とある正義の人間兵器《サイボーグ》   作:大器・晩成

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 前回、もう一人の『自分』と遭ってしまった恭助。その出会いが生み出すのは革新か破滅か・・・・・・。

 今回、新ヒロイン登場!?

 やっとこさ虚空爆破事件編が終わったので、ここから一気に話が進むように努力していくつもりです。なのでどうか温かい目でお楽しみください。


10話 騒然と遭遇

 ここはどこだ・・・・・・?

 

 研究所の中だ。

 

 確か『計画』のための試験場の一つ、だったか?

 

 今は電源が落ちているのか、そもそもライトが壊れているのか、まるで奈落の底のように真っ暗だ。

 

 だがそれでもあたりの機材などが滅茶苦茶に壊れ、散乱しているのは一目で分かった。

 

 今は何時だ・・・・・・?

 

 随分長い間ここから出ていないので季節は分からない。

 

 ただ、時間はたぶん正午前後だ。

 

 ならば自分は何だ・・・・・・?

 

 自分はどこの誰なんだ・・・・・・?

 

 血溜まりの中心で答えの返ってこない質問を繰り返す。

 

 誰もその問いには答えない。

 

 ここには誰もいないから。

 

 ここに生者はいないから。

 

 誰もが死んでいるから。

 

 自分が殺したから。

 

 ふと側にあったガラス窓を見る。

 

 それは外に通じる窓ではない。

 

 その向こうもまた建物の中だ。

 

 向こう側も真っ暗だ。

 

 ここに光など、無い。

 

 そのガラスには血塗れの『自分』の姿が映った。

 

 その顔は取り返しのつかないことをしてしまったという罪悪感で青ざめているように見えた。

 

 その顔は自分から全てを奪おうとしたヤツらを皆殺しに出来て喜んでいたように見えた。

 

 どちらが本当の『自分』の顔なのか分からなかった。

 

 

 ・・・・・・いや、

 

 

 そもそも、

 

 

 これは『自分』の顔なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ、とある高校のとある教室では、夏休みを明日に控える今日最後の授業が行われていた。

 

「もう、相良ちゃんっ。授業中の居眠りはダメなのですよ」

 

「へぇあ?・・・・・・ああ、ハイ。すみません小萌(こもえ)先生」

 

 クスクスっと周りから聞こえる忍び笑いを聞き流しつつ、恭助は自分の担任教師である月詠小萌(つくよみこもえ)に頭を下げる。

 

 この教師、見た目は明らかに小学生なのだが、これでも大学を卒業したれっきとした成人女性なのだから驚きである。

 

 だがその見た目の所為で子供扱いされ、本人は困っているらしい。

 

 多くの女性達が若さを保とうとエイジングケアなどの創意工夫をして頑張っている中で、『若く見られ過ぎて』苦悩している人がいるというのだから現実とは中々に理不尽だ。

 

「(現実は小説より奇なり、か・・・・・・)」

 

 奇妙なことと言えば昨日のアレは何だったのだろうか。

 

 もう一人の『俺』。

 

 結局見つからなかったが確かに存在していた。

 

「分かれば大丈夫なのですよ。それにしても相良ちゃんが授業中に居眠りなんて珍しいですね?」

 

「まあ、昨日はちょっと考え事をしていて眠れなかったんで・・・・・・」

 

 寝起きのためか、つい口が滑ってしまった恭助。

 

「・・・・・・えっと、相良ちゃん。何か悩み事があるのなら、後で聞くですよ?」

 

 この生徒思いな教師の前でそんなことを言えば十中八九、心配させるに決まっていた。

 

「別に大したことじゃねぇから良いよ小萌先生。そんなことより授業の続きを」

 

 急いでそう取り繕う恭助。彼女もそれ以上は生徒のプライベートで繊細な問題と判断し、余計な詮索しなかった。

 

「そうです、ね。それでは相良ちゃん、本当に困った時は構わず先生に言ってくださいね?・・・・・・では授業の続きですけど、そもそも能力開発において最も重要視される項目の一つ、相良ちゃんは分かるですか?」

 

「『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』のことか?」

 

 間髪入れずに答える恭助。そんなことは能力開発の基本中の基本である。

 

「はい、その『自分だけの現実』ですかそれを説明する場合に『量子論』と『シュレーディンガーの猫』が使われますがそれらの共通点とは何ですか?」

 

「どっちも確率論ってとこだろ?」

 

「正解です相良ちゃんっ、基本はもうバッチリなのです」

 

 心の底から嬉しそうに笑う小萌先生。

 

「(確率論・・・・・・)」

 

 もう一人の『自分』と偶然遭遇する確率とはいかなるものか。

 

 そこで恭助は唐突にこんな質問をした。

 

「なあ、小萌先生。もう一人の『自分』っていると思うか?」

 

「ふぇ?えーと・・・・・・それは俗に言う『ドッペルゲンガー』のことなのですか?」

 

 『ドッペルゲンガー』。それは自分とそっくりな姿の分身を見たり、複数の場所で同時に同じ人物が目撃されるたりする現象のことを言う。

 

「いや、たぶんそれとは違うんだけど、何て言って良いのか・・・・・・」

 

 『奴』は恭助と顔立ちどころか服装さえ違った。

 

 なのに彼はそれを『自分』だと認識した。

 

 一体何をもってそう判断したのか?

 

「(『奴』と俺の共通点。それは・・・・・・)」

 

「なんつーか姿形じゃなくて、あえて言うなら・・・・・・“存在”?」

 

 

 “存在”が似ていた。

 

 

 自分で言ってみても意味が分からないが、こうとしか言いようが無かった。

 

「“存在”が似ている?ですかぁ、うーん・・・・・・?」

 

 こう見えてかなりの博識である小萌先生でさえ頭を捻るしか無いようだ。

 

 質問している本人さえ意味が分からない質問なのだから当然である。

 

「・・・・・・いや、答えを聞くのはまた今度にするよ。手を煩わしちまってすみません小萌先生」

 

 こんな無意味な自分の質問に時間を使っては教育大好きな彼女に悪いと思った恭助は、そう社交辞令な言葉で場を取りなす。

 

「いえいえ、いつもは普通に真面目に授業を受けてくれる相良ちゃんも良いですけど、先生はそうやってたまに面白い質問を投げかけてくれる相良ちゃんも、新しい考え方や発見を得られる機会が生まれて先生も勉強になるので好きですよ?」

 

 だが、それを社交辞令と気付かない純粋なこの教師はさらにニコニコ顔になって微笑む。

 

「だいぶ前に聞いてくれた『天然能力者の原石が存在するとして、彼らを学園都市とは違うベクトルで発達した学園都市並の高度な科学力を持った機関がもしゼロから分析した場合、学園都市の方式とは違う人工能力者が出来るのか』という質問なんて学園都市の教師である先生では思いつきもしなかったことなので、色々と考察のし甲斐があって面白かったですよ」

 

「小萌先生・・・・・・それマジでだいぶ前に聞いたヤツじゃねぇか・・・・・・」

 

 確か四月の後期か五月の前期ら辺に、そんな質問をした記憶がぼんやりと恭助の頭に浮かんだ。

 

 するとさっきまで妙に大人しかった反動のようにクラスの誰かが口を開いた。

 

「こらーカミやんだけやなく、サガやんまで小萌先生にフラグ建てる気かいな!」

 

「・・・・・・、」

 

 なんか後ろのエセ関西弁がうるさいが、教科書を見ている振りをして華麗にスルーする恭助。

 

 しかし小萌先生にはそんなスルースキルは無くその言葉で真っ赤な顔で慌てふためき、そんな青髪ピアスの発言の熱が他の男子生徒まで飛び火しそれを収めるために吹寄が大暴れして、こっそり居眠りしていた上条に何故か大量の八つ当たり(流れ弾)が連続ヒットするという一時的な学級崩壊が起きた結果、結局その騒動は授業の終わりを告げるチャイムという名のゴングが鳴るまで続いたのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

「うああぁメンドクセェー・・・・・・」

 

 分厚い紙束を運びながらだらしない声を上げる風紀委員の少年。

 

 その両手で抱える程の白い巨塔を職員室まで持って行くよう放課後に担当の小萌先生に指示を受けた恭助である。

 

 結果として他のクラスメイト達が帰るなり部活に行くなりする中、一人放課後の学校に取り残されるハメになったのだ。

 

 今日が風紀委員の詰め所に招集される日でなくて本当に良かったと思った。でなければもうすでに大遅刻である。

 

 だからと言って面倒臭いことに変わりはないが、これも(というよりこれこそが)正式な風紀委員の仕事なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだ。

 

 その時不意にその紙束の重量が半分に減り、同時に視界が拓けた。

 

 誰かがその紙束を半分肩代わりしたのだ。

 

「そんな怠そうな持ち方じゃいつ取り落とすか分からないから手伝ってやるわ」

 

 なんと意外、それは吹寄だった。

 

「お前、どうして・・・・・・」

 

「何よ、その心底意外そうな顔は。あたしのことをそんなに非情な人間だと思っていたの?」

 

「別にそんなんじゃねぇけどよ、お前ってこんな風に相手を甘やかすようなことしねぇだろ」

 

「あたしは貴様を甘やかしてるつもりは無いわよ?ただ今日の相良は少し疲れていたようだったから、それならいつもあーだこーだ言いながらも、毎日休み時間にゴミが散らかっているところを掃除した後に学校にある全ての花瓶の水を換えたり、一週間に一回は誰よりも早く登校して教室の後ろにある花を新しいのに差し換えたり、と誰にも言われてないのに自主的にさり気なく頑張っている貴様の誠実さに免じて、今日ぐらいは少し手伝ってやろうと思っただけよ」

 

 何てことは無い当たり前のこと、と言わんばかりにあっさり理由を打ち明ける吹寄。

 

 普段の男勝りで自他共に厳しい態度で霞んで見えがちだが、彼女は常に周りを見て個人個人のことを把握して気配りをしつつみんなを纏めることを得意としている。

 

 時として人を惹きつける上条のような人物(カリスマ)も集団において大切だが、彼女のような存在もまたその集団の中で重要な役割を担う。

 

 そして彼女にはそれを最後まで全うする責任感とその両肩に掛かる重い責任に動じない強い心根を持っている。

 

「やっぱお前、凄いヤツだよ」

 

 恭助の口からはそんな言葉が漏れていた。

 

「それは言い過ぎでしょ」

 

 それを聞いた彼女は素っ気なく、しかし案外満更でもないように口元を緩めた。

 

 だがすぐに口を引き締め、呆れたように溜息を吐く。

 

「何だって小萌先生は貴様や上条みたいなのばっかを気に入っているのか・・・・・・」

 

「ははっ、あの人は問題児が好きだからなぁ・・・・・・」

 

「ま、そうね。・・・・・・いや、相良の場合は少し違うんじゃないの?」

 

「ぅん?どういう意味だ?」

 

「貴様は他のクラスメイトと違って小萌先生を子供扱いしないでしょ?たぶんそれが小萌先生に気に入られる一因でもあるんじゃない?」

 

 教えることが大好きで相手がどんな問題児であろうと熱心に教えを説く典型的な熱血教師で生徒達からも慕われている彼女だが、見た目だけで無く仕草や格好まで子供っぽい点が多々あるために生徒から弄られてしまうこともしばしばなのだ。

 

「いやだって先生なんだから当たり前だろ?」

 

 敬語は使わなくても年上に、尊敬できる人に敬意は払うのは当然のことだと恭助は思っている。故の発言だったのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・違う、あたしが言いたいのはそうじゃない」

 

 吹寄は否定した。そして言った。

 

「相良は確かに小萌先生を子供扱いしない、でもそれは敬意だけじゃなくて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということなんじゃないの?だから小萌先生は貴様を振り向かせようと熱心に構っているんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

『貴様自身がまだそこまで小萌先生やあたし達に心を許していないということなんじゃないの?』

 

 そう言った吹寄は恭助の顔を見てハッとして気まずそうな表情を浮かべると「今言ったことは気にしないで」と言い、恭助が持っていた分の紙束も取って行ってしまった。

 

 ポツンと一人残された恭助だったが、追いかけても何も言えないような気がしたのでそのまま紙束を吹寄に任せ、彼女に悪いがお先に帰らせて貰うことにした。

 

 誰もいない靴箱で上履きから下靴に履き替える。

 

 そして誰もいない校門までの道のりを感慨も無く歩いていく。

 

 そして校門近くに着く。

 

 ・・・・・・そこに、いた。

 

 今、最も会いたくなかった『アイツ』が・・・・・・。

 

「・・・・・・、」

 

 校門にもたれかかるように『アイツ』はいる。

 

 まだ自分には気が付いていないようだが時間の問題だろう。

 

 そもそも『アイツ』が占領している校門を通らなければ外に出られない。

 

 回り道をして学校の塀をよじ登ることも出来無くないが、その場合学校のセキュリティが作動して余計に騒ぎが大きくなるだけだ。

 

 これは個人的な問題だ。そんな大事にはしたくない。

 

 それによく見ると『アイツ』は今、手に持っているケータイの画面に夢中になっている。

 

 慎重に、音を立てず、さり気なく通れば気付かれずに突破できるか?

 

 何にしても今が絶好のチャンス。

 

 そう心に決め恭助は、気配を消し、何食わぬ顔で校門を通ろうとした。

 

 そして、

 

「(・・・・・・よし、ひとまず校門は通過した)」

 

 『アイツ』はまだ気付いていない。あわよくばこのまま・・・・・・、

 

 そう少年が安堵しかけたその時だった。

 

 

 ガシッと誰かが恭助の腰の周りに両腕を巻き付けた。

 

 

「(ば、バカな、そんなはずは・・・・・・)」

 

 彼はゆっくりと振り返った。

 

 そこにいたのは・・・・・・。

 

「セーンパーイ、どんだけヒト待たせてんです?そしてスニーキングミッションにおいて私を出し抜けるとか思ってたんですか?」

 

 心底ムカつくニヤけ面をした、自称・相良恭助の後輩、自称・美少女、自称・天才というプロフィールが『自称』で埋め尽くされた、元パパラッチもどき現腐女子の自称・プロのジャーナリストで、背中に掛かる朱色のお下げ髪の上からハンチング帽を被っており、翡翠色の宝石のように綺麗な瞳をしているが右目には白い医療用の眼帯をしているという小柄な謎少女、人見桃華(ひとみとうか)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夏の空の下を二人の十代半ばぐらいの少年少女が歩いている。

 

 それだけ聞けばまるで青春ラブコメの1ページのようだが、生憎と彼らの関係はそんな甘い物ではない。

 

 片方の夏の制服をきっちりと着用している金髪少年はこの世の全てにうんざりしたような目で空を仰いでいる。

 

 片方のジーンズ製のハーフパンツの上から半袖パーカーを着たハンチング帽の眼帯少女は真夏の猛暑にやられ、少年のとなりでその整った小顔をフラフラ揺らしている。

 

 少年の名は相良恭助。とある高校の一年生で現在自分の住居に帰るため帰宅中である(彼は登校する時はバスを使うが帰りは体を鍛えるため基本徒歩で帰っている)。そして現在、ただでさえ色々あって気分が良くなかったというのに、約束をした覚えも無いウザい系後輩キャラに待ち伏せされていたことでさらに絶賛不機嫌中である。

 

 少女の名は人見桃華。所属不明(少なくとも恭助は知らない)、年齢不明(でもおそらく十三・四歳ぐらい)。わざわざ少年が学校から出てくるまで待っていたが、彼が予想以上に学校から出るのが遅かったため、その分夏の太陽光の直射を受けていたのだ。

 

 彼らの関係はただの先輩と後輩・・・・・・ではない。少女の方は、少年の先輩でもある各方面でそれなりに有名な呉藍剣科と小鳥遊疾風をターゲットにしたパパラッチもどきのストーカーだったはずだ。・・・・・・確か五月まではそうだったはずだ。

 

 少女は一向に口を開こうとしない少年に気怠そうな口調で話を振る。

 

「それにしてもあっついねーセンパイ・・・・・・」

 

「そんなグロッキー状態になるぐらいならそもそも待ち伏せとかしてんじゃねぇよ」

 

 不機嫌オーラをさっきから遠慮無く吐き出している恭助だが、桃華はそんな彼の周りに遠慮無くまとわりつく。

 

「あー、何ですかその言いよう。ヒトが折角・・・・・・可愛い後輩が折角迎えに来たっていうのにぃ。まったくもうこの朴念仁はッ」

 

「・・・・・・わざわざ言い換えた理由が激しく気になるしツッコミどころ満載だけど、暑いし面倒くさいから無視」

 

 最悪のタイミングで厄介なヤツに捕まったと肩を落とす恭助。

 

 その彼の適当な受け答えに桃華はムキになるように早口で(まく)し立てる。

 

「ちょっ、センパイそこはちゃんと拾ってくれないとボケが飽和しちゃいますよしっかりしてくださいこの甲斐性なし給料泥棒のツッコミ担当係長っ!」

 

「まあ、あれだ。もはやツッコミどころのバーゲンセール状態だが・・・・・・とりあえずツッコミ担当係長って何だよっ!?」

 

「イエーイっ!ナイスツッコミいただきました!」

 

「(う、うぜえェ・・・・・・)」

 

 いつにも増してウザい桃華にまとわりつかれながら帰路を歩いていると、人気(ひとけ)の少ない通りにポツンとカキ氷屋の店舗カーが停まっているのを見つけた。

 

 ここはかなり見通しの良い場所なので余計その屋台が浮いて見える。

 

 帰宅途中の学生をターゲットにしたものなのだろうか、と恭助がその店舗カーを横目で眺めていると、目敏い後輩キャラが彼の腕を引いた。

 

「おやー?これはこれは良いところにカキ氷屋が。セーンパイ、ちょっくら休憩ついでに買い食いしません?」

 

 こいつ実はここにカキ氷屋がいたの知ってたんじゃね?というくらいわざとらしい誘いをかけてきた桃華だったが、暑いのは恭助も同じだったのでその誘いに乗ってやった。

 

「あ、そうだセンパイ。私が今、思いついたモノマネ見てくれませんか?」

 

「色々自由過ぎだろお前・・・・・・勝手にしろよ」

 

「では剣科さんのモノマネ・・・・・・」

 

 そう言うと桃華はカキ氷屋のお姉さんの所へ、あえて大股で歩いていく。

 

 この時点で嫌な予感しかしない恭助。

 

 恭助の予感は嫌なもの程よく当たる。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」

 

 百点スマイルのカキ氷屋のお姉さん。そんな彼女に桃華は応えるように言った。

 

 

「『では、気合いと情熱の赤を頼む!(キリっ)』」

 

 

「・・・・・・へ・・・・・・え?」

 

 困惑で固まっているお姉さん。

 

 ・・・・・・人は超能力なんて使わなくても空気を凍らすことが出来るのだと、改めて知った恭助だった。

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 カキ氷屋からそう遠くない場所にあるベンチには二人の男女が座っていた。

 

「うぅ、さっきチョップされた所がまだ痛いー・・・・・・」

 

「そうかよ」

 

 時折り頭をさすりつつもイチゴ味のカキ氷を口に運ぶ桃華と、素っ気ない返しをしつつレモン味のカキ氷をストローでつつく恭助。

 

「えーんDVだDVだ訴えてやるぅ~」

 

 なおも恨めしそうな目でぶう垂れている少女に呆れの溜息を漏らす少年。

 

「自業自得だアホ。明らかに二,三十代の経験不足な店員さんにお前のトリッキーギャグは刺激が強過ぎるんだよ。つーか関係無いヤツを巻き込むな。そして剣科先輩の名誉のために言っておくが、あの人はあんなことしねぇよ」

 

「なんだーい。勝手にしろって言った癖に」

 

「わざわざ人様の迷惑にならないようにって付け加えないとダメなのかよ、お前は」

 

「で、どうでしたか私のモノマネ。私なりに熱血キャラを表現してみたんですけど」

 

 ヒトの話聞いちゃいねぇよ、と心の中で改めて嘆息しつつ恭助はきっぱり言った。

 

「まず熱血キャラと熱血バカの違いを知る所から始めろ」

 

「う、うーむ・・・・・・ちなみに点数は?」

 

「30点」

 

「あれ?意外と高い?」

 

「あ、『マイナス』付けるの忘れてたわ」

 

「-30点っ!?」

 

 まるで後ろにズッコけるように上体を反らす桃華。こういうリアクションの時は面白いヤツである。

 

 そしてその時飛んでいった空のカキ氷のカップとストローは掃除ロボットが片付けた。

 

 まるで示し合わせたかのごときタイミングの良さは、もはや笑いの神に愛されているとしか思えない。

 

 科学の街の学生が非科学的な神なる存在に愛されているという表現も変なのだが。

 

「そういえば昨日・・・・・・」

 

 神。その宗教的な単語と共に恭助は一人の少女を思い出す。

 

「(名前は確か・・・・・・インデックス、だったけか?)」

 

 あの銀髪碧眼のシスター少女は無事に自分の寮へ帰れたのだろうか?

 

 そもそもどこの学校の学生なのか?

 

 どちらとも実際に本人に聞いてないので確認は出来ないが、おそらく第十二学区の子だろう。あそこは科学絶対主義の学園都市でも比較的宗教関連の施設が多い学区だ。

 

 まあ、直にその学区の宗教施設を見た恭助の個人的見解では、その実状は本職の宗教家の人々に見聞きさせたら怒られそうなぐらいに実に科学的な仕様かつ、宗教の商業的部分を抽出した印象だったのだが。

 

 恭助もまた科学の街で育った子供なので宗教に特別詳しいわけではないが、本で見たり人づてに聞いたりする宗教のニュアンスからは外れたものだったのは確かだ。

 

 オカルトなものを科学的な面からアプローチしている所が、科学の街の学園都市らしいといえばらしいと言えるが。

 

 さて、そんな第十二学区だが、多種多様な宗教施設が多く建つということはその数だけ様々な国の建物があるということだ。

 

 結局、宗教関連の学区というより多国籍でエキゾチックな学区という方がしっくりくる場所である第十二学区。

 

 異文化の建築手法や技術を学ぶには良いところかもしれない。

 

「(・・・・・・って、なに心の中でガイド案内みたいなことしてんだ俺?)」

 

 とりあえず「あーセンパイ、糸くずついてますよー」とか言いながら自分の制服のズボンを触っている後輩キャラの手をやんわりどかしながら質問する。

 

「お前、学校はどうしたんだよ?」

 

 桃華がどこの学校に通っていてどこに住んでいるかは知らないが、恭助が彼女の制服姿を一度も見たことがないということは彼の学校の付近ではない可能性が高い。ならば学校から帰ってその後に私服に着替えたとなると、いくらいつもより少し遅かったとはいえ恭助が下校する時間には間に合わないはずだ、とすると・・・・・・。

 

「え?今日()普通にサボりましたけど?」

 

「・・・・・・、」

 

 やはりそうか、と内心で溜息を吐きつつ恭助は諭すように桃華を見る。

 

「お前、この前もそう言ってたがそんなんで学校の成績とか大丈夫なのか?」

 

 彼女はその質問にフンス、と鼻を鳴らしながら愚問だと言わんばかりに答える。

 

「私ぐらいの天才になれば、凡庸学生みたいに律儀に毎日学校に行く必要なんてナッシングなんですよ?」

 

「そうか、クラスに居場所が無いのか・・・・・・」

 

「うぎっ!?・・・・・・ふ、ふーんだッ、あんなつまらないヤツら、私の方からお断りですよー!べー!」

 

 恭助がからかい半分で指摘すると本当にムキになって子供みたいに舌を出す相変わらずな桃華に溜息を漏らす(さっきから溜息ばっかりな恭助)。

 

「そんなことよりセンパイの方こそクラスにちゃんと馴染めてるんですか?」

 

 彼女が返してきた質問に不覚にも一瞬息が詰まる。しかしそれは本当に一瞬だった。

 

「まあ、話すヤツぐらいはいるよ」

 

「へー、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ませんでしたっけ?」

 

「ッ・・・・・・!??!!?」

 

 慌てて自分の体をまさぐって()()を確かめる恭助だったが、桃華はその様子をニヤニヤとイタズラが成功した妖精のような顔で観察している。

 

「流石はセンパイっ、察しが良いですね。でーも、残念でしたっ。もうすでに回収済みでーすっ」

 

 その台詞を聞き恭助は諦めたように肩を竦める。

 

 先程までの彼女の行動を鑑みれば、回収をしたタイミングは大体分かった。

 

 ただ、分からない事と聞かなければならない事がある。

 

「いつの間に仕掛けたんだよ・・・・・・」

 

「センパイって、夏でも三日はズボンをアイロンがけしたり洗濯したりしないんですね?」

 

 前者はあくまで詳細は話すつもりは無い、ということらしい。

 

 まあ、それはいつものことだから良いとして・・・・・・。

 

「どこまで・・・・・・何まで聞いてたんだよ」

 

「『初春さんは俺が守る(キリッ)』とかですけど?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 初春を勇気づけるためだったとはいえ、その場のノリとかで言った台詞を後になって聞かされるのは精神的にクルものがあった。

 

「のほほん系の年下少女にカッコつけちゃって相変わらずですねーセンパイはっ。あははーっ」

 

「お前なぁ、笑い事じゃなかったんだぞ?」

 

「笑い事ですよ、大事にならなければ。コンビニ強盗も自然災害も全部」

 

「そんなもんか?」

 

「そんなもんですよ」

 

 いともあっさり返してくるこの姿勢には、反論を許さない身も竦むような凄味とは違うぬらりくらりとした取り付く島の無さがあった。

 

「さーてと、そんなことより本題に入りますか」

 

 桃華は唐突に手拍子を打つように手と手を合わせると機は熟したとばかりに話の軸を変えた。

 

「は?本題って何だよ」

 

 恭助が聞くと桃華はさっきまでの小悪魔のような顔を止め、上目遣いで恥ずかしそうに頬を紅潮させながら控えめな声音でモジモジしだす。

 

「いやー、実はセンパイにどうしても『頼みたいこと』があって、ですね・・・・・・」

 

 それはまるで初めて意中の異性にバレンタインチョコを渡そうと奮闘している少女のような清らかな愛らしさを感じさせ「断る」

 

 恭助は迷い無くその『頼みたいこと』を突っぱねた。

 

「えー・・・・・・即答?まだ言ってすらないのに?」

 

「お前の頼みとか嫌な予感しかしねぇんだよ」

 

 相良恭助は知っている。

 

 経験則で知っている。

 

 人見桃華がこのように自分の容姿の端麗さを利用した手段を執ってくる時。それはかつて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()パパラッチもどきの行為をしていた彼女がそれだけの事をしてでも聞かせたいような『面倒な事』ということなのだ。

 

 だから恭助はきっぱり断った。

 

 しかしその程度で妥協するような彼女ではなかった。

 

「・・・・・・一週間前」

 

「ぅん?」

 

 怪訝に眉根を寄せる恭助を意に介さず、桃華はただ三つの単語をあらかじめ台本に書いておいた台詞を読み上げるように羅列させた。

 

「那由他ちゃん、食べかけのプリン、濡れ衣」

 

「うっ・・・・・・お前、まだあのこと根に持って・・・・・・」

 

 その三つの単語はあの事件を連想させるものだった。

 

 事件と言っても個人的で日常的なちょっとしたいざこざレベルだったが。

 

「無実の罪で涙目になるまで問い詰められたら誰でも普通に根に持ちますよ・・・・・・特に私の場合は」

 

「いやアレ、ほぼ嘘泣き・・・・・・」

 

「そんな細かい事は置いといて、ここで重要なのはセンパイは私に借りがあるということです」

 

 恭助の抗議を無視し、桃華は一方的に会話を進行させる。

 

「借りって・・・・・・あれはお前の日頃の行いの悪さが招いた事故だろ」

 

 主に那由他に対する変態行為とか、那由他に対するロリコン変態行為とか他諸々だ。

 

「私は99%自分が悪くても残り1%で絶対謝らない人類ですのであしからずっ!」

 

「唯我独尊の天下無敵かお前はッ!?」

 

 恐れを知らぬとばかりの破天荒発言をかます桃華に呆れを通り越して感嘆さえしそうになる恭助。

 

 あの疾風でさえビビる剣科に叱られても最後まで頭を下げなかったぐらいなので、実は結構マジな発言だったりするから侮れない。

 

 涙目で「勝ったぁ!」とドヤ顔をしていた彼女の顔を思い出し、何だか懐かしい気分になっている少年を尻目に当の本人は勝手に話を進める。

 

「今、丁度『幻想御手』ってのについて調べてるんですけどね。今日それを持っているらしい連中がとあるファミレスで集まるようなんですよ」

 

「『幻想御手』だと?」

 

「(それって確か佐天さんが言っていた能力のレベルを上げる道具があるっていう都市伝説だったよな・・・・・・)」

 

「ミーハー嫌いのお前がそんなホットな噂話を追っているなんて意外だな」

 

「まあ、私は面白そうなのは貴賤区別なく調べ尽くしたいタチですから。それに私は別にミーハー嫌いじゃなくて『他の人も好きだから私も好き』とか言ってる自分の芯を持ってない脳味噌カラッポのつまらないアホが嫌いなだけです。というかホットな噂話ってボッチなセンパイがどこでそんなの聞いたんですか?」

 

「ボッチ言うな。別に良いだろ」

 

「あーそうそう、何か明るい人畜無害なミーハーっ子の人に教えて貰ったんでしたっけ?私と少し似ているようで対極にいる感じの。脳味噌カラッポでは無いようですが」

 

「ああ確かに佐天さんとお前は真逆だよな」

 

 佐天さんはどこか不用心だが誰に対してもフレンドリーで、少しミーハーな所がある。

 

 逆に桃華は普段こそ飄々と振る舞っているが世界に対して常に警戒心と疑念を持っていて自分の気に入った人物としか話さないし、誰も見向きもしないようなマイナーな事件や都市伝説を自分の足で調べるのが大好きだ。

 

 むしろここまで正反対な人間の例を他に探すのが難しいだろう。

 

 恭助がそう思考していると桃華は逸れかけていた話を元に戻す。

 

「とりあえず二時間後、那由他ちゃん同伴でそのファミレスに来てくださいねー」

 

 と言うが早いか、どこかへさっさと行こうとする。

 

「はあ?っておい、そのファミレスってどこのファミレスだよッ?」

 

「後で詳細な内容と一緒にメールで送っておきますから心配ご無用でーすっ」

 

 急いで呼び止める恭助に彼女は背を見せたまま軽く手を振りつつそう答えた。

 

「おいおい、俺はまだ承諾するなんて言ってねぇぞ・・・・・・」

 

 肩を落としつつも、もう半分ヤケで桃華の話に乗ることにした恭助。

 

「(何はともあれ乗りかかった船だ。風紀委員として治安を守るつー義務もあるし、しょうがない・・・・・・か?)」

 

 こうして彼は本格的に『幻想御手』が引き起こす一連の事件に関わっていくことになるのだった。

 

 

 




 さて、今回出てきた新ヒロイン(?)の桃華ですが、彼女については後々詳しい経歴を解明していくつもりです。自分の作ったキャラのこととなるとついペラペラしゃべってしまいがちの作者ですが今回は出来るだけ口を閉ざします。
 ・・・・・・ただあえて言うなら人見桃華の『桃華』は花言葉を元に名前を付けました。
 このように作者、結構地味にキャラの氏名には凝っているのでそこを考察してみるのもこの作品の楽しみにしていただければ嬉しいです。

 次からはあの姉御が登場する熱いバトル回に突入する予定なので、次回もよろしくお願いします。
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