礼だが、彼女は祈る。

どうか、一誠が無事であるように……と。

 

 

 そして、コカビエルはこの後思い知らされるだろう。

自分が何に手を出したのかと言うことを……。

 

 

 


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