ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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最近お気にいりが少しずつ減っています。
もうちょっと待って下さい。
次回は確実に激戦にしますので。


42話 彼等の出会いの記憶

 数々の動植物が大地を覆い、紫色の雲一つ無い空が広がる世界。

ここは冥界。悪魔と堕天使が住まう世界。その世界にある一つの樹海に今、二人の人物が立っていた。

樹海と言っても二人が居るところは草木一つ生えていない荒れ地。まるで何かがあったかのように荒れ果てた大地が広がっていた。

そんな樹海の一部に広がった荒野。その荒野の中央にて、彼等は対峙していた。

片方は茶髪をした目つきの悪い青年。もう片方は白銀の髪をした美青年。

まるで正反対のような二人だが、その実中身はほぼ同じ。

目の前に居る宿敵を倒したいと闘志に燃えていた。

これはただの戦いではない。

茶髪の青年……赤龍帝である兵藤 一誠と、白銀の髪をもつ白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。

赤龍帝と白龍皇。天界と冥界に於いて過去に多大な、それこそ種族の存亡に関わるくらいの甚大な被害を及ぼした2体のドラゴン。そのドラゴンを封じた神器の使い手。

互いに惹き合い、そして殺し合う運命を背負う両者。それは元を正せば2匹のドラゴンの争いが原因。そしてそれは神器になろうと変わらない。

同じ時代に現れた時は必ずと言って互いに激突し合い殺し合ってきた。それは最早運命どころか呪いと言い替えても良い。

だが、今から戦おうというこの二人に限ってはそうではない。

相手が自分と相反する神器を持つ赤龍帝、白龍皇だからではない。

自分が認め魂に刻んだ、自分だけの敵だから戦うのだと。

宿命や運命、呪いなどではない。戦うべき、否、戦って、そして超えたい奴がいるから戦うのだと。結果として殺し合いになるだろうが、そんな事は関係無い。

二人はただ、目の前にいる自分だけの敵と戦って、勝ちたいだけだから。

 

 

 

「いやぁ~、こうして見ると感慨深いもんがあるなぁ」

「こうして間近に二天龍の戦いを見れるとは思わなかったよ」

「和平を結んだ私達の会議の最初の議題がこんなことになるとは思いませんでしたけどね」

 

一誠とヴァーリがいる樹海からかなり離れた所にある城。

その城の中で宙に浮かべた映像を見ながらとある3人は述べる。

それは現四代魔王の一角、サーゼクス・ルシファー。堕天使による組織『神の子を見張る者』の総督、アザゼル。そして大天使ミカエルの三名。各勢力のトップが代表として城に集まっていた。

彼等が和平を結んだ後に最初に話し合った議題は両者の戦いについてであった。二人の願いを叶えつつ、被害を最小限に押さえる。そのために彼等は二人が戦う場所を決め、その日時を話し合うといったプロデュースを行った。

その話し合いの通りに二人は従い、もっとも冥界で被害が出ても問題無い場所で対峙しているのである。

そしてその戦いを見届けるべく、こうして城で二人の様子を見ているというわけだ。

映像は彼等が特別に作った望遠可能なカメラを設置した使い魔によって撮られている。

その送られてくる映像を見ながら、彼等はこれから始まるであろう戦いに固唾を飲み込む。

何せ彼等が知る限り、最強の二天龍同士による戦いだ。

過去の大戦にも引けを取らないくらいの激戦が予想される。だからこそ、彼等は知りたいのだ。この戦いの行く末を。

そしてその映像を見ているのはトップの者達だけではない。

サーゼクスの親族であるリアス・グレモリーや彼女と同じ立場にある友人のソーナ・シトリー。そして二人の眷属達や各種勢力の者達や一誠の腐れ縁こと久遠と彼の家族であるアーシア・アルジェント。

言わば関係者とも言うべき者達も又、二人が映る映像を見つめる。

 

「イッセーさん………」

 

その映像を見て、アーシアは一人真剣な眼差しで映像に映る一誠を見つめていた。

彼女はただ、一誠の無事を祈り、そして一誠の事を信じるだけだ。

その瞳は不安に揺れつつもひたすらに、彼のことを信じていた。

 

 

 

「……まさか此処だとはな。随分と久しぶりな気がするよ」

「そうだな……まさか此処になるとは思わなかったぜ。だがまぁ……一番俺等らしいじゃねぇか。あの時から始まった喧嘩だ。ケリを付けるのに一番ふさわしい場所ってやつだろ、なぁ」

「違いない」

 

一誠とヴァーリは二人で対峙しながら笑い合う。

その様子はとてもこれから殺し合いを始めるようには見えない。まるで昔を懐かしむ友人のような雰囲気で会話をする。

二人が立っている荒野。ここは二人にとって因縁のある特別な地であった。

荒野といえども、元からそうだったわけではない。ここは元は周りと同じ緑に溢れた樹海だったのだ。

それが何故、こうも周りから隔絶したかのような荒野と化したのか。

それは……二人の出会いが原因だった。

二人はこれから殺し合う……または命掛けの喧嘩をする。

だからなのか、目の前に居る最高にして最大、そして最強の敵との出会いを思い出していた。

 

 

 兵藤 一誠が神器に目覚めたのは物心付いて少し経った後。確か小学一年生くらいのことだろうか。それまで彼は孤児院で生活する普通の少年だった。

多少勝ち気な所がある小生意気な少年、それが昔の一誠だ。

孤児院の運営が苦しいことはどことなく知っていた。だからこそ、少しでも早く大人になって孤児院のために何かしようと心に決めていた心優しい少年だった。

そんな彼は少し苦しいけれど、毎日を幸せに過ごしていた。

だが、その心は何処か物足りない気持ちを感じていた。自分の何かが足りないような、心に穴が開いているような……。そんな感情を彼は持て余していた。

その正体はその時分からなかった。まだ、この時点で彼にはそれが理解出来なかったから。

しかし、それを理解するのは早かった。

ある日の夕方、彼は学校帰りにちょっとした冒険という名の道草を食った。

少し離れた所にある廃墟。彼が通う学校ではちょっとした噂になっている訳ありの場所である。

彼は好奇心からその廃墟へと冒険をしにいったのだ。

子供なら誰もが持つ好奇心。未知への興味は尽きず、不気味故に心惹かれる。

だからこそ、一誠はその廃墟へと入った。

そしてそこで出会ってしまったのだ………悪魔に。

そこはよくある廃墟だが、そういったところにはぐれ悪魔は住み着く。

学校で噂されていたものは、廃墟には怪物がいるというもの。その噂の通り、確かに怪物が居た。

そして怪物に出会ってしまった以上、後はどうなるかなどわかるだろう。

 

一誠ははぐれ悪魔に襲われた。

 

読んで字の如く、はぐれ悪魔に殺されそうになったのだ。

当時、何も力を持たない一誠は当然逃げ出した。

当たり前だ。子供が如何に頑張ろうが、あんな化け物に勝てるわけがないのだから。

そして同時に、如何に逃げようが子供の足の速度で逃げ切れるわけが無い。

一誠はそのまま追い詰められた。

そしてはぐれ悪魔は一誠を喰らおうと大きな口を開ける。

その真っ赤な口を、鋭く全てを切り裂く牙を、口から香るあまりにも生臭い悪臭を感じ、一誠は思った。

もう駄目だと。自分はここで化け物に喰われて死んでしまうと。

自分が如何に矮小であるかを思い知らされ、そして如何に間抜けであるかを理解させられた。道草など食うのでは無かったと。いけないことをしたからこうして自分はしんでしまうのだと後悔した。

だが、それと同時に本来なら有り得ない感情が沸き立ってくる。

目の前に居る化け物が自分を食い殺そうとしている。それに怯えている自分に怒りが湧き起こる。そして害そうとする化け物にも怒りというのには甘過ぎるくらいの激情を抱いた。自分に害を及ぼそうとする化け物を許さない。

 

『ぶっ飛ばして(ぶっ殺して)やると』

 

本来なら有り得ない感情。

目の前に居る敵に対し反抗しようとする意思が一誠をより昂ぶらせた。

芽生えたのは深紅の殺意。敵対者を排除しようとする鋼の意思。

それを自覚した瞬間、一誠の中でそれまで抜けていた物が埋まった。

彼がずっと物足りないと感じていた正体。

 

それは……闘志。

 

決して綺麗な感情では無い、殺意によって構成された闘志。それが一誠の心から抜けていた物だった。

普通の少年ではまず有り得ない感情。だが、一誠はその感情を自覚することで、初めて本当の自分になった気がした。今までの腑抜けた不完全な不良品ではない、全てが整った完成品へと。

そしてその自覚が、生命の危機に晒され芽生えた殺意が、彼の中に眠っていた力を呼び覚ました。

 

赤龍帝の籠手の発現。

 

そして全てが埋まった一誠は襲い掛かろうとするはぐれ悪魔に襲い掛かった。

初めて手にした力と溢れる殺意。闘争への愉悦が入り交じり、押さえが効かなくなっていたのだ。

そして一誠が正気を取り戻した後に見たのは、最早原型を留めない程に破壊された大きな肉塊。廃墟は彼方此方が壊れ、月光が血まみれの一誠を照らしていた。

 

これが覚醒。一誠がもっとも自分らしい自分を手に入れた瞬間だった。

 

それから彼は変わっていった。

孤児院の家族の前ではそれは見せなかったが、その力を使って裏で暴れ始めた。

子供如きに負けるはずないと高を括っていた大人を殴り飛ばし、その力を見せつけて裏の仕事に手を染め始めたのだ。

子供と侮られるのは常であったが、見せしめに壁の一つでも殴り飛ばして消し飛ばせば皆黙った。

力こそ全てと言わんばかりに一誠は暴れる。

それでも、その目的は孤児院のために金を集めようとするものだったが。

そして力を使い熟せば熟すだけ強くなり、彼は自分が強いと力に溺れるようになった。それでも孤児院のことを大切に思い、そのために力を振るうことは変わらなかったが。

そして裏で名が出始めた頃、一誠は再び相対することとなった……はぐれ悪魔と。

違う点を上げれば、初めて会ったのが化け物だったのに対し、此方は人型で小物だということ。

一誠の姿を見て嘗めたはぐれだったが、逆に思い切り殴り飛ばされて自分が不利なこと悟り逃亡。

その際、冥界に逃げるべく転移魔法を発動したのだが、一誠はそんなことに気付くわけも無く更に追撃を加える。結果としてその転移に一誠も巻き込まれたのだ。

一瞬にして見知らぬ土地に飛ばされた一誠は即座に辺りを警戒した。

覚醒して以来、そういった荒事をしてきた一誠には緊急時における対処というものを自然と学んでいったのだ。

彼が飛ばされたのは紫色の空と見たことも無い木々が生い茂る樹海。

一誠が知る限り、そんな場所は無い。だからこそ、少しでも自分が置かれている状況を知るために一誠は森の中を歩き始めた。

まさか自分が人間界ではなく冥界にいたのだと、この時は知るよしも無かった。

そして歩き回っていた所、彼は見つけたのだ。

白銀の髪を持った、自分と同じくらいの子供を。

その少年もまた一誠に気付いた。

その顔を、その目を見て二人とも同じような事を感じた。

 

『気に喰わない!!』

 

そう、初めて見た相手に対し、彼等が感じたのは不快感に近いそれだった。

とても初対面の相手に抱く感情ではない。本来ならもっと別のことを考えるべきだ。何故こんな所に子供がいるのかや、此処が何処なのか情報を得ようと行動するのが当然のはず。

だが、この二人はそうは考えなかった。

ただ会った。別に怨みや怒りを相手に抱いてなどいない。

だというのに、二人が感じたのは敵意だった。

 

『気に喰わない、目障りだ、何だこいつは、むかつく、苛立つ』

 

相反する存在だと、魂が感じ取る。

目の前に居るのが自分の敵だと自然に察した。

可笑しな話だろう。始めて出会い、一言も言葉を交わしていないというのに。

だが、彼等はそれがもっとも正しいと認識した。

可笑しくなど無い。目の前に居るのは……

 

たった一人、唯一無二の自分の敵だと。

 

だからこそ、二人は同時に叫んだ。

 

「ガァアァアアァアアァアァアアァアアアッ!!」

「オォオォォォォオオオォオオオォォオォオッ!!」

 

そして二人とも自分の力である神器を展開し、目の前の敵を倒すべく突撃した。

そこから始まったのは、とても子供が出来る様な戦闘ではなかった。

一誠が拳を振るえば木々がへし折れ、白髪の少年が攻撃を繰り出せば大地が消し飛ぶ。

その戦いの様子は上級悪魔に匹敵し、樹海だったそこは見る見る内に荒野へと変わっていく。

一誠と少年は自分の身体から血が噴き出そうとも止まらずに攻撃し続ける。

そんな戦い方をして長く持つわけが無く、二人が動きを止めた時にはもう満身創痍であった。

身体から血が流れ滴り、足下を赤く染める。

呼吸は安定せずに弱々しくなり、身体は痙攣するかのように震えている。

子供の身体にはあまりにも深い致命傷。このまま行けば死ぬ可能性すら出て来るだろう。

だが、その目は光を失っていない。両者とも殺気の籠もった視線で睨み合っていた。

そして二人とも互いに察する。

次が最後の一撃になると、自分の力の残りを何となくだが理解していた。

だからこそ、二人は互いに初めて声をかけた。

 

「おまえ、なまえは?」

「お前の名前を言え」

 

それを同時に言ったものだから、可笑しかったのか二人とも笑ってしまう。

身体中から激痛が走り口から血が漏れたが、それでも彼等は笑う。

そしてニヤリと笑いながら名乗り合った。

 

「おれはイッセー。ただのイッセーだ」

「オレの名はヴァーリ。姓は…………いや、そんな物は必要無いか。ただのヴァーリだ」

 

互いの敵の名を知り、彼等はその名を魂に刻む。

初めての敵に対し、友情のようなものを抱きながら。

そして同時に最後の一撃を放つべく動いた。

獣のような咆吼を上げ、残りの全てをかけて放つ一撃。

その拳がぶつかり合った瞬間、世界は啼いた。

一誠はそこから先のことは覚えていない。

あまりの威力に世界の壁が綻び、その穴に一誠は吸い込まれて冥界から消失した。

そして人間界に戻り、重体の常態で人に発見された。

その後は病院に送られ入院。そして一誠が知っている通りだ。

この二人の初めての激突により、冥界の樹海の一部は荒野と化した。

それは冥界でも少し騒ぎになったが、誰もその原因を知らない。

ヴァーリもまた、この時にアザゼルに拾われて事なきを得た。それによって現場は何も残らなかった。唯一あったものといえば、識別出来ないくらい細切れになった肉片のみ。後にそれが人間界に逃げ出したはぐれ悪魔だと知られたのは、少し時間が経ってからだった。

この出会いにより、二人は自分と同じかそれ以上の存在を知り、互いに負けぬと独自に鍛え始めた。

こうして兵藤 一誠とヴァーリ・ルシファーのファーストコンタクトは終わった。

 

 

 

「今にして思い出せば実に馬鹿馬鹿しい出会いだった」

「あぁ、調子扱いたガキが喧嘩をふっかけて返り討ちにあったってんだから笑えるもんだったぜ。だけどよ………」

「あぁ」

 

互いに対峙しつつ懐かしそうに語る一誠とヴァーリ。

次の瞬間、同時にその瞳には殺気と闘志を宿し咆えた。

 

 

「「今度は俺(オレ)が勝つッッッッッッッッ!!!!」」

 

 

 

 そして二人は同時に神器を展開した。

 

 

 

 

 

 


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