とある正義の人間兵器《サイボーグ》   作:大器・晩成

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 前回、白いシスターのおかげで前向きになって、佐天という少女に会ったことで自らのコミュ症っぷりを痛感し、御坂との再会で体に少しだけ電流(物理)が走った恭助。

 彼女達との出会いが彼にもたらすものとは?

 今回もごゆっくりお楽しみください。

 


5話 悪意の視線と力の代償

 例のごたごたが終結した後、一行はここらで一番大きいデパートであるセブンスミストの入口前に来ていた。

 

 そして何故か恭助も同伴することになっていた。

 

 佐天曰くファッションというものは、同性は勿論異性のことも意識しなければならないので、男性目線の意見を提供する係として恭助に白羽の矢が立ったらしい。

 

 人に流されやすい恭助はそのまま充分な納得も出来ない内に連れてこられてしまった。

 

 だがここで恭助は服選びに付き合う代わりに、先ほどから迷っていた那由他との仲直りの印の品を選ぶ手伝いを後でしてくれるよう約束を取り付けた。

 

「そう言えば、白井(しらい)さん来られなかったんですね」

 

 白井というのはどうやら初春と同じ風紀委員の、彼女達共通の友人のようだ。

 

 御坂の話によると彼女は今日、非番なのにも関わらず例の虚空爆破事件の調査のために自主出勤しているらしい。

 

 まったく、パトロールの途中にケーキ屋やら洋菓子屋やらを覗いて回ったあげく、きゃっきゃウフフな女子中学生三人の買い物に付き合おうとしているどっかの誰かとは大違いである。

 

「(・・・・・・というかそれ俺じゃん)」

 

「あ、それなら何かお土産でも買ってあげましょうよっ」

 

「うん、いいね」

 

 和気藹々(わきあいあい)と話す御坂達を見ながらただ一人の男性としてどこか居心地の悪さを感じつつも、彼女達の幸せそうな表情を見て自然と温かい気持ちになる恭助。

 

 

 その時、彼は背筋に寒気を感じた。

 

 

「・・・・・・・・・ッ!」

 

 慌てて辺りを見回す恭助。しかし、もうすでに嫌な寒気は消えていた。

 

「あれ?どうしたんですか、相良さん」

 

 突然険しい顔をして辺りを見渡した恭助に佐天が不思議そうな顔で尋ねる。

 

「・・・・・・いや、何か嫌な視線を感じた気がしてな。・・・・・・すまん、たぶん気のせいだ」

 

 そう言いつつもまだ少し目線を辺りに動かしている恭助に御坂が初春に聞こえないように小さな声で注意する。

 

「ったく折角、連続爆弾魔事件の所為で張り詰めてる初春さんのリフレッシュも兼ねているのに滅多なこと言わないでよね」

 

「ああ、すまん・・・・・・」

 

 あまりに素直な態度で恭助が謝ったことで、御坂は逆に不審な表情をするが、それ以上聞かなかった。

 

 一方、恭助は支部を出る前に那由他が教えてくれたことを思い出していた。

 

 『爆弾魔の真の狙いは風紀委員の可能性がある』

 

「(それがもし事実だとしたら、さっきの視線はもしかして・・・・・・)」

 

 自分の右腕に巻かれている腕章を見る恭助。

 

 同じ物を初春も腕に付けている。

 

「(いや、まさかな・・・・・・)」

 

 彼はそこで思考を中断した。

 

 そもそもさっきの視線が本当に爆弾魔なのか確定された訳ではない。

 

 それに例えそうだとしても衛星が重力子の加速を捉えてから爆発するまでにはかなりのタイムラグがあり、何か対策を打つには充分な時間がある。

 

 むしろ自分達がターゲットならば、そういう事情を知っている自分が偶然にも初春の側にいるのはラッキーと言えるかもしれない。

 

 そう希望的観測をし、彼はとりあえず彼女達との買い物を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やっぱこういうとこって、野郎の客が少ないよなー)」

 

 ほぼ流れで御坂達に付いてきてしまった恭助は、どこか店内でも浮いていた。

 

 別に男性客が全くいないという訳ではないのだが、その大体は彼女の服を一緒に選びに来たカップルであり、女子を三人も連れている(実際は連れられている)ような者はいない。

 

「こっちこっちー!」

 

 そもそも歳が同じくらいの友人と買い物に (異性どころか同性とさえ)行ったことがない恭助がエスカレーターで上階へ昇りながら、どこか落ち着き無くそわそわしているとそんな佐天の元気な声が聞こえた。

 

 彼女はエスカレーターを昇った先からこちらに手を振ってそう呼び掛けると、どこかへ駆けていった。

 

「店内で走るとあぶねぇぞ。そんなに急がなくたって商品は逃げねぇだろ」

 

 そんな少女らしい明るさを見て、つい反射的に那由他の学友達を相手するのと同じように注意する恭助。

 

 その姿を生温かい目でじっと見つめる御坂と初春。

 

「・・・・・・何だよ」

 

「いや、アンタってさ」

 

「意外と世話焼きな性格なんだなあって思いまして」

 

「フン、悪いかよ」

 

 恭助はそう言ってそっぽを向く。

 

 すると御坂は少しの間彼を観察すると、したり顔で言った。

 

「てか、アンタさては友達少ないでしょ?」

 

「んなッ?」

 

 図星過ぎてつい間抜けな声を出してしまった恭助だが、何とかすぐに立て直す。

 

「何でそう思うんだよ」

 

 図星とはいえ、失礼なことを言われた恭助が少し不機嫌気味に問うと、御坂は過去を思い出しているかのようにどこか遠い目をしつつ、肩を軽く竦めて言った。

 

「別に。ただ、どこか人との距離感の取り方が分からない感じが昔のどっかの誰かさんに似てただけよ」

 

 そう気軽に言う御坂を見て恭助はそれは過去の御坂自身のこと言っているのではないかと思った。

 

 おそらく学園都市の第三位という肩書きや噂などで作られ美化された印象はどこか他人に近寄りづらさを感じさせ、御坂自身も他人とどう接したら良いのか分からなくなっていた時期があったのかもしれない。

 

 きっとそんな御坂にとって今いる佐天や初春などの友人は何よりも大切な存在だろう。

 

 そう恭助が「超能力者も超能力者で大変なんだな」と感慨深くしていると、佐天の陽気な声が聞こえた。

 

「うーいーはーるー!ちょっとー」

 

「な、何ですか?」

 

 呼ばれた初春は彼女の個性である甘ったるい声で応え、佐天の方へ行く。

 

「こんなのはどうじゃあ?」

 

 ニヤニヤと悪戯っ子のような顔をした佐天が両手で持っている物を初春の眼前に突き出すように見せた。

 

 それはやけに際どい赤色の下着だった。

 

 そう、今佐天がいるのは女性物の下着売り場だった。

 

「む、無理無理無理です!そんなの履けませんよっ!」

 

 初春はそれを見て顔を真っ赤にし、顔の前で両手を振った。

 

 しかし佐天はそんな初春のリアクションを楽しむように微笑む。

 

「これなら私にスカートめくられても堂々と周りに見せつけられるんじゃない?」

 

「見せないで下さい!めくらないで下さい!」

 

 初春は頭をブンブンと振って必死に訴えるが、佐天さんはどこ吹く風である。

 

 二人の関係性が垣間見えたシーンだった。

 

 それを見て恭助と御坂が揃って苦笑いを浮かべていると唐突に佐天が彼らの方を向いた。

 

「あっ、そうだ。相良さんはどう思います」

 

 そして思い出したかのように今度は恭助の方を向き、詰め寄る。

 

「い、いや、そういうのは男の俺に聞かれても・・・・・・ていうか下着なんて男に見せないから俺に聞く必要ないだろ」

 

 そう言って佐天から逃れようとした恭助だが、佐天はそれを許さなかった。

 

「いやいやー、そうでもないでしょう?相良さんだって男の子なんですから知ってるでしょう?男女の大人な関係ーみたいなー・・・・・・感じの・・・・・・その・・・・・・」

 

 目が泳いでいて明らかに動揺している恭助に畳み掛けようとした佐天だったが、次第にその声はしどろもどろになり小さくなっていった。

 

「え、何だどうした?」

 

 恭助が気になって彼女の顔を窺うと、顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「自分から仕掛けておいてのまさかの自爆かいっ!」

 

 恭助はそうツッコミを入れた後、助けを求めるように周りを見た。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 だがしかし、何故か御坂も初春も佐天と似たり寄ったりの現状だった。

 

「えっちょ、待てお前らっ。この状況、俺にとって滅茶苦茶気まず過ぎだろ!」

 

 そう訴え掛けたところで現状は変わらず、恭助はこう言わずにはいられなかった。

 

「はぁ、現実ってのは、理不尽だ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 その後なんとか元の雰囲気を取り戻した一行は、御坂がそろそろ新しいパジャマが欲しいということでパジャマ売り場に向かっている。

 

 そこに着くまでの間、恭助と佐天の問答があった。

 

「そういえば例の相良さんの友達ってどんな人ですか?」

 

 いきなり(恭助にとっては)際どい質問をしてくる佐天。

 

 別にやましいことがある訳ではないが、恭助は高校生である。

 

 その友達が(精神年齢は超高校生レベルの)小学生だとバカ正直に言ったらどうなるか。

 

 ほぼ間違いなく、いわれの無い誤解を招く。

 

「そうだな、なんつぅか実際の年齢より大人びてる奴だな」

 

 嘘は言ってない、と自分に言い聞かせながら極力顔に動揺が出ないように努める。

 

「へぇー、じゃあ実際の年齢はどのくらい何ですか?」

 

「えーと、後輩だよ後輩(一応、嘘ではない)。あっ、でもそいつも風紀委員でな、あいつの方が先に風紀委員をやっててそういう意味では先輩になるな」

 

「そうなんですか。もしかして風紀委員にはその友達の勧めでなろうと思ったんですか?」

 

「(ヨッシャ、話題回避成功!)」

 

 上手く話題を変えることに成功し、心の中でガッツポーズを決める恭助。

 

 そんなことは表面にはおくびにも出さないように気を付け、質問に答える。

 

「そうだ。ちなみにさっき使った『戦闘術』もそいつから教わったんだよ。ま、一度もそいつには勝てたことが無いんだがな」

 

 厳密には『能力者の力の流れを読んで、その隙を突く』という木原一族に伝わる戦闘技術である。また那由多曰く、まだ彼の技は初段レベルらしい。

 

「ほうほう、なるほどなるほど・・・・・・」

 

「ん?どうした?」

 

「いや、相良さんとって、その友達さんはとても大事な人なんだなって思いまして」

 

 友達について話している相良さんってとても幸せそうですし、と言いニコリと笑う佐天。

 

 何だかデジャブを感じる言葉に自然と頬が緩みつつ、恭助は遠い目をしていった。

 

「そう、だな。俺は昔、たくさんの人を傷つけて、その罪悪感で塞ぎ込んでた時期があったんだ。そんな時、そいつと会った。あいつは心を閉ざしている俺にずっと付き添ってくれて、暗闇の底にいる俺を温かい光の当たる場所まで引っ張り上げてくれたんだ。そして、こう言ってくれたんだ。『破壊することしか出来ないと思っているその力も、きっと使い方しだいで人を救うことが出来る』ってな。・・・・・・当時の俺はその言葉に救われたよ。そんで色々あって今の俺がある。正直あいつがいなかったらどうなっていたことやら・・・・・・。まあ、あいつは俺にとって友達っていうよりどっちかつぅと恩人に近いのかな」

 

 何故か思ったより長々と喋ってしまったなと思いつつ、恭助は佐天の様子を窺う。

 

「御坂さーん、初春ぅ、待ってよーっ。あれ?相良さん、何か言いましたか?」

 

 邪気の無い目で振り返った佐天を見て、恭助は穏やかな笑顔になった。

 

「ううん、何でもない」

 

 そして彼は天井を仰ぐ。

 

 泣いちゃ駄目だと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 そして、なんだかんだでパジャマ売り場が集まったエリアに着いた。

 

 その頃には恭助の先ほど負った小さな心の傷(笑)も癒えていた。

 

 それに社交性やコミュニケーション能力の高い佐天のお陰で徐々に馴染めていた。

 

「えっ、相良さんの能力ってレベル2の『肉体再生(オートリバース)』なんですか?」

 

 恭助が自分の能力について話すと初春が驚いた声を上げた。

 

「そんな驚くことじゃねぇだろ。便利は便利だけど、別段凄い能力じゃねぇんだし」

 

 恭助の能力である『肉体再生』とは、簡単に説明すると“自然治癒力が通常より高くなる”能力である。

 

 これだけ聞くと凄そうだが、能力強度が異能力者止まりなので、『包丁で少し指を切った』『裁縫針で誤って指を傷つけてしまった』などぐらいの傷ならすぐ完治するが、それ以上の怪我ではあくまで怪我の治りが早い程度の効果しか発揮しないのである。

 

「いえいえ、能力そのものというより、相良さんの能力が『肉体再生』だってことに驚いたんです」

 

「ぅん?どういうことだ?」

 

「あの私、さっきの相良さんの戦いぶりを見て相良さんってもっと凄い能力を持ってるんじゃないかって思っていたので・・・・・・あっいえ別に実際の相良さんの能力が大したことないって言ってる訳じゃないんですッ。なな何というか・・・・・・すみません!」

 

 何故か突然ペコペコと謝りだした初春を、恭助が戸惑いながら制止する。

 

「ど、どうしたんだよ突然。良いって謝らなくても、別に気にしてねぇし」

 

 自分を気遣っての行動だということは分かった恭助だが、このままだと周りからまるで自分が初春を責め立てているように見えるので申し訳ないがすぐに止めて欲しかったのだ。

 

 初春が謝るのを止めると途端に会話が無くなり、静かになりかける。

 

 気まずい空気が充満し始める。

 

 その時、佐天が興奮気味に問いを投げた。

 

「ってことは、純粋な身体能力だけであのスキルアウトを撃退したってことですかッ?」

 

 そのベストなタイミングで窓を開けて空気を入れかえるような言葉の切り出しに、恭助は内心感心しつつも答える。

 

「まあな。さっき佐天さんには俺の友達のこと話したよな?」

 

「はいっ。とっても仲良しなんですよねっ。ばっちり聞かせて貰いましたっ」

 

 そう言いつつお前最後まで聞いてなかっただろ、とは思わない。

 

 さっきはついつい口が滑ってしまったが、考えてみればアレはこっぱずかしいこと且つ、恭助の過去の『闇』を仄めかす内容だったので、むしろ聞いて無くて良かったと思えた。

 

「そいつは一応、同じ支部の先輩に当たるんだが、そいつ以外にも先輩がウチの支部には二人いてな。二人とも完全な体育会系でしかも大能力者なんだ。たまにそいつらとも演習で手合わせしたり、二人の中で年上の方の剣科先輩には武術の指南を受けてる。能力の方は微妙だったが、先輩曰く俺にはそっちの方の才能が少しあるらしい・・・・・・んだが」

 

 そこで恭助は一旦切り、肩を竦める。

 

「実際は先輩達に毎度毎度しごき回されてるんだけどな・・・・・。ま、その結果ってやつなのかな?」

 

 はっきり言ってキツイけど才能を見出してくれたんだから感謝こそすれ恨みはしないがな、と恭助は肩を竦める。

 

 剣科先輩こと呉藍剣科(くれないけんか)は、一言で言えば才色兼備の熱血少女である。

 

 その性格通り、能力は『発火能力(パイロキネシス)』である。そしてその炎にも負けないぐらい熱い正義感を持っている。

 

 中学一年の時には既に風紀委員だった彼女だが、当時自分の能力があまりに殺傷能力が高いことに悩んでいた。

 

 それだけなら何を贅沢な悩みだと言われかねないが、彼女が凄い所は実際に行動を起こし、自らの手で問題を解決したことだろう。

 

 そう、彼女は能力に頼らない戦闘方法である武道を学んだのだ。

 

 それを学ぶ道はとても険しかったが、最終的に彼女は空手や柔道を始め、特に剣道は部活顧問を倒すほどの達人になった。

 

 そして今も尚、その武を磨き続けている。

 

 そんな彼女曰く、洗練された武術は時に高位能力者をも圧倒する力になり(彼女の知り合いに実際そんな人がいるとか)、また身体を鍛えることで精神も鍛えられ、能力者としての強弱にも影響が出るらしい。

 

 強大な能力と洗練された武術。それらを併せ持つことでそこらの大能力者とは比べ物にならない彼女自身が事実体現しているので、案外本当かもしれない。

 

 故に彼女はこの町にいる多くの人達とは違い、単純な能力の強弱で人を判断しない。

 

 そのような広い視野を持って人を見ることが出来る彼女は同時に高いカリスマ性を持っており、校内外問わず多くのファン、親衛隊なる者達もいる。

 

 たまに『気合い』という言葉を熱く連呼しだすのが玉にキズだが。

 

 ・・・・・・このことを一から話すと長くなるので恭助は今このことを話すのは止めた。

 

 もう一人の方は・・・・・・。

 

「(あいつは空飛ぶ馬鹿で説明が済むが・・・・・・めんどいからいいや)」

 

 剣科のことは尊敬している恭助だが、もう一人のスポ根少女、小鳥遊疾風(たかなしはやて)にはあまり好感を持っていない。

 

 挨拶の代わりに(疾風的にはじゃれ合いやスキンシップの一環で)毎回ジャンプキックを食らわされれば仕方ない。

 

 はっきり言って恭助は疾風のことが苦手なのである。

 

「(あれ?そういえば御坂は?)」

 

 そこで恭助はしばらく御坂が話の輪に入っていないことに気付き辺りを見渡すと、御坂は立ち止まってある商品を愛おしそうに眺めていた。

 

 それは、言うならばピンク色を基調としたとてもチャーミングなパジャマだった。

 

「(ゲコ太絆創膏で予想はしていたが、やっぱお前そういうのが趣味なのか・・・・・・別に悪いとは思わねぇけど・・・・・・)」

 

「ねえねえ、これどうかな?」

 

 どうやら恭助の予想は当たっていたらしく、御坂はさっきまでの勝ち気な態度と打って変わってまるで年頃の少女のようにウキウキした様子で佐天や初春に意見を仰ぎだした。

 

 ・・・・・・コイツ誰だよ、と内心ぼやきながらも恭助も彼女らに続く。

 

「ねえ、これ可愛い―――――」

 

「うわぁ、見てよ初春このパジャマ。こんな子供っぽいの今時着る人いないよねー」

 

 御坂が賛同を求めようとした瞬間!佐天の『速攻即答大否定』が決まった!

 

 御坂に大ダメージ!御坂はダメージの所為で動けない!

 

「そうですねえ。私も小学生ぐらいまでだったら、こういうの着てましたけど、流石に今は・・・・・・」

 

 さらに追加ダメージ!御坂は状態異常・混乱になった!

 

「そ、そうよねー、中学生にもなってこれは無いわよねー。うんうん、ないないっ」

 

 どこか芝居臭い御坂に、何も知らない佐天初春は不思議そうに首を傾げる。

 

 どうやら御坂は好きな物をはっきり好きと言えない天邪鬼な性格らしい。

 

「(なんつーか、超能力者って言っても蓋を開ければ案外普通の女の子なんだな。・・・・・・そして佐天さん、たまに天然で人の心傷つけちゃってるよな・・・・・・)」

 

 平凡な女子二人に、一人で軍隊を相手に出来る超能力者の意見がねじ曲げられた瞬間を見て恭助が苦笑いを浮かべていると、突如横合いから腕を引かれた。

 

「初春!相良さん!次こっち言ってみましょう!」

 

「えっ、ちょっ!」

 

 恭助は咄嗟のことに反応出来ず、そのまま佐天に引きずられていった。

 

「あっ、待って下さいよぉ、佐天さんっ」

 

 初春も慌てて着いていく。

 

 腕を引っ張られながら、恭助は佐天の方を向くため前方を見た。

 

「おいおい佐天さん。いきなりどうしたん・・・・・・」

 

 そこで彼は気付いた。佐天が一体どこへ向かっているのかを。

 

「へ・・・・・・?いやちょっ、待てッ。佐天さん、流石にあそこには――――――――」

 

「まあまあそう言わずに。さあて、それじゃあレッツゴー!」

 

 そして抵抗虚しく、恭助はそのまま男子にとってのブラックボックス。女性物の水着店に連れ込まれていった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・はあ、理不尽だ」

 

 恭助は(主に精神的な)疲労のあまり、歩きながら溜息を吐いた。

 

 それも佐天に連れ込まれた水着店で『佐天が際どい水着を初春に勧める』→『初春が顔を真っ赤にして拒否する』→『佐天が恭助に意見を求める』→『ファションにあまり詳しくない恭助は何とか当たり障りの無い答えを出す』→『それを聞いた佐天が初春に何かを耳打ちする』→『またもや顔を真っ赤にしてしどろもどろになる初春』→『その間に佐天がまたしても際どい水着を初春に勧める』→『(以後これのくり返し)』を五回程も続けたためだ。

 

 今は、佐天が初春と一緒に水着を選んでいる隙に何とか水着店から脱出することに成功し、さっきまで御坂がいた所に戻っている途中である。

 

 とりあえず、一旦休憩したい。

 

 そんな切実な願いを抱きながら歩みを進めていると、御坂を発見した。

 

 まだあのパジャマ売り場にいた。

 

 だが、そこにいるのは御坂だけではなかった。

 

「お前、上条じゃねえか。ん?それと・・・・・・」

 

「おっ、相良か。奇遇だな」

 

「あーっ!恭助お兄ちゃんだ!」

 

 そこにいたのは恭助のクラスメイトのツンツン頭、上条当麻だった。

 

 そしてその側には小学生ぐらいの女の子がいた。恭助はその子に見覚えがあった。

 

「えっ、コイツと知り合いなのは何となく分かっていたけど。アンタこの子とも知り合いなの?」

 

 御坂が驚いてそう恭助に尋ねた。どうやら彼女もその少女と顔見知りだったようだ。

 

「うん!恭助お兄ちゃんはね、前に公園を独り占めしてた悪いお兄ちゃん達を退治して、みんなを助けてくれたんだよ」

 

 その言葉に恭助は当時のことを思い出した。

 

「(確か公園でたむろしているスキルアウトをどうにかしてくれっていう通報が支部に来て、それで現場に行ったら、何か無謀な正義感でその野郎共に文句言ったガキんちょが絡まれてたんで止めに入ったら不良の一人が何かいきなり殴りかかってきやがって・・・・・・それを反射的にカウンターしたら他の奴らも食って掛かって来たんでそのまま勢いで全員ぶっ飛ばしちまった結果、周囲にいたガキんちょ共から歓声が上がってちょっとしたお祭り騒ぎになったんだよな。そうか、そん時にたまたまいた奴の一人か・・・・・・)」

 

 その後、スキルアウト6人を軽傷とはいえぶっ飛ばしたことで、始末書を書かされたり剣科先輩に怒られたりしたので、どちらかというと嫌な思い出の方で脳にインプットしていたために恭助は思い出すのに時間が掛かったのだ。

 

「へえ、そうなんだ」

 

 少女から(あくまで彼女の視点での)詳しい話を聞いて感心する御坂に、頭を指で軽く掻きながら「仕事だからな」と言いつつ、恭助は上条に気になっていることを聞いた。

 

「つーか、何でお前らが一緒にいるんだ?」

 

「あー、それはな・・・・・・」

 

 以下、上条が言った説明を簡略化すると、新しい服を買いたくてセブンスミストに行こうとしたが道に迷ってしまった少女と偶然会い、ここに案内するついでに保護者代わりとして彼女の買い物に付き合うことにしたらしい。

 

 恭助はそんな相変わらずな上条に苦笑しつつも感心していた。

 

 自分とは似ているようで()()()()所が違う彼のことを。

 

 恭助が憧れを抱いている那由他とどこか似たものを感じる彼のことを・・・・・・。

 

 その後、その女の子が別の売り場を見に行きたいと上条に頼んだので、軽い別れの挨拶をして彼らは去って行った。

 

 恭助が、さっき会ったばかりにも関わらずまるで本物の兄妹のように仲睦まじい二人の背中を見送って、ふととなりを見ると何故か御坂が悔しそうに拳を握っていた。

 

「どうしたんだよ」

 

「別に」

 

 御坂はそう素っ気無く言った後、溜息をしながらポツリと言葉を漏らした。

 

「なーんか、アイツの前じゃ調子狂うのよね・・・・・・」

 

 それは本当に小さな呟きだったが、恭助は聞き漏らさなかった。

 

「(まさか上条、常盤台のエースまでも・・・・・・)」

 

 いやカミジョー属性の破壊力をもってすればありうる!とか恭助が考えているとそんな彼を不審に思ったらしい御坂がジロリと睨む。

 

「アンタ、一体何考えてんのよ」

 

 勿論何を考えていたかをバカ正直に話せばどうなるか分かっていたので、恭助は必死に目を逸らしながら何と言い訳するか思案しようとした。

 

 すると御坂が片手で持って何かを後ろに隠しているのに気付いた。

 

 それは先程御坂が気にしていたパジャマだった。

 

「お前、それ」

 

 恭助が何気なく指差すと、御坂が突如として慌てふためきだした。

 

「いやっ、これはそのっ、雑に畳まれていたのを直そうかなーって思って手に取ったら、タイミング悪くアイツが来て。そ、それでそのまま持ってただけだから!それだけだから!」

 

 要は恭助達が遠くへ行っている内に、鬼の居ぬ間に洗濯するようにパジャマを試着しようと手に取ったらいつの間にか上条が側にいて、そのまま元の場所に戻す機会を逸していたらしい。

 

 思ってた以上に不器用だなコイツ、と思いつつも恭助は分かってないフリをしてあげた。

 

 そして二人はお互い様ということで暗黙の了解をとり、その話題を終わらせた。

 

 手先は案外器用だったらしい御坂が綺麗にパジャマを畳み直して元の場所に戻し、そのまま疲れたように項垂れていると佐天達が戻って来た。

 

 一体どうしたのか尋ねる彼女達に、どこか力無く「何でも無い」と返事をすると御坂はお手洗いに行った。

 

 残された三人。

 

「あ、そう言えば相良さんは『幻想御手(レベルアッパー)』って知ってますか」

 

 佐天が今思い出したとばかりに話題を振った。

 

「は?『幻想御手』?」

 

 しかし恭助はそれについて寡聞にして知らなかった。

 

「あれ?知らないんですか相良さん。有名な都市伝説で、それを使うと簡単に能力のレベルが上がる凄い物らしいんですって!」

 

 無知な恭助の曖昧な反応はむしろ彼女の噂好きのスイッチを入れたらしく、興奮気味にまくし立てるように説明した。

 

「佐天さん、あくまで噂ですから。そんな便利な物あるわけありませんよ」

 

 だが対象的に初春はどこか冷めた感じに友人をたしなめる。

 

「えー、別に良いじゃん信じるだけなら。だって、それがあれば無能力者の私でも能力が使えるようになるかもしれないんだよー」

 

 そう言いながら目を輝かせている佐天を見て呆れている初春に、恭助は静かに言った。

 

「確かに、そんな物があったら便利そうだな」

 

「そうですよねっ、相良さん!」

 

「もう、相良さんまで・・・・・・」

 

 佐天は嬉しそうに、初春は困ったようにこちらを向いた。

 

 そんな彼女達に恭助は言い聞かせるようにこう加えた。

 

「でも、実際にあったとしても手は出さない方が良い。近づくだけでも駄目だ。大きな力を得ようとすればそれ相応、もしくはそれ以上の代償が付くんだ。大体、そういう甘い話には裏があるのがこの世の常ってもん、だしな・・・・・・」

 

 大いなる力を得ようとすれば、大いなる代償を償わなければならない。

 

 例えば、木原那由他の身体や人格のように。

 

 例えば、相良恭助の左目や右上半身のように。

 

 そして能力の強度を上げるという『幻想御手』。

 

 それは本当に単なる噂話に過ぎないのか?

 

 恭助には、簡単にそう断ずることが出来なかった・・・・・・この学園都市の『闇』を知っている恭助には。

 

 そもそも、『あの実験』は能力者を意図的に暴走させて本来のレベルより強い能力を使えるようにしようとした実験だった。

 

 『あの計画』は人間の一部を()()()()()()()機械に改造してまで力を求めたものだった。

 

 この『幻想御手』もまた、類似したものだと推測するのは見当違いの邪推だろうか?

 

 恭助は無意識の内に義手の右手を義眼の左目に添えていた。

 

 傷に傷を重ねていた。

 

 そこでふと我に返り、とぼけたように笑みを()()()

 

「なーんてなっ、ついつい年上振って説教みたいなこと言っちまったぜ。なあ、それよりさっき二人に似合いそうな服を見つけたんだ。すぐ近くにあるから一緒に行こうぜっ」

 

 そう言って二人を置いてさっさと行ってしまう恭助。

 

「えっ、ちょっ、待って下さいよ、相良さんっ」

 

 呆気にとられていた初春もそこで我に返り慌てて付いていく。

 

「・・・・・・、へー、相良さんのおすすめって何ですかっ?楽しみですねっ」

 

 佐天も恭助の態度に何か引っかかる物を見たかのようにしばらく彼の背中を静かに見つめた後、元の明るい表情に戻って二人の後を追った。

 

 

 

 




 今回、オリキャラの紹介が地の文でありましたが、作者は超電磁砲にはあまりない、能力を応用した肉弾戦とか書こうと思っているので二人とも熱血スポ根キャラというより主旨が違う武闘家タイプという設定でいこうと考えています。

PS.恭助が何者かの視線を感じた時、「悪意の視線を察知するとかお前はどこの名探偵だよ(笑)」とういうツッコミを入れた方は少なくないのでは?
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