ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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やっと三大勢力の会談へと移れそうです。


36話 彼は参加を決める

 アザゼルから聞かされた言葉。

それは三大勢力公認の元に、一誠とヴァーリが戦えるというものであった。

二天龍が戦いし時、大災厄が訪れる。

そう言われる程にその戦いは激しく、両者が戦った場所は荒れ地というのが憚られるほどに地形が変わる。

それ故に三大勢力は両者を戦わせることを今まで良しとはしてこなかった。

戦えば、そこは地獄すら生温い冥府へと変わるから。

だが、それを今回アザゼルは否定するような事を言い出した。

もし何も知らない他の勢力の者が聞けば、正気を失っていると言われても仕方ないことだろう。

勿論そのことを知らない久遠では無い。

だからと言って、アザゼルの気が触れているようにはどうしたって見えない。

だからこそ、久遠はその真意を知りたいと思った。

一誠とヴァーリはあまり考えることはせず、既に戦えると内心を喜びで満たし、互いに闘志と殺気を燃え滾らせて睨み合っていたが。

 

「総督様、そいつはどういうことですか? 場合によっては和平が決裂しかねない話だと思うんだけど」

 

久遠はアザゼルに軽く笑いかけながら問うが、その目は真っ直ぐとアザゼルの目を見ている。アザゼルの真意を探るかのように。

その視線に対し、アザゼルは久遠の考えを読んでか愉快そうに笑った。

 

「まぁ、お前さんならそれがどういう意味なのかわかるか。確かにその通り、下手すりゃ和平は決裂するかもしれねぇ。だがなぁ………いい加減ビクビク怯えるのにも飽きるだろ。オレ等はいつまで二天龍に怯えてなきゃならねぇんだってなぁ」

 

そう言うアザゼルの表情は昔を懐かしむような色が出ている。

過去の大戦で直にその猛威を見てきた者だからこそ出せる雰囲気がそこにはあった。

 

「それになぁ、三大勢力が認めた上で戦う場所を決めれば被害は最低限に抑えられる。一々何処で殺り合うのかわからねぇから恐いんだ。決まった場所と時間でやってくれりゃぁそこまで恐くはねぇ」

 

その意見に久遠も賛成であり、それで大体を理解した。

コントロール不可能な二天龍をコントロールするための一手。

敢えて二人を戦わせる事を良しとし、その代わりにその戦いの場を提供することでコントロールし被害を減らす。

アザゼルはそう言ってきたのだ。

三大勢力が畏れるのは二天龍自体もそうだが、それ以上に両者の戦いがもたらす被害。ならばこそ、そのリスクコントロールが出来る様にすれば多少はマシになる。

それをアザゼルは提案する気なのだ。

だが、それでも久遠は視線を向けたままである。

彼はまだアザゼルの真意を掴みきってはいないから。確かにその言い分はもっともなことであり、通せば問題は少なくなる。

だが、本当にそれだけだとは思えない。

だからこそ、さらに探る。

しかし、その真意は久遠が気付く前に明かされる。

ただし、それはそれを語っていたアザゼルでは無く、睨み合っていた一誠の口から。

 

「大層な言い分で飾ちゃぁいるが、結局テメェはこう言いたいんだろ………どっちが強ぇのか見たいってな」

「っ!?」

 

一誠の口から出た言葉に久遠は驚きを見せる。

それがただの世迷い言なら笑って流していただろう。だが、そう言った一誠の顔は確信している笑みを浮かべており、それを聞いたアザゼルはニヤリと笑みを深める。

その様子から一誠の言っていることが正解であることは確かであろう。

そしてアザゼルは予想外に面白かったのか軽く笑いながら久遠に本音を言った。

 

「まさか赤腕が先に言い当てるとは思わなかったぜ。確かにその通りだ。色々と建前を建てて言ちゃぁいるが、結局は赤腕の言う通りだ。オレはよぉ……見てみたいんだよ、この最強の両者の戦いって奴を。どっちが上なのかをよぉ。男だったら気になるだろ、最強ってのをよ」

 

あっけからんとした様子で語るアザゼルを見て久遠は納得する。

この目の前に居る堕天使の総督は結局の所、ただ面白そうだから、見てみたいから、それだけで畏れられている二天龍を戦わせようとしているのだと。

いくら立場が上であろうと、この男はただ好奇心が強い子供と大差が無いと。

そうでなければ他の勢力ではまず行っていない神器の研究など行えるわけがない。

詰まるところ、アザゼルもまた『漢』であるということである。

だからこそ、一誠は久遠より先にその真意を察した。

この男ほど物事を単純に考える男もいない。故に、その建前の行き着く先をシンプルに察したわけだ。

そんな子供染みた答えを聞いた久遠は少し呆れると共に、同時に噴き出すように笑った。

世界の覇権を争う一大勢力のトップが、危険を顧みずに発した提案の根本がそのような意見だとは……馬鹿らしくて笑えてしまう。

だが、同時に馬鹿らしいが、久遠も同じ気持ちを理解した。

やはり気になるのだ。

一誠とヴァーリ……赤龍帝と白龍皇。三大勢力が怖れた最強の二者、そのどちらが上なのかが…………。

それは男にしかわからないであろう感情。

闘争心を持つ者ならば誰もが憧れを持ち、同時に恋い焦がれる気持ち。

久遠のような戦わない者でも、その気持ちは理解出来る。

だからこそ、久遠は笑う。

単純で純粋な、世界で唯一の答えに。

そのまま笑いながら久遠はアザゼルに話しかける。その様子は立場も気にせずにそんなことを言い出したアザゼルをからかうかのようである。

 

「そんなことを会談で言うつもりだったんですか? いくらなんでもそれで通ったら世の中終わりかもしれませんよ」

「そう言うなよ。でも、やっぱり気になるだろ、こういうのはよぉ」

 

からかいの言葉に悪びれもせずに答えるアザゼル。

その様子はまるでこれから始まるであろうイベントを楽しみにしている子供のそれだ。

それは何も語っているアザゼルや聞いている久遠だけではない。

話の根本である一誠とヴァーリもまた、その時を楽しみにしているのだ。

その顔は楽しみにしているとはとても思えないくらい闘志と殺気にまみれ、アザゼルや久遠とはまったく違った表情を浮かべている。

だが、それでもその気持ちは一緒……いや、見たいと言っている二人の比較にならないくらいに強い。

最強だと名乗る気などない。自分より強い奴なんて探せばいくらでもいるだろう。

だから最強というもの自体に興味はない。

だが、この男にだけは絶対に負けたくないと、それだけははっきりとしている。

それだけでいい。最強なんて言葉よりも、ただこの男にだけは負けたくない。どちらが強いのかをはっきりとさせたい。引き分けなどの半端な答えなどでは無い、白黒はっきりとした勝敗を。

それで死んでも構わないが、そもそも負ける気などない。

ただ、この目の前にいる男と戦い決着を付けたいと、両者は考えていた。

だからこそ燃え上がるのだ。

誰に邪魔されることなく、それが出来るというのだから。

燻っていた炎はアザゼルによってくべられた燃料によって更に燃え上がる。

だが、その炎の意思のままにここで暴れるわけにはいかない。

だからこそ、アザゼルは席から立ち上がった。

 

「つぅわけでオレ等はそろそろお暇するよ。伝えることも伝えたし、酒も飲んでラーメンも食ったことだしな」

 

そう言いながらアザゼルは飲み食いした料金をテーブルに置くと出口に向かって歩き出す。

それに続いてヴァーリもまた席から立ち上がった。

だが、そのまま歩き出しはせずに一誠の方に顔を向ける。

その顔は特に感情を浮かべているというわけではないが、その瞳には地獄の業火のような闘志が隠しきれずに映し出されていた。

 

「これでやっと……あの時の続きが出来る」

 

静かな言葉だが、確かな闘志が伝わってくる。

その言葉に応えるように、一誠もまた返事を返す。

 

「あぁ、そうだな………絶対に負けねぇ」

「それはこちらもだ。負ける気など微塵も無い」

 

ただの返事の応酬。だというのに、二人の間には濃密な殺気が渦巻いていた。

そして二人は同時に笑みを浮かべると共に口を開いた。

 

「絶対に負けない! その時まで首を長くして待っておけ」

「絶対に負けねぇ! そん時がテメェとの決着の時だ!」

 

それは互いに新たに交わした約束。

絶対に戦うという誓い。

それを言い終えるとヴァーリは満足したようでそれ以上は何も言わずに一誠に背を向け出口へと歩いて行く。

その背を一誠は見送るのみ。

だが、その視線は確かな戦意が込められていた。

そして店内から居なくなる二人。残った一誠と久遠は時間を持て余すかのように話し始める。

その内容は主に先程アザゼルが言っていたこと。

三大勢力による会談とその会談への参加要請。

確かにただ金を出すから出てくれと言われても、一誠は首を縦には振らなかっただろう。

だが、今は違う。

それを肯定するかのように鳴り出す久遠の携帯。

その画面には勿論、ある人物の名が標記されていた。

それを見て笑う久遠。そして一誠は見た瞬間にこの場でして良いわけがない凄まじい笑みを浮かべる。

その笑みに多少呆れながら久遠はその電話に出た。

 

「もしもし」

『いやぁ、夜分遅くにすまないね。実は頼みたい案件があるんだが……』

 

その声は二人にとって聞き覚えのある声。

それは彼等の得意先。

その人物の名を久遠は笑いながら口にした。

 

「いや、いつでも問題ありませんよ、『サーゼクス様』」

『そう言ってくれると有り難い。悪魔らしいと言われると少し困るが、基本私達は夜間が活動時間だからね』

 

軽い冗談を口にするのは悪魔達の王の一人、『サーゼクス・ルシファー』。

一誠と久遠のお得意先である彼が久遠に連絡を取ってきたと言うことは、勿論依頼したい仕事があると言うこと。

それがわかっているからこそ、久遠は営業スマイルを浮かべて話を聞く。

そして出された依頼は彼等が予想していた通りのものであった。

それを聞いた久遠は一誠に指を立てて笑みを浮かべ、一誠はそれを見て予想通りに笑みを深めた。

 こうして、一誠の三大勢力会談の参加が決まった。

 

 

 

 

 


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