マドがやってきて、もう一週間。
魔法学院のコルベールがRc溶液の複製に成功し、それを受け取るついでにマドのクインケにも『固定化』をかけてもらった。
リンを逃したルイズ・ヴァリエールの行為は叱責されるべきだが、避けられているのか、会うことはなかった。
『カスミ』は駆逐し、リンはアルビオンという国に行ってしまい、トリスタニアから喰種はいなくなった。
ハヤトとマドは喰種捜査官なりの捜査術を、衛兵や銃士隊に伝えることで収入を得た。
さすがに何もしないまま給料をもらうというのは職業柄忍びない。
本職とは少し違うが、事件を解決させるのは仕事のうちだ。
そういう一週間を過ごし、夜。
ハヤトとアニエスは市内にある食堂に訪れていた。
タバコと酒の臭いが立ち込め、そこかしこから笑い声が上がっている大衆食堂。そのカウンター席で二人は並んで座り、パンやスープを口に運ぶ。
二人ともトレンチコートや銃士隊隊服を脱いでおり、そろってやぼったい普段着姿だ。
マドも食事に誘ったのだが、調べ物があるといってやんわりと断られてしまった。
三人そろっての食事はまだできていない。
「相手が人間だと、それはそれで苦労するな」
死なないことはもちろんのこと、喰種のように殺しておしまいとはいかないのだ。
可能な限り負傷させず、小型ナイフを振り回して暴れる相手を取り押さえる。複数人ならいざ知らず、それを単独でやろうとするのは恐ろしく難しい。
衛兵が五人か六人で行動している理由がよくわかった一週間だ。
ハヤトはジャガイモや野菜を煮込んだスープを口に運んだ。塩で味付けしただけのものだが、食材の出汁がスープに溶け出していて、なかなか美味しい。
「『人喰い鬼』よりはマシだろう? よくいままで生きてこれたな?」
アニエスが返した。
「ああ、ベテランと二人一組になって捜査にあたるんだ。その中で少しづつ捜査手法や戦闘術を学ぶ」
そうだ。二人一組で行動すべきだった。
マドに叱責されたことを思い出し、ハヤトはため息を吐いた。
“君の失敗で危うく彼女が死ぬところだった”
その通りだ。アニエスとともに捜査に当たるべきだったが、二手に別れて捜査することを選んでしまった。それはハヤトの選択ミスだ。
「俺の判断ミスで危うくアニエスを死なせるところだった……すまない」
「その件ももういいと言ったはずだがな。結果的に私は生きてる」
「今回は助かっただけだ。次から『人喰い鬼』の捜査は常に二人……三人でやろう」
「だな」
スープを飲み干して、鉄のコップに入ったエールをあおる。
「ん……美味いな。ワインよりこいつがいい」
ビールから苦味と炭酸を弱めて、フルーツの香りを足すとこうなるのだろうか。
「私もエール派だ」
くい、とアニエスもコップを傾け、ふうと一息吐く。
「喰種捜査官といったか? なぜその危険な仕事に就いた?」
その問いかけに、ハヤトは過去を振り返った。
一三年前、ハヤトがまだ小学生だったころだ。
日曜の朝、友だちと一緒に遊びに出かけたその日。
「……両親が殺されて、喰われた。それだけさ」
「嫌なことをきいたな。悪かった」
「いいんだ、気にしないでくれ。ほとんどの喰種捜査官は俺と似た境遇の人が多い。マドさんもそうだろう」
あの日曜日はいまも覚えている。
割れた窓ガラス、飛び散った血液、すべて集めても一人分にならない人間の欠片。かつて父親と母親だった肉の残骸と、血と臓腑の悪臭……忘れられない。
「……私はな……」
アニエスはコップに残るエールを見つめながら、静かに語る。
「……私の故郷は、ダングルテールという村だ。全部で五百人くらいの小さな村でな、どこにでもある農村だった」
だった、とはどういうことだろうか?
ハヤトは無言のまま聞き続ける。
「……だが疫病が流行ったという口実で、村も、その住人も、まとめて焼き払われた。生き残りは私だけだ」
言って、エールをすべて飲み干した。
「辛いなら言わなくてもーー」
「いいや聞いてくれ……とにかく疫病なんてのは嘘で、じっさいは村に逃げ込んだ教徒ごとまとめて焼き殺すことだった。それを実行したやつと、命令を下したやつに復讐するために、私は……」
眉間に深いしわを寄せて、手を握りしめる。
彼女も自分と同じだ。失った痛みと憎悪の炎で動いている。動かなくては、居ても立っても居られないのだろう。
「……どう言えばいいのかわからないが……捕まえる協力ならするさ」
ハヤトもコップの中のエールを空にした。
「……ふ、ふふ、しんみりさせてしまったな……おやじ、エールおかわり」
「俺もだ」
それぞれ硬貨を二枚とコップを差し出した。
「あいよ!」
カウンターの向こうにいる主人はコップと硬貨を受け取り、樽の蛇口をひねってエールを注ぐ。
それをふたたびアニエスとハヤトの前に置くと、アニエスはいきなりぐいっと飲む。
「それでハヤト、帰りたいとか、思わないのか?」
「帰りたい、か……できればそうしたいが、まだだな。ここでやること終わるまで、帰るわけにはいかない。それに、待っている人もいない」
一口エールを飲む。
「似た者同士だな……私も、お前も」
「ああ」
二人そろってエールをあおる。
コップを再び空にしたところで、ハヤトは立ち上がった。
「さて、そろそろお開きにしよう。立てるか?」
「とうぜ、ん?」
立ち上がった途端、アニエスはストンと座ってしまう。
「ほら、手を貸すよ」
苦笑しながら右手を差し出すと、アニエスは少し恥ずかしそうに目を伏せて、その手をとった。
アンリエッタ姫から使いの者がやってきて、ラ・ロシェールからアルビオンへ向かうよう命令されたのは、その翌朝のことだった。
マドもいっしょに向かったのを知るのはアニエスだけで、アニエスは特に気にとめることもなかった。
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トリステイン魔法学院に戻ったルイズを待っていたのは、意外にも普通の日常だった。
覚悟していたオスマンからの叱責も特になく、キュルケとタバサとそろって口頭での注意だけで済んだ。
ルイズは教室の窓際の席について、ぼんやりと外を眺める。
リンがアルビオンに発って一週間。張り合いがなくなったような、目標がなくなったような、そんな気分。
ふと、ひそひそと笑い声が聞こえてきた。
目だけを動かしてそちらを見やると、女生徒がチラチラとルイズを見やって小声で笑っている。
「結局ゼロに逆戻りね」
一番の変化といえばこれだ。
ゼロの蔑称がまた使われるようになった。一気に頭に血がのぼる。
ーーなんですって!? もう一回言ってみなさい!
そう叫ぼうと思った瞬間にガラリとドアが開き、黒づくめの教師が入ってきた。
リンに杖を折られて腕をかじられた教師だ。もう包帯は取れている。
「諸君、静かに」
こうなってはもう感情を爆発させられない。ぐっと鬱憤を飲み込む。
「授業を始める。もう知っていると思うが……私はギトー。『疾風』のギトーだ」
しんと教室が静まり、ギトーは満足気に頷く。
そしてマニキュアを塗っていたキュルケを指差した。
「ミス・ツェルプストー、最強とされる魔法の系統はなんだと思う?」
質問の意図がわかりかねたのか、キュルケは若干考えて、答える。
「虚無ではありませんか?」
「伝説の話ではない。私は現実的な話をしている」
「それなら火ですわ。火と情熱は全てを燃やすものではなくて?」
「ふっ」
もったいぶったようにギトーは鼻を鳴らした。
「それは違うな。杖の契約も終えたところだ、一つ試してみよう。私に炎の魔法を放ちたまえ」
おもむろにギトーは杖を取り出し、そんなことを言う。
杖の契約にはかなりの手間暇がかかるらしいが、それもすでに終わらせたようだ。
「……火傷ではすみませんわよ」
「かまわん。その赤毛が伊達でないなら、遠慮なくやりたまえ」
キュルケも杖を抜くと、二人の間にいる生徒たちは急いで避難する。
そしてキュルケが呪文を小声で唱えると、杖の先端に拳ほどの火球が現れた。
それが一メイルほどの大きさに膨れ上がる。
その火球を押し出すように杖をふった。ごう、と音を立ててギトーへ向かう。
「ふん!」
ギトーはリンの時のように、杖を剣のように横なぎへ振る。
突風が吹き荒れ、その火球をかき消した。
それどころかキュルケさえも吹き飛ばして尻餅をつかせる。
「諸君、見ての通りだ。最強の系統とはすなわち風。風は全てを切り裂く刃となり、全てを遮る盾となる。試したことはないが、虚無の魔法さえも私の風はかき消すだろう」
得意げにギトーは語り、立ち上がったキュルケは呆れるように両手を広げた。
ギトーはさらに風がいかに強いかを懇切丁寧に身振り手振りで解説、説明する。
風系統の生徒ーーおもにに男子ーーは目を輝かせ、風系統ではない生徒らはうんざりした表情を浮かべた。
でもおまえリンに負けたじゃん。
教室のどこかからそんな声が聞こえてきそうな空気になった。
いくら “風つえー” “俺様最強” を自慢しても、リンに腕をかじられ泣き叫び杖を折られたのは記憶に新しい。
そんなおり、一人の生徒が手を挙げる。
「先生、風と風がぶつかったらどうなるんですか?」
当然の疑問だ。最強の矛と絶対の盾ということわざもある。
「ふっ、そんなこと……決まっているだろう? そのときはーー」
「授業中失礼しますぞ!」
いきなり後ろのドアが勢いよく開いた。
入ってきたのはコルベール……だろう。たぶん。
なぜ断言できないかというと、その頭にふさふさの髪の毛が乗っかっているからだ。
カツラなのは二秒でわかる。しかも妙に着飾った服を着て、なんだか安い劇の役者に見えた。
「ミスタ・コルベール、いったいなにごとですかな?」
不満な顔をしてギトーが問うと、コルベールは胸を張った。
張りすぎてカツラがするりと滑り落ち、ぱさ、と落ちた。
しんと教室が静まり返って、タバサがつぶやく。
「……すべりやすい」
どっと笑いが沸き起こった。ルイズもぶふっと吹き出す。
「静かに、静かにしなさい! 貴族たるもの下品に大口を開けて笑うものでは……ええい、黙らないか、このこわっぱ、どもが!」
その剣幕に思わず口をつぐむ。
なんというかこう、何百人も殺したことがあるような怒り顔だ。
「えー、おほん……」
ばつが悪そうにわざとらしく咳払いをして、コルベールは用件を言う。
「本日、ハルケギニアに誇る我がトリステインの花、アンリエッタ姫殿下が、ゲルマニア訪問を終えてここ魔法学院に行幸されます。ひいては本日の授業はすべて中止。みなさん粗相のないように準備をし、広場に集まりなさい。いいですね?」
言い残し、ざわつく教室からコルベールは去っていった。
「姫様が……」
ルイズは呟く。
アンリエッタとは幼馴染だが、はたして自分のことを覚えているのだろうか?
答えは夜に出た。
日が沈み、ベッドで横になりながら枕を抱きしめる。
まさかワルドまで一緒だなんて思わなかった。
一国の姫が護衛をつけるのは当たり前にしろ、かつての婚約者までこの学院にいる。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
父親が酒の場で婚約すると決めた相手だ。
もっとも、十年近く前のことで、ワルドがまだ覚えているとも限らない。
「はあ……」
ごろんと仰向けになって天井を見上げる。
あの馬鹿はちゃんと仕事をこなしているのかしら? それに怪我とかしてないでしょうね?
なぜかいまリンを思い出してしまい、その理由もわからずに悶々とのたうつ。違うもん違うもん使い魔の心配をしているだけだもん!
「うー」
このやり場のない感情をぶつける相手がいないため、代わりに枕をぼふぼふと拳を振り下ろす。
そんな時、不規則にドアが叩かれた。二回早く、遅れて一回。
あれ? と思い姿勢を直した。
ドアが開いて、フードを目深にかぶった人物が入ってくる。
「だれよ?」
その問いに、フードの人はしーっと人差し指を立てた。
そして杖を振ると、光る粉が部屋全体に染み渡っていく。
ディテクトマジックだ。盗聴や遠視といった、魔法に反応する魔法。
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」
フードを外すと、その下から出てきた顔はアンリエッタその人だった。
「姫殿下」
すぐにベッドをおりて、片膝をついて頭を垂れる。幼馴染だからといって馴れ馴れしい態度は取れない。子供だから、は通用しない年齢なのだから。
「ああ、やめてちょうだい。わたくしたちはお友達でしょう? ここには枢機卿も執政官も、友達のふりをした官僚もいないのよ? あなたにまでそんな態度をとられたら、わたくしは息ができなくなってしまいます」
覚えていてくれたようだ。
アンリエッタも膝をついて、ルイズの手を取って握りしめる。
「ですが姫様、いけませんわ。このようなところにお一人で……」
「ルイズ、姫様なんて呼び方はやめて。昔のようにアンリエッタと呼んでちょうだい」
「アンリエッタ……姫」
宮廷ごっこでお姫様役をめぐり、ドレスの取り合いや、猫を追いかけて二人揃って中庭で迷子になったり、蝶を追って泥まみれになったりと、そんな思い出話に花が咲いた。
だがわざわざ昔話をしに来たはずもなく、アンリエッタは切り出した。
「……わたくし、結婚するの」
そういう口ぶりは、まるで葬儀に参列するようで。
「……おめでとうございます」
口先だけそう言うに留めた。王族や貴族の女が、好きな相手と結ばれることは稀だ。
それが叶うとしたら、好きな相手も自分と同等以上の地位や名声を得ているときだけだろう。
アンリエッタは諦めるように笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。気を遣わせてしまって」
「いえ……それで、どなたと?」
「ゲルマニアの皇帝よ」
「ゲルマニア!? あんな成り上がりの国と?」
思わず声を荒げる。ゲルマニア嫌いのルイズとしては洒落にならない。
「ええ。好きな人と結ばれるなど、物心ついた時から諦めておりましたわ」
アンリエッタの口調から、その婚姻を望んでいないことはよくわかる。
口外禁止という条件で、アンリエッタは情勢を説明した。
アルビオンでは貴族派と王党派に分かれて内乱が起きていること。
しかもアルビオン王家の勢力だけでは覆せないほど劣勢に立たされていること。
貴族派が勝利をおさめた後、トリステインに攻め込む可能性があること。
それに対抗するためにはゲルマニアとの軍事同盟を結ぶ必要があること。そのための婚姻だということ。
貴族派はその婚姻を妨げる材料を血眼になって探していること。
そして……ウェールズ皇太子に宛てた手紙が、婚約破棄になりうる材料であること。
ルイズの答えが出るのは早かった。
「でしたら、わたしが持って参ります」
「そんな……ああわたくしったら……友達になにをさせようとしているのかしら? 危険だわ」
「心配にはおよびません。アルビオンのウェールズ様のところには、わたしの使い魔がいます」
「それは、その……『人喰い鬼』と、呼ばれている方でしょうか?」
アンリエッタは不安そうにルイズを見つめる。
トリスタニアの『人喰い鬼』。
アンリエッタが知らないはずがなかった。
やや目を伏せて、答える。
「はい……でも、でも! 悪いやつじゃないんです。ちゃんとわたしの言うことは聞くし、いまだってウェールズ殿下の下で戦っています」
手紙のやり取りがあるわけではないが、おそらくリンは戦っているだろう。
裏切るような真似をするなとあれだけ強く言ったし、リンが人を襲うのはあくまでも防衛と人喰い行為に及ぶ時だけだ。
そう信じている。
「……行って、くださるのですね?」
「もちろんですわ」
アンリエッタの両眼を見つめて言う。
「ありがとうございます、ルイズ・フランーー」
「ちょっと待ったあああああああ!」
ばたーん!
と、ドアを開けて転がり込んできたのはギーシュである。
「なっ、ギーシュ!? あんた盗み聞きしてたの!?」
「いや、見目麗しい女性をお見かけしたのでね、これは声をかけねばと思い誰にも見つからないよう後を追った次第さ」
キザな仕草で前髪をいじって言う。
もちろんドアにへばりついて聞き耳をたてる理由にはならないが、気にせずギーシュはすさっと片膝をついた。
「その任務、このギーシュ・ド・グラモンにも命じてください! 必ずやご信任に答えて見せましょう!」
「グラモン? ではグラモン元帥の?」
「息子でございます、姫殿下」
「グラモン元帥にはお世話になっております。立派な父親の血を引き継いでいるのですね、ギーシュさん」
「はう!?」
素っ頓狂な声を出してギーシュは仰け反り、
「姫殿下が、トリステインの高貴な花が、僕のっ、名前をっっっ!」
感極まったのか、そのまま後ろに倒れて気絶した。
ルイズは幸せそうな気絶顏に冷たい視線を向ける。
「姫様、この馬鹿を連れて行くのは大変不安です」
「先ほども申したとおり、内密に済ませたいのです。彼もいっしょに」
知られたから連れて行くしかない……まるでキュルケがついてきた時のようだ。
「……わかりましたわ、姫様」
ため息をこらえて受け入れた。
「では……」
アンリエッタはルイズの机に向かい、羽ペンを取って手紙を書いた。さすがに後ろからのぞきこむような真似はしない。
さらさらと書き終え、思いつめたように最後に一行を書き足す。
それを便箋に入れて蝋封を施した。
「これをウェールズに渡してください。そうすれば手紙を返してくれるでしょう」
「わかりましたわ。あの、失礼ですが、その手紙とはいったいなんなのです?」
その問いかけに、アンリエッタは小さく顔をそらした。
「それは言えないの。ごめんなさい。危険なことをお願いする立場ですのに……」
「いえ、ただの興味ですから」
しかし見当はついた、
婚約破棄につながりうる手紙、そしてさっきの表情。
おそらく手紙とは恋文だ。
アンリエッタがウェールズ皇太子に特別な感情を抱いているのは、ルイズでもわかった。
「本当にありがとうございます。いまのわたくしには、あなたの使い魔を特別扱いすることはできません。ですが結果を出せれば便宜をはかるでしょう。それと、この指輪をお持ちになって」
アンリエッタは指にはめている『水のルビー』を外した。
「御守りです。必要ならば売ってお金にしてください」
受け取った。鮮やかな水色の宝石が、その台座にはまっている。
「売るなんてとんでもございません。必ずお返しします」
「ええそうね、あなたの手で返してに来て。どうか気をつけて」
翌朝。
朝靄が立ち込める中、ルイズはギーシュと共に馬の支度をしていた。
ルイズは気合いを入れて鞍を取り付け、着替えなどのちょっとした荷物袋を馬に取り付ける。
ギーシュはにいたっては溢れ出る気合いを入れまくって、造花の薔薇で馬を飾っていた。もはや何も言うまい。
ふと、ギーシュの足元の地面が盛り上がり、ぼごっとでっかい顔が出てきた。
「おおヴェルダンテ、もちろん君を置いていくわけないじゃないか」
ギーシュはそのでかい顔に抱きついて頬ずりする。
図鑑であの動物は見たことがある。
「それってジャイアントモール?」
一言で言えばでかいモグラだ。土系統のギーシュにはやはり土に関係する使い魔らしい。
「ふっふっふっ。紹介しよう、僕の使い魔、ヴェルダンテさ。見ておくれこのつぶらな瞳、気品溢れるこの顔! まさに僕のための使い魔だと思うだろうう?」
悦に浸った表情で頬ずりしまくった。
そのヴェルダンテとやらもモグモグと鳴き声? を出して鼻をひくつかせている。
可愛いかと問われると微妙だし、気品どころか滑稽な顔にしか見えない。
「あんたの美的感性にはついていけないわね」
じと目を向けていると、ヴェルダンテがこちらを向いた。
そして地面から出てきてこちらに向かってくる。
「え? ちょっ、なによ?」
ヴェルダンテは後ろ足で立ち上がってルイズに寄りかかる。
ヴェルダンテの視線の先にあるのは、ルイズの左手だ。もっというなら昨夜、アンリエッタに借りた指輪だ。
「ちょっと、きゃあ!?」
尻餅をついた。しかももぞもぞと体の上を這い回って……!
「ちょっとギーシュ! なんとかしなさいよ!」
「ふむ……ああそうか、その指輪の宝石に興味があるみたいだね。いやさすがはヴェルダンテ、美しい宝石に惹かれるなんて素敵じゃないか」
「指輪に傷がついたらどうすんのよ!? 感心してないでさっさとどけなさい!」
叫ぶと、突風が吹いた。
上に乗っかっていたヴェルダンテはくるくると回転するように飛ばされ、落下。目を回してひっくり返る。
「ああっ!? 僕のヴェルダンテを! 誰だ!」
風が吹いてきた方向に、ギーシュは造花の杖を向ける。
「落ち着いてくれ」
朝靄をかき分けるように、グリフォンにまたがる青年が現れた。
「ワルド様……」
すぐにたたずまいを直し、服の汚れを払う。
「僕の婚約者が襲われているように見えからね。君の使い魔を害したかったわけじゃないよ」
「あ、あなたはもしやグリフォン隊の隊長!? しかもっ! 婚約者!?」
鳩が豆を投げつけられたような顔をしてルイズとワルドを交互に見やった。
「婚約者だなんて……両親が勝手に決めたことなのに……」
顔が熱くなる。憧れの人が、婚約の話を覚えている。
しかしあまり嬉しさを感じない。
憧れの人だったはずなのに、言いようのない複雑な、黒い霧のような感情が、胸の内に渦巻いた。否定したい感情が心のどこかにある。
「ふふ、まあ思い出話は道中にしよう。僕は君たちの護衛を仰せつかっている。ミスタ・ギーシュといったね? 準備はいいかい?」
「は、はい! もちろんです!」
びしっと気をつけの姿勢で答えた。
男子ってやっぱり強さに憧れるのね。なんて冷めた視線を送った。
「さあおいで、僕のルイズ。ラ・ロシェールまで時間はたっぷりある。語らいながら行こうじゃないか」
グリフォンの上から、ワルドは右手を差し出してきた。その右手とワルドの顔を交互に見やる。
いつか見たあの夢のようだ。あの夢の中で、リンは母親と兄の二人を同時に失った。
おそらくは夢の中だけのことではない。きっと実際にあったことだろう。
リンの顔が頭の中でちらついた。
「ルイズ?」
「……いえ、ワルド様、わたしは馬でいきます」
「どうして? 僕のことは嫌いになったのかな?」
意外そうにワルドは言った。
自分でも意外に思う。なぜかワルドと同じグリフォンには乗る気になれない。
「そうじゃなくて、その、ギーシュは置いていけないわ」
もちろん取って付けた言い訳だ。
「そうか……いいさ、無理強いはしないよ」
ワルドは残念そうな顔をしつつも、それ以上は追求しなかった。
「さあ、出発だ」
ワルドの合図と共に、学院を発った。
><><><><><><
学院長室から、出発する三人を見送るアンリエッタ。
いまさら止めることはできないが、これでよかったのかと疑問が残る。
「不安ですかな?」
オスマンは鼻毛を引き抜きながら言う。
「不安です。ルイズも、アルビオンも、『人喰い鬼』も」
「『人喰い鬼』……まったくですな。なぜ殺さないのか」
穏やかな口調で物騒な言葉が出てきて、思わず顔をしかめた。
「あなたは『人喰い鬼』をずいぶん恐れているのですね? ルイズの話を聞く限り、血に飢えたケダモノではないようですが」
ふう、とオスマンは小さくため息をついた。
「血に飢えたケダモノになるのじゃよ。血と肉に飢えたあの『人喰い鬼』の眼は、見たものにしかわらないでしょうなあ……」
実際に『人喰い鬼』を見たわけではない。
だが被害者の話は聞いた。平民と銃士隊の隊員の二名が死亡したと。
だが、それでも……。
「……ウェールズ」
彼の身が無事であるならば……。
公私混同は禁忌だ。ましてや王族ともなればなおさら。
それでも、それでもと考えずにはいられない。
平民二人と皇太子一人の命。
それぞれを天秤の両皿にかければ、その秤がどちらに傾くかは自明の理だ。
アンリエッタは万事うまくいくことを、神に祈るしかできなかった。
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ラ・ロシェールの港町に、『土くれのフーケ』と呼ばれていた女性はいた。
女性の本名はマチルダ・オブ・サウスゴーダ。
かつてはアルビオン王家に所縁のある貴族だったが、いまは違う。
そろそろトリステイン貴族の目の敵、『土くれ』を再開しよう。
テファニアやウエストウッド村のチビたち。あいつら孤児たちを食わせていくにはどうしても金がいる。
学院での秘書生活も終わったいま、盗賊稼業を再開させるしかない。
マチルダはひとまず手頃な酒場に入った。
酒の入った連中は面白いように口を滑らせるし、黙って聞き耳をたてるだけで情報が入ってくることもある。
壁際の席に座る。
と、給仕ではない男が二人、おもむろに対面に座った。
二人とも褐色の外套を羽織り、仮面をつけていて素顔は見えない。怪しいことこの上ない。
「女を探してるなら他を当たりな」
テーブルの下で杖を抜いた。ここまで怪しい風貌もないだろう。
「俺たちはお前を探してたんだよ、マチルダ・オブ・サウスゴーダ……だっけか?」
向かって左側、白地の仮面に赤で大きく『X』の印が入った方が言う。
「ああそうだ。たしかウエストウッドとかいう村に関わりがあるとか」
向かって右側、『P』マークの仮面が続けた。
内心舌打ちした、
ウエストウッド村のことまで知っているとなると、もはやこちらに拒否権がない。
「何の用だい?」
「いやなに、俺の組織はあんたみたいな優秀なメイジを探している。いっしょに来てくれないか?」
『P』はじゃらりと音がなる小袋をテーブルの上に置く。その小袋の口の奥から、キラキラと光る硬貨が見えた。
「当然、来なけりゃウエストウッド村は全滅だな。だがいっしょに来るなら、それをやる」
「チッ……」
聞こえるように舌打ちし、その袋を取った。
金が必要なのは事実だし、断れば村が襲われる。選択肢はない。
「それでいい。用があればまた来る。それまで好きにしてろ」
「待ちな」
二人は立ち上がるが、すぐに引き止めた。まだ肝心なことを聞いてない。
「あんたらの組織はなんて名前だい? それくらいは教えてくれてもいいだろう?」
『P』は仮面をつけた顔を近づけて、言う。
「アオギリの樹」
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ゼロの喰種 裏事情
ゼロの使い魔おもしれー。
東京喰種もおもしれー。
ルイズが喰種を召喚したらもっと面白いんじゃね?
だったら自分で書いたらよくね?
喰種の赫子は魔法に対抗できるように羽赫にして……いや甲赫もいいな。鱗赫も……あーもう羽赫と鱗赫でいいや。
名前どうしよう? 名前名前……うーん……鱗赫だからリンでいいや。
こういうノリでゼロの喰種はできました。