蛇足的な回と言いつつネタの所為で長くなっちゃいました(笑)。
出来れば前編を見た後に続けてお楽しみください。
時は戻り現在。
疾風と那由他の両方から話を聞いた恭助は深く思考を巡らせるように俯き、開口一番に総合的な結論を述べた。
「・・・・・・ぅん?つまり俺にはお前を殴る権利がある、と?」
「うん、一回落ち着こうか恭助」
いきなりバーサーカー化一歩手前になってる相棒を冷静に諫める那由他。
だが恭助も先ほどの末恐ろしい発言と裏腹に異様にクールダウンした態度で言い返す。
「いや、俺は落ち着いてんだけどよ。ただその話の流れでどうして那由他が空中に投げ出されるような状況になるんだ?」
それはとても理路整然とした物言いだったが、逆にそれがある意味怖い。
「ふっふっふ。やっぱそれが気になるかサー坊」
対する疾風はそんな殺気に近い何かを放っている恭助の様子に気付いていないのか、得意げに腕組みをしている。
「・・・・・・、」
恭助はそんな彼女に心底呆れたように溜息を吐いた。
すると唐突に彼女は子供を叱るように少し眉を寄せ、恭助を指さした。
「お前、ナユちんと喧嘩したんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少年は答えず、ただ静かに見返す。
「あたしも初めっから何かナユちんの様子がおかしいなーとは思ってたんだ。んで、ここまで飛んでくる途中で話聞いたらやっぱりサー坊と一悶着あったって言うじゃん。そんであたしは考えたんだ・・・・・・」
そこで疾風はあえてもったいぶる様に言葉を切り、屈託のない満面の笑みで言った。
「仲直りにはハグが一番だよなってな!」
「よし、殴るか」
「ちょ、恭助ストップストップ!」
やけに軽い調子で凶行を強行しようとする恭助を慌てて止める那由他。
その甲斐あって一応、一旦矛を収める恭助。
「でもよぉ那由他。コイツのアホは一発殴っとかないと治んねぇんだって・・・・・・」
「・・・・・・いやいや、そもそもアンタは何でそんなにキレてんのよ」
「うおっ!?って御坂か、驚かせんなよ」
「悪かったわね、私で」
なおも愚痴愚痴と不満を漏らしてはいるがとりあえず殴るのは止めた恭助に、あまりの急展開の所為で今まで完全にスルーされ空気と化していた御坂が痺れを切らして口を挟んだ。
「まあそれはいいとして、質問に答えなさいよ」
「うっ・・・・・・」
頭に血が上って御坂のことをすっかり忘れていた恭助は言葉に詰まった。
別に何も後ろ暗いことは無いが、正直にそのまま自分と那由他の関係を話してもこの頭の固い直情型のお嬢様は高確率で誤解するだけだろう、と思ったからだ。
だからここはじっくり言葉を選んで一つ一つ紐解くように説明する必要がある。
「そうだな。まずこのバk・・・・・・疾風と那由他は俺と同じ風紀委「何だ何だサー坊、ナユちんと喧嘩したからどうなんだろうと思ってたけど、やっぱりナユちんのことが好きなんじゃねーかっ」ちょ、この、お前・・・・・・ッ!」
だが流石、空気の読めない『風力使い』。そんな彼の打算を一瞬で粉々にする。
「・・・・・・・・・・・・」
そしてこのジト目である。
常盤台の少女が何を思っているのかはその目を見れば大体分かった。
『瞳には心が写る』、恭助ら風紀委員組の共通の先輩である呉藍剣科の言葉だ。
「こぉんの鳥頭っ!テメェのそのヒットした頭はやっぱり、いっぺん矯正する必要があるみてぇだな!」
「おっ?やるかサー坊。お前と拳をぶつけ合うのは久しぶりだな!」
イライラが募って血管ピクピクの恭助とそんなことより目の前の少年と戦いたくて高揚ウキウキの疾風(この状況は彼女が意図して起こしたものでは無いがそんなことはどうでもよくなっている)。
「(あー、これもう私が何言っても収まんないパターンだ・・・・・・)」
風紀委員の小学生がもう半分諦めかけていた、その時だった。どこかで聞き覚えあるバイクの音が聞こえたのは。
「お前ら!何をしている!」
噂をすれば何とやら。学園都市の外にあるワルキューレというバイクに似たデザインのワインレッドを基調とした大型自動二輪車に乗っていたのは風紀委員の呉藍剣科だった。
彼女はヘルメットを脱ぐと、端から見ても一触即発ムードの後輩達の間に入った。
「け、剣科先輩ッ?」
「け、ケンちゃん先輩ッ?」
共通の先輩の登場に恭助だけでなく疾風も背筋が伸びる。
「剣科お姉さん、どうしてここに?」
那由他も予想だにしなかった事態に困惑している。
「いやなに、私も相良のことが心配だったんでな。詰め所は他の者に任せてきた。その様子では元気そうだが、まったくお前達は・・・・・・」
相変わらず血気盛んな後輩二人に溜息を吐かずにはいられない剣科。
だが恭助はその物言いに納得がいかないらしく反論した。
「確かに俺も取り乱したことは事実だけど、こいつと一緒にされては困る」
「どういうことだ?」
そこらの警備員なら言い訳だと切って捨てるようなことでもちゃんと耳を傾ける彼女に密かに尊敬の念を送りつつ、恭助は一度深呼吸をし気持ちを落ち着かせると弁明を始めた。
「結局の所、俺が一番怒っている所はこいつが『仲直りにはハグが良い』とかいうふざけた理由で那由他を飛行中に投げ飛ばしたことで、俺はその危険性を全く理解してない、口で言っても分からないアホに一発ゲンコツ落として“Don't Think. Feel”を地でいくバカに文字通りその痛みっつう感覚を教えたかっただけなんだ。・・・・・・つーか俺が那由他を受け止め損ねたらどうするつもりだったんだよ、疾風」
「お前なら必ず受け止めてくれると信じてたぜッ、サー坊っ!」
「いや、そんな無責任な信頼いらねぇよ・・・・・・」
少年漫画風の口調で清々しいまでに断言する疾風。
その温度差についていけない恭助は手を振るジェスチャーを加えつつ、毒気の抜かれたやる気のない声で断る。
「・・・・・・何にせよ疾風に悪気は無かったんだ。許してやれ相良」
「むしろそうだからタチが悪いんだけどな・・・・・・」
「疾風お姉さん、悪い人では無いのは確かなんだけどね・・・・・・」
完全な熱血バカである疾風には、三人とも肩を竦めるしかない。
「ところで恭助。そのお姉さんは誰なの?」
事に一段落がつき、肩の力を抜いた那由他が恭助に尋ねた。
「ぅん?ああ、御坂のことか?こいつはアレだよアレ、常盤台のエースの第三位」
「すっごい適当な紹介ね。まあ私も、何が何だかでもう怒る気力ないから良いけど」
またしても空気化していた御坂のことだと気付いた恭助だったが、もう今日だけでも色々あった疲れがここに来てピークにきたのか、その答えはどこか力無いものだった。
御坂も同感だったようで、いつもなら文句を言う所だがスルーした。
そのあっさり過ぎる回答に呆気にとられている那由他に代わり、剣科が反応した。
「では君が相良を助けてくれた御坂君か。私は彼の先輩の呉藍剣科という者だ。ありがとう、君は私の後輩の恩人だ。おい、相良っ。何をしている礼を言わんかっ」
そう言いボケっとしていた恭助の頭を掴んで無理矢理下げさせる剣科。
「いやいや良いですよ、別に礼を言われるようなことしてないし・・・・・・」
まるで厳格な姉と素直じゃない弟のようだ、と御坂は思いつつも制止を促した。
「ふむ、君がそう言うなら止めておこう。だが相良、礼を言わなくて良くとも受けた恩が消えることは無い。そのこと、
御坂の言うとおり恭助の頭を押さえつけるのを止める剣科。しかし代わりに念を押すように恭助に自らの言葉を授けた。
「あいあいさ」
しかし頭を押さえつけられ過ぎで体がくの字を超え、ヘアピンカーブ状態になっていた恭助はふて腐れ気味でそう適当に返事する。
途端、さっきまで穏やかだった剣科の目が据わる。
「・・・・・・返事は『はい』だ」
「は、ハイっ!」
曲がったことが許せない先輩に凄まれ子犬のように縮こまる後輩。
絶対に覆らない関係図がそこにあった。
「えっと、その、美琴お姉さん?」
「え?何?」
そこで那由他が意を決したように御坂に話しかけた。
だが、憧れの超能力者との唐突な対面で心の整理が出来てないためにその声は子猫のようにか細い。話しかけられている御坂本人さえ耳を澄まさないと聞こえないぐらいに。
彼女はこのような突発的で自分の予想を超えた事態に弱いのだ。
「あの私、木原那由「いよぉう!アンタがサー坊を助けてくれたって人かっ?あたしの名は小鳥遊疾風ってゆーんだっ。ヨロシクなっ『ミコりん』!」
ここでまたしても空気の読めない疾風がしゃしゃり出てきて那由他の言葉を裂いた(しかもいきなり変なあだ名を勝手に作って勝手に呼んでいる)。そんな暴挙を見逃す恭助ではない。
「テメェ疾風!今、那由他が話してるだろうが!邪魔すんじゃねぇよ!」
無論、恭助が真っ先に指摘するのは那由他についてのことだ。
ここまでくるともはや健気でさえある。
しかし当の疾風はそんな彼らのことより目の前の御坂のことしか眼中に入っていない。
彼女はまっすぐで清々しい性格をした好人物なのだが、あまりに性格がまっすぐ過ぎて一つのことに集中したら周りが見えなくなることがたびたび(というよりほば常に)あるのだ。
「う、うんっ」
御坂も彼女の持つ気迫に押されたことでツッコミを忘れ、何となく頷いてしまう。
「いやー、ウチのサー坊が世話になったぜ。アリガトなっ、ホント」
そう言って何気なく手を差し出す疾風。
彼女の爽やかで朗らかな笑顔と差し出された手をしばらく交互に眺めていた御坂だったがそれが握手を求めているものだと気付き、慌てて握り返す。
御坂が反応するまで嫌な顔一つせず待っていた疾風は満足そうにもう一度笑うと元気良くその繋がった手を上下させる。
御坂がその高低差があり過ぎる握手に、痛そうな苦笑いをしていると突然その間を裂く者が現れた。
そう、比喩表現では無く本当に突然に、だ。
「そこの貴女。わたくしのお姉様に対するその横暴、このお姉様の露払いたる白井黒子が許しませんわ」
それは小柄でツインテールな常盤台の制服を着た風紀委員だった。
そして恭助にはその名前に聞き覚えがあった。
「(ぅん?白井って、どっかで・・・・・・)」
そして思い出す。
「(確か御坂達の友達だったか?)」
正しくは御坂と白井の関係は同じ学校の先輩後輩なのだが、まあニアピンのようなものである。
その白井だが今は疾風と絶賛言い争い中である。
「・・・・・・ですから、お姉様と友好を結びたいならまずこの露払いたるわたくしを通してくださいな」
「・・・・・・ツユハライって何だ?」
「んなっ!?・・・・・・そのような言葉も知りませんの?」
「つーかダチ作んのに誰かの許可とか必要ねーじゃん。あたしが友達になりたいっつー気持ちがありゃーもうそれで半分友達になったも同然だろ?」
「はぁ、何て身勝手な方ですの。そもそもお姉様は貴方のような野蛮人が気安く接して良い方ではありま「そんなことより『シロ子』、お前もあたしとダチになろうぜっ」ああっもう!ヒトの話を聞いてくださいですの!」
いや違った。もはや言葉が通じてない。
疾風のマイペースさは筋金入りであるため、そうそう覆るものではない。
学園都市に七人しかいない超能力者の第三位や学園都市でも58人しかいない空間移動能力者も例外では無い。
そう、ある一人の人物を除いては・・・・・・、
「おい、疾風・・・・・・」
そんな地獄の釜の底から聞こえてきたような低い声が疾風の鼓膜を振るわせる。
「あひゃん!け、ケンちゃん先輩?」
びっくりしていつもの彼女からは想像できないような可愛い叫び声を上げる疾風だが、どうやら剣科は彼女以外の後輩達にも物申したいことがあるらしく、恭助・那由他はすでにその後ろで背筋を伸ばして一列に並んでいる。
そのオーラだけで剣科が何を言わんとしているか理解した疾風(ほぼ涙目)は急いでその列に加わる。
そしてあまりの気迫にこちらも姿勢を正してしまっている御坂と白井の前に並ばせる。
それが終わると一人ずつ正面に立って説教する。
「まず疾風ッ」
「はひぃ!」
「お前のそのフレンドリーさは決して悪いものでは無い。だがそれが時に強引さと受け取られ、人に迷惑をかけたり不快にさせてしまうことがあるのだぞ?分かったな?」
「うぅ、はい・・・・・・」
「分かったのなら彼女ら、そして相良と那由他にも謝って、今度からはもう少しゆったりと接するんだぞ?」
「分かったよ、ケンちゃん先輩」
剣科の真摯な言葉を受けた疾風は言いつけ通り御坂達に自分の非礼を謝る。
「次、那由他」
「うん・・・・・・」
「お前も苦労人なのは私も重々承知しているし、お前に否がないことも分かる。だが時々自信を無くして場に流され、というより他人に身を任せてしまうことがお前にはある。それは時と場合では良いことなのかもしれんが、その所為で後になって悔やむような選択をしてしまうことだってありうるかもしれない。それだけは気を付けるんだぞ?」
彼女は少し俯いた後、静かに顔を上げた。
「・・・・・・うん、分かったよ剣科お姉さん」
そして、しっかりと頷いた。
「よし、では改めて彼女に自己紹介、だな?」
那由他が頷いたのを確認すると、剣科は穏やかな笑みを浮かべそう促した。
少女もそれに応え、心を落ち着けた後で再度自己紹介をした。
最初は剣科に圧倒されていた御坂達も、それを快く受け取った。
そうすると剣科は話が終わった二人と御坂達を解放し、恭助と一緒に彼らから離れた場所に移動した。
「最後に相良」
「・・・・・・、ハイ」
「・・・・・・納得がいかんといった様子だな」
「・・・・・・、」
恭助は黙って俯く。
「お前がどれだけ那由他を大切に思っているかは私も知っている」
その言葉で慌てて顔を上げ何か言おうとした恭助だが、肝心の言葉が見つからず視線を迷わすばかりだ。
「だがしかし、お前はあまりに那由他に対し・・・・・・過保護すぎる」
依存、という言葉は憚れた。
きっと彼らの関係はその一言では説明できないものだと彼女が思ったからだ。
「相良、お前は那由他のことになるとすぐ暴走する癖がある。だが、お前の場合は大袈裟すぎるかもしれんがその感情は私にも理解は出来る。それは、まあ良い。直そうと思って直せるものでは無いだろうしな。だからといって自制しなくて良いということではないぞ?」
そこで深呼吸する。
ここまでは前座だ。
真に彼女が言っておきたいことは別にある。
「お前、初春飾利という少女と行動を共にしただろう」
「・・・・・・ああ、そうだけど」
恭助は突然その少女の名前が出てきたことに訝しげな目をする。
「彼女に話を聞いた。彼女はお前に感謝していたよ、お前が側にいてくれたことで勇気を貰ったっとな」
彼女の『守ってくれた』というのはこういう意味だったのだ。
かの少年は自分の心を守ってくれたのだ、と。
「・・・・・・、別に俺は大したことは何も・・・・・・」
そのことを剣科に聞かされ照れたのか、少し戸惑う素振りを見せる恭助。
だが、剣科が言及したいのはそのことではない。
彼女はある確信を基に、突きつけるように言った。
「その時、彼女から聞いたんだ。・・・・・・お前最初、
「っ・・・・・・」
動揺で恭助の喉が詰まる。
剣科が彼の両肩を強く掴んだのだ。
そして彼の先輩は自分の無知を承知の上で彼を詰問する。
「相良・・・・・・私はお前の過去に何があったかなんて知りはしない。それでもお前には那由他がいるだろう?なのに何故自分から、自分だけ死地に飛び込もうとするんだ?」
「剣科先輩、俺は・・・・・・」
彼女は本当に何も知らない。それでも問い続ける。その行為は赤の他人にはする権利が無く、距離が近過ぎる那由他では出来ないことだから。
今ここで、彼に問うことが出来る人物が自分しかいないと思ったから。
責め立てたことで疎ましく思われても構わない、憎まれ役の汚れ役ぐらい出来なくて何が先輩か。
「・・・・・・、言っておくがそれは自己犠牲なんて綺麗なものではない。そんなものは、ただの自己嫌悪だ。誰かを救って自分は命を落とすなど、笑い
剣科は吐き捨てるように言う。普段の彼女ならまずしないことである。
それだけ彼女がそのことを重要視しているということだ。
「最後にこれだけは覚えておけ相良。・・・・・・お前がお前自身のことをどれだけ嫌っても、お前のために涙を流してくれる者達の存在を忘れるな。それは那由他だけじゃない、私も疾風も、他にも多くの人がいる・・・・・・勿論、あの初春飾利という少女もだ」
剣科は言い切ると一呼吸置いてその張り詰めた表情を解き、柔らかな笑顔で最後の結びの言葉を言った。
「・・・・・・さて、帰ろうか」
恭助はただ頷いた。
そうしながら、先程の彼女の顔を思い出す。
あの顔はまるで怒っているようで悲しんでいるようで、寂しそうな顔だった、と。
気付けばかなり遅い時間になってしまっていた。
ここ第七学区に寮がある御坂達はともかく、恭助達の住居は第二学区と少し遠い所にあるので帰りは体重の軽い那由他は疾風の飛行、恭助は剣科のバイクの後ろに乗せて貰った。
最初こそ恭助が、またしても那由他を疾風に運ばせることに難色を示したり剣科という年頃の女性と必然的に密着する二人乗りに躊躇したりしたが結局そうした方が早く帰れるという合理的な判断の下、決定した。
道路を走り、信号で止まらなくてはならないバイクの方が遅いので那由他・疾風ペアは各々先に帰って自分の相方を待つとのこと(疾風は剣科と同じ高校の一つ下の後輩で、そのため寮も剣科と同じである)。
恭助はバイクが発進してから初めの方は出来るだけ体が触れ合わないように背筋を伸ばしていたが、疲労が溜まっているであろう彼を労った剣科の快適な運転のおかげで段々と疲労感がぶり返し、眠りこけて落下しない程度にはリラックスしていた。
まるでもたれかかるように剣科に掴まっている恭助。
そのまま彼は呆然と歩道の方を眺めながら考える。
そこには帰宅途中なのか、老若男女たくさんの人達が歩いていた。
「(例えみんながどう
歩道を歩く人々を見る。
彼らにはこの世界がどんな風に見えるのか。
「(やっぱり世界は『理不尽』だし・・・・・・ヒトは何度だって間違いを繰り返す・・・・・・それが『現実』・・・・・・だけど)」
それぞれが見ている、それぞれの世界。
同じモノを見ていても、それはきっと全然違う。
だけど、これだけは言える。
「(世界は、俺が思っていたよりずっと『温かい』ものだった)」
それが今、確かな人の温もりを感じながら彼が出した『答え』だった。
そしてふと、また歩道の方に視線を向けた。
そこに『俺』がいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
走行中のバイクに乗っている俺と歩道を歩いている『俺』。
視線を交わしたのは一秒に満たない一瞬。
だが、いた。
『俺』が、いた。
向こうも自分に気付いた、そう恭助には確信があった。
そしてその姿も彼の網膜の裏にはべったりと鮮明に記録されている。
無造作な茶髪。
驚きで見開かれていた薄紫の瞳。
理知的で優男風の童顔。
喪服のようなダークスーツと黒帽子。
バイオリンが似合いそうな風貌。
年齢と性別ぐらいしか自分との共通点は無かった。
それでも彼は、いや
「せっ・・・・・・先輩ッ、剣科先輩!止めてくれ!早くっ!!」
驚愕と動揺で喉を引き攣らせながらも恭助は剣科にバイクを止めるように言った。
突然何事かと困惑した剣科だったが、丁度良いスペースを見つけてそこにバイクを停める。
恭助は呼び止める剣科の言葉を聞かずに走り出す。
さっきまでここにいた『俺』を探すためだ。
何故だかは分からない。
そうしなければ危険だ、と本能に近い部分が言っているのだ。
『俺』を見つけたことが、
『俺』に見つかったことが、
だが、恭助は結局『俺』を探し出すことが出来なかった。
剣科に事情を聞かれたが、何と言って良いのか分からなかった。
そして彼にはそこから帰るまでの記憶が無い。
ただひたすら暗がりに隠れたオバケを怖がる子供のように剣科にしがみついていたことをぼんやり記憶しているぐらいだった。
帰った後も何とか二人分の食事は作れたが、自分が食べることは出来なかった。
夜も、いつまでも目が冴えてその日は眠ることが出来なかった・・・・・・。
時計の針は戻り、そして運命は重なる。
夕暮れに照らされた雑居ビルの屋上に一つの影。
その影はまるで公園のベンチに腰掛けるような気軽さで、屋上にある手すりに座っている。
そして携帯電話片手に、独り言のように呟く。
その悠然とした声は気品よりもその人物の底知れなさを含む。
その様子はいかにも楽しそうなおどけたモノ。
「いやはや僕としたことがあまりの驚きで、側にあった
少し長めの襟足を後ろで縛った金髪。
驚きで見開かれた金色の瞳。
不幸面でやる気が無さそうだが整っている中性的な顔。
これと言って特徴が無いがしっかり校則通り着用された制服。
エレキギターが似合いそうな風貌。
年齢と性別ぐらいしか自分との共通点は無かった。
それでも彼は、いや
「ぅん?ああ、すまない。ちょっと凄いモノを見てしまってね。いや、さっき話した爆発騒ぎとは別件なのだが」
彼は妖しくも静かな笑みを口元に浮かべながら回想する。
その時、彼は電話で偶然見た
そしてふと、車道の方に視線を向けた。
そこに『僕』がいた。
『僕』と目が合った。
二人乗りのバイクの後ろに乗っていた『僕』と・・・・・・。
そこで彼は相手との通話を終わらせた。
自身の眼下を見ると
そのまま彼は呆然と歩道の方を眺めながら考える。
そこには帰宅途中なのか、老若男女たくさんの人達が歩いていた。
「(世界は想像していたよりずっと狭くて窮屈で・・・・・・ただ退屈なものだと、かつての僕は決めつけていた・・・・・・)」
歩道を歩く人々を見る。
彼らにはこの世界がどんな風に見えるのか。
「(だがこの世界はまだ僕が知らない『不思議』で溢れている・・・・・・ずっと昔に『彼女』に会ったことで、僕が今まで見てきたモノは世界のほんの一部でしかなかったのだと知った・・・・・・そして)」
それぞれが見ている、それぞれの世界。
人は主観でしか、物事を認識できない存在だ。
だけど、これだけは言える。
「(世界は、僕が思っていたよりずっと『面白い』ものだった)」
それが今、携帯電話を手の中で軽く弄びながら彼が出した『答え』だった。
さて、前回までは本当に蛇足的回にしようと思ってたんですけど、今更ながら作者、「この物語全然進んでねぇよヤベーよ」と思ったしだい、このように最後でどんでん返しの新展開を加えさせていただきました。まあ、「こんなあからさまな展開読めてたぜ」って人がいたらマジ作者道化なのですが・・・・・・。
いつも何故か無駄に後書きが長くなるダメダメな作者ですが、次回もよろしくお願いします。