とある正義の人間兵器《サイボーグ》   作:大器・晩成

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 恭助が『幻想御手』の存在を知り、そのことで佐天達に警告を発した前回。
 
 場面は変わりその頃、那由他達がいる風紀委員の詰め所では?

 今回は少し短いですが、その分濃厚にしているのでゆったりとお楽しみください。


6話 二人の過去

 同時刻。とある風紀委員の支部。

 

 そこでは、木原那由他が新しく送られてきた資料を基に、どこか機械的に分析を行っていた。

 

 同じく風紀委員の呉藍剣科も同様の作業をしていた。

 

 剣科はその信念を表すかのように真っ直ぐなロングヘアーと、凛とした目鼻立ちをしたスタイル抜群の美人である。

 

 今している仕事重要性()あり、いつもの割と和やかな雰囲気ではなく、二人とも黙々と仕事をしていた。

 

 そこへ突然、バンっ!と力強く支部のドアを開けながら闖入者(ちんにゅうしゃ)が来訪した。

 

「いよぉう!待たせたな!みんなのヒーロー、『風力滑空(エアログライダー)』参・上ッ!」

 

 空気の読めない『風力使い(エアロシューター)』。小鳥遊疾風の登場である。

 

「やあ、疾風。見回りご苦労」

 

 柔らかな微笑みを浮かべ、中性的で威風堂々とした喋り方で剣科が迎える。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 那由他はそんな彼女の派手な登場にも一切見向きもせず、むしろ気付いてすらいないように作業に没頭していた。

 

「ん?ナユちん、どうしたんだ?」

 

 いつもの那由他とは様子が違うことに、疾風は不思議そうに首を傾げた。

 

「あー、それはな・・・・・・」

 

 どうやら本当に空気が読めていない疾風が余計なことを言う前に、事情を説明しようと剣科が席を立った。

 

 しかし、一歩遅かった。

 

「あっ、そういえばサー坊はどこにいるんだ?折角見回りの途中で考えた『ザ・新必殺技』を見せようと思ったんだけどなー」

 

 ちなみにナユちんとは那由他、サー坊(一度恭助が風紀委員の仕事をサボった時に疾風が付けたあだ名で、サボりと相良のダブルミーミングである)とは恭助のことである。

 

「・・・・・・、」

 

 剣科は黙ったまま横目で那由他の様子を窺う。

 

 一見なんの変化も見られないように見えたが、よく見れば肩が小さく痙攣していた。

 

 支部内にどうしようもない空気が渦巻く。

 

 いつもは熱血でどんな逆境も気合いと努力で諦めずに乗り越える剣科だが、今回ばかりは腕を組んで瞑目し、どうしたものか困り果てるしかない。

 

 ただ一人その空気に気付いてない疾風が、ひたすら無駄にキレの良い上段蹴りの練習をする際に出る空気を裂く音が室内に虚しく響く。

 

「(はあ、どうしたものか・・・・・・。せめて当事者の片割れである相良がいれば、話し合いが出来るのだがな・・・・・・)」

 

 剣科は頭を抱えたくなりながら、今はここにいないあの少年が、この支部に来たばかりの頃を思い出していた。

 

 

 

 

 

 剣科が初めて恭助と会った時の印象は決して良いものではなかった。

 

 服装が特段乱れている訳ではなかった。むしろ学校指定通りに着込んでいた。

 

 髪型とその色が多少気になりはしたが、金髪は間違いなく地毛のようだ。

 

 治安維持組織ではあるが風紀委員はあくまで学生で構成された組織であり最低限の規律さえ守れば服装面は少々着崩しても問題がないので、彼の髪型もその許容範囲内だろう。

 

 剣科が気になったのは彼のあまりに覇気の無い目だった。

 

 彼女は人を見る時、まず目から見るようにしている。

 

 風紀委員には確かにワイシャツにボタンを止めず中にTシャツを着込む等、服を着崩した者がいるが、そんな彼らも含めた風紀委員全員に共通したことがある。

 

 風紀委員は志願制である。なるには『九枚の契約書にサイン』『十三種類の適正試験』『四か月に及ぶ研修』が必須である。

 

 このような難解且つ面倒なプロセスを踏んでまで風紀委員になろうとする者には全員それぞれの強い意志があり、“自分が信じる正義”を持っている。

 

 それが目に現れるのだ。

 

 しかし彼が持つ金色の瞳にその強い意志が感じられなかった。

 

 座学はギリギリだったが実技では高い成績を修めたらしい。だが、ただ腕っ節が強いだけでは風紀委員は務まらない。

 

 同じ支部の担当で自分の後輩である那由他は大丈夫だと言ってはいたが、剣科は他人を信じないわけではないがこのようなことに限っては自分の目で確かめないと納得できない性格だった。

 

 なので、彼女は相良恭助の言動をしばらく注視することにした。

 

 普段彼は基本自分から何かを話すタイプではなかった。

 

 剣科や疾風とは主に事務的な会話しかしたがらない(ただし、基本、誰に対してもフレンドリーな疾風はそんな余所余所しい態度に関係なく新しい後輩に的の外れたスキンシップを当初からしていたが・・・・・・)。

 

 そんな常に相手から一定の距離を置くような姿勢を見て剣科は、当時の那由他に通ずるものを感じた。

 

 本人は隠しているつもりのようだったが、恭助が来る以前の那由他にもそのような傾向があったのだ。

 

 しかし、彼ら同士はよく会話をしていた。

 少年はちゃんと仕事をしつつも、想像していたよりもあまりに地味なものが多いことについてたまに愚痴を零しながら。

 少女は慣れた手付きで着々と仕事を済ませ、まだ慣れてない故に仕事が遅い上、愚痴を零す彼をたしなめつつ、その仕事を手伝いながら。

 

 那由他の話によると彼らが会ったのはつい半年前らしいが、その様子は旧知の友人、もしくは長年を共にしてきた相棒のようだった。

 

 それからも観察を続ける内に彼らは協力し合って仕事をし、風紀委員として多くの人を助けた。

 

 そしてお互いがお互いを影響し合い、彼らは変わっていった。

 

 詳しく言うなら、徐々に二人だけの空間から輪を広げるように他人との壁を無くしていったのだ。

 

 そして、その頃には剣科の恭助に対する印象もとうに変わっていた。

 

 彼は普段、覇気の無い目をしてはいるが、内にはちゃんと“彼の正義”があると知ったからだ・・・・・・ただ、“それ”はかなり()()()()()ではあるが。

 

 ともあれ最終的に剣科は彼について気付いたことがあった。

 

 それは彼が『他人のためにしか自分の全力を使わない』ことだった。

 

 これは一見素晴らしい主義のように見えて、その実は病的なまでの被虐的考えである。

 

 剣科は思った。

 

 きっと彼の過去には自分が思いもよらないような『闇』があるのだろう。

 

 自身のことを心から嫌いになるような悲劇があったのだろう。

 

 もしかしたら那由他にも類似した経験があるのかもしれない。

 

 恐らく自分はどちらか一人分の『闇』でさえ肩代わりすることなど出来ないと。

 

 それでも彼女は自らの魂に、“自分が信じる正義”に誓った。

 

 自分は非力かもしれない。それでも彼らが助けを求めた時、そうでなくとも自分の目の前で苦しんでいる時は手をさしのべ、全身全霊を以て彼らを助けようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 相良恭助が去った後、木原那由他は自分の発言を後悔した。

 

 自分を大切に思ってくれている人を傷つけたことを。

 

 自分が大切に思っている人を傷つけたことを。

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 あの質問が彼の絶望を掘り起こし、痛みを疼かせ、心を抉ってしまうことは分かっていたはずだ。

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 あの問いは本当の所は自分に向けたものだったのではないか。

 

 自分にも目的があったはずだ。

 

 それは『ある実験』の所為で植物状態になり、そのままどこぞと知れぬ所に幽閉されている友達を救うこと。

 

 その実験の名は『AIM拡散力場制御実験』・・・・・・いや、あくまでそれは表向きの名称。

 

本当の名は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』。

 

 そう、あの少年がかつて受けた実験の基となった実験。

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 自分は同じ『木原』から『木原』の異端と呼ばれていた。

 

 「実験体を壊すことで限界を研究するのが第一歩」と考える他の『木原』からすれば「実験体の安全まで完全に配慮していた」自分はそう見えるだろう。

 

 そんな自分は『木原』が足りないと言われていた。

 

 だが、落ちこぼれ扱いされ、欠陥品呼ばわりされたが不自由はなかった。

 

 ただ、悔しさと得体のしれない物足りなさが日に日に積もっていった。

 

 そんなある日。現在も通っている先進教育局、特殊学校法人RFOで彼らと出会ったのだ。

 

 彼らはこの町で『置き去り(チャイルドエラー)』と呼ばれている、俗に言う捨て子の子供達であった。

 

 そして、何度も施設に通っている内にそんな彼らと友達となり、彼らの環の中に完全に入った瞬間、自分がそれまで感じていた物足りなさは、その『初めてできた友達』の存在によって補われたのだ。

 

 しかし・・・・・・。

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 自分は力を求めた。復讐するための力を。

 

 だが、復讐する力だけでなく彼らとの約束である風紀委員としての純粋な力、そして実験の犠牲となる子供達が減ることも同時に望んだ。

 

 故に、ありとあらゆる過酷な実験にその身を提供してきた。

 

 『学習装置(テスタメント)』と呼ばれる『五感全てに対して同時に電気的に情報を入力する装置』により直接、脳に技術や知識をインストールすることで、現在の能力を得た。代わりにその実験で人格に多少影響が出たらしいが、そんなものは些細なことだ。

 

 そしてある実験で学園都市の能力開発とは異質の力を身体に注ぎ込む実験を受けた際、あちこちが爆発して吹き飛ぶ重傷を負った。

 

 何とかそれは学園都市一とも呼んでも過言でもない(科学の最先端のこの町で一番ということは世界で一番とも言える)名医のおかげで一命を取り留めた。

 

 だが、その後自分の身体は他の『木原』達の科学的な好奇心によって全身の七割以上が義体になった。

 

 彼らにとってはそれすらも実験の一部だったようで、『木原一族』謹製の高性能義体、『AIM拡散力場制御義体』と呼ばれる物だった。

 

 これにより、自分は全身に隠された様々な仕込み兵装と、人間離れした運動能力を得た。

 

 正直、自分の知らない内に勝手に被験体にされたのは癪だが、これも自分の力として受け入れることにした。

 

 なお、これらの実験で得た莫大な報酬は全て『置き去り』の施設に寄付した。

 

 これで施設が資金目当てで子供達を実験に差し出すことは無くなると思った。

 

 あくまで願望の範疇だが、何もしないよりはマシなはずだ。

 

 きっと・・・・・・きっと・・・・・・。

 

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 自分が義体の身体に慣れ始めた頃。とある研究所が警備員により強制捜索された。

 

 そこで行われていたのは『闇』の下での実験だったようが、どうやら被験体の一人が実験中に暴走を起こしたために研究員のほとんどが死亡し、偶然生き残った研究員が藁をも掴む思いで警備員に通報したために公になったようだ。

 

 しかし、警備員の部隊が突入した時には全てが終わっていた。

 

 通報した研究員もまた、すでに死亡していたという形で。

 

 だが、そこには一人だけ生存者がいた。

 

 金色の髪をした置き去りの少年だった。

 

 ・・・・・・彼との出会いは偶然か必然か。

 

 那由他がその少年と初めて会ったのは、自分の命を救ってくれた名医である冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に義体のメンテナンスを手伝って貰うため、彼が所属する病院に来ていた時だった。

 

 冥土帰し。普段は飄々としているカエル顔の初老の男性だが、その医療技術は凄腕で、故にそんな異名が付けられている。

 

 そして、実際に彼はどんな病気・負傷であっても最後まで患者を見捨てず、あらゆる手段を用いて治療してしまうという。

 

 彼曰く、「死んだ人間以外なら必ず治してみせるよ?」とのこと。

 

 那由他は彼のことを医者としての腕もそうだが、人間としても信用している。

 

 何故なら彼の基本スタンスが患者第一で、患者の身が必要とするものは全て揃えるというのがモットーだからだ。

 

それは、一度看た患者なら声だけで分かるという程である。

 

 少なくとも、自らの好奇心ままに自分を被験体にした『木原』達よりは、頼りに出来る人物だ。

 

 少年の存在を知ったのは、彼の口から事件のことと彼がこの病院に入院していることが出たためだ。

 

 何故か自分はその少年に会ってみたいと思った。

 

 それは彼があの十人の友達と同じ『置き去り』だったためか。

 

 それとも自分と同じサイボーグだったためか。

 

 ともあれ最初は断っていた冥土帰しも自分のあまりの懇願に折れ、自らの失言に嘆息しながらも彼の病室まで案内してくれた。

 

 彼の病室の前には、例の研究所を捜索した警備員の部隊の指揮を執っていた黄泉川愛穂(よみかわあいほ)がいた。彼女は最初こそ少し戸惑っていたが、冥土帰しの説明を受け、通してくれた。

 

 病室にはその少年しかいなかった。

 黄泉川の話によると彼は血と脳漿(のうしょう)と内臓の残骸が散乱した研究所の中心でこの世の終わりを見たような表情で放心していたらしい。

 彼女はその少年をあくまで重要参考人として保護した。

 

 その理由は、研究所にあった記録を見る限り、悪いのはこうなるまで少年の心身を追い詰めた研究者達であり、彼女にはどうしても少年を純粋な悪だと断罪することは出来なかったかららしい。

 そして心身共のケアのため彼が冥土帰しの病院に入院するように手配し、独断の責任を全うするため自分自身が監督係として就いたとのこと。

 彼女の話を聞き、自分は歯噛みをした。

 また自分は救えなかった。

 自分がやった些細なことに意味など無かったと。

 だが、同時に思った。

 だとしても、せめてこの目の前にいる少年だけは救おうと。

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 いつの間にか少年と自分はお互いを信頼し合う関係になっていた。

 

 彼を自分の研究所の助手として引き取り、特殊な経歴のある彼が学校に行けるように黄泉川が手を回し、おかげで彼は彼女が勤めている高校に入学ができた(勿論、しばらくまともな教育を施されてなかった彼自身が入試のために猛勉強した成果でもある)。

 

 彼の調子も最初に会った頃に比べれば明らかに良くなっていっている。

 そして自身も友達を失った時に出来た心の穴が無くなりかけ、同じ支部の面々にも前よりは心を開けるようになった。

 

 全てが順調で良い方向に進んでいた。

 

 ・・・・・・だが、そこで思ってしまった。

 もしかして自分はこの少年を、恭助のことをあの『置き去り』の友達の代わりにしているだけではないかと。

 否定しようとしても一度浮かび上がった疑念は消えない。

 自分は醜い人間だったのだ。

 あの『木原』達と何も変わらない。

 恭助に恩人として尊敬されるような資格は自分には無い。

 そんな大層な人間では無いのだ。

 

 どうしてあんなことを聞いてしまったのか・・・・・・?

 

 

 どうして?

 

 それは・・・・・・、

 

 

 ・・・・・・――――に―――から?

 

 木原那由他の意識は一つのブザー音により現実に引き戻された。

「これはッ・・・・・・」

「おっ?」

 

 剣科と疾風もそれぞれの反応を見せた。

 そのブザー音が示すものは。

 

「重力子の加速・・・・・・場所は・・・・・・」

 

 つまり虚空爆破の前兆。

 

 そして、その現場は・・・・・・。

 

「第七学区のセブンスミスト・・・・・・」

 

 事態が、動き出す。

 

 

 




 というわけで今回は回想回(漢字で書くと回文になってややこしい回)でした。そして作者が考えたオリキャラ二人のお披露目回でもあります。
 では、この後書きを使って今回登場した彼女達について少し(?)だけ作者が語ります。


呉藍剣科

 今回しっかりキャラとして台詞付きで出てきた彼女。以前から恭助がリスペクトしていた通り、仲間思いの頼りになる人です。恭助が言ったように熱血キャラですが自分の持っている力で可能な限界と他人の事情に土足で踏み込んで良いラインを考えて行動する冷静な部分もあります。少女というより女性、可愛いより格好いいが似合う人物。
 恭助は『自分が持っている力を乱用してふんぞり返っている人物』、つまり『偉そうな態度で命令して自分は何もしないお偉いさん』が大嫌いなのですが彼女は恭助達の風紀委員の詰め所で一番の先輩で、能力のレベルも高く、故に一番発言権があります。でも決して後輩や他人を見下したりしないし、後輩に任せたままで良い雑務も必要とあらば手伝う、それがへそ曲がりな恭助にも尊敬される所以だったりします。


小鳥遊疾風

 彼女も6話にきて記念すべき初登場キャラなのですが残念、今回のメインは剣科と那由他の心理描写だったために内・外見面の描写がほとんどありませんでした。彼女については後々書いていくつもりです。キャラのイメージは特撮ヒーローに憧れている熱血バカな天才肌、という感じ。
 『空を飛ぶ能力者』というアイディアは原作の超電磁砲で『足下の空気を圧縮して跳ぶ』というエアロシューターの能力の使い方を見て思いつきました。そんな能力の使い方が出来たんだな・・・・・・じゃあもっと格好良くしてみたらどうかな?と。

 さていざ書いて見ると自分でも引くぐらい書き込んだ感はあります(笑)。かなりの長文になってしまい本当にすみません。そして作者の自画自賛みたいな解説を最後まで読んでいただきありがとうございます(と言いつつ登場人物紹介の回みたいのを区切りがついたら改めてやろうかと思ってたりしてます)。では、また次回もよろしくお願いします。
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