ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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就職して初の投稿です。凄く長くなってしまいました。


31話 彼は喧嘩を止められる

 赤龍帝の鎧を身に纏う一誠とコカビエルは対峙する。

地上でコカビエルを見上げる一誠。一誠の姿を見下すコカビエル。

二人の間に流れるのは、戦うことへの高揚感。

その両者の昂ぶりはオーラの波動となって周りの物を破壊し始める。

コカビエルは一誠を見下しながらニヤリと笑うと、念の為といった感じに一誠に問いかけた。

 

「一応聞こうか、人間。何故、俺と戦おうとする。戦うことは好きだが、人間に怨まれる理由などあまりない。一々虫けらなど相手にした覚えなどないからなぁ」

 

嘲るように愉快に笑いながら問うコカビエル。

その言葉を聞いたリアス達は怒りを込めた目でコカビエルを睨む。

確かに多くの悪魔はコカビエルと同じように人間を見下すが、彼女達は人間を見下したりはしない。寧ろ、より人とは親しくしている間柄である。

故に、コカビエルの物言いは彼女達の怒りを更に燃え滾らせた。

親しき友人を馬鹿にされて怒らない者はいない。

だが、それとは別に一誠の方にも注目が集まる。

何故、この場に一誠が来たのか? それが彼女達は気になった。

彼がこの場に来る理由がない。この窮地に駆けつけるヒーロー……そんな人物ではない。なら、何でこの場に………。

リアス達に沸き上がった疑問に対し、一誠はコカビエルに先程の問いの答えを返した。

 

「別に怨んでなんてねぇよ。イリナをボコった件は気にしてねぇ、ありゃ単なる自業自得だ。でもなぁ……この町を吹っ飛ばされるのは我慢ならねぇし、何よりもこの学園を消し飛ばされるのは困るんだよ。だからだ」

 

鎧越しで見えないが、ニヤリと笑う一誠。

その答えを聞いて、コカビエルはつまらなそうな顔で呆れながら一誠に話しかけた。

 

「何だ、郷土愛という奴か……下らん」

 

呆れ返っているコカビエルに、今度は一誠が呆れたような声を上げた。

 

「そんなんじゃねぇよ。学校を今吹き飛ばされたら、俺は明日の追試を受けられなくなる。そいつだけは勘弁願いてぇんだよ。それに町を吹っ飛ばされたら俺の家まで吹っ飛んじまう。そうなったら俺は明日から宿無しだ」

 

実に呆れる理由にコカビエルの顔が固まる。

それはコカビエルだけでは無い。リアス達もまた同じだった。

聖書にも載る堕天使に戦いを仕掛ける理由が、まさか『自分が困る』からなどと、誰が思おうか? まだこの町の平和を守るため、などと陳腐臭い台詞の方がこの場に於いてマシだったかも知れない。

そして一誠はバツが悪そうに軽く鎧で覆われた頭部を指で掻き、あっけらかんと最終的な答えをコカビエルに言う。

 

「まぁ、何だ。要はよぉ……テメェが俺の生活の邪魔をしてきた。そいつが俺には凄く気に喰わねぇのさ。単純に……」

 

そこで一端言葉を切ると、一誠はコカビエルに向けて威勢良く叫ぶ。

 

「むかつくからぶっ飛ばす! 俺はテメェに喧嘩を売った。そしてテメェは俺の喧嘩を買った。だったら後は単純だ。俺はテメェをボコる! 徹底的にだ!!」

 

その途端噴き出すドラゴンのオーラは。一誠の周りにあった瓦礫を吹き飛ばした。

そのオーラの威圧感を感じて、コカビエルは堪えきれないかのように笑い始める。

まるで可笑しいものを見た時の人間のように。

 

「くっくっくっくっくっく………あっはっはっはっはっは!! そうか、そうか! それがお前が私に戦いを挑む理由か! 成る程、確かにシンプルでいい答えだ。俺の求める物の根本に近いとさえ言っても良い。そうだ、そうでなくては面白くない! いいだろう、貴様の喧嘩、俺が改めて買ってやろう。だからこそ……俺を満足させて見ろ、人間!」

「上等だぁ!」

 

その言葉を皮切りに、両者とも同時に動き始めた。

コカビエルは右手を上空に掲げると、そこから今までに無い程の巨大な光の槍を作り出した。

 

「なっ!? あんなに巨大な槍を……」

 

リアスはコカビエルの作り出した槍を見て驚愕する。

それは一誠が来る前に出していた槍に比べると、格段に込められている力の量が違うことが一目で分かる。

その圧倒的な力を前に絶句するリアス達。

だが、それは一誠によって更に悪化する。

 

「来て見ろよぉおォオオオオオォオオォオオオォオォオオオォオォオォオオオオォオオオ!!」

 

赤いドラゴンのオーラを噴き出しながら一誠が動く。

毎度お馴染みの左拳を地面に叩き着ける動作。

だが、彼が上空へと跳び上がる前に出来上がったクレーターは、今までの比では無い程に巨大で深い。

まるで隕石が墜落したかのような轟音が結界内に轟くと、凄い勢いで一誠はコカビエルに向かって跳んで行く。

その一誠を迎撃しようとして、コカビエルは笑い声を上げながら巨大な光の槍を放った。

 

「まずはこいつだ、人間ッ!!」

 

放たれた槍と一誠の拳が激突する。

その途端、結界内で衝撃が膨れ上がり行き場を失った力が爆発する。

 

「キャァアァアァアァアァアァアァアァアァアア!!」

 

その衝撃が襲い掛かり、リアス達は結界を張って悲鳴を上げながらも堪える。

ただの技同士のぶつかり合い。その余波だというのに、大気は震え上がり、周りの構造物を吹き飛ばし、リアス達の結界は破れかける。

それ程の猛威が振るわれたというのに、その爆心地である両者は互いに無傷であった。

 

「俺に喧嘩を売るだけはあるな、人間」

「テメェも悪くねぇじゃねぇか。堕天使の幹部は伊達じゃねぇってか」

 

互いにそう言いながら笑い合う。

生憎一誠の顔は兜で覆われて見えないが、それでも声を聞いただけで分かる。

荒んだ笑みを浮かべていると。

お互いに初撃を交わし合い、互いの力量に喜びを顕わにする。

 

「いいぞ、人間! そうでなくてはなぁ! あぁ、さっきまでのリアス・グレモリーとの戦いと比べて、断然面白いぞ!」

 

より戦意を高めたコカビエルは一誠にそう言うと、地上へと降りる。

そして光の双剣を作り出し、それを軽く構えた。

そして一誠も左手を突き出して拳を握り、独特の構えを取る。

お互いまるで次の相手の手を楽しむかのように再び動く。

 

「ふんっ!!」

 

コカビエルは両手に持った光の双剣をクロスさせて思いっきり振ると、そこから巨大な光の斬撃が一誠に向かって射出された。

地面を抉りながら近づいてくる斬撃に対し、一誠は駆け出して身体を独楽のように回転させ始めた。

 

「らぁっ!!」

 

気合いの籠もった声と共に突き出した拳。

その先は勿論光の斬撃。

一誠の拳を受けた斬撃は、その威力故か瞬時に消し飛んだ。

 

「こんなちゃっちいの出してんじゃねぇよ! なぁ、おい!」

 

勿体ぶるなと吠える一誠は、更にそこから突き進む。

背中の排出口のような部分から高出力のオーラを噴出させ、コカビエルとの間の距離を一気に詰める。

その姿はまさにミサイルのようであった。

その勢いを殺す事無く一誠は拳をコカビエルに繰り出す。

 

「オラァッ!!」

「ぬぅっ!!」

 

突き出された拳を光の双剣を合わせてコカビエルは防ぐが、その拳の重さから苦悶の声が上がる。

ぶつかり合った拳と剣は衝撃を放つと共に火花が散った。

そのまま互いの攻撃を弾くと、そこからは互いに接近戦に移行し始める。

 

「この距離は俺の距離だぜ!」

「嘗めるな、人間!」

 

一誠が右拳をコカビエルに向かって繰り出すと、コカビエルはそれを身を逸らして躱す。そして反撃に左の剣で一誠に斬り掛かると、その剣を一誠は左手の籠手で防いだ。

高密度の光の剣が籠手を削るが、ドラゴンのオーラと堅い籠手によってその刃は一誠に届かない。

悪魔なら致命傷の光の力だが、一誠は人間、そして赤龍帝はドラゴン。相性の問題はない。なら、この場に置いては純粋な力の強さだけが優劣を決める。

そこから始まったのは、一撃必殺の威力を込めたインファイト。

コカビエルが二刀流で斬り掛かり、一誠が左右の拳で強引に殴りかかる。

その光景は見ている者をある意味で注目させる。

片や剛胆さと精緻さを兼ね揃えた剣技を振るう堕天使。その剣舞は美しいながらも実に鋭い殺意に満ちている。

もう片や。暴風のように吹き荒れる拳を振るう人間。その縦横無尽に振るわれる拳は衝撃だけで辺りの物を粉砕させ、荒々しい獣のような殺気に満ちあふれていた。

まさに嵐の様な攻防が何度も続いてく。

巻き上がった衝撃は地面を粉砕させ、粉砕した物は全て砂塵へと帰す。

一進一退ではない、まさに互角の押し合う攻防に戦局は膠着し始める。

だが、それは一撃でも当たろう物ならば即座に傾く危険極まりないものであった。

 

「ラァアアァアァアァアァアアァアァアアァアァアァアァアアアアアア!!」

「がぁあぁあぁあぁあぁああああぁああぁああぁあああぁああぁあああ!!」

 

お互いの連撃が互いの身体を削り合っていく。

赤龍帝の鎧の彼方此方が欠け罅が入り始め、コカビエルの身体の各所から血が弾け飛ぶ。

互いが互いに力を持って殺し合う光景は、何処か周りの者共を魅了させていく。

その攻防が何度も続き、遂に互いの攻撃が直撃した。

 

「ぐぅううぅううぅうぅうううう!!」

「ぐぉっ……」

 

コカビエルの剣を受けた一誠の胸の下、腹部辺りがX字に切り裂かれ血が噴き出し、一誠の拳は深々とコカビエルの腹部へと突き刺さり、肋骨をへし折って中の臓器を損傷させた。

その衝撃で双方とも数メートル後へと後退する。

一誠は焼いた鉄を押し当てられたかのような激痛に呻きつつも、コカビエルへと目を向ける。その口元はつり上がり、実に殺意に満ちた笑みを浮かべていた。

コカビエルは喉奥からこみ上げてくる血を吐き捨てながら一誠に負けない程に凄惨な笑みをしていた。

 

「やはり戦争は良いものだ。こうして殺意と殺意をぶつかり合わせ、相手を倒した方が勝者となる。実に単純で明快、それが争いの真理だ。相容れないから相手を滅ぼす、それが戦争という行為の根本だ! 人間、貴様は実に愉快だ!」

「一々真理だの根本だの、うるせぇんだよ。戦争だの何だの言いやがってよぉ。そこまで大それた事でもねぇだろ。今、俺とテメェは単純に『喧嘩』してるだけなんだからよぉ!!」

 

一誠はそう吠えると再びコカビエルへと仕掛ける。

右腕で大地を殴り付けると、その反動を利用して宙へと飛び上がった。そして落下すると共に身体を回転させ、遠心力を上乗せした豪腕をコカビエルへと叩き着ける。

 

「ぐぉっ!? ちぃっ!」

 

最初と同じ様に一誠の拳を受け止めようとしたコカビエルだが、双剣で防御をした途端に身体の内部から激痛が走り、力が入り切らずに一誠の拳を掠ってしまう。

結果、掠った頬の皮が裂け、そこから血が噴き出した。

その損傷を指で撫でつつコカビエルは距離を取ると、実に愉快そうに一誠へと言う。

 

「貴様、正気か? そのような損傷で渾身の攻撃を仕掛ければ腹がどうなるか分かっていただろうに」

 

コカビエルの言葉の言う通り、一誠がコカビエルに拳を叩き着けた瞬間、そのあまりの威力の高さから一誠の損傷した腹部は更に血を噴き出していた。

損傷していた所により負荷が掛かって傷口が広がったのだ。

だが、それを知っても尚、一誠は全く動じない。

元より、痛くても気にしない。

 

「別に痛てぇけどそれだけだ。テメェをぶっ飛ばすのにそんなもん、一々感じてられるかよ!」

 

腹部から流れ落ちる血。地面を赤く染めるそれは、明らかに一誠の損傷が致命的なことを知らせる。

だが、当の本人はまったく気にした様子を見せない。

傷口を庇うことも無く、そのまま独特の構えを取る。

その様子を見て、コカビエルは我慢が出来なくなったかのように笑い出した。

 

「成る程成る程……貴様はもう人間とは言えないな! 生命の危機を物ともしない精神力、己の状態を返り見ない闘争心、それはもう人間の領分を超えている! 貴様……何者だ?」

 

その問いに対し、一誠は当たり前のように答えた。

 

「何者もクソもねぇ。俺は俺だ、兵藤 一誠だ!! それ以上でもそれ以下でもねぇ」

 

その答えを聞いてコカビエルは満足そうに頷き、より濃密な殺気の籠もった笑みを浮かべた。

彼は一誠のことを、もう人間とは呼ばない。

彼の中で一誠の事はもう人間とは認識されなくなっていた。こんな強い人間が人間であって良いはずがない。自身の好敵手をコカビエルは蔑ろには扱わないのだ。つまり同格かそれ以上だと一誠を認識した。

見下せる相手ではない。自分の戦争に堂々とついて行ける存在に彼はより愉悦を感じる。

 

「あぁ、わかったぞ! 赤龍帝『兵藤 一誠』! その名、しかと刻み込んだ! だからこそ……行くぞ、兵藤 一誠ッ!!」

「あぁ、来いよ、コカビエル!!」

 

そして再び始まる攻撃の応酬。

距離が離れればコカビエルの光の槍が一誠に殺到し、それを一誠は身体を独楽のように回転させながら全て打ち砕いていく。

距離を詰めれば一誠の爆発的な威力の拳がコカビエルへと振るわれ、コカビエルはそれを受け止め流す。

その余波だけで周りの物が再び壊れ始め、互いの血が飛び散って辺りを赤く染め上げていく。

その様子はまさに死合い。

互いの命を削り合う、まさに殺し合いであった。

 

「コカビエエルゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「ひょうどぉおおっっっっっっっいっせぇぇえええぇええぇええぇええぇ!!」

 

互いの名を叫ぶながら苛烈に攻撃を繰り出す二人。

その激突は衝撃波を撒き散らし、結界をに負荷をかけ続ける。

両者とも互角。

だが、いつまでもそのままと言うわけではなかった。

互いの攻撃が再び両者に直撃し、後へと後退する。

コカビエルは顔面に入った拳の痕が真っ赤に腫れ上がり、元の眉目秀麗な顔が台無しとなっていた。

対して一誠は右肩を貫かれ、力なく右腕が垂れ下がっている。

お互いの負傷はかなりの物である。

だが、それでも一誠は気にしていなかった。

寧ろ………。

 

「っくっくっく………あっはっはっはっはっは!!」

 

高らかに笑い始めた。

いきなり笑い始めた一誠にリアス達は気が触れたのではないかと疑ってしまう。

だが、コカビエルはそうは思わなかった。

この男はこの戦いを……殺し合いを実に良く楽しんでいる。

なら、この笑いはそのようなくだらないものではない。

故にコカビエルもまた笑う。晴れ上がった顔が浮かべる笑みはより歪み、不気味さを感じさせる。

そんなコカビエル相手に一誠は一頻り笑った後、コカビエルの方に顔を向けた。

その様子はとても負傷しているようには見えない。だが、傷口から溢れ出る血が現実に一誠の現状を伝える。

 

「いやぁ……流石は堕天使の中でもトップクラスなだけはあるよ、あんた。強ぇよ……ここ最近じゃとびきり強ぇ奴だ。だからよ、このままじゃあんたに悪いと思ったんでよ……もっと見せてやるよ、俺の力をよぉ!」

 

嬉々とした様子で一誠はコカビエルに叫ぶと、コカビエルも実に嬉しそうに笑った。これ以上の力と戦えるというのは、彼の闘争本能をより燃え上がらせたのだ。

 

「いいだろう、兵藤 一誠! 見せてみろ、貴様の本当の力を!!」

 

コカビエルの歓喜の叫びに、一誠は応じるかのようにオーラを噴出させる。

まるで心臓のように脈動するオーラの波動は、これから始まるであろうことに誰もを緊張させた。

一誠は吹き荒れるオーラの中で左手を胸の前に持って行くと左腕の籠手の宝玉が輝きだした。

 

『Boostッ!』

 

倍化のかけ声が掛かり、一誠の力が膨れあがる。

吹き荒れる勢いの増したオーラにリアス達は目を剝いた。

まるでその様子は天変地異のようで、世界が一誠に怯えているかのように震え上がる。

そして一誠は左手を右手に触れさせると、軽く力を込めた。

 

『explosionッ!』

 

それは倍化した能力の発動音。

その音声が流れると共に右腕や腹部から流れ出ていた血が止まった。

その事から何かしらを使って傷口を塞いだことが窺える。

これだけなら拍子抜けだろう。確かに傷口を塞げるというのは有利ではあるが、この程度で力などと言うのは仰々しすぎる。

故に、当然その先がある。

傷口を塞いだ一誠の左腕の宝玉は更に光を増し始めた。まるでより大きな能力を解放するかのように。

 

『explosionッ!』

 

再び能力の発動音が流れた。

それを聞いたリアス達は首を傾げてしまう。

可笑しいのだ。本来なら、必ずその前に倍化の音声が流れるはずなのだから。

だが、その疑問は一誠の身体から放たれたあらゆる存在感で吹き飛んでしまう。

まさに存在そのものの密度がより濃くなったかのような印象を一誠は感じさせた。

それを感じてコカビエルは口元をつり上げる。

一誠が何をしたのかは分からない。

だが、全身から発せられる威圧感を感じ取り、これまでとは全然違うことを本能的に悟った。

だからこそ、愉悦混じりに一誠に問う。

 

「貴様……何をした?」

「別に大したことはしてねぇよ。『それまでかけていた肉体に掛かる負荷の力の倍化』を解除しただけだ。つまり……これが本来の俺の力って訳だよ。悪いが、今まで押さえてたんだよ。あぁ、勿論ワザとじゃねぇよ。テメェとの喧嘩が楽しいもんだからちょっと忘れてたってだけだ。だからよ……ここからはマジでいくぜ」

 

その問いに一誠は笑いながら答えるが、発せられる殺気からとても笑っているようには感じられない。

本来の能力を解放した一誠は、それまでとは比べものにならない程の力を感じさせた。その前もとても強かったが、今はもう一段階上がったような印象を抱かせる

見ただけでわかるその力に、リアス達は驚愕した。

下手をすれば魔王クラス……いや、現魔王であるサーゼクスと並ぶかもしれない程の力だからだ。

人間が保有して良い力をとっくに超えている。凄い神器を持っているとか、そういうものではない。

魔力とは違う純粋なドラゴンの力が、人間では絶えきれない量の力が、一誠の身体には満ちあふれていたのだから。

そんな一誠にコカビエルは壮絶な笑みを浮かべる。

これ以上の戦いが……戦争があるというのだから、実に楽しみで仕方ない。そんな子供のような無邪気にな喜びと殺し合いが更に深まる愉悦が入り交じった感情がコカビエルを満たす。

 

「いいぞ、いいぞ兵藤 一誠!! まさに昔の戦争、いや、それ以上の戦いが出来るとはなぁ! 貴様のその溢れ出る力、過去の二天龍を彷彿とさせるぞ!」

 

コカビエルの声に一誠は返事を返さない。

その代わりに、その左腕の籠手は更に音声を発した。

 

『Boostッ!』

 

その声と共に、一誠の『全て』が倍化する。

身体が輝くと共に発せられたオーラは結界を突き破り、巻き込んだ物を全て破壊していく。

膨れ上がった力の余波だけでそんな現象が起こり、一誠が立っていた所は巨大なクレーターが出来上がる。

これは別に驚くようなことではない。

これこそが、赤龍帝の籠手の本来の使い方なのだから。

自身の倍化を終えた一誠はゆっくりとコカビエルの方に顔を向ける。

 

「んじゃ…………いっくぜぇええぇええぇえええ!」

「来いッ!」

 

その声と共に、一誠は動いた。

最初と同じように左拳を地面へと叩き着ける。その動作から反動を利用しての突進であることは、それまでの戦闘で分かりきっていた。

だが、一誠の姿をコカビエルは見ることが出来なかった。

爆弾が爆発するかのような轟音が轟くと共に、地面には月面を彷彿とさせるようなクレーターが刻み込まれる。

だが、その時点で既に一誠の姿はない。

コカビエルが辛うじて目に捕らえたのは、噴出された名残の光だけ。

ではどこにいるのか? そんな疑問は考えるまでもなかった。

腹部がまるで爆散するんじゃないかという程の衝撃がコカビエルを襲い、身体がくの字に折れ曲がって吹っ飛んでいる事にコカビエルは飛んでいる最中に気付いた。

そのまま校内に植えられている木々を何本もへし折った後に、地面に叩き着けられてコカビエルは止まる。

あまりの威力と気付けない内に直撃を受けた事にコカビエルはある意味ショックを受けた。

 

「ま、まさかこの俺が捕らえられないとは………面白い!」

 

吐血しながらもコカビエルは笑うと、十枚の黒き堕天使を翼を広げ飛び起き、そのまま飛行速度を最高にまで上げて一誠に突撃する。

 

「これでも喰らえッ!」

 

そう叫ぶなり、コカビエルは翼をまるで手のように振り回して一誠に襲い掛かった。

黒き十翼の翼の一本一本が一誠へと殴りかかるかのように襲い掛かる。

その攻撃は速すぎてリアス達には軌跡すら見えなかった。

だが、一誠は違う。

 

「数があればいいってもんじゃねぇ!!」

 

一誠は向かってくる翼を両手で一本ずつ掴むと、そのまま…………。

 

引き千切った。

 

「がっぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁああぁああぁあああああぁあああ!!」

 

引き千切られた翼の根元から血が噴き出し、コカビエルの絶叫がこの場に鳴り響く。

その絶叫を聞いてリアス達は身体が震えてしまう。

それは光景もそのままに、実に痛々しい叫びであった。

コカビエルは絶叫を上げても尚、突き進む。

 

「おぉおおぉおぉおおおぉおおぉおぉおおぉおおぉぉおおおぉおおおおお!!」

 

絶叫混じりに声を上げながら強引に一誠に近づくと、両手が翼で塞がっている一誠の顔を思いっきり殴った。

骨がぶつかるような音と共に一誠の首が殴られた方向へと曲がる。その音にリアスは目を瞑ってしまった。人が出して良い音ではない。

当然だ。この拳はコカビエルが全力で殴ったものなのだから。普通の人間ならそれだけで全てが弾け飛ぶだろう。

だが、一誠はそうではない。

 

「中々良い拳だ。あんた、素手の方が強いんじゃねぇか? だけどよ……こっちだって負けてはいねぇ!」

 

一誠は首をぐりっと動かし、持っていた翼を手から放すとそのままコカビエルを殴り返す。

近距離で顔面を捕らえた拳、その威力にコカビエルは苦悶めいた声を漏らす。

まるで首がもがれるかと思う程の威力に身体が持ってかれ、後へと下がってしまう。

だが、その顔は負傷がより酷くなったというのに闘志を劣ろわせてはいない。

 

「ぐぅううぅうぅううぅうううぅうう!! まさかこの俺の翼を引き千切るとはなぁ! 強い……強いぞ、兵藤 一誠! だが、俺とて負ける気はないッ!!」

 

コカビエルはそう叫ぶなり、右手を天に向かって突き上げる。

その途端に右手に発生する巨大な光の槍。

それは最初に一誠に投げかけた槍よりもさらに大きい。

だが、その槍は神々しい輝きを放った後に、今度は収縮し始めた。

見る見る内にコカビエルの身体に合うサイズまで縮小した光の槍。それを見てコカビエルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「これならば……どうだぁああぁあぁあぁああぁああぁああぁあぁああ!!」

 

咆吼を上げながらコカビエルはその槍を一誠に向かって投げつけた。

 

「っ!? くそっ」

 

それを迎え撃とうとする一誠だが、本能が警告を発し、それに従い即座に回避へと行動を変えた。

一誠の身体を僅かに掠りながらながら飛んで行った光の槍。

僅かに掠っただけだというのに、掠った部分の鎧が砕けていた。

もし一誠が通常の籠手のみの状態であったのなら、それだけで腕が吹き飛んでいただろう。その威力に一誠は戦慄を覚え、口元がつり上がる。

そして避けられた槍は校舎の残骸に突き刺さり、大爆発を引き起こした。

結界内を衝撃と轟音が支配し、リアス達は絶えきれずに吹き飛ばされる。

それ程の威力を見て、一誠はコカビエルへと話しかけた。

 

「あんた、その槍………力を濃縮したのか?」

「あぁ、そうだ。これが俺の奥の手だ! 貴様にも引けは取らないだろう。だからこそ……」

「あぁ」

 

コカビエルがしたことは、巨大に作り出した光の槍の力を濃縮し、更に威力を増すことであった。

そしてその威力を見て、一誠もコカビエルも同時に距離を取って構える。

互いに分かっているのだ。この次に放つのが最後の攻撃だと。

それはコカビエルの槍を放った右手を見れば分かる。その腕から血が噴き出しているのだから。

それが分かっているからこそ、一誠とコカビエルは構える。

コカビエルは先程と同じ……いや、それ以上に巨大な、それこそこの学校を一撃で滅ぼせる程に大きな槍を作り出すと、それを濃縮し収縮させていく。その際、コカビエルの右腕は血を更に噴き出し、骨が飛び出て皮膚が真っ青に変わっていた。

対して一誠は両拳を腰に構えると、足を大きく開く。

そしてドラゴンのオーラがより高次元に高まりを見せ、吹き荒れる赤き嵐の中、両腕と胸の宝玉が閃緑色に輝き始めた。

段々と輝きを増していく宝玉。

一誠の身体から迸る力がその拳へと集まっていく。

そしてそれが臨界を超えるかのように更に輝く。もう、それだけでも途轍もない威力を秘めていることが想像出来るだろう。

だが、それでも一誠は満足しない。

 

「もっとだ……もっと……もっと、輝けぇえぇえぇえぇえぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

その叫びと共に、全てを覆い突くさんとばかりに輝きを増す宝玉。

そしてその光は収まると共に、一誠の身体を包み込む。

そして同時に……二人は動いた。

 

「おぉぉぉおおぉおおぉおおぉおぉぉぉぉおぉおおぉおぉおぉおおお!!」

 

コカビエルは絶叫を上げながら一誠に向かって槍を投げつけた。

その瞬間、コカビエルの右腕が千切れ飛ぶ。

そして一誠もまた、コカビエルへと吠えた。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!! 『ドラグゥゥゥッブリッドッッッッッバァアアァアアアストォオオォオオォオオオオオォオオオオッ!!!!』」

 

背中から噴き出されるオーラによってミサイルのように飛び出した一誠は、そのまま両拳をコカビエルへと突き出した。

拳と槍がぶつかり合うと、今までで一番の破壊が巻き起こった。

ソーナ達が張っていた結界が即座に崩壊し、爆発が夜を光で覆い尽くした。

あまりの轟音で音という物が一切聞こえなくなり、リアス達はもう何が何だか分からなくなってしまった。ただ、この破壊の嵐の中で、自分達が生き残るのに皆必死だったのだ。

そして爆炎が収まると共に、その炎の中から飛び出して来たものが一つ。

 

「おぉおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおぉおおぉおおおぉぉぉおおぉおおおお!!!!」

 

それは………あの槍を打ち破った一誠だった。

そのまま閃光の弾丸と化した一誠はコカビエルへと突進する。

自身の最高の技を破られ、コカビエルは向かってくる一誠を見て笑う。

その表情は全ての力を出し尽くした達成感に満ちていた。

 

「やれ………」

 

そう言葉を洩らすコカビエル。

そして一誠の拳が激突する手前、それは起こった。

一誠とコカビエルの間に突如、上空から白い閃光が落下してきたのだ。

そしてそれは片手を一誠に向かって出すと、一誠の拳へと叩き着けた。

 

『Divide!』

 

機械的な音声が流れると共に、堅い物同士が激突し合う激突音がこの場に響き渡った。

自身の攻撃を受け止められても尚、拳を押し出そうとする一誠。

それを押さえようとし押し返す白。

一誠はその白を見て驚きつつも、ニヤリと笑った。

そしてコカビエルはその白を見て叫んだ。

 

「貴様、バニシングドラゴンッ!? 何故貴様が此処に!」

 

そう、一誠の拳を止めたのは、バニシングドラゴン。

白龍皇の光翼という二天龍のもう一体、アルビオンの魂が封印されている神器を持つ………。

 

兵藤 一誠の唯一の宿敵だ。

 

 

 

 


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