霧雨魔梨沙の幻想郷   作:茶蕎麦

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 随分と遅くなってしまいました……申し訳ありません。


第四十一話

 

 

 魂魄集えば、その霊気は冷気を周囲に及ぼし凍えさせる。花吹雪は、その名前のまま鮮やかにも寒く。そんな、あまりに冷たい春の空は、一条の光線にて解けて温まる。

 辺りは包まれ、余裕はあっとう間に消されていく。いたずらにそれが振り回されないのは、幽かな微笑みを甚振るためか。

 力の塊である太き、光。魔梨沙の本気の一閃すら、あまりに矮小であると言わんばかりのその威力は、しかし風見幽香の表面フレアでしかない。

 熱を孕んだ眩き薄青は、怒涛となって数多の命を一回休みにしていく。その直ぐ隣の数多の光熱感じる場にて、掠っただけで身体に酷くダメージを与えられた西行寺幽々子は思わず零した。

 

「あらあら……これは強力ねー。貴女ったら、ひょっとして私を殺してしまうつもりだった?」

「そんなつまらないことはしないわ」

「なら、どうしてこんなに……きゃあ!」

 

 疑問が解ける前に、幽々子の姿は花色に溶ける。美麗ながらも高威力の散華を身近に受けた彼女は、思わず表情に険を浮かべた。それを見て、幽香は笑う。

 そう、艶やかな幽霊の無様を面白がり、意地悪な妖怪は不規則な弾を持って弄ぶ。難易度は最高でなくとも、注意をしなければいけないその弾幕に入ってしまっては、さしもの幽々子も余裕を失う。会話も漫ろになってしまうのは、幽香がそれを望んでいるため。

 当たり前が覚束ないことこそ、大人の恥。それを楽しむ自分が子供のようであるということすら楽しんで、幽香は己の嗜虐心を慰める。

 冷気に霊気は、生花の敵。幽香はそれを引き連れて来た相手を満足に歓迎してあげない。お迎えを望んだ訳ではないのだと、大きく咲き誇る。

 

「死に近いものを滅ぼしたところで、つまらない。けれども、滅亡から逃げようとする本能は利用してあげる。さあ、はしたなく惑うのよ」

「着物の裾が……やったわねー」

「彼岸に逃げ込む隙も貴女にはあげないわ。私にたっぷりと弄ばれて恨めしく思いなさい、不埒の亡霊」

「ふふ。たとえ負かされたところで私の余裕は奪えない。死と親しみ続けた絶望に遊ぶ境地を知りなさい、繁栄の妖怪」

 

 これは、対象。互いが誇るのは、生者の理の両端。暖色に寒色が入り交じって点が彩る曲線美を空に表す。

 花に蝶。幽玄を広げるにこの上ない組み合わせは、しかし激しく対しあった。

 両者は、認め合ってはいる。だが、共にあることばかりはあってはいけないことと理解していた。だから、疾く相手を墜とそうと発奮する。

 薫る全てを、手を広げて抱きしめて傲慢にも幽香は笑った。強者の余裕をじっとり見つめて、幽々子も口元を隠す。

 掠りの音色は激しく、青空に、生と死が混じり合う。

 

 

 

 

 

 

 春の風光を下に置いて、四季映姫・ヤマザナドゥと霧雨魔梨沙は向かい合っていた。

 花々は、その最盛で固定されている。惹かれるほどの力はないが、しかし尽く美しい全てを見下げて喜びながら、魔梨沙は肩で息をしている映姫に向けて口を開く。

 

「そういえば、映姫様って、その昔はお地蔵様だったって聞いたわ。でも同じ出自というのに、成美とは力が大違い。閻魔様ともなると凄いのねー」

「ふぅ、お話をして私に体力の回復の暇を与えるつもりですね……いいでしょう。そうですね。私は彼女と違って魔道に向かず仏道にて成就したもの。仏法より自ずと、大きな役割を与えられたのです。隙間にて力を広げるばかりのものより強力になりがちなのは当然でしょう」

「正道と邪道の違いかー。あたしと霊夢みたいな関係かしらね?」

「貴女達の場合は、少し違いますね」

 

 身だしなみを気にしながら、映姫は親しげな様子の魔梨沙に向かい合う。一息毎に、違う位相にある彼女の身は回復し力が漲っていく。罪を一刀両断するに、必要となるのは果たしてどれほどか。

 その上限をわくわくと期待しながら、魔梨沙は小さな裁判長を見つめる。自然、映姫の少しうんざりとした表情も彼女の目に入った。

 

「貴女達は、白と黒の関係ではありません。適正に役割へと向かったのです。法をその魔にて歪める貴女と、飛ぶが故に境界を知る博麗の巫女。互いが別の道を進むのは自然なことでした」

「あたしが魔道を進んだことは間違っていなかったっていうこと?」

「そうですね……そもそもが間違っていたのですから、そうなってしまったのも当然の帰結だったのでしょう」

 

 魔道。仏道どころか常道からも大きく外れた、無色を己の力として世界と対するそんな茨道を魔梨沙は進んでいる。白黒な服に身を包んでいなくとも、明らかにそこで汚れた彼女は黒。過ち続ける少女を、閻魔たる四季映姫は非難するべきだろう。

 けれども、真意を受け取り損ねて傷ついた少女を虐めるためにその舌鋒があるわけではない。そもそも、それこそ生まれたことが間違いなのだと再び思い込んで落ち込む魔梨沙を前にして、映姫は目を瞑った。

 そして、思い起こすは、喜怒哀楽少ないままにしかし深い絶望から、硝子のような瞳で自分を見上げて、どうして前のあたしを誰も裁いてくれなかったの、と眼前で涙を零した幼き日の魔梨沙の姿。

 自身の動揺と、相手の幼気さから伝えきれなかったあの日の思いを、映姫はここで理解してもらおうと決意した。

 

「やっぱり、あたしが魔梨沙であることは、間違えていたのかな」

「いいえ。貴女の始まりは不自然でしたが、私は貴女の生まれを決して否定しません」

「え?」

 

 以前と違って悲しみをその面一杯に表わしている魔梨沙を見ながら、映姫は力一杯にそう断言する。それを不思議に思う魔梨沙を眺めながら、個として欲ある自分の不出来を微笑んで彼女は認めた。

 そうして、輪廻転生をどうしてか受けなかった我を持つ魔梨沙を、自分なんかに懐いてくれる稀有な子供を映姫は我が子のように愛する。青い花びらが一つ頬に張り付いて、落ちた。

 

「貴女は我々の裁きからすらも漏れた特異な存在。そして、魂を乗っ取られた哀れな少女でもあります。……両方に、救いの余地はありました。それが叶わなかったことは、法の不備故でしょう。一旦を担う私はそれを悲しむことがあります。しかし、だからこそ、私は魔梨沙、貴女を決して見放すことはない」

「映姫様……」

「違おうとも、人として生まれたのです。それは、祝福されるべきでしょう。幾ら灰をかぶろうと、魔梨沙、貴女が生まれたことは白です」

「ありがとう、映姫様! 大好き!」

「むぎゅ。……有り難いことですが、魔梨沙、私が言いたいことはそれだけではありません。最後まで人の言うことを聞きなさい!」

「はーい!」

 

 きっと、間違っている。自分が黒いことを言ってしまっていることを、映姫は能力を使わずとも判ぜられていた。しかし、それでも抱擁の中で彼女は一切その言葉を後悔しない。

 何故ならこれは、楽園の最高裁判長たるヤマザナドゥではなく、映姫という少女が偉そうに口にした思いというそれだけの言の葉だから。そもそも今は公でなくお忍びの場。少し恥ずかしい本音を口にしたとしても構わないだろう。

 そう、赤い顔をしながら映姫は考えながら、少し離れて魔梨沙のためになるような言葉を更に吐き出していく。

 

「こほん。魔道に進むこと、それは勿論正道ではありません。それでも、力に目を晦ませながらも貴女は人を選んでいる。ならば、幾らでも改悛の余地はあると思っています」

「あたしは、変わらないわー」

「……そうですね。きっと、貴女は誰の言を得ようが歪んだままなのでしょう。けれども、私はそれを決して認めません。貴女を人並みの幸せで満足して貰うまでは」

 

 閻魔、とはいえ好き嫌いがないわけではない。また、映姫は孤独を喜ぶ趣味はなかった。都度忘れるとはいえ説教――思う言葉――を喜び、ましてや自分を好きでいてくれる。そんな相手を果たして嫌いになれるだろうか。

 結論として、四季映姫は、そんな魔梨沙が大好きだった。個としては、是非とも幸せになって欲しいとそう思う。ヤマザナドゥとしてはどうにも柳に風なその様は苦手であるけれども、それでも是非とも変わって欲しいとは思っていた。

 そう、親心のようなものをこっそり隠している映姫は、魔梨沙が説教で幸せになれる程度の存在である小さな人間であって欲しいと考えている。

 

「どこまでも自分を認められないからこそ、力を求め続ける。霧雨魔梨沙という少女は承認欲求の塊、といってもいいでしょう。そう、貴女は少し求め過ぎる」

「求めなくては、つまらないと思うけれど」

「欲界の常とはいえども、いかにも見境ない。他力は貴女以外の人の物。それを、貴女は忘れて始めている。茫洋に受け容れ続けても、貴女は何にもなることは出来ませんよ? それこそ、貴女が求める霧雨マリサには、決して代われない」

「……そう、かな」

 

 それは核心。力を求め続けて、少女は何に成りたかったのか。そんなこと、多くを知り上から見ていれば自ずと判ることだった。

 魔梨沙は代わりをしている自覚がある。偶に這入り込んで、居座ってしまった異物。マリサを騙る何者か。それが、自己評価だった。

 だが、そんなのは嫌なのである。ここ幻想郷の中心にて、魔梨沙は誰にも認めてもらえるものに成りたかったのだ。力無ければまた酷い目に遭わされると急き立てる喉元に従い、実力をもって席を得ようとしていた。

 しかし、もとより存在しないもの代替と化そうとするならば、それこそ無尽に伸びなければならなかったのである。だから、魔梨沙は無理をしていた。

 それは、映姫には認められないくらいに黒いこと。哀れんで、彼女は言葉を贈る。

 

「そもそも、成り代わってしまったのだという自責は途方もない的外れでしょう。この世に霧雨マリサは一人だけ。貴女はそのままでも、霧雨魔梨沙でいいのです」

「映姫様がそう言ってくれるのはとっても嬉しいわ。でも……それでも苦しいの」

「……忌み呪われて縛された、貴女の苦しみを私の言葉で癒すことは出来ないということは、判っています。それでも、私は向かい合います。――そして貴女は、向けられた数多の瞳の色を理解し、自分を愛すると良い!」

 

 転生によって混濁していて、本当の主人公ではなくとも、それでも貴女は居ていいのだと、確信してもらうまで映姫は伝えたい。この愛を向けるのは一人だけ。そう、霧雨魔梨沙だけであると、元地蔵菩薩は贔屓を思う。

 故に、ぶつかるまでのコミュニケーションを取ることを、映姫は躊躇わない。一度押したのだ、もう引くことはないだろう。唐変木は、押し倒すまでしなければ相手の気持ちが解らないものなのだから。私の心を弾にして見事当ててみせよう。

 

「よし、行きますよ!」

 

 そんな風に、情で混濁した心をしかし映姫は力づくで整理した。彼女は、自らの手で両の頬を叩き、赤より高熱な青の瞳を輝かす。そして敵わなくとも、お尻をひっぱたいたくらいのダメージは与えてあげようと意気を燃やした。

 愛する子におしりペンペン。それは一度はやってみたかったシチュエーションである。黒く映姫は微笑んだ。

 

「うう、何だか映姫様が怖い……」

 

 そして、ここで初めて明確に向けられた愛情を恐れた魔梨沙は、弾幕ごっこに及び腰になる。

 しかし、それでも愛は止まらない。笏を握りしめて自分に向かう少女に、魔梨沙はこわごわ相対した。

 

 

 

 四季映姫・ヤマザナドゥは弾幕ごっこの粋を知っている。それは、コミュニケーション。

 スペルカードルールで規制された弾幕ごっこは、心象を交わし合い、そして理解するための言葉代わりの闘争。それを好むのが美しきものを秘め、直接の恥ずかしさを知る女子ばかりであるのは、当然の帰結であったのかも知れない。

 勿論、これは理想の用途。否定のための手段として使われる場合だってある。だが、それでも映姫は信じているのだ。白黒で決まらない、情懐の世界の可能性を。

 

「綺麗で調子も工夫されている……ですが、魔梨沙の弾幕はどこか色の多さに欠けるところがありますね」

「うふふ。あたしったら、色々を生み出すことも出来なくはないのだけれど、好きな色を大事にしてしまうのよねー」

「やはり、そうですか……」

 

 映姫の全力、スペルカードで提示した審判「十王裁判」の弾幕の中で踊りながら魔梨沙はそう答えた。それを、少し彼女は残念に思う。

 全てを気に入ることはない。だが、それでも視野が狭くあって良いことはないのだ。好き以外見向きもしない、そんな魔梨沙の性格は、その形成からして物哀しい。

 十人十色。立ち位置だけでもこれだけ様々であることを示す、映姫の弾幕を笑顔で綺麗と目に入れながらも、少女は変わらない。放射され宙を別ける米粒と中玉弾幕の赤を受け止めることなく、自由自在に魔梨沙は飛び回る。

 

 霧雨魔梨沙は全てを楽しみ、しかし止まることはない。強く、それに過ぎている。ついつい映姫は歪な子供を、そこに垣間見てしまう。

 それでも、抱き留められない。もどかしい思いを湛えながら天駆ける映姫の防御は、紫色の五芒の突端に揺らされる。

 

「きゃ……相変わらず、数は少なくとも随分と一撃が重い、ですね」

「うふふ。あたしは量より質ってやっているの」

「数多の魔梨沙の窮地を、この威力が助けてきたのでしょう。さしずめ廻天之力、といったところでしょうか……」

「どういう意味かしら?」

「簡単に説明すれば、不利すら覆す力のこと、です」

 

 五番の十王たる閻魔を表す後光のように映姫から流れ出る光線に逆らわずに飛びながら、魔梨沙はその四文字熟語に感じ入ってにんまりと笑む。

 力は好きで、それを用いた言葉が自分の標になったのは嬉しい。でも、通常弾幕に込められた幽かばかりでそれを頂くのはいかにも大げさであるようにも思えた。

 だから魔梨沙は、十王裁判の弾幕が終わったその後、深めた笑みと共に、実力の一端を見せつけようとスペルカードを披露する。

 

「いい言葉ねー。でも、流星ひとつで変わるものは大したものではないと思うの。映姫様は、あたしの本当の廻天の力を見てみたい?」

「そうですね……出来れば、比べあってみたいところです」

 

 対する映姫も、カードを持ち上げてから片方だけ口を歪めて笑みを作った。それはしかし、自嘲に近い。

 勿論、判っている。力業を対抗させたところで、幻想郷最強と比肩する相手に自分が勝てるはずもないということなんて。

 だが、それでも映姫は真っ直ぐに向かい合いたかったのだ。勝ち負けなんて、大した問題ではない。そんなことよりも、伝えたいことがあった。

 

 星の先に集まる魔力、そして純に力の光と化した全力の用意を前に、映姫は悔悟の棒を向ける。みしりと重みを伝えるそれを落とすことなく、そうして彼女も力の全てを発揮した。

 

「恋符「マスタースパーク」!」

「行きます……審判「ギルティ・オワ・ノットギルティ」!」

 

 そして衝突するは光に、光。両者の力は美しく輝く。

 前に前に、極光を溢れさせる魔梨沙のスパークに対して、映姫の力は収束不足か周囲に赤青二色を漏らしながらも紫色の光線となって対抗している。

 映姫の光はその小さな身に用意された立場に従った、凄まじい力。紫の光は並大抵の者どころか幻想郷の上澄みの人外ですら吹き飛ばしかねない程のものだった。

 

「きゃはは! 凄い、凄い……けれど、足りないわ!」

 

 だが、相手は霧雨魔梨沙。狂喜する彼女は、火力において最早権能に近いものを持つ。即ち、それは最強の権利の行使に等しい。

 正しく一撃必殺。溢れる光は、どうしようもなく高まって、映姫の光を気安く覆う。そして、全てが呑まれようとしたその時に、少女の身から更に力が溢れ出した。

 

「それは、そうでしょう。そっちが全力と、誰が言いましたか!」

「きゃはっ、凄い!」

 

 そして、四季映姫の魔梨沙よりも純粋な力は、周囲を二色に断っていく。膨大なそれらのせいで、魔梨沙の魔力は届かなくなった。

 黒か白か、ではない。モノトーンに分かれてしまえば、鮮やかに染まれないだろう。それは、いかにもつまらないと、変ずるは赤に青。しかし全てを別けるその二つが大きく丸く次々と、周囲に広がっていく。

 つまり、丸い弾が両端の色に全てを染めていくのだ。罪か無罪か、自分を思えと言わんばかりに。

 

 力を放ち続けることで、魔梨沙の動きは鈍っている。だから、向かい来る大玉弾を気楽に避けるというのは難しい。

 だから、掠めさせる。僅かな防御に薄皮一枚なんて幾らでも持っていけばいいのだ。しかし負けはしない。そんな意地を張りながら、魔梨沙は怒涛を通り越した後珠に囲まれた中で垣間見た映姫の思いを知る。

 

「くっ」

「映姫、様……」

 

 魔梨沙にとって、弾幕ごっこは遊びである。幻想郷のために負けられない、遊戯だ。だから、命なんて軽く賭けてしまう。

 だが、映姫にとっては、違う。弾幕ごっこは、触れ合うための指先の一つ。今までいくら口で伝えようとも無理だったこと。それを今度こそ伝える、それに映姫はそれこそ本気で命を掛けた。

 死力を尽くしている映姫は、存在の象徴すら光と化させ、魔梨沙と向き合う。閻魔の証を取っ払ってしまった中で力みに苦しむ彼女は正に、少女だった。そんな彼女は、目を開き、諭すように言う。

 

「無罪有罪、知ったことではありません。私で良かったら、貴女を幾らでも受け止めます……だから、これ以上頑張らないで……私は心配なのです」

「どうして、映姫様は、あたしにここまで……」

「未だ判らないのですかっ。魔梨沙が好きだからに、決まっているでしょう!」

「わわ」

 

 そして、表現装飾取っ払って、弁舌真っ直ぐに、映姫は好意を伝える。結果、魔梨沙は真っ赤に紅潮して慌てた。

 

「あ」

「あ……」

 

 そして、手元を狂わせてしまった魔梨沙はマスタースパークの角度を少し変えさせてしまう。結果、ものの見事に、振れた力の光は映姫を呑み込むこととなった。

 極光は殺す性質を極力失わせたものであり、大きく相手を損ねることはないが、それでも力使い果たした少女を倒すには十分なもの。

 愛を受け取り損ねて、魔梨沙は落ちていく少女の姿をぽかんと見送る。

 

 

 

「好き……本当に?」

 

 照れ屋さんの少女たちの中で、真っ当にその言葉を送ってくれたのは稚気溢れる者たちばかり。よく考えたら、自分なんて好かれるはずがないのだと思い込んでいた魔梨沙の心は、漣だつ。

 

「あたしは、愛されていいの?」

 

 喉を一筋、なぞる。途端、少女は首元に、締まる幻覚を感じた。

 

 

 

 


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