ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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やっと本編っぽくなってきました。
でもリアスの出番ってあまり少ないんですよね~……。


5話 彼は拒絶する

 はぐれ悪魔、バイザーを討伐しリアスの追撃を躱した一誠は久遠と合流した後に仕事の不満とリアスの事を軽く報告した。

そのことに久遠はそこまで深刻になった様子ではなかったが、ばれたことを少々面倒に感じていた。

同じ学園に通っているのだ。正体まではばれてはいないようだが、それがばれるのも時間の問題だろう。何せヒントが多すぎる。

元女子校ということもあって男子生徒の少ない駒王学園。その数少ない中でも、更に一誠のような言動をする者を調べれば数は更に絞れる。

別にばれたところで一誠達に何か問題があるわけではない。だが、少々騒がしくなり厄介になるのは確実だ。

その面倒事に辟易していた久遠であったが、それ以上に厄介に感じていた事は一誠が仕事の不満のあまりラーメンを奢れと集ってきたことだ。

そのあまりのしつこさに久遠は折れ、泣く泣くラーメン屋に連れて行くことになった。

 その日、一誠は久方ぶりにまともなラーメンを食べ、その美味さに仕事の不満とばれた事への危惧感を忘れていた。

 

 

 

 翌日、いつも通り学校に一誠は登校した。

特に変わりようもなく、久遠と下らないやり取りをしながら通学路を歩き、昨日奢って貰ったラーメンの愚痴を聞きながら教室へ入っていった。

そして授業は相変わらず聞き流し寝て過ごす。

そのまま昼休みまでずっと変わらずそのまま過ごし、昼になった途端に起きた。

そして上機嫌に鞄から『自分の昼食』を取り出す。

鞄から出てきたのは、コッペパンである。それも多くのスーパーで流通しているコッペパンにあんことバターが塗られている有名な商品だ。

昨日の収入で懐が温かくなった一誠はたまには贅沢をしたいと思い買ったのである。

例の如く殆どを寄付してしまったため、朝から久遠に小言を言われたがそれも今更のこと。そんな一誠であるが、多少は贅沢をしたいときもある。

そのまま至福の時を過ごそうとした一誠であるが、それは突然の来訪者によって中断される。

 

「ここに兵藤 一誠君がいるって聞いたんだけど」

「あ?」

 

甘いささやかな声が自分の名を言ったことに反応し一誠は其方を向くと、そこには金髪の美しい少年が立っていた。

この学園でも有数の美少年である木場 祐斗だ。

祐斗は周りに集まる女生徒に軽く挨拶をすると、一誠の方まで歩いて来た。

 

「兵藤 一誠君……だよね」

「んだよ……」

 

不機嫌な一誠の反応に苦笑する祐斗。

周りの女生徒は普段からあまり関わらない一誠のことをこの時に限り批難する。

だが、不機嫌そうな一誠の様子を見て弱腰になり、批難の声も弱々しい物になっていた。

周りの空気を察して祐斗は苦笑を浮かべたまま話を勧めることにした。

 

「実はね、部活の先輩が君に用があるんだ。だから呼んでくるよう言われたんだけど……駄目かな?」

「俺がその呼びかけに応じる理由があるか?」

 

ジロリと睨み付ける一誠にあはははと困った様子で祐斗は笑う。

確かにこの場合、一誠が行く理由がない。見ず知らずの人間の呼びかけに応じる必要がないのだ。

 

「そもそも、用があるなら本人が直に来るもんだろうが」

「そう言われると困っちゃうな。それに連れてこないと僕も怒られてしまうしね」

 

困り顔の祐斗に一誠は表情を変えないが、内心では苛立っていた。

何せ楽しみにしていた昼食を邪魔されているのだから。しかもこのまま行けばこの話し合いは平行線であり、昼休みが終わってしまうのは目に見えているのだ。

それを我慢出来る程、一誠の精神は成熟していない。

後二、三言祐斗が話を長引かせるようなら、即座に『ちょっと荒いお帰り』を願うところだった一誠だが、祐斗が言う前にそれは止められた。

 

「分かった、分かったからそれ以上そいつを刺激しないでくれ。教室で暴れられたらたまったもんじゃねぇよ」

 

一誠と祐斗の間にいつの間にか久遠が入り、一誠に落ち着くよう視線を向けながら祐斗に話しかける。

 

「あれ、君は?」

「ああ、俺はこいつのダチだよ。こいつをお前の先輩とやらの所に連れて行くから俺も連れて行けよ」

 

一誠を落ち着けるように肩を叩きながら祐斗に自分も連れて行くよう久遠は言う。

それに対し、祐斗は別の意味で困った顔をする。

 

「それはちょっと困るなぁ。僕が呼んでこいって言われたのは兵藤君だけなんだけど」

「俺はこいつの関係者なんだから別に良いだろ? そうケチケチすんなよ」

「う~ん、困ったなぁ」

 

祐斗が呼ぶのはあくまでも一誠のみであり、『一般人』である久遠を連れて行くわけには行かない。そう祐斗は考え断ろうとすると、久遠は祐斗にしか聞こえないよう囁いた。

 

「俺が『仲介屋』だと言ったら?」

「っ!?」

 

その言葉に祐斗は言葉を飲み込んだ。

リアスが探していた『仲介屋』が目の前に現れたのだから、驚愕せずにはいられない。

そして二人を見て祐斗は、久遠も連れて行くことを決めた。

 

「………分かったよ。それじゃ行こうか」

「話が分かる奴で有り難てぇ。それじゃ行くぞ、一誠」

「……あぁ、面倒くせぇ」

 

そして移動し始める三人。

その奇妙な組み合わせに本来なら注目を集めそうなものだが、何故か皆気にせず素通りする。そのことに祐斗は違和感を感じたが、特に気にせず歩いて行く。

彼等が本拠地である部室………旧校舎の『オカルト研究部』へと。

ニヤリと笑う久遠と呆れる一誠を連れて。

 

 

 

「ここが僕が入ってる部活の部室だよ」

 

祐斗に連れられて歩くこと数分。一誠達は旧校舎の一室に案内されていた。

旧校舎らしく木造であり、辺りは老朽化していつ崩れるか分からないくらい古い。

その中にある奥の一室。そこにはありありとオカルト研究部の看板が掲げられていた。

その中に案内されると、中は外と違ってシックなデザインの部室に変わっていた。

暗く日の光が入らないが、蝋燭の明かりでより幻想的な雰囲気を漂わせる。

壁には魔方陣や如何にもな道具が飾ってあり、あからさまに『オカルト』らしさを醸し出していた。

中に置いてあるソファには小柄な少女が座っており、羊羹を無表情ながらに黙々と食べていた。

この駒王学園の有名なマスコットとして有名な塔城 小猫である。

一誠は子猫をじっと見つめる。

その視線を感じた子猫はさっと羊羹を一誠の視線から外すように動かした。

 

「……あげませんよ」

「いらねぇよ…」

 

子猫にそう返すと、祐斗に促され久遠共々別のソファに座った。

そして待つこと数分。お茶を携えた姫島 朱乃と共にリアス・グレモリーがやってきた。

 

「ごめんなさいね、急に呼んで」

 

朱乃のお茶を受け取りながら話しかけるリアスに一誠は不機嫌そうに睨み見つけ、久遠はニコニコと営業スマイルで応じる。

この場に呼んでいないはずの久遠にリアスは何故連れてきたのかを祐斗に問おうとしたが、その前に先んじて久遠が口を開いた。

 

「あぁ、俺がいるのは簡単な理由だ。俺があんたらが探してた『仲介屋』だからだよ」

 

「「「!?」」」

 

その発言に祐斗を覗いた三人は驚いた。

その反応を面白そうに久遠は見て笑うと、リアスは咳払いを一回した後に真面目な表情になる。それは学生の顔ではない。この地の管理を司るグレモリー一族の顔だ。

 

「まさか仲介屋まで見つかるとは思っていなかったわ」

「別にそんな驚くようなことでもねぇよ。案外探せば身近にいるもんだよ、俺みたいなもんはさ」

 

不敵に笑う久遠にリアスは少し戦く。

この状況で怯え一つ見せずに笑うというのは普通ではありえない。

その答えを言うように、久遠はリアス達に告げる。

 

「それで? 『元72柱』グレモリーのお姫様御一行が俺達に何の用かな。デートのお誘いってんなら、喜んで受けるけどよ。そうでないってんなら早く返してくれねぇか? 一誠の奴がまだ昼喰ってないんでね。こいつは喰いモンの話になると嫌にしつこいぞ」

 

からかう様に言う久遠にリアス達は再び驚いていた。

まさか此方の正体がばれているとは思わなかったようだ。

そのことに気取られぬようリアスは咳払いを軽く一回すると余裕の表情で久遠に話しかける。

 

「まさか此方の正体を知っているとは思わなかったわ。でも、これで話しやすくもなった。話というのは、コレまでと昨日の件よ」

 

そう言いながら二人に見えるようにテーブルにリアスはあるものを置く。

それを見た一誠は間の抜けた声を出し、久遠はあちゃ~と額を手で覆う。

 

「この馬鹿! 何で生徒手帳なんて落とすかなぁ~。普通持ってこないだろ」

「うるせぇよ。しかたねぇだろ、着替える時間も無く仕事だったんだから」

 

そして二人とも顔が同時に動き、互い額をぶつけ合わせながら睨み付け合う。

 

「何だよ!」

「何だって!」

 

お互いに一歩も引かない様子にリアス達は戸惑うが、それでも話を勧める。

 

「と、ともかく! この生徒手帳であなたのことを知ったのよ……兵藤 一誠君」

「……そうみたいだな」

 

一誠は面倒臭そうにそう答えるとばつが悪そうな顔になる。

それを気に、リアスは捲し立てるように昨日言ったことと同じことを一誠と久遠に聞かせる。

曰く、もうはぐれ狩りは止めて貰いたいと。

それに対し、久遠は軽く首を横に振る。

 

「こいつにも言われたと思うけど、そいつ出来ねぇよ。俺達だって商売だからなぁ。文句があるなら大公にでも言ってくれ。それにウチの依頼は大公や『魔王』だって了承してることだからな。文句はご自慢のお兄様にでも聞いてもらうんだな」

 

そう答える久遠の顔はあいかわらず余裕に満ちていた。

その圧倒的な姿にリアスは苛立ちつつも我慢する。

まさかリアスの実兄である魔王まで依頼をしているとは思わなかったが、それだけ信頼されていないと言うことに内心嘆きそうになった。

だが、だからはい、そうですかと引き下がれる訳が無い。リアスは食って掛かるように久遠に頼み込む。

 

「それでもよ、それでも手を出さないで。これは悪魔である私達の問題なの。だから人間であるあなたたちが関わって良い問題じゃないわ。お金が欲しいって言うんだったら、その依頼料以上のお金で手を打つわ。だから……そうだ、いっそ彼を私の眷属に誘えないかしら? 彼程の腕なら申し分ないわ。それに眷属になったら毎月多額のお金を渡しても良いし。だから……」

 

そこから先の言葉は出なかった。

何故なら、一誠が耐えられなかったからだ。

 

「そういう問題じゃねぇし、そんな金いらねぇよ」

 

席から立ち上がった一誠は今にもキレそうな一歩手前になっていた。

正直さっさと帰りたい気持ちもあったが、それ以上に金を出すと言われて我慢がならなかったのだ。

その身に纏う雰囲気にリアス達は息を飲み、久遠はあちゃ~と額に手を当てる。

 

「俺は施しなんてクソったれたもんを受ける気はねぇっ! 手前ぇのことは手前ぇで決める! 仕事は自分で決めてやってるんだよ。横からちゃちゃ入れてくるんじゃねぇ! 金じゃねぇんだよ、こいつはよぉ! 何より、俺は誰の下にも着く気はねぇっ!!」」

 

苛立ちの籠もった咆吼にリアス達がビクっと震える。

ただの人間に自分達が恐怖を感じている。その事実に内心では驚きを隠せずにいた。

そしてこの後、更に驚かされることになった。

 

一誠はそのまま左腕を胸の前に出すと、

 

「来い、ブーステッドギア」

 

赤き装甲をその左手に纏わせた。

その籠手の姿、そしてその名を聞いてリアスは驚きのあまり声を洩らしてしまう。

 

「なっ、ブーステッドギア(赤龍帝の籠手)ですって!?  それはもしかしてあの神滅具(ロンギヌス)の……」

 

神器の中でも特に強力な、それこそ神を殺しかねない程の力を持った物のことを『神滅具(ロンギヌス)』と呼ぶ。

その中でも一誠のブーステッドギアは有名で、赤き龍の帝王ドライグの魂が封じられている代物だ。その特性は十秒に一度、その力を倍化させるというもの。元の力から二倍、四倍、六倍と倍化していく。通常のただの龍の魂が封じられた『龍の籠手』は一回だけ持ち主の力を上げるだけであり、回数制限なしに力を上げ続けられるというのは破額の能力なのである。

驚愕に顔を染めるリアス達に久遠は鼻で笑うように教える。

 

「ご明察。こいつは今世の赤龍帝ってやつだ。だから甘く見てると」

 

久遠の言葉が終わる前に一誠の左腕から音声が流れた。

機械的でありながらどこか渋い男の声である。

 

『explosion』

 

その瞬間部室内を龍のオーラが吹き荒び、辺りの装飾を床に落とし始めた。

そのあまりの力の大きさにリアス達は言葉を失う。まさに目の前に本物の龍がいて、睨み付けられているような感覚に陥る。生殺与奪権を全て握られていると思わされた。

魔力ではない。だが、それは確実な力。その暴風の中心地で一誠は不機嫌そうにリアスを睨み付ける。

その様子に久遠はやれやれと呆れながらリアスに先程の続きを答えた。

 

「だから甘く見てると……痛い目をみるぜ」

 

イイ笑顔で答える久遠にリアス達は反応している余裕はない。

気を抜いた瞬間には消滅させられるのではないかという恐怖に駆られているから。

一誠は別にそこまで力を出していない。ただ倍化の能力を使い、『力を押さえる力』を上げていただけ。その力を軽く解き放ったに過ぎないのだ。

 

「あんたらが口を出そうと俺は止めねぇよ。もし邪魔をするって言うんだったら……」

 

ここで初めて一誠はここに来て表情を変えた。

野獣のような凄まじい、破壊の衝動を前面に出した笑みを浮かべたのだ。その笑みは壮絶で、見る者全てを恐怖に打ち震えさせる。

 

「打ち砕く!」

 

そう言い終えると共にブーステッドギアを元に戻して踵を返し帰り始めた。

 

「ま、そういうことで。痛い目に遭いたくなけりゃあ大人しくしてることだな、お姫様。んじゃな」

 

先を歩く一誠に久遠は付いていくように歩き、共にオカルト研究部の部室を出た。

それまでの間、リアス達は呼吸をすることも忘れ、ただ恐怖するしか出来なかった。

 尚、一誠が本校舎に入ると共に授業のチャイムが鳴り、腹から悲しそうな音が鳴ったのは言うまでもないだろう。


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