何とか、笑ってはぐらかしながら健太の部屋に入った。
そこは見事な絵画の世界だった!健太の絵の上手さには定評が
あったが、まさかこれ程とは思いもよらなかった。
ど素人の俺にもその素晴らしさが分かる気がする、
将来必ずその道エキスパートになると断言したい。
油絵の具とテレビン油の匂いの中、彼は静かに絵を描いていた。
俺をチラと見ただけで手を手を止めようとせず、
多少、顔が赤い様な気がする。
「この前は…ありがとう。」
「もっと、早くお前を助けてやれなくて悪かった。謝るよ…。
それにしても、お前の絵ハンパねぇな!スゲーよ!」
「ううん、嬉しかった…ありがとう。」
筆を進めながら健太はこちらを気にしている。元々、健太は無口な方だから
話が止まりがちになってしまう。暫らく、見事な健太の絵を静かに見ていたが
俺から切り出してみた。
「そろそろ、学校行こうか?」
「行きたくないんだ…。」
「俺もやられたよ、フルボッコで今はシカト中かな。」
「!!、直人もやられたの?」ギクッ
「あぁ、でも、彼奴らに絶対負けたくないし死んでも行く!」
「直人は強いから…僕はそんなに強くない…。」グスッ
あれだけの事をヤラれたんだから無理もない、本音で言えば俺にも
会いたくないだろう…気持ちが痛い程分かる気がする。
もう少し心の傷が癒えるまで無理かもしれない。
「また、遊びに来るよ。じゃ…。」
「………。」
健太の家を出て、塾へ行こうと向かった駅で偶然彼女を見つけた。
そう、今最高に気になっている人だ!
どうやら地元で有名なミッション系お嬢様学校へ通っている、
セーラー服姿がよく似合う艶やかな美しいロングヘアーの超美少女!
歩いているのを見るだけで皆が振り返る女の子だ。
俺は朝の電車通学が楽しみでしょうがない。
それは通学の時間が同じなのか彼女と同じ電車でよく出会うからなんだ。
彼女はよく、単行本につぶらな瞳を落としている事が多くケータイとかで
時間をつぶしてない所も俺の琴線に触れるところだ!
なんてラッキーなんだ!と、やや小躍りしたい気持ちを押さえていたら
同じ電車に乗る事ができ、今日はツイてると思った。
「行き先は何処なんだろう?」こんな事を考えながら彼女が
降りた駅も偶然か俺が通う塾がある駅で益々気になって仕方がない。
後を付けたいが、自分に言い聞かせ何とかストーカーをやる事を
抑えて塾へ向かうと、彼女もどうやら一緒の方角みたいだ。案じていると
同じビルに行くのか?
そのビルはテナントビルで色々な事業所が入居している。
そこの何処なの?って俺の通う塾??まさか…いままで彼女に
あった事がない。だけど、そうだっら何てラッキー何だと期待に胸を
膨らませて彼女が行く所を見守って驚いた…。
「合気道 ☆☆支部 」……へっ? 1階にあるガラス張りの中がよく見える
道場だ。ここの生徒さんなの?人は見かけによらない…健太もそうだ。
はたして着替えたのか彼女は袴姿も凛々しく準備運動を簡単にして
受け身の練習をしだした。
ほんのりと薄紅色になった頬に美しい髪を束ねてた凛々しい姿を
何時までも見てたいが、渋々と塾へ向かったのだった。
塾では数学の講義を受け何時もの時間に急いで1階を覗いてみて見たが
残念ながらもう、彼女は居ないらしく又の機会をとなってしまった。
翌朝、今日から又、彼奴らとの戦いが始まるのかと思うと少し落ち込み気味になるが
気合を入れて学校に向かう。たまに来栖先輩に会えるし、憧れの彼女と一緒の
電車になれば「よっしゃー」って気持ちになる。
ところがだ!え~っ、神様、最近俺に対する仕打ち、それはないだろう…。
俺は見てしまった…来栖先輩と憧れの彼女が楽しそうに仲睦まじく話を
しているのを。
「メチャ仲良さそうじゃん…あっ、先輩、彼女のおデコにデコピンしてらぁ。」
思わず小さく声が出ちまったぜ。参ったな、そういう事ね…。
彼女も来栖先輩の攻撃に無邪気に両頬を膨らませ、すねた感じで
デレている。正にお似合いのカッブルだ、よ、ね。
「はぁ~っ。」ひとつ、自然に溜息がでた。
これで、学校に行く楽しみが減ったな。
多少、拗ねたい気分を抑えて諦めるしかないし、来栖先輩なら諦めがつく。
「ちくしょ~っ!」儚くも俺の恋心は消えていったのだ。
モンモンとしながら駅に着き先輩達に見られない様、学校へと急いだ。
学校では、相変わらずシカト攻撃が続いているが今のところそれ以上何も仕掛けて
こないが用心した方がよさそうだ。
逆に弱味を見せたら奴等はそこを徹底的に付いて来る。
隙を見せないよう、学校では心掛けてるつもりだ。持久戦みたいだな?
まっ、余り神経質にならずのんびりと構えて自分は自分のスタイルを
変えずやって行くつもりでいる。
あれから4日がたち何事もなく済んでいる、怖いくらいだ。
まあ、シカトは続いてるけどね。
学校の帰り健太の様子を見に訪ねてみた。健太ママは息子が心配で仕方がないらしく
俺を必要以上に攻め立てるが、「少しだけ時間を下さい…。」と健太ママに
お願いをした。健太ママも俺の訳の分からない言葉を信じてくれたのか少しだけ
安心してくれたようだ…。「どうなるのだろう?」自分でも答えが出ないし。
健太の部屋を覗いた…、健太は…いつものスタイル、そう、絵を描いてる。
「ちょっと、寄ってみた。何描いてんの?」
「今度、出展しようと思ってるテーマの練習……。」
「へーっ、一発勝負じゃないんだ!スゲーな、驚いた!」
「べっ、別に普通の事だよ…。」
「俺、お前の事見直したぜ!こんなスゲーもん描けるんだって
知らなかったし、それに比べたら俺なんか何にも出来ない。」
「そんな事ないよ、僕は自分の好きな事やってるだけだから。
直人は賢いし友達も多い。僕なんか…。」
今日は割と話をしてくれる方かな?俺にも慣れてくれたらしい。
だけど、会話が止まって手持ち無沙汰になってしまう。
仕方なく、テーブルにあった紙とペンを貸してもらい落書きを始めてみた。
何を描こうか?う~ん、あっ、どうせ恥かきついでだ、
後で笑われればいいから、アレにしよう!
そう思いながらペンを走らせた。何を描き出したのかと
仕切りに健太が気にし出したが意外と面白く止められなくなった。
何度も何度も書き直しているうちに気付いたら健太が目の前にいた。
そうスケッチブックを手に俺の絵を見ながらモジモジしてる。
俺は少しだけビックリした、何故なら下手糞な絵を見られたのもあるし
突然だったから。
「その絵、朝、電車でよく一緒になるあの子でしょ?」
「いっ、すげぇ~っ、何で分かるの?」
「あんな可愛いい子、この辺じゃいないから。それによく描けてる…。」
「そんな事ないけど、気になるよな。まっ、お前もよく会うの?」
「うん、モデルになってくれたらと思った事があるよ。」
そう言ってスケッチブックを広げて俺に見せてくれた。
そこには彼女が電車の中で本を読んだり、物思いにふけった仕草等を描いたデッサンだった。
俺の描いたチンケな物ではない彼女の特徴や仕草をよく捉えた美しいデッサンだった。
これだけの力量があるのかと、全く感服してしまう。
「写真でも撮ったの?それとも、その場で描いたの?」
「そんな事できないよ!」
だよな…こいつの性格からして絶対できねぇに決まってる、だとすると…
「これ、帰ってから描いたの?」
「う、うん。」
「やっぱり、お前スゲえって!!」