ゼロの喰種   作:gulf0205

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合流

王都を出発して数日。

目的地のラ・ロシェールに到着したハヤトとマドは、定期便の馬車から降り立った。他の乗客の邪魔にならないようにやや離れたところまで歩くと、マドは腰に手を当てて身をそらす。

 

「やれやれ、この歳になると移動も大変だな」

 

「クッションがあれば少しは違うんでしょうけどね」

 

日本のバスやタクシーと違い、馬車の座席は固い木製でできている。

コートを畳んで座布団かわりにしても気休めにしかならないし、体を伸ばすこともできない。じっと座っているだけでも疲れてしまうものだ。

 

「マドさんっていくつでしたっけ?」

 

「もう四十過ぎさ。歳はとりたくないな」

 

ハヤトは曖昧にうなづいて、ラ・ロシェールという街へと歩く。

街は岩肌をくり抜いたような建築物が並び、整った四角形の街並みだ。これも魔法のなせる技だろう。

この街からアルビオンという国へ船が出ているらしい。

 

「しかしなぜ山の中なのだろうね? 船なら海だろうに……」

 

マドがあごをさすりながらたずねてきて、ハヤトは懐から折りたたんだ羊皮紙を取り出す。

 

「なんでも、アルビオンは空に浮いている大陸だとか」

 

「ほう? 大陸が空に浮くのかね?」

 

「そのようです」

 

「くっくっくっ、まさにおとぎ話だな。アキラにも見せてやりたいよ」

 

アキラ……真戸暁という名前には聞き覚えがある。

 

「アキラは……彼女は娘さんですか?」

 

「ああ、自慢の娘だ。私が『死んで』から半年以上過ぎたのだろう? なら新しい捜査官とコンビを組むころだろうな。なにか知っているかね?」

 

「たしかアモンさんとコンビを組んだと、そう聞きました」

 

「おおそうかね。くっくっ、人選はマルデか? まったく粋な計らいをする」

 

嬉しそうにマドは笑った。それだけ亜門を信頼しているのだろう。

 

「ひとまず船着場と、合流予定の宿を確認しましょう」

 

「それはかまわないが、ハヤトくん、その場所はわかるのかね?」

 

「……そこまでは書いていませんね。ちょっときいてきます」

 

羊皮紙を戻して、近くの露店……パン屋へと歩く。

台の上にあるカゴの中にコッペパンが入っていた。そして屋台の横に小さな炭火が起こされて、鉄板が炙られている。何につかうのだろうか?

 

「いらっしゃい」

 

売り子の女性が営業スマイルを浮かべた。しかしあいにくと客ではない。

 

「失礼、道をお尋ねしたい。船着場というのはどこにあるだろうか?」

 

言うと、女性店員から笑みが消える。なんだ?

 

「さあ? 知らないねえ。買わないならよそへ行って」

 

「な……」

 

しっしっ、と手を振られる。唖然とした。いくらなんでもこれは……。

 

「ハヤトくん」

 

マドがハヤトの肩に手を置いて、前に出た。

 

「こういう時はまず買うものだよ。そろそろ昼食時だ、パンを二つもらおうか」

 

「あらあなたは話がわかるわね。このままでいいなら、二つで新銅貨十枚。チーズをかけるなら旧銀貨一枚でいいよ」

 

女性店員はふふんと笑みを浮かべて、パンを二つ出し、屋台の下から角切りのチーズを突き刺したフォークを取り出した。

 

「ふむ、ではチーズもつけてもらおう。ハヤトくんもそれでいいだろう?」

 

「は、はい」

 

とりあえず肯定した。チーズをかけるとは?

 

「じゃあちょっと待っててね」

 

疑問に思っていると、女性は炙られていた鉄板の棒を持ち、それにチーズを押し当てる。

じゅう、と音を立ててチーズが溶け出した。香ばしい匂いが漂ってくる。その溶けたチーズをパンの上に垂らしていく。

 

「ほう……」

 

感嘆の声を漏らした。見ているだけで口の中ぎよだれで満たされていくようだ。

 

「それで、どうだろう? 船着場とやらへはどう行けばいいのか、教えてもらえないかな?」

 

「ラ・ロシェールは初めてみたいね。ほら、あそこに生えてる大きな樹。あれが船着場よ」

 

女性が目配せした先を見上げた。

離れたところに塔のように巨大な樹がそびえ立っているのが見える。あれが一本の巨木だとしたらたいした大きさだが、あれが船着場?

聞きなおそうかと思ったが、やめた。

日本では蛇口をひねれば水が出るが、ここでは杖を振ると水が出る。おまけに大陸が空を漂っているんだ、そういうこともあるのだろう。

 

「ご協力に感謝します。ではハヤトくん、行こうか」

 

「はい。では、失礼します」

 

女性店員に一礼し、パンを取って通りを歩く。

通りには物騒な雰囲気をまとった男たちを多く見かけた。

目が座っているとでもいうのか、修羅場をくぐったことがあるような顔つきだ。さながら熟練の喰種捜査官のような。

アルビオンは内乱中だったか。となると軍人か、傭兵か、はたまた賊の類いか……。

 

「さてハヤトくん」

 

マドに呼ばれ、意識をそちらに向ける。

 

「商人相手に聞き込みをするときのコツは、ちゃんとつかめたかね?」

 

「おおよそは」

 

「では次は任せても大丈夫だね?」

 

「ええ、やってみせます」

 

商売人に話を聞くにはまずお金を使うーー商魂たくましいことだ。だがそれを非難する立場ではないだろう。

彼らにだって生活がある。買い物をしたらそれで丸く収まるなら、それにこしたことはない。

あ。

 

「そうだ、お金を……」

 

「いやかまわんよ。気にしないでくれ」

 

「しかしーー」

 

「ハヤトくん、少しは捜査官として上司におごらせたまえ」

 

それ以上は言うなというように、マドはパンを口にする。

 

「は……いただきます」

 

ハヤトも口に入れた。

うまい。

通りをしばらく歩くと、思い出したようにマドが問うた。

 

「ところで、プライベートなことを質問するのだが……アニエスくんとの仲はどうかね?」

 

いきなりアニエスが話題に出てきて少し焦った。

 

「どう、とは?」

 

「男女の仲に発展しつつあるのかな?」

 

「な!?」

 

思わず声を出してしまう。

マドはにやにやといたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 

「か、彼女とはそういう関係じゃありませんよ!」

 

「ほう? てっきり好意を抱いているかと思ったが?」

 

相変わらずのにやにや顔で言う。顔が熱い。

 

「違います!」

 

「おやおや、違うならそうムキになることもないだろうに」

 

「う、ぐ……」

 

二の次が言えない。言えばまた足元をすくわれそうだ。

マドは捜査においてもこういうときでも勘が鋭い。

 

「くく、年寄りからひとつアドバイスだ。ためらっていると別の誰かにかっさらわれる。覚えておきたまえ」

 

「……覚えておきますよ」

 

そう返すので精一杯だった。

 

護衛対象が訪れたのは、その日の夜のこと。

ラ・ロシェールで一番の宿『女神の杵亭』の一階で集合した。

テーブルは石でできているのかと思いきや、床から直接生えていた。この建物と同じように、ひとつの岩から削り出したようだ。なんとも器用なことである。

そして肝心の護衛対象だが、まさかリンの、喰種の主人であるルイズとは思わなかった。

テーブルの向かい側に護衛対象のルイズと、ギーシュ、タバサの少年少女。

そして両隣にはマドとキュルケが座った。

ワルドは一人で船着場へ交渉に向かっており、ここにはいない。

 

「で! なんであんたたちがここにいるのよ!?」

 

がたっとルイズは立ち上がり不満を声に出した。

あんたたち “が” と言うあたり、少女二人の他にもハヤトら二人を指しているのだろう。

 

「しょうがないじゃない。隣の部屋でうるさくされたら嫌でも興味がわくものよ?」

 

ルイズはきっととギーシュを睨みつけ、そのギーシュはさっと顔を背ける。彼が騒ぐか何かしたのだろう。

 

「俺はアンリエッタ姫からの指示だ。『人喰い鬼』への対抗としてな」

 

答えると、ルイズは不承不承といったように座り、眉間にしわを入れて「うーっ」とうなり声を出した。この様子だと聞いていないらしい。

 

「……リンに何かしたらわたしが許さないんだからね?」

 

憮然と腕組みしながら、敵対心をあらわにルイズが告げる。

そういう態度でものを言うなら、ハヤトとしても黙ってうなずくわけにはいかない。

 

「ひとつはっきりさせておくが、俺たちの使命は『人喰い鬼』から善良な人々を守ることだ。君たちの関係がどうあれ、それを非難される筋合いはない!」

 

「っ……!」

 

声を荒げた。ルイズは声を詰まらせたように歯をくいしばる。

そもそもルイズ本人はリンの被害者遺族に謝罪していないではないか。ヴァリエールからの使者が遺族の元へ向かい、慰謝料として金貨を渡してそれでおしまいだ。

貴族と平民というこの世界のルールではそれでいいのかもしれない。

しかしこの世界の住人ではないハヤトは納得しきれない。

 

「ミス・ルイズ、もしもあなたが、あなたのいう平民の命を軽く見ているのなら、あなたは『人喰い鬼』とたいして変わらない」

 

「わかってるわよ、わかって……」

 

ルイズは立ち上がり、逃げるように階段を駆け上がっていった。その目に涙が浮かんでいたのを見逃さなかった。

 

「る、ルイズ!?」

 

空気の悪さを感じ取ったのか、ギーシュも後を追っていく。

自分が間違っているとは思わない。だが少女を泣かせたことに一抹の罪悪感を感じてしまう。

タバサは本を読んだまま、ポツリと責めた。

 

「言い過ぎ」

 

「私はそうは思わんな」

 

マドがハヤトの側についたのがせめての救いか。

 

「それにしても、ついてきて幸運だったわ」

 

不意に隣のキュルケが体を密着させてきた。香水の匂いが鼻について、吐息が顔にかかる。

二の腕に弾力性の高いものがぐにぐにあたる。待て待て待て、なぜ太ももを撫で回す?

 

「お、おい……」

 

「あなたよく見るとハンサムで素敵。ずいぶん鍛えてらっしゃるのね? 体もがっしりして、とてもたくましいわ」

 

「か、体が、資本なので……」

 

顔が近い!

しかも視線を少し下に向けると……アニエスにはない渓谷が……。

いかんいかん俺は喰種捜査官だ。任務の最中にこのようなまねをするなどあってはならない!

マドに助けを請うように目を向ける。またあのニヤニヤ顔だ。からかって楽しもうとかそういう顔だ。

タバサはいつものことというように無視を決め込み、誰も助けてはくれないらしい。

 

「くっくっくっ……あー、ミス・キュルケといったかな? 彼には片思いの女性がいてね、あまり誘惑してやらないでくれるか?」

 

「あらそうなの?」

 

「だから片思いなどではーー」

 

「じゃあいいじゃない。今夜は私と同じ部屋に泊まらない?」

 

「お誘いは嬉しいが、いまは任務中だ。離れてくれ」

 

さすがに女性を突き飛ばすわけにもいかず、こういうときにどうしていいのかわからない。

 

「あなた見た目によらずなかなかウブな反応するのね」

 

キュルケは首に腕を回してきた。いよいよもってこれはマズイ。

 

「……君らはなにをやってるんだ?」

 

声をかけられ、そちらに顔を向けた。呆れ顔のワルドがそこにいた。戻ってきたのだ。

ちなみに城ではすでに顔なじみとなっている。

魔法もクインケも使わない手合わせであれば、ハヤトの勝率が高い。だがワルドが魔法を使うと途端にハヤトの勝率が下がる。

魔法とクインケありではまた結果が変わるだろう。

 

「なんでもない。気にしないでくれ」

 

キュルケの肩をつかみ、引き剥がすように距離を置く。

 

「あら残念。もう少しだったのに」

 

キュルケはすんなり諦めたらしく、おとなしく従った。場を和ませるためにやったのだとしたら大したものだ。

 

「それで船の方は?」

 

ワルドは小さくため息をついて、言う。

 

「二日後まで船は出せないそうだ。それまでここで待機となる」

 

「なにか問題でも起きたのかね?」

 

マドが問いかけると、いま気づいたようにワルドは顔を向けた。

 

「失礼だが、あなたは?」

 

そういえば二人は初対面だったか。

ハヤトは立ち上がって紹介する。

 

「こちらはマド・クレオ。俺が元いた組織の上官にあたる方だ。マドさん、こちらはミスタ・ワルド。グリフォン隊という部隊の隊長だ」

 

「初めまして、ミスタ・マド」

 

「こちらこそな」

 

お互いに握手を交わし、それぞれ着席する。

 

「それで船の件だが、二日後はスヴェルの月といって、アルビオンがもっとも近づく日だ。それまで船は出せないと言っている」

 

「ふむ……アルビオンとやらは空に浮いているそうだね。そういうこともあるのか」

 

マドは感慨深そうに呟き、立ち上がった。

 

「ともあれ、二日間は釘付けになるわけか。私は先に戻って休むとしよう。移動続きで疲れたよ」

 

「俺もそうします」

 

「二人はどこの宿に泊まっているんだ?」

 

それもそうか。非常時のために知らせておいたほうがいい。

 

「俺たちは『踊る山羊亭』という宿を借りてる。十字路のひとつ向こう側だ」

 

なぜ別の宿かというと、この宿は貴族向けのもので値段が高すぎるせいだ。

一泊するだけで手持ちの半分以上が吹き飛ぶ。

 

「わかった。何かあれば伝える」

 

「ああそれと、ミス・ルイズを慰めてやってくれ。リンのことで意見がぶつかった」

 

言い過ぎたとは言わない。言えばハヤトの価値観と、喰種捜査官こ信条を否定することになる。

 

「おやそうなのかい? わかった、任せてくれ」

 

一礼し、宿を後にした。

通りを歩きながら、マドが言った。

 

「ふん、あの娘には反吐が出る。クズをかばうなど」

 

「まったくですね、マドさん」

 

ふと、首筋に突き刺さるような感覚がして、即座に後ろを振り向いた。

 

「どうかしたのかね?」

 

「いまなにか、嫌な気配がして……気のせいです」

 

「ふむ……ここにもクズがいると想定して行動したほうがよさそうだな。お互い、単独行動は控えるとしよう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

ルイズは部屋のベッドで膝を抱え、静かに涙を流していた。

 

 

ーー平民の命を軽く見ているなら、あなたは『人喰い鬼』とたいして変わらないーー

 

 

そうだ、その通りだ。

ハヤトの言うことは間違いではない。

貴族は平民よりも尊い。

それはハルケギニアにおける絶対的な理屈であり曲げようのない現実だ。

そして食物連鎖の頂点に位置するのが『人喰い鬼』だとするなら、ハヤトの言う通り貴族も『人喰い鬼』もたいして変わらない。

どちらも平民の上に立っている。

啜るのが血肉か税金かという違いだけだ。

 

「ルイズ、平気かい?」

 

ドアの向こうからギーシュが問いかけてくる。

 

「ほっといて」

 

声がつっかからないように言うので精一杯だった。

思い返してみれば、リンを召喚したその日のうちにリンの家族を気にかけるべきではなかったか?

自分がやったのは誘拐にも等しい行為ではないか?

その次の朝食はどうだった? いったいなにを食べさせようとした?

ぎり、と歯をくいしばった。なにが貴族は平民のために、よ……なにがノブリスオブリージュよ……。

ひどい自己嫌悪にかられる。自分を罰したくてたまらない。

こんなんでよく真の貴族になるだなんて言えたものだ。

 

「ルイズ、入るよ? いいね?」

 

ドアを叩かれ、今度はワルドが問いかけてきた。

いやだと言っても入ってきそうなので、このまま黙っておく。

事実、一拍の間をおいてワルドが入ってきた。手にはワインボトルとグラスを二つ持っている。

 

「ルイズ……彼と口論になったそうだね」

 

ワルドはグラスをテーブルに置いてワインを注ぐと、それを持ってルイズと同じベッドに腰掛けた。

 

「この宿で一番のワインだ。君も気にいるさ」

 

「ん……」

 

受け取り、口に含む。

確かに美味しい。爽やかな味が口の中に広がって、すんなりと喉を通っていく。

 

「話してごらん? 僕のルイズ」

 

ワルドが優しく微笑んで見せた。

ハヤトとのあれは口論なんてものじゃない。正論を言われて口論にさえならなかった。

 

「……ハヤトに言われたわ。平民の命を軽く見ているなら、『人喰い鬼』と変わらないって。言い返せなかった。貴族と『人喰い鬼』の違いってなんだろうって考えてたら、リンにしたことを思い出して……自分が許せなくなって……」

 

気を紛らわせようともう一口ワインを飲む。

 

「命は平等ではないよ。生まれた時からその宿命と、あるいは義務を背負っている。ただーー」

 

ワルドはどこか遠くを見つめて、言った。

 

「ーー生まれた後、何をするかは……やはりその人の責任だ」

 

その目はまるで死者のような、冷たく薄暗いものがあった。

 

「君の使い魔は、その宿命と責任を受け入れた上で生きている。君が気に病む必要はない。それに貴族が領民の顔色を伺っていたら、その領民たちは自分の貴族に敬意を払わなくなる。威厳を保つために平民を下に見るのは必要なことさ、ルイズ」

 

言って、ワルドもワインを飲んだ。

威厳を保つためには平民を上から抑えなければならない。しかし抑え過ぎればそれは反感を買うことになる。甘く見られず、そして反発を受けず。

ルイズにはそのさじ加減がまだわからない。領地を持たないルイズには、知ることがない。

 

「ルイズ、僕のルイズ」

 

ワインを飲み干したワルドは、同じく空になったルイズのグラスと共にテーブルに置き、ルイズの手を取った。

 

「この任務が終わったら、僕と結婚してほしい」

 

「……え?」

 

結婚という言葉に面食らった。なぜいま? ここで?

 

「僕には君が必要なんだ。その貴族としての真摯な精神で、どうか僕と添い遂げてほしい」

 

「そんな、急に……ダメよ、わたし、ワルド様にふさわしくないわ」

 

「そんなことはない。君は気づいていないようだが、君には才能がある。他の何者にも負けない強い力が」

 

ただの慰めであっても嬉しいと思う。しかしまだ、心の整理がつかない。

 

「ルイズ……」

 

ワルドの右手がルイズの顎に触れた。

リンの顔がちらつく。悲しそうに笑顔を浮かべる、その顔が。

すぐ目の前にワルドの顔が迫ったとき、ルイズが気づいたときにはワルドを突き飛ばしていた。ワルドは驚いた顔を向ける。

 

「あっ……ご、ごめんなさいワルド様」

 

「いや、いいんだ、悪いのは僕だ」

 

ワルドは苦笑しながら立ち上がり、バツが悪そうに頭を振る。

 

「少し焦りすぎたかな。僕はミスタ・ギーシュの部屋に泊まるよ。おやすみ、ルイズ」

 

言い残して、ワルドは部屋を出て行く。

その背中を見届けながら、ルイズは考えた。

なぜいま、リンを思い出したりしたのだろう?

答えは出ないまま、気づけば寝てしまっていた。

寝ていたと気づいた理由は、落雷のような爆音によって叩き起こされたからだ。

 

 

 

「なっ、なに!?」

 

ベッドから飛び起きて、急いで窓を開ける。

十字路の向こうに、巨大な土のゴーレムがいた。

いつかみたロングビルの巨大ゴーレムのような形だ。それが建物に向かって拳を振り下ろしている。

 

「なによあれ!?」

 

ガラガラとけたたましい音と大量の土埃をあげて、その建物は大きく崩れた。

下からも怒声。

見ると、武装した男たちがこの宿を取り囲んでいる。

理由はわからないがとにかく危険な状況だ。

 

「ルイズ無事か!?」

 

ドアを蹴破る勢いでワルドが入ってきた。右手にはレイピア型の杖。

 

「わたしは無事です。でもなにがあったの!?」

 

「わからない。とにかく賊に囲まれた。手紙は持ってるね? 来るんだ」

 

手を引っ張られて廊下を歩き、階段を降りる。

床から生えたテーブルは脚がおられて横に倒されており、そこにギーシュ、キュルケ、タバサが隠れていた。

タバサはこんなときでも読書なんて。

窓や出入り口にはギーシュの武装したワルキューレが仁王立ちし、賊の侵入を阻んでいる。

ルイズとワルドもそのテーブルの影へ飛び込む。

 

「みんな無事だね」

 

「こちらは無事よミスタ。あいつらいったいなんなのかしら?」

 

キュルケがテーブルから頭を覗かせ、ついでにファイアボールを放って牽制した。

 

「おそらくだが、貴族を狙った物取りかなにかだろう」

 

「勇敢な強盗もいたものね」

 

キュルケが呆れたように言うと、ガチャンと何かが割れて火がつく。

 

「火炎壺だ!」

 

ギーシュが叫ぶとさらに二つ、ガチャンガチャンと炎が広がる。

幸いにもこの宿はほとんど石造りだ。炎が広がる心配はないが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

さらに階段の裏側からガタンと大きな音がした。裏口から入られた?

 

「みんな無事……うわっ、火事!?」

 

ハヤトとマドだ。トレンチコートは泥で汚れているが、怪我はないらしい。

 

「二人とも早く隠れろ!」

 

ワルドが言うや否や、大量の矢が飛び込んでくる。

それとほぼ同時にハヤトの箱が開き、黒い盾へと変形して矢を防ぐ。

いつか見た盾だ。リンの『矢』のようなものもあれで防いだ。

そのままテーブルの裏までやってきて、姿勢を低くする。

 

「さっき土の巨人に襲われたよ。そして外にいるあいつらはいったいなんだ?」

 

「物取りか何かだろう」

 

ワルドが答えた。

土の巨人とは通りの向こうに見えたゴーレムのことだろう。それがこちらに向かってきているのか、地鳴りのような音がだんだんと大きくなっている。よく無事だったものだ。

 

「ふむ……」

 

あごをさすっていたマドが、怪しむような目をワルドに向ける。

 

「マドさん?」

 

「……いやなんでもない。しかし魔法とは厄介だな。クインケではどうにもーー」

 

「わあなんだあいつ!?」

 

外をうかがっていたギーシュが素っ頓狂な声を出した。

飛来する矢が止まった直後、褐色の影が飛び込んできた。

 

 

一瞬の時間が引き伸ばされる。

わずかな時間を長く感じる。

 

 

出入り口を塞いでいたワルキューレの胴体は、赤銅色のぶ厚い刃によって簡単に両断された。

その刃は褐色のローブの下へと続いており、両手にはなにも握られていない。

ローブの人物の顔には骸骨のような不気味な仮面。

仮面の覗き穴から見える二つの双眸は、リンと同じように赤黒い。

その『仮面』は炎など物ともせずにテーブルを乗り越えてくる。

ルイズと目が合う。

ローブの下から生える刃が左へと伸びる。死刑執行に使う断頭剣のようだ。ルイズにはそのように見えた。

 

「……!」

 

『仮面』の双眸が驚愕に見開いた。

白いなにかがルイズの視界の端から迫って、その人物の胴体を捕らえた。

 

「ぐげっ!?」

 

悲鳴をあげて『仮面』の人物は吹き飛ばされる。

上下に分割されたそれは壁に激突し、炎の中に沈んだ。

 

「ククク、飛んで火にいるなんとやらだ」

 

ルイズは後ろを振り返ると、マドが白い武器を手に立っていた。

なにか、棘が生えた関節だらけの鞭のような、そんな武器だ。

助けてくれて礼を言うべきだが、マドの表情を見たとき、その気が失せた。

右目だけを大きく見開かせ、口元はいびつに吊り上がった笑み。そこには人助けよりも殺しを優先させる狂気を孕んでいた。

その両眼がルイズに向けられて、背中が泡立つ。

 

「きみ……さっきのが『人喰い鬼』……我々が喰種と呼ぶ存在だ。あれを駆逐するのが私やハヤトくんの使命なのだよ」

 

「……」

 

なにも言えなかった。

マドは気にするようでもなく宿の外に注意を向ける。

 

「外の連中は人間ばかりだが、クズと手を組んでいるのか? おそらくさっきの飛び込んできた馬鹿は使い捨ての下っ端だろう。となると他にもクズがいるはずだ。そちらは私が駆逐するとして……問題はあの巨人だ。あればかりはどうにもできん」

 

 

ズシン。

 

 

そんな重たい音がして、宿の前に巨大な土の脚が見えた。

 

「こういう時、目的地に目的の人物がたどり着けば任務は成功とされる」

 

ワルドが提案した。

 

「僕とルイズの二人でアルビオンに向かう。君たちは全力で奴らを食い止めてほしい」

 

「二人だけで? 道中で敵と遭遇したらどうするんだ? それにこの子らはまだ子供だぞ? 全員で行動すべきだ」

 

ハヤトの言うことに、半分は同意できる。

ワルドはメイジのなかでもスクエアクラスの実力者だが、一人を守りながら同時に戦うのは限界がある。

しかしもう半分はーー。

 

「あら、貴族を子供扱いなんて失礼ね、ミスタ」

 

キュルケは挑発するように笑みを浮かべると、呪文を唱えた。

 

「フレイム・スプラッシュ!」

 

キュルケの杖の先から、小さな炎が大量に噴き出した。

あれは『火』『火』のラインスペルだ。広範囲に粒のような火球をばら撒く。一つ一つは射程も短く威力も小さいが、面で制圧するため迂闊には近づけない。

それらは窓の向こうのならず者たちへと襲いかかった。悲鳴をあげて宿から離れ、肌を焼かれた者のたうっている。

 

「やれやれ、魔法とは末恐ろしいな……だが、ふむ、ハヤトくん、君は二人と行きたまえ。私がこの子らと残ろう」

 

「な……しかしマドさん、捜査において単独は危険だとーー」

 

「駆逐を前提とした “捜査” ではな。だがこれは “護衛” だ、間違えるな。それに私はこの道二十年のベテランだ。心配しなくていい」

 

ワルドは小さくため息をつき、言う。

 

「わかった。行こう」

 

「おおっと最後にハヤトくん」

 

マドはハヤトの耳元で何かを囁いた。

それが何かは聞こえないが、ハヤトはぎょっとした顔を見せる。

 

「さあ行きたまえ。早く」

 

「……そちらも気をつけて」

 

ルイズはただ状況に流されるがまま、この宿を後にした。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

タバサはここにきてようやく本を閉じ、マドの武器に視線を向ける。

獣の背骨を彷彿とさせる武器で、見ていると言いようのない不安が胸の内に広がっていく。ひしひしと殺意が伝わってくるようだ。

それにさっきの、『人喰い鬼』を両断したときのあの顔はーー

 

「てめえらビビってんじゃねえぞ!」

 

宿の外で誰かが叫ぶ。

様子を伺うと、褐色のローブを着た二人の人物が、賊たちの一番奥にいる。

そのどちらも仮面をつけていて素顔は見えない。

そのうちの一人がゴーレムの上を指差した。

 

「マチルダ! もういいさっさとぶっ潰せ!」

 

もういい? まるで何かを待っていたような言い方だが、それよりも。

 

「危険」

 

「奥へ急いで!」

 

キュルケの叫び声と同時に宿の奥へ走る。

直後、雷が落ちたような音を立てて天井が崩れ落ちた。ギーシュのワルキューレは全て潰されてしまった。もうもうと砂埃が舞い上がる。

天井には大穴が開き、砂埃の向こうにゴーレムの頭が見える。

はっきりとは見えないが、その肩に乗っているのがマチルダというメイジだろう。

 

「やれやれ……君たち、メイジといったね? 君たちならあの巨人をどうにかできるかな?」

 

安心させるためか、マドは笑みを浮かべる。逆に怖い。

 

「いま試すところよミスタ……フレイム・ボール!」

 

キュルケの杖から巨大な火球が飛んでいき、命中。

しかしゴーレムの表面で弾けただけだ。破壊にはほど遠い。

 

「メイジを狙わないとだめ」

 

そうは言ってみるものの、そのメイジはゴーレムの頭の後ろへと隠れてしまった。これでゴーレムそのものを無力化するしかなくなった。

 

「……」

 

私のジャベリンやウィンディ・アイシクルでも破壊できるか怪しい。

土ゴーレム最大の強みは、多少の損傷はその辺りの土を使って修復可能であることだ。

隠れているメイジごとまとめて炎で炙らなくてはダメだろう。

だがトライアングルメイジであるキュルケでさえ、それほどの火力は出せない。

どうする?

 

「……?」

 

タバサの目が、瓦礫とは違うものを見つけた。あれは……火炎壺の破片だ。

火炎壺……小さく割れやすい壺に油を満たし、それに火をつけて投げつける放火用の武器。

……油。

 

「ギーシュ、まだ魔法は使える?」

 

「コモンマジックならどうにか」

 

「そう。じゃあ私が風を起こすから、あなたは造花の花びらをゴーレムに吹き付けて」

 

「花びらを? どうして?」

 

「やって。はやく」

 

「わかった、わかったよ」

 

ギーシュは杖を抜いて呪文を唱える。タバサも呪文を唱える。

造花の杖から、花びらが増殖するように舞い落ちる。

 

「ウィンデ!」

 

タバサの魔法によって風がふきすさび、花びらがゴーレムのに降りかかった。

 

「ギーシュ、あの花びらを油に変えて」

 

「ああそういうことか! 『錬金』!」

 

大量の花びらが溶けだし、粘ついた液体へと変わった。

マチルダというメイジも何をするのか気がついたらしい。ゴーレムから飛び去った。

すぐさまキュルケがファイアボールを放つ。

油に点火。

ごうと音を立ててゴーレムが燃え盛る。

マチルダというメイジがあのゴーレムをどこまで維持できるのかわからないが、あれが瓦解してはさすがに同じものを連続では作れないはずだ。

そしたメイジは『フライ』を使って飛んだ。『フライ』使用中は別の魔法を使えない。ゴーレムの操作も、維持も。

 

「ジャベリン!」

 

タバサの精製した巨大な氷塊の槍は、ゴーレムの左足へと放ち、命中。

ゴーレムの足を作っていた土を大幅に削り飛ばし、支えと制御を失ったゴーレムはゆっくりと後ろに倒れた。

マチルダは……もうどこかへと姿を消していた。

 

「うわ、わ、逃げろ!」

 

賊は心強い味方である『人喰い鬼』を一撃で両断され、メイジのゴーレムさえも失った。

負けを確信したのか、賊たちはバラバラに逃げ出していく。

 

「どこ行く気だ!? おい!」

 

逃げていく背中に罵声を放っていたローブの二人組だけが、半壊した宿の前に残された。

 

「さすがだな諸君。さてーー」

 

マドは瓦礫を乗り越えて宿の前に出た。

 

「ーークズは私の仕事だ」

 

ローブを着た仮面の二人と相対する。

 

「……あの逃げた奴ら後で殺そうぜ?」

 

「あとウエストウッド村もな」

 

仮面の二人はそう言うと、ローブの下から何かがズルリと出てきた。

棒状の尻尾のようにも見える。あれはリンの腰から生えたものや、マドが持つ武器に通じるなにかを感じた。

さすがにニ対一では不利だろう。

『フライ』を唱えて瓦礫を飛び越える。キュルケも慌てて後に続いた。

マドの横に立つ。

 

「援護する」

 

「ふむ? それはありがたいが、くれぐれも前に出ないようにな。私が片付けよう」

 

「舐めやがってジジイ」

 

「五番合わせだ」

 

二人のローブ男は前後に重なるように並んでマドへ突進した。

二人のローブ男はマドへ肉薄した。魔法を放つまで間に合わない。

二本の『尻尾』がマドの胴体へと迫る。

 

「ふん」

 

マドは鼻を鳴らすと、わずかに胴体をひねった。

必要最小限のわずかな動き。

それだけで『尾』はマドの体をそれる。

 

「Sレートの『尻尾ブラザーズ』……そのていどか? クックックッ」

 

おまけにローブ男を嘲るほどマドには余裕がある。

ともあれスペルを。

 

「エア・カッター!」

 

風の刃がローブ男の片方、『P』マークの仮面へと向かうが、飛び退かれると同時に『尻尾』で弾かれた。

『尻尾』にはわずかにヒビが入っただけで、それもすぐにふさがってしまう。

リンの時と同じだ。

リンは右腕を焼かれてもすぐに再生していた。魔法は致命打にならない。

 

「あのガキうぜぇ」

 

「魔法なんざ無視しとけ。ジジイを先に殺るぞ」

 

ローブ男はマドから距離をとった。

タバサとキュルケはマドを盾にするようにその後ろへ移動。

マドには失礼だが、メイジにとって『人喰い鬼』は相手が悪すぎる。

 

「フレイムボール!」

 

キュルケの火球が二人へ襲う。

二人はたやすく飛び越えた。二人は今まさに宙に浮いている。

なら。

 

「ウィンドブレイク!」

 

この魔法はただの突風だ。エア・ハンマーのように吹き飛ばすほどの威力はない。

だが詠唱時間は短く、着地していない相手の姿勢を崩すくらいはできるはず。

 

「しまっ……!?」

 

その目論見は当たった。

二人のローブ男は空中でよろめいて攻撃態勢が崩れる。

間髪入れずにマドの武器が二人を襲う。

右へと薙いだ一撃が『X』の仮面の胴体を引き裂き、左へ戻した一撃が『P』の頭の上半分を削り飛ばした。

 

「が……」

 

「……!」

 

二人の『人喰い鬼』は地面に墜落し、タバサはほっと一息ついた。

キュルケとギーシュはその分割された死体から思わず顔をそらしていた。

いくら『人喰い鬼』といっても切れば血は出るし内臓も飛び散る。おまけにその姿や形は人間のそれとほぼ同じだ。

わかっていてもどこか抵抗があるのだろう。

 

「素晴らしい援護だな。協力に感謝するよ」

 

「……どういたしまして。ミスタ」

 

キュルケがなるべく死体を見ないようにしながら言い、マドは周りを見渡してからその武器を箱型の形状に変えた。

武器として使わないときはあの箱状態で持ち歩いているのだろう。

 

「さて、先に行った三人が心配だな。私は後を追うが、君たちはどうするね?」

 

マドが問う。

 

「ついていく」

 

タバサが言った。

 

「私もよ」

 

キュルケが言った。

 

「僕だってまだやれる!」

 

ギーシュが言った。

嘘つけとは言わずにおいた。

 

「ふむ。では用心しながら追うとしよう」

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

宿から脱出したハヤトらは船着場へと走った。

見上げると、月に照らされた巨木が暗闇の中に浮かび上がっている。

先行するワルドの背中を見ながら、ハヤトはマドに言われたことを思い返した。

 

 

ーーワルドくんには気をつけたまえ。彼も連中の仲間かもしれんーー

 

 

そう思う理由までは聞くことはできなかったが、おそらくいつもの勘だろう。

考えるうちに船着場こと、世界樹に到着した。

まるで木の実のように船が枝の先に停泊している。もうなんでもありだな。

世界樹の内部は巨大な吹き抜けとなっており、螺旋階段が上まで続いている。

階段を駆け上った。

ワルドは当たり前のようにルイズを抱きかかえ、浮き上がるように浮上していく。

まるでハヤトを置き去りにするかのようだ。

不意に何かが降ってきた。

 

「ワルド!」

 

「わかってる! ルイズは後ろへ」

 

ワルドは階段に降り立ち、ルイズを背後にやった。

降ってきたのは仮面にマントの人物だ。こいつも喰種か?

仮面はハヤトとワルドの中間部分に着地すると、右手に持つレイピアのようなものをハヤトへ向ける。

背中が泡立つ。なにかまずい。

 

「ライトニング・クラウド」

 

仮面が呟いた。くぐもった声だ。

即座に甲赫型クインケ:ハゼを盾形状に展開。

雷のような光と音がハヤトを襲う。

 

「ぐうっ!」

 

ハゼでは電流を殺しきれず、腕から感電した。

突き刺さるような痛みが右腕を貫き、皮膚が焼ける。

それでもハゼを手放さない。これだけは失うわけにはいかない。膝をつくわけにもいかない。

 

「ハヤトさがれ!」

 

ワルドが翔ぶ。

ワルドのレイピア状の杖に何かが渦巻いている。その杖で仮面のメイジに切りかかった。

一撃、二撃、三撃。

レイピアで斬り結び、ワルドは反対側の階段へと翔んだ。仮面も追う。

 

「エア・カッター!」

 

ワルドの放った風の刃が、仮面の胴体を裂く。

仮面は無言のまま世界樹の下へと落ちていった。

すぐに下を見下ろすが、薄暗闇が広がるだけで何も見えない。

 

「……」

 

ため息を漏らした。

メイジ相手ではまるで無力だ。まるっきり、なにもできない。

自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 

「なにしてる、行くぞ」

 

「ああ……」

 

歯ぎしりをこらえながらハゼを箱型に戻し、階段を駆け上がる。

案内された先には木造船が停泊していた。これが目的の船だろう。船番の元へ駆け寄る。

 

「おいなんなんだ、出航はまだだぞ」

 

ワルドはすぐさま金貨を一枚取り出し、船番に握らせる。

 

「船長を出してくれ。話がしたい」

 

「ほ、わかりやした貴族様」

 

臨時収入に顔をほころばせ、その船番は船室へ入っていく。

しばしたって中年の男性を連れて戻ってきた。

 

「休憩中すまないが、いますぐに船を出してもらいたい」

 

「そういいますがね、風石は必要最低限しか乗せてないんですよ? いま出航したってアルビオンまで持ちませんぜ」

 

「僕は風のスクエアメイジだ。足りない風石の分は僕が補おう。それとこれは追加報酬だ。いらないなら他の船を探すが、どうする?」

 

じゃらじゃらと重たい音を立てる財布袋を見せると、眠そうだった船長の目つきが変わる。

この世界では言葉の説得より買収の方が手っ取り早いらしい。

 

「そういうことなら、まあいいか」

 

船長はひとつかみはありそうな金貨を受け取り、無造作にポケットへ詰め込んだ。

 

「起きろフナムシども! もやいを解け! 出航準備! とっとと起きねえかノロマ!」

 

そんな怒声を張り上げると、そこかしこで寝そべっていた船員がはねあがるように身を起こした。

慌ただしく出航準備を始める船に乗り込む。

 

「……」

 

もしかしたらマドが追いつくかもと思ったが、どうやら間に合わなかったようだ。

船が高度を上げる。

出航だ。











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いせかいげきじょー




兄「兄でーす」

兄「弟でーす」

兄弟「「瓶兄弟でーす」」

兄「いやーまたしても死んじゃいましたねー俺たち」

弟「異世界で生き返ってエンジョイできるとおもったら余裕でぶっ殺された件」

兄「はーい、いま弟くんがラノベのタイトル風にまとめてくれたよー。もー俺らの扱いひどくね?」

弟「ねー。漫画じゃちょいちょい活躍あって、アニメでも割と動いていたっていうのにさー」

カズオ「瓶さんならまだいいっすよ」

弟「あ、カズオじゃん」

カズオ「俺なんか宿に飛び込んだ瞬間に胴体真っ二つっすよ」

兄「あー……」

弟「ドンマイ」

カズオ「いや瓶さんたちが行けって言ったんじゃないですか!」
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