とある正義の人間兵器《サイボーグ》   作:大器・晩成

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 前回、虚空爆破に巻き込まれた恭助達は何故か助かっていた。
 
 卑劣な爆弾魔を追い詰めるため少年が駆ける!

 今回は作者渾身の回ですので、ほどほどに期待してお楽しみください。


8話 本物と偽物

「お姉ちゃーん!お兄ちゃーん!」

 

 店内にいるほとんどの人達が避難したことで静寂に包まれていたセブンスミスト内にいたのは、実は風紀委員の恭助達や少女だけではなかった。

 

「ねえっ、今のもしかしてッ・・・・・・」

 

「ああ、きっとあの子だ!」

 

 御坂と上条は少女の声がする方に向かって急いだ。

 

「ったく、そもそも何でこんな緊急事態な時に限って見失っちゃうのよアンタはッ」

 

「すまん、ビリビリ。お前まで付き合わしちまって・・・・・・。クソっ、こんなことになるならちゃんと気を配っておけばッ・・・・・・」

 

「謝るのも後悔するのも後よ。今はあの子を見つけないと」

 

「そう、だな。・・・・・・何かありがとな、ビリビリ」

 

「・・・・・・こんな時に言うのもアレだけどさ。いつも『ビリビリ言うな』って言ってんでしょ!何回言わせば気が済むのよ!」

 

「あっ、おい!」

 

 そうツッコミつつも、御坂は手前で走っている上条に負けじとスピードを上げる。

 

何故避難したはずの彼女達がここにいるかというと、二人の話を聞いて分かるように上条とさっきまでいた少女があの後はぐれてしまい、それを聞いた御坂が上条に事情を話しながら少女を探しているためだ。

 

 現在、その少女の声が聞こえた方向に向かっている途中である。

 

「確かここら辺のはず・・・・・・」

 

 そして、そう言って御坂が角を曲がったのと、

 

 

「ぉおォぶっ飛べぇぇぇぇぇェェェェェェェェ―――――――――ッ!!!!!」

 

 

 という悲鳴にも怒号にも慟哭にも聞こえる叫び声がセブンスミストに満ちていた沈黙を破壊するように響き渡ったのは、ほぼ同時だった。

 

「な、何ッ・・・・・・?」

 

 突然の出来事で動きが止まりかける二人だったが、その叫び声を上げたのが恭助で、彼が声を上げたのと同時に投擲したのが重力子を加速させる能力で生まれた爆弾だと気付く頃には身体が勝手に動いていた。

 

「(超電磁砲で爆弾ごとっ!)」

 

 一番最初に恭助らがいる所に辿り着いたのは御坂だった。

 

 彼女はお嬢様学校の在籍とは思えない程の脚力で素早く彼らの前に立つと自分の異名の代名詞と言える技で爆弾を吹き飛ばすため、ポケットに入っているゲームセンターのコインを取りだした。しかし・・・・・・。

 

「しまっ―――――ッ!」

 

 今までずっと走り続けていた所為で手が汗で濡れていたためか、それとも唐突に訪れた命懸けの事態に緊張してしまったためか、肝心な所で手を滑らしてコインを落としてしまった。

 

 もうすでにカエルのぬいぐるみだったモノは原型を留めて居らず、重力子の異常加速で出来た歪みの中心で瞬く間に収縮している。

 

 電気使い最強の超能力者と言えど、今から周りの建材に通っている鉄筋に磁力を引っかけて天井や床をめくることで盾にするには時間が足りなすぎる。

 

 取り落としたコインが床を跳ね、無機物な音を立てて遠ざかっていくのを感じた。

 

 御坂にはもう諦める時間さえなかった。

 

 ・・・・・・だがしかし、彼は違った。

 

 何故なら彼がやったことは単純なことだったからだ。

 

 彼は、恭助達を守るために彼らの前に立った御坂のさらに前に立ち、殺意の込められた異能の力に対してただ右手を突き出しただけだった。

 

 不幸なことぐらいしか取り柄の無い少年・上条当麻が持つ、それが異能の力ならば何であろうと打ち消すその右手を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブンスミストは元々あった窓を内側からは壁に見えるように装飾していたのだが、現在その部分は突如起きた爆発によって無惨にも突き破られ、黒い煙を吐き出している。

 

 勿論、表向きは『店内で電気系統の故障が発生したため』に外へ追い出された人達は大騒ぎになった。

 

 その中にいた少数の察しの良い人々も大体の事情を予想していただろうが、それでも動揺はしただろう。

 

 少なくとも二人。風紀委員の少年と少女がまだ建物内にいることを知っていた者は。

 

 だが、周りの人々の顔が恐怖や心配で塗り潰される中、一人だけ違う表情を浮かべた人物がその場をそっと離れていく。

 

 その人物は笑っていた。

 

 いや、嗤っていたという方が正しいだろう。

 

「(いいぞ、凄い、素晴らしい。徐々に強い“力”を使いこなせるようになってきた)」

 

 その人物・介旅初矢は、その一見不健康そうに見える顔に歪んだ笑みを浮かべながら人気の少ない道を歩き、さらに人気の無い路地裏に入っていく。

 

「くっ、くひひっ・・・・・・くひひひひっ!」

 

 ここまで来れば人に見られることは無いと思い安心したのか、堪え切れないと言わんばかりに笑い出す。

 

「・・・・・・もうすぐだ。後少し数をこなせば、無能な風紀委員も!あの不良共も!みんなまとめて―――――」

 

「ドンッ!」

 

 突然、大音量の音を耳元出されことで、完全に油断していた介旅は驚きのあまり突き飛ばされたように前のめりになる。

 

そして運悪く放置されたごみ箱に足を取られ、そのまま他のごみ箱も散らかしながら無様に倒れ込んだ。

 

「う・・・・・・うぐぅ。い、一体何が・・・・・・」

 

 いつもヘッドフォンを耳にかけている介旅は、どうやらさっきの出来事が人の声だったと断定できなかったらしく、不思議そうな表情をしながら顔を上げた。

 

「よお、爆弾魔。やっと会えたな」

 

 そこにいたのは介旅と同じくらいの歳であろう金髪の男だった。

 

 最初、介旅はいつも自分を“力”で脅して金を奪う奴らと同じ不良かと思ったが視線が男の右腕に巻いてある“腕章”に移った瞬間、彼なりの状況を理解した。

 

「な、何のことだか僕にはさっぱり・・・・・・」

 

 介旅はとりあえず様子見のため、しらばっくれることにした。

 

 まだ自分が犯人であるという物的証拠を掴まれたとは限らない。

 

 怪しそうな奴らに適当な鎌を掛けている段階だという可能性もあるからだ。

 

「(下手にボロを出さなければ言い逃れ出来るかもしれな―――――)」

 

「あー、そういえばさっきの。威力はたいしたモンだったが、生憎、死傷者どころか怪我人すら出なかったってよ」

 

 しかし、そんな目論見も男が口にしたその信じられない台詞で吹っ飛んでしまった。

 

「そっそんな馬鹿な!僕の最大出力だぞ!」

 

「・・・・・・へー、やるじゃねぇか」

 

 男のまるで褒めてるようにも聞こえる言葉によって、あまりにも遅過ぎるタイミングで我に返る介旅。

 

「あっ・・・・・・いやぁ、外から見ても凄い爆発だったんで・・・・・・」

 

 とんだ失態で後に引けなくなった。

 

 今更何を言った所で誤魔化すことは不可能だろう。

 

 かくなる上は今ここで・・・・・・殺るしかない。

 

 介旅は適当に口を動かしながらゆっくりと、アルミ製のスプーンがどっさり入っている自分の鞄に手を伸ばす。

 

 ヤツとの距離は5メートルぐらい。

 

 気付かれないように自分の身体で隠しながら慎重に、慎重に。

 

「・・・・・・中の人はとても助からないんじゃないかっ、て―――――ッ!」

 

 スプーンを掴み、爆弾に変え、後は相手に投げつけるだけだった。

 

 だが、介旅はそうすることが出来なかった。

 

 否、させてもらえなかった。

 

「・・・・・・なあ。惨めったらしく誤魔化してないで、ちゃっちゃと白状しろよ。ったく」

 

 気付いた時には介旅はすでに詰み(チェックメイト)だった。

 

「(・・・・・・右手でスプーンを握ったまでは良かったはずだ・・・・・・だけど、その後一体、何があったんだ・・・・・・・?)」

 

 介旅は現在、金髪の風紀委員にスプーンを握っている右手首を左手で捻られ、そのまま右腕を喉に当てられた状態で壁に押し付けられている。

 

 足を動かそうとしたが、まるで投げ出されたかのように下腹部に付いているそれをいくら動かしても、地面を滑るだけで全く地を掴むことが出来ない。

 

 何の拘束も受けていないはずの左腕にいたっては、まるで、筋肉がつった時のようにぴくりとも動かない。

 

「(な、何だッ?一体何なんだコレは・・・・・・ッ?)」

 

 今まで受けた単純な暴力とは違う“力”に介旅は今までに無い戦慄を覚えた。

 

「自分の身に起きていることが分かんねぇ、ってツラだな。いいぜ、教えてやるよ」

 

 そんな介旅に対し、金髪の風紀委員・相良恭助は物分かりの悪い馬鹿に接する時のように親切に御教授してやった。

 

 ・・・・・・それは、決して気分が良かったからでは無い。

 

 むしろここまで彼がブチ切れたのは久し振りだった。

 

 だからこれは相手に現実ってヤツを見せつけて追い詰めると同時に、会話をすることで自分を落ち着けるためでもあった。

 

「お前はもしかして今の技を空間移動(テレポート)系の能力か何かで説明しようとか考えているかもしれないが、違う。・・・・・・確か『縮地』って名前の、相手との距離を一瞬で詰めたり、相手が気付く間もなく懐に飛び込む技の総称みたいなものらしい、日本武術ってヤツの一つだ」

 

 まるで相手の思考を先読みした上で説明するかのように恭助は言った。

 

「剣科先輩曰く、日本武術のほぼ全ての系統にとって間合いの取り合いは重要で、基本中の基本且つ極めれば日本武術最強の技術らしいけど」

 

 ここら辺は本当に剣科の受け売りなので曖昧な口調になる恭助。

 

「つっても、勿論俺はまだ極めてねえから、コレに那由他から教わった戦闘術を組み合わせて誤魔化しているだけなんだが・・・・・・まあ、俺が先輩から教わった中で一番得意な技ではあるんだけどな」

 

と区切りの良い所で一旦、話を締め、深呼吸をする。

そうやって自分を平静に戻す。

 

 どうやらさっきアレを使った所為で感情が過度に高ぶっていたのがやっと引いてきたようだ。おそらくあのままだったら、恭助は目の前にいる介旅を半殺ししていたかもしれない。

 

 最悪、現在進行形で右手を押し付けているこの輩のいかにも折りやすそうな細い首に力を込めすぎて・・・・・・。

 

「今、お前が指一本動かせないのはアレだ、警備員とかが使う逮捕術と基本同じの関節技の発展版みたいのだ。・・・・・・つーかお前、俺の話聞いてんのか?」

 

 そこで恭助はさっきから介旅がやけに大人しいことに気付く。

 

 だが呼び掛けられた介旅は質問には答えず、代わりに押し殺したような声で言った。

 

「いつもこうだ。何をやっても、“力”で地面にねじ伏せられる・・・・・・っ!」

 

 それはまるで呪詛のような響きを持っていた。

 

 今まで奥底に押し込めていたドス黒いモノが漏れ出たようだった。

 

 そして一度漏れ出したモノは戻らず、ただ勢いをまして溢れだした。

 

「殺してやるッ・・・・・・お前みたいのが悪いんだよ!他の風紀委員だって同じだ!“力”のあるヤツはみんなそうだろうがぁァ!」

 

 それは介旅初矢の心の底に堆積した怨念だった。

 

『“力”のあるヤツはみんなそうだろうがぁァ!』

 

 最後のその一言に、彼の全てが集積していた。

 

 彼の怒りが、屈辱が、憎しみが、悲しみが、そして痛みが。

 

 これまでに何度もその精神を蹂躙された結果が。

 

 一つ一つは大したことでは無かったのかもしれない。

 

 ただそれがあまりにも連続し過ぎたことで彼の心はすり減っていったのだ。

 

 親しい友人もいなかったのだろう。それを癒してくれる誰かが。

 

 無論、

 

 彼の凶行を止めてくれる誰かも、その凶行が露呈したことによって失うモノもなかったのだろう。

 

 つまり彼は孤独だったのだ。

 

 孤独故に思い詰めてしまったのだろう。

 

 『自分は、これからもずっとこのまま“力”を持つ者から搾取され続ける運命なのではないか』と。

 

 そんな固定観念に囚われてしまったのではないだろうか。

 

 どこかで思い込みの幻想だと理解していたとしても、不安は常に憑き纏う。

 

 だから『幻想御手』を手に入れた時、彼は事を起こしたのだ。

 

 自分がちゃんと“力”を得たということを確認し、確信するために。

 

 例えそれが他人から貰った“幻想”だったとしても・・・・・・。

 

 相良恭助は今、目の前にいる介旅の様子からそれらを読み取った。

 

 それは実際に概ね合っていて、恭助もそうだろうと思っていた。

 

 それを理解した上で、恭助はただ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ははっ、何だそりゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ冷めた。

 

 失笑だった。

 

 今まで自分がこんな小物に感情を昂ぶらしていたことが、一気に馬鹿らしくなった。

 

 そんな恭助の態度に黙っていなかったのは介旅だった。

 

「キっサマぁ!何が可笑しいん―――――ッ!」

 

 すぐさま恭助に食って掛かるように喚こうとしたが、喉に当てられていた恭助の右腕に黙らされる。

 

「何が可笑しいかって?んなモン、決まってんだろボケ。まず俺レベルのを“力”を持っているヤツだと思ってる時点で、お前は充分小物なんだよ」

 

 恭助はそう吐き捨てるように言った後、さらに吐き出し続けるかのごとく独り言のように語り始めた。

 

「俺が“力”を持ってるヤツ?ははっ、笑わせんな。俺なんかお前と同じ、ただ周りを気にしてビクビク怯えているだけの偽物だ。決して本物なんかじゃない」

 

「俺の知り合いによ。高位の『風力使い』がいるんだ。そいつはな、七歳の時に受けた最初の身体測定(システムスキャン)でいきなり高位能力者の一人に仲間入りした」

 

「だけどそいつはその数値に満足しなかった。そいつにとっての夢は別に『能力者になること』じゃなく、『自由に空を飛ぶヒーローになること』だったからだ。そいつにとって能力は夢を実現するための手段でしかなかった、てことだ」

 

「今まで空気を集めて足場にして『跳ぶ』ヤツはいても、飛行機みたいに『飛ぼう』とした変わり者はいなかったらしくてな。誰もやり方を知らなかったんでそいつは独学で試行錯誤することにしたらしい」

 

「専門の研究者でさえ再現が困難且つ効率が悪いって理由でマイナー認定してんのに能力身に付けたてのガキが無茶すればどうなるかは、お前でも分かるだろう」

 

 その言葉、一つ一つに込められた『何か』は、介旅が抱えている『モノ』とは重さと濃度が全く違うモノだった。

 

「そいつは何度も何度も失敗して、失敗するたびにどっか怪我して。時には骨を折ったこともあったらしい。最初から持っていた才能に甘んじていればそんな目には遭わなかっただろうにな」

 

「だけど、結局そいつは諦めなかった。・・・・・・そんで見事、夢を叶えて今もどこかで馬鹿みたいに飛んでんだけどよ・・・・・・」

 

「結果そいつが得たのは()()()()だった。後は、一種の大道芸としての知名度ぐらい。明らかに成果と対価が釣り合ってねぇよな」

 

「だから実際その話を聞いた後、本人に聞いたんだ。何て答えたと思う?」

 

 恭助の顔は歪んでいた。手の届かないモノに対する憧れと自分が手に入れることが出来ないモノを獲得した者に向けた嫉妬に。

 

「『夢叶ったんだからそれで良いじゃん』だってよ。そもそも本物の“力”を持ってるヤツはな、周りなんて見てねぇんだ。自分自身を磨くのに常に必死だからな。周りに置いて行かれたくない一心でもがいてる俺みたいな偽物じゃ比べ物にならない」

 

 まったく・・・・・・憎らしいヤツだよ、と苦笑いにも似た笑みを零しながら愚痴を吐くように彼は呟く。

 

 そして恭助は改めて介旅の顔を見て、彼が小物たる決定的な点を言い放つ。

 

「結局、お前は()()してないんだよ。自分が今持っているものを磨く()()も、現状を改善する方法を考える()()も、小さいプライドなんか捨てて誰かに助けを求める()()もな」

 

 介旅は言い返すことが出来なかった。それに構わず恭助は続ける。単純作業を処理するように淡々と。

 

「後、そうだな。お前確か『殺してやる』とか言ってたよな?・・・・・・なあ、人間の内臓ってどんな色してるか知ってっか?赤いのもあれば黒いのもあるし、逆に白いのもあって、結構カラフルなんだけどよ・・・・・・」

 

 得体の知れない静けさを持った声色だった。

 

「お前。ソレ、実物見たことあるか?・・・・・・俺?・・・・・・さぁな」

 

 ただ、その静けさは何故か死体が持つソレにとても似ていた。

 

「『コロス』なんて言葉で言うのは簡単だ。たった三文字だしな。だがソレを現実でやった時の重さを想像出来るか?・・・・・・つまり今まで問題なく生きていて、明日も明後日も生きて当たり前のように生活していたであろう存在を永遠に『消す』ってことなんだが」

 

「しかも人を殺したら死ぬのは殺したヤツだけじゃない。そいつの家族や親戚、親しかった友達や恋人の中のそいつも一緒に死ぬ。そうすると何人になるんだろうな。いや、何十人か」

 

 倫理的な話をしているはずなのに、その口調は限りなく絶対零度に近かった。

 

「『殺す』というのはな、『奪う』ことじゃない。破壊してもう戻らないよう、徹底的に『消す』ことだ」

 

 それは上から目線のご高説というより、体験談を語られているようだと介旅は感じた。

 

 まあ、ほぼそうなのだから無理もないが。

 

「お前、ソレを背負える覚悟で言って実行したんだよな?まさかそんなの知りませんとか後で言ったら許されるとか思ってないだろうな?」

 

 最後の審判を言いつけるように、恭助は問うた。

 

 対する介旅はただ、震えていた。

 

 それは、ここに来てやっと自分のしでかそうとしたことに気付いたためか。

 

 それとも目の前にいるヤツが『人を殺しそうな目』をしているからか。

 

 いいや、

 

 それを言うなら『人を殺したことがある目』だが。

 

 少しの間、沈黙があった。

 

 その永遠のような数秒後、介旅は口を開いた。

 

 そこにさっきまでの威勢は無く、生気をなくした蝉の最期の羽音のように弱々しい『本音』だった。

 

「・・・・・・と思ってたんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・、」

 

 恭助は、ただそれを静聴する。

 

「・・・・・・変わりたいと思ってたんだ。学校でも町中でも、いつも不良に絡まれては殴られ蹴られ金を盗られる。『強者』に奪われるだけの自分から」

 

 そんなある日、自分の財布の中身をあらたか抜き取った不良の一人が言った。

 

『楽勝ー楽勝ー。だって風紀委員とかって事件が起きた後にしか来ねーしー』

 

「・・・・・・それがやけに耳に残って、いつからか、僕がこんな目に遭うのは“力”を持ってるくせに助けてくれないアイツらが悪いんだって、思うようになった。・・・・・・本当は分かっていたんだ。全部、『弱い』僕が悪かったってことぐらい・・・・・・」

 

 そうしてしばらく経った時、偶然『幻想御手』を手に入れた。

 

「・・・・・・それが本物の『幻想御手』だって分かった時は、運命のようなものを感じたよ。これであの不良共を叩き潰せるって。・・・・・・でもすぐに不安になった。もし、逆に返り討ちされてもっと酷い目に遭わされるかもしれないって思ったら・・・・・・」

 

 最初は練習ついでに無能な奴らに少しだけ痛い目に遭わしてやろうと思ってやっていた。

 

 だが小規模な爆発では、なかなか思うように被害を出すことが出来なかった。

 

 だから少しずつ威力を高めていって、爆弾そのものにも細工をするようになった。

 

 結果。段々とエスカレートしていった。

 

 疑われる心配も無かったことがさらに拍車を駆けた。

 

「・・・・・・そうこうしている内に、手段と目的がごちゃ混ぜになっていた。・・・・・・いや、ただ怖かったんだ僕は。『実戦』をするのが。だから『練習』を止めれなかった」

 

 あの不良共が彼に与えた恐怖は、もうすでに深層心理の中まで染み渡っていた。

 

 そしていつしか、彼は自分にこう言い聞かせるようになった。

 

『あの不良共と同じように、無能な風紀委員もまたこの世界には必要ない存在だ』と。

 

「・・・・・・僕が世界を変えてやる、なんて思って、言い聞かせて、結局僕は自分自身の心の『弱さ』に負けたんだ・・・・・・」

 

 そう言って介旅はさっきまでの獰猛な輝きさえ失った瞳で俯く。

 

 こんなことをしでかした自分の未来にはもう希望は皆無だと言うように。

 

 恭助が今まで維持していた拘束を解いても逃走する気力すら無いらしい。

 

 壁にもたれながらベタリと腰を地面に落とした。

 

 最早、手錠すらいらないだろう。

 

 監視していなくても警備員が来るまでずっとそこで項垂れていそうだ。

 

 だから風紀委員の少年は去り際に言った。

 

「・・・・・・お前は確かにたくさんの人達を傷つけたし、命を奪おうとした。でも、()()()()()()()()。だからやり直せる。世界は変えられなくても、自分自身は変えられる。それは『やれる』か『やれない』か、なんかじゃない『やる』か『やらない』かだ。俺だって変われたんだ。お前だって出来るはずだ。それにもし罪を償った後も“力”持ってるくせに助けてくれなかった風紀委員は無能だって少しでも思ってるんなら、

 

 

お前が本当の意味での“力”をいつか手に入れて、代わりに本物(ヒーロー)になれよ。

 

 

無能な俺らとは違う存在に・・・・・・さ」

 

 その言葉にはこれまで彼が放っていた空気とは違う、温かいものが含まれていた。

 

 例えるなら、暗い夜の終わりを告げる陽光の温かさ。

 

 それは、夜を知らなければ感じられない。

 

 そして、夜を知る者に朝を知らせる。

 

「・・・・・・、」

 

 介旅が何かを言う前に、彼は路地裏から去って行った。

 

 まるで自分の役目はもう終わったと告げるように。

 

 介旅はその後ろ姿を呆然と見つめたまま、しばらく何も言わず動かなかった。

 

 ただ、恭助が去ってから入れ違うように他の風紀委員や警備員が来た時、彼は静かに涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と小さく呟いていたという・・・・・・。

 

 

 




 まさかの介旅救済!そんな展開、誰が予想できたでしょうかァ!?

 ・・・・・・コホンっ。さて、何故この物語で、とある科学の超電磁砲屈指の小物である介旅を独自解釈で掘り下げ、改心・救済までしたのかというと、アニメ・コミック両方で彼と対峙した御坂を見たのですが、どちらとも彼の不自然なくらい支離滅裂な考えだけを聞いただけで彼と話し込んでおらず、そして彼女自身の『力』がそもそも圧倒的過ぎて、本当に彼女が言いたかったことが彼に伝わっているのか気になった、というのがキッカケです。

 別に作者は御坂美琴というキャラが嫌いなのではありません。むしろ好きです!妹達編以降の一皮むけた彼女は特にっ!!

 ・・・・・・コホンっ。理由は他にもあります。ネタバレになるのでぼかしますが、原作の禁書無印22巻の最後で暴露された学園都市のある秘密の所為で『この時点での』御坂の生き様の説得力が無くなってしまったことで、御坂が介旅を説教したあの男気のある格好いいシーンが作者的には黒歴史になってしまった、だから御坂に介旅と接触してほしくなかった。・・・・・・そしてただ単純に介旅初矢というキャラに作者が共感してしまったのです。
 真にその人間を理解できるのはその人物と同じかそれより下にいる人だけと作者は思っています。まあ、作者はそういう人間関係のストレスとか寝たら忘れるタイプの脳天気な人間ですが(笑)。

 ってメチャクチャ長い後書きですみません。今回の『とある正義の人間兵器』を読んでくださった方々ありがとうございます。前書きから後書きまで全て読んでくださった方々お疲れ様でした、そして重ねてありがとうございます。

 では、次回の蛇足的な回で虚空爆破事件編は終わります。ですがまだまだ書いていくつもり(最低でもアニレーの二期の最後までは)なので、愛読してくださっている方々、次回もよろしくお願いします。  
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