ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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まだ戦わない。
そして次回は明かされる一誠とヴァーリの出会いです。


41話 彼等は前哨戦を行う

 禍の団による三大勢力の和平会談襲撃も失敗に終わり、世界は安定を取り戻しつつある。

とは言え、それでもその被害は甚大であった。

襲撃者側である禍の団は一派閥とは言え大きな勢力であった旧魔王派の半分近くが死んだ事により、組織を離反する者が増え始めてきた。

これがまだ三大勢力の混合軍との激突による結果ならば、皆納得し戦意を燃えたぎらせていただろう。

だが、事実はまったく違う。

それ程の殲滅を行ったのは軍団ではない。たった『二人』の存在だけで行われたのだ。

それも片や旧魔王ルシファーの血を引く今世の白龍皇。そしてもう片方は人間だというのに規格外の強さを発揮する今世の赤龍帝。

本来ならば激突し合い殺し合う運命にあるはずの両者が、何と手を組んで襲撃者を撃退した。

その事実が彼等に巨大な恐怖を植え付けた。

あの軍団をたった二人で、それも一方的に殺し続けるなど、最早恐怖以外の何物でもない。

故に禍の団の旧魔王派はしばらく行動不能となった。

それだけに留まらず、他の派閥にもその話は広まり、動きを鈍くさせていく。

結果として禍の団は全体的に表での行動を控えざる得なくなったのだ。

対して三大勢力の方はと言えば、人的被害は皆無であった。

多少負傷者を出しはしたが命に関わるようなものはなく、あの大軍に襲撃された事を考えれば奇跡としか言いようがない。

だが、それは人的被害だけであり、それ以外においてはあまりにも酷い有様であった。

戦場となった駒王学園はほぼ壊滅しており、復旧には一週間近くの時間が必要となることに。何せ学園の敷地内で無事な部分など殆ど無く、建物は見る影も無い程に崩壊していて原型が残っている物は何一つない。敷地内も荒れ果てており、植えられていた樹木は全て吹き飛んで荒れ果てた大地が広がるだけだ。

一部の大地ではあまりの高熱に晒されたのか、熔解して冷え固まっている地面もある。

この状態を見れば、誰もがそこに学園があったなどと思わないだろう。

目の前に広がるのは戦争でもあったかのような、灰燼に帰した街跡のようであった。

ここまで行くと、いくら結界を張っていたとはいえ誤魔化しきれない。

彼等の力に結界が耐えきれなかったからだ。

故に急遽、駒王学園は一週間の休校ということになった。

表向きの理由としては、学園の一部でガス漏れなどがあったため、一度全てのライフラインの総点検を行うためということになっている。

これにより、この学園に関わる全ての人間は不信感を抱くこと無く学園から足を遠ざける。

学園の復旧には三大勢力の者達が皆で協力して事に当たることで何とか復興は可能。だが、彼等もまた、恐怖を感じていた。

これ程の大規模な破壊。それがたった二人によって起こされたのだ。それもやろうとしてやったのでは無く、巻き込まれただけだというのに。

その破壊は見る者全てにう恐怖を刻み、残虐な殺しは魂までも殺しに掛かる。

まさに破壊の化身。彼等の暴れた跡を見て、助けられたはずなのに三大勢力の者達は二人を畏怖の対象として見る。いくら自分達が彼等によって救われたと分かっていても、それ以上に恐ろしかったのだ。

そんな規格外な力を平然と振るう彼等のことが。

 そのように双方から畏れられた二人だが、その怒りは禍の団の集団を壊滅させたことで少しは多少は収まりを見せていた。

彼等の中では既に暴れ終わった後の事に興味など無く、先にあることに意識が向かっている。

それこそ、まるでムシャクシャして暴れ回った子供の様にすっきりとした様子で笑顔を浮かべて愉しみにしていることが窺えた。

ただし、その笑みは凶悪な殺気を孕んでおり、見る者の全てを震え上がらせる程に凶悪であったが。

二人の共通の目的であること。

 

『全力で殺し合いたい(喧嘩したい)』

 

それがやっと叶うのだ。

それまでに互いの高めていた力の全てを躊躇無くぶつけることが出来る。

それが如何にこの世に影響を与えるのかなどを気にすること無く、周りへの被害を気にすることも無く徹底的に戦える。

邪魔されることも無く、終わるまでずっとやれることが一誠とヴァーリは楽しみで仕方ないのであった。

だが、それでも……楽しみにしているからこそ、直ぐには戦えない。

あのような事があったばかりであり、和平を結んだ三大勢力が最初に行った事は二人の後始末であった。

そのため、まだ二人が戦う場所については話しあっていない。

そんな二人が今、どこに居るのかと言えば…………。

 

 

 

「店長、叉焼大盛りで頼む」

「俺は塩でね」

「オレ、生と餃子頼むわぁ。勿論ラーメンもな」

「私は味噌ラーメンを頼もうか。後生ビールもお願いするよ」

「ならオレは醤油ラーメンを頼む。醤油ラーメンは全てのラーメンの基本だ」

「人間界に来るのはそうそうありませんから、こういったお店に来るのは初めてですね」

 

最早恒例になりつつあるかのように、彼のラーメン屋に来ていた。

勿論一誠とヴァーリだけでなく、久遠やアザゼル、サーゼクスも一緒であった。珍しく天界の大天使であるミカエルも来ている。

三大勢力のトップと二天龍、その明らかに過剰なまでに有名な面々に彼等を知っている者が見れば恐れ戦き腰を抜かしただろう。

それと同時に和平を結んだとは言え、悪魔と堕天使と天使が一緒のカウンターに座っているというのは中々に変わった光景でもあった。

一誠は食事にありつけると喜びを顕わにし、それに付き合う形で久遠も注文を入れる。ヴァーリは妙なこだわりがあるのか何やら細かな説明をしつつ注文し、アザゼルとサーゼクスは酒を飲むべくラーメンと一緒に生ビールを頼む。そして初めて暖簾を潜ったミカエルは何やら緊張した様子で物珍しそうに辺りを見回していた。

何故このような面々がこの場に居るのか? それは何てことはない、ただくつろぎに来だけである。

確かに今の三大勢力は忙しい。

だが、常にトップが指示を出さなければならない程に無能でもない。

彼等は仕事を部下に任せると、こうしてこの店に来たのだ。ちなみにヴァーリはアザゼルの付き人として、一誠と久遠はサーゼクスが奢ると言ってきたので付いてきた。

何でこのような面子が集まったのか。それは偏に、この後話すであろう内容が関わってくる。

 

「へい、お待ち!」

 

ここの主の威勢の良い声と共に出されるラーメンと酒。

それが全員に行き渡ったところで改めてサーゼクスが皆に話しかける。

 

「今日この店に集まって貰ったことに感謝を。まぁ、簡単な打ち上げといったところだね。三大勢力の和平締結、そして禍の団の撃退。その成功に私達は君達に感謝している。こうして新たに平和になったことを、心から喜んでいるよ」

 

それを聞いた所でアザゼルが茶々を入れ、ミカエルが注意する。

そのようなやり取りが行われたところで一誠達も動き、ラーメンを食べ始めた。

本来なら、このような壮大な人物達が行う宴会ならば、城一つ貸し切りにした上で途轍もない豪華な食事やらダンスやらといった大事になるだろう。

だが、それをサーゼクス達は望まない。

寧ろ気軽にこ来られ、気負うことも無く過ごせるこの店の方が彼等なりに望ましかったのだ。

その後は壮大な面子にしては呆れるほどに馬鹿騒ぎをし始めた。

主にアザゼルが酔っては絡み、サーゼクスは悪のりし、ミカエルはそんなアザゼルに黒い笑みと共に辛辣な突っ込みを入れる。

一誠はそんなアザゼルとサーゼクスを鬱陶しいと軽く撥ね除けてはラーメンを啜る。

対してヴァーリは冷静にラーメンの分析をして一人言を呟いていた。

残る久遠はミカエル相手に下に出つつも商談を持ちかけ、ミカエルはアザゼルへの突っ込みもそこそこにそれに応じて話し合いを行う。

まさに混沌とでも言うべきだろうか。別に行っていること自体はそこまで可笑しくない普通の光景。だが、している者達が者達なだけに明らかに可笑しさを感じさせる。

きっとリアスやソーナ、それにイリナがこの光景を見たら卒倒していたかもしれない。それぐらいこの光景は可笑しかった。

そんな可笑しな騒ぎの中、一誠は我慢仕切れなかったのように二人に話しかける。

 

「それで……いつになるんだよ、俺とヴァーリの喧嘩はよぉ」

 

その言葉に冷静に分析していたヴァーリも反応する。

 

「それはオレも気になる。アザゼル、今の状況は分からなくは無いがその話はどうなっているんだ?」

 

二人の言葉を聞いてそれまでにやけて巫山戯ていたアザゼルは止まる。

この場に於いて、それまで互いに睨み合っていた一誠とヴァーリが特に互いに牽制し合わなかったのは、その話が決まってはいたからだ。

だからこそ、いい加減決めて貰いたかった。

二人からすれば、焦らされているようにしか感じられないのだから。

大人しくしているのも限度があり、そろそろはっきりさせないと二人とも我慢出来そうに無い。

そんな意思が表情から出ていたのか、アザゼルは少しばかり面倒臭そうな顔になり、サーゼクスは苦笑を浮かべた。

 

「その件について、後三日だけ待って欲しい。それぐらいすれば学園の理事長室が使えるようになる。そこで改めて君達の決闘の場について話し合おうと思っているんだ」

「お前等、もうちょっと我慢ってもんを覚えろよ。ちゃんと決めたからにはやるんだからよ。こっちにだって都合ってもんがあるんだ」

「普段からサボっている貴方にそんなことを言う資格は無いと思いますけどね」

 

サーゼクスが理由を話し、アザゼルが諫め、そのアザゼルに突っ込みを入れるミカエル。

そんなやり取りを聞かされて二人は引き下がるしか無かった。

取りあえずは考えては貰っているし、三日後にはその日時や場所もはっきりすると確約を取り付けた。

だからこそ、取りあえずは引く。

だが、それでもやはりモヤモヤはするという物。

我慢して焦らされた分の炎は燻り火花を散らし始める。

それを察してか、アザゼルは面白そうな物を見る目で一誠とヴァーリに声をかけてきた。

 

「そんなに焦れったいってんなら、ここいらで一つ、前哨戦といこうじゃねぇか。つっても、ド突き合いなんてしようもんなら店長に怒られちまうんでなぁ。こいつでまずは競っちゃどうだ。店長、この店に置いてある度数の高い酒、ありったけ頼むわ。払いはオレが出してやるよ」

 

その声と共に二人の前に出されたのはさっきまでアザゼルが飲んでいた生ビールの瓶。

それを見たサーゼクスが悪ノリして来た。

 

「確かにそうだね。ここで少しはガス抜きをした方がいい。店長、私も半分出すから彼等にかなり良い酒を頼むよ」

 

二人して若者に酒を勧めるというのはあまりにもよろしくないだろう。

当然止めようとする者も現れる。

 

「二人とも、いくら何でもそれは……」

 

ミカエルが二人の行動を止めようとするが、それはアザゼルによって強制的に止められた。

 

「そう堅いこと言うなよ、ミカエル。男ってのはこういうときは意地を張り合うもんなんだよ。それでド突きもせずに張れるもんってんだったら、こいつしかねぇよ。そらぁ、お前ももっと飲め飲め!」

「なっ!? ぐごぼぉっ……」

 

そのまま酒瓶を口に突っ込まれるミカエルは半ば無意識に中の酒を飲まされる。

結果、瓶がカラになると同時にミカエルは気絶した。

大天使が酒に溺れて気絶など、最早堕天しかねないだろうが、それは神が決めること。神がいない現在、ミカエルを裁ける者など誰も居ないのだから問題は無い。

そして五月蠅い者もいなくなったところでアザゼルは店長に出して貰った酒をグラスに注ぎ、二人の前に出した。

それを見て二人とも何がしたいのか察し、互いに闘志を燃やし合いながら睨み合った。

 

「いいぜぇ、前哨戦。やってやろうじゃねぇか」

「いいだろう。どちらが上なのか、まずはこいつで見せつけてやる」

 

ノリ気に二人は言い放ち、同時にグラスに手をかける。

その様子に満足そうに笑うアザゼルとサーゼクス。

久遠はそんな二人にどっちが勝つのかを賭けを持ちかけ胴元を務める。

再び騒ぎ始めた者達に向かって、店長は少しだけ声をかけた。

 

「お前等、あまり騒がしくするんじゃねぇぞ。うっさかったら酔っ払ってようと容赦無くこいつをぶち込んでやる」

 

そう言って見せつけたのは、焼きを入れている最中の鉄鍋。

若干赤く光っており、高熱を発していることが窺える。

喰らえば如何に一誠やヴァーリといえども無傷では済まないだろう。

だが、それを見ても一誠とヴァーリは怯えない。もう互いにやる気が漲っていた。

だからこそ、返事の代わりに店長の声と共に同時にグラスを持ち上げ、そして煽った。

 そこから始まったのは世にも珍しい赤龍帝と白龍皇の飲み比べ。

それを嬉々とした様子で愉しむ魔王と堕天使総督、そして人間。大天使は未だに沈んでいた。

本当にこれが世界を騒がせている者達とは思えないくらい、騒いでいた。

 そしてこの数時間後、両者とも気絶で飲み比べは引き分けを迎え終わりとなり、打ち上げは終了した。

この日から二日間に渡り一誠とヴァーリは二日酔いの悩まされたのは言うまでも無いだろう。ちなみにミカエルも同じである。

そして打ち上げから三日後の駒王学園理事長室にて、彼等が求めるべき物は決まった。

 

『冥界に広がる大樹林、その中で一ッ箇所だけ浮いている何も無い荒れ地。その場所を戦場とし、時間は明後日の十時にて行う』

 

それを聞いて一誠はニヤリと笑みを深めた。

その場所はに決まったのは運命だろうか。その場所は………。

 

彼が初めてヴァーリと在った場所であった。

 

 

 


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