ゼロの喰種   作:gulf0205

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王子

いまのハヤトに、空飛ぶ船の乗り心地を堪能する余裕はなかった。

邪魔にならないよう甲板の隅に座り込むと、コートのポケットから薬瓶と包帯を取り出して床に並べる。アニエスが言うには傷と火傷に効果的らしく、幸いにも割れずに済んだ。

右腕の裾をめくる。

 

「うぅ……」

 

顔をしかめた。

右腕の肘のあたりまで黒く焼け、その一部は炭化までしている。

これでのたうちまわるほどの痛みを感じないのは、おそらく使い魔のルーンのおかげだろうと一人で納得しておいた。

ハルケギニアという魔法の世界で、細かいことをいちいち気にしていたらキリがない。

この二週間ほどで覚えたことの一つだ。

左手で薬瓶の蓋を開けて、緑色の軟膏をすくい取り、塗る。ひんやりとした冷たさが少し心地いい。

 

「平気かい?」

 

顔を見上げた。ワルドだ。

 

「あまり大丈夫とは言えない。早いうちに医者に診てもらいたいが……この状況ではな」

 

返事をしながら薬を塗り終え、薬瓶を空にしたところで包帯を巻く。

片手ではやりづらいが、できないわけではない。

 

「そうか……無理はしないでくれ」

 

「ああ」

 

ワルドは踵を返し、ルイズがいる甲板の反対側へと歩いていく。

その背中を見送りながら考えた。

マドはワルドが襲撃者の味方ではないかと言っていた。

……まず違和感を洗い出そうか。

ラ・ロシェールで合流したその日のうちに襲撃を受けた。

ワルドは襲撃者たちを強盗か何かだろうと言っていたが……強盗がメイジを襲うものだろうか?

しかもワルドやルイズだけならまだしも、“ ただの平民 ”にすぎない自分たちのいた宿まで襲われた。なぜだ?

……ワルドはあの宿で、ルイズと二人でアルビオンへ向かい、残りはここで足止めをしろと言った。

分断が目的だったとしたら?

それに船着場で現れたあの仮面のメイジ。

あいつはなぜ先行するワルドではなく、遅れていた自分を狙った?

 

「……」

 

ルイズはアンリエッタ姫から大事なものを預かり、それを届けるのが任務だと聞いている。

その大事なものがなんであるかは知らされなかったが、それがアルビオンの貴族派に渡ると危険であるらしい。

そして貴族派には喰種がついているらしく、あの襲撃者にも喰種がいた。

もしも、ワルドと襲撃者の目的が同じだとしよう。

両者の目的がルイズ、あるいはルイズの持ち物だとした場合……。

襲撃者は貴族派の一部で、ワルドは貴族派についた裏切り者。

もちろん全ては推測の域を出ないし、ただのこじつけにすぎない。

だがそう疑うだけの材料がある。

ハヤトは眉間に深いシワを入れて、ワルドの背中を睨み続けた。

 

 

 

 

ハヤトは二つの月を見上げ、小さくため息を吐く。

船着場を出発してどれくらいたったのか……手すりから下を見ても陸地はなく、磯の香りがするだけでなにも見えない。

少し仮眠でもとろうかと思った時、船員たちが慌ただしく甲板を駆け回り始めた。

肌でわかる。またなにかよくないことが起きたらしい。

ハヤトは足元のクインケを拾い上げて、舵を握っている船長の元へ駆け寄る。

 

「とうした?」

 

その問いに、船長は苛立たしく顔を歪ませる。

 

「くそったれの海賊が出やがったんだよ。あのバカ野郎いったいどこ見張ってやがったんだ、くそ」

 

船長の視線の先に顔を向け、目を凝らした。

あった。確かに空飛ぶ船が平行するように飛び、しかもこちらへ近づいてくる。

普通の船と海賊船の見分け方がわからないが、いまは質問している場合ではなさそうだ。

 

「ハヤト、どうした?」

 

船内からワルドとルイズが出てくる。

 

「海賊だ。戦えるか?」

 

指を差して問う。

 

「無理だ。風石の代わりとして魔法はもう使い切ってしまったよ」

 

「まずいな……船長、逃げられないのか?」

 

「向こうは中型戦闘船でこっちは大型輸送船だ。振りきれねえよ! なます切りにされないことだけ祈りな。くそ、くそ、荷物減らして武器を乗せときゃよかったぜ」

 

船長は苛立たしく足踏みする。

焦った。

ハヤトは負傷、ワルドは魔法が使えず、船は逃げられない。おまけに武器もないとなると、戦う手段がない。

 

 

ぼごん

 

 

重たい砲撃音。撃ってきた。停まれという意味だろうか。

 

「船長! 威嚇射撃です!」

 

「聞こえてんだよ馬鹿野郎! あー最悪、最悪だくそ」

 

船長はぶつくさ言いながら船の速度を落とす。

海賊船はこの船の真横につくと、ロープをマストに投げつけ、飛び乗ってきた。

そろってマスケット銃やサーベルを持っているが、いきなり撃ってこないだけ良心的ということか。

海賊たちはこの船と自らの船をロープで固定していく。

 

「船長はどこだ?」

 

無精髭と乱雑な黒髪で左目に眼帯という、いかにもな海賊の船長がやってくる。

 

「……俺だ」

 

「そうか。積荷はなんだ?」

 

「硫黄だ」

 

ぶっきらぼうに答えると、海賊はにいっと笑う。

 

「そりゃあいい。アルビオンじゃあ黄金並みに売れるからな、その積荷買ったぜ。代金はおまえらの命だ」

 

言うと、船長は苦々しく顔を歪める。

 

「これで破産だくそが。目先の小銭につられたのがバカだったんだくそ」

 

船長がうめくと、この海賊は鼻を鳴らす。

 

「アルビオン政府公認の貿易許可証は持ってんのか? おめえらも密輸船だろーが、グダグダぬかすな」

 

「密輸……?」

 

密輸という単語には反応してしまう。この船は犯罪行為を行っていたのか?

……いまはもう関係ない、か。

 

「よし、積荷を載せ代えろ!」

 

海賊が命令を出すと、他の海賊船員は続々と船内へ入り、抱えるような木箱を持ち出して自らの船に運んでいった。

船長は頭を抱えながらフラフラと甲板を右往左往しはじめる。

 

「それで……」

 

海賊はワルド、ルイズ、ハヤトの順に見渡す。

 

「なんだってこんなところに貴族とその連れがいるんだ?」

 

「……こちらのお嬢様のご友人がアルビオンにおられる。その安否確認をするだけだ。君らの邪魔はしない。用が済んだら行ってくれ」

 

ハヤトが当たり障りのない返事をした。

半分は嘘で、半分は真実だ。

 

「お友達が心配なのはわかる。だがあんな内乱真っ最中の場所に、こんなちっこいのを連れてか?」

 

海賊はルイズを見やると、ルイズは胸をはってキッと睨み返した。

まずい。この顔は間違いなく……。

 

「ちょっとまーー」

 

「なによ! アルビオン王家に話があるのよ、邪魔しないでくれる!?」

 

「……」

 

「……」

 

ワルドは小さくため息をついて、ハヤトは目頭を押さえた。

目的を馬鹿正直に話すやつがあるか。海賊が貴族派よりであった場合、完全に敵として認識されてしまうのに。

あの時といっしょだ。

リンの目が黒くならなかったかと問いただした時、ルイズはだからなんだと言い返した。

あの時のリンの気持ちが少しわかった気がする。

 

「ほおう? 王家にか? せっかくだ、おまえらもいっしょに来てもらおうか。ジョナス! こいつらも連れて行け」

 

これで厄介が増えてしまった。

貴族派と喰種の妨害、ワルドの裏切り疑惑、それに加えて海賊。

 

「ワルド」

 

「わかっている。ここは従おう」

 

多勢に無勢。ここで抵抗するよりはおとなしく従うしかなかった。

 

「……?」

 

なにか、視線を感じた。

そちらを見やると、木箱を抱えたまま、一人の海賊がこちらを見つめている。

そいつは他の海賊船員と同じような野暮ったい茶色の野良着を着ているが、首から上を隠してしまう兜をかぶっていて、素顔はわからない。

だがその背中には妙に見覚えのある剣を背負っており、腰にはハルケギニアらしくないポーチをつけていた。木箱を抱きかかえており、左手の甲は確認できない。

ルイズもその人物に気づいたらしく、小さく声をもらす。

 

「リン……?」

 

 

 

 

連れて行かれた先は海賊船の船倉だった。

先ほど強奪した硫黄の木箱がうず高く積み重なり、杖もクインケも取り上げられた状態で閉じ込められた。

 

「はぁ……」

 

木箱の一つに腰かけると、ふっかーいしわを眉間に刻み、とびきり大きなため息を吐いた。

あれがリンならクインケが危険だ。

喰種が持ち主のいないクインケを見つけたら間違いなく壊すだろう。

捜査官を返り討ちにしてそのクインケを持ち去る喰種はたしかにいる。だがリンはそのようなことをするタイプには思えない。

ハゼを船から投げ捨てられでもしたら最悪だ。

 

「ねえ、あんた」

 

“あんた” と呼ぶのなら自分だろうと、ハヤトは顔を上げる。

事実その通りで、ルイズが難しい顔をこちらに向けていた。

 

「さっき兜をかぶってた人……気づいてた?」

 

やはりルイズも気がついたらしい。

 

「ああ。リンのような気がする」

 

「そう、よね……」

 

「……」

 

お互いに黙った。口には出さないがそれぞれで考えをまとめる。

ワルドが口を挟む。

 

「リンというのは、ルイズの使い魔のことかい? その使い魔はアルビオンのウェールズ皇太子の元にいるはずだろう?」

 

「はい。そのはずです」

 

兜の人物がリンである場合……。

 

「……任務を放棄したんじゃないのか?」

 

「そんなはずないわよ!」

 

「なぜ言い切れる? リンは『人喰い鬼』だ。人間の命令に素直に従うかどうか」

 

「あいつはーー」

 

ルイズがなにかを言いかけた時、ドアがどんどんと叩かれる。

 

「おい、静かにしろ」

 

と、ドア向こうの見張りが言った。

ルイズは歯軋りするようにうつむき、呻く。

 

「ぜったい、わたしを裏切ったりなんかしないんだから」

 

なぜそこまでリンを信用できるのか、ハヤトにはわからない。

人を喰らう化物。人類の敵。

それを信じるなんて、ハヤトにはまったく理解できない。

しばらくたって、ドアの鍵が開けられ、海賊船員が入ってくる。

 

「出ろ。お頭が会いたいそうだ」

 

真っ先にルイズが表情を引き締めて立ち上がり、ハヤトとワルドもそれに続いた。

間違ってもルイズ一人を行かせるわけにはいかない。海賊なんて人種と少女を二人きりにしたら何をするかは明らかだ。

ルイズだけを連れて行こうとしたら飛びかかるつもりだったが、意外とすんなり部屋を出された。

全員に話があるらしい。

 

「ミス・ルイズ、不用意な発言はしないでくれ」

 

「わかってるわよ、うるさいわね」

 

小声でそんなやりとりをする。本当にわかっているのだろうか?

二人並ぶとふさがってしまうような通路を進み、船長室に通される。

あの眼帯の海賊が両足を机に投げ出し、その隣でリンと思われる人物が無言のまま立っていた。腕を組んでいて、やはり左手の甲は見えない。隠しているのだろうか?

他にも何名かの海賊船員が壁際に立っており、油断なくハヤトらを見つめている。

 

「それで? アルビオン王家の友人とやらの話を聞かせてもらおうか」

 

「海賊に話すことなんかないわ」

 

ハヤトやワルドよりも早く、ルイズが腕組みして答えた。

ウェールズ皇太子と手紙のことを言いださないか不安になる。

 

「言いたくないか。まあいいさ、どうせ王家は滅びたようなものだ。どうせなら貴族派につかないか? 乗るなら勝ち馬に乗るべきだ、そうだろう?」

 

「いやよ」

 

「別にタダってわけじゃない。貴族派の連中は金払いがいいからな、あいつらとコネでも作っておけばお互いに儲かる」

 

「いやよ」

 

「俺は貴族派にパイプを持てる。あんたは貴族派と手を組んで利益を持てる。あんた一人で判断しきれないなら、いったん家に帰って親に相談してもーー」

 

「いやって言ってるの!」

 

ばん! とルイズはその机を叩いた。

海賊は面食らったように目を見開かせ、机に投げ出していた足がわずかに浮いた。

ハヤトは周囲に気を張り巡らせた。

最悪、素手で海賊たちを制圧しなくてはならなくなる。それが成功する確率は限りなく低い。

そんなハヤトの杞憂をよそにルイズはまくし立てた。

 

「わたしは貴族派なんかに死んでもつかないわ! それと! わたしをいつまでも試すのはやめてください、失礼です!」

 

……試す、とは?

その海賊と兜の人物はそろって顔を見合わせ、肩を震わせるように笑い出した。

 

「ふっ、くくく、さすがは君の主人、といったところかな」

 

「そうでしょ?」

 

この聞き覚えのある声……。

兜の人物は、その兜を外した。その時に例のルーンが見えた。

兜の下から出てきたのは、やはりリンだった。

リン、『人喰い鬼』、喰種、部下の仇。

そいつが目の前にいるのにクインケが手元にない。それが恐ろしく歯がゆい。

あったとしてもこの船内ではハゼを振り回せないのだが。

 

「久しぶり」

 

リンはルイズを見やり、笑顔を向ける。

 

「ええそうね。ちゃんと言いつけを守っているみたいね」

 

「偉いでしょ」

 

そして笑った。

苛立った。

リンはまるでハヤトのことなど眼中にないかのように、一瞬たりともハヤトを見ようとしない。

人が足元のアリに気を払ったりしないように、リンはハヤトに興味を示さない。

いてもいなくてもどうでもいい、ということなのだろう。

 

「さて、改めて非礼を詫びよう」

 

言って、海賊は立ち上がった。

すると壁際に並ぶ船員たちが同時に姿勢を正す。

海賊はその眼帯を外し、髭と黒髪を無造作に引き剥がす。

カツラとつけ髭らしく、鮮やかな金髪と碧眼をそなえた青年の顔が現れた。

 

「僕はウェールズ・テューダー・オブ・アルビオン。先ほどの数々の無礼な振る舞い、心より謝罪する。ミス・ヴァリエール」

 

ウェールズと名乗る青年は腹の辺りに右手を添えて、頭を下げた。

 

「いえ、わたしも殿下本人とは知らず、口が過ぎました。申し訳ございません」

 

ルイズも頭を垂れる。

これでおあいこということだろう。

耐えきれず、ハヤトは口を開いた。

 

「ウェールズ皇太子……わかっているのか? そいつは喰種……『人喰い鬼』なんですよ? そんなやつと行動するなんて……」

 

平常心を失いつつあるのはその喋り方でわかる。

 

「君は?」

 

「俺はナガセ・ハヤト。『人喰い鬼』専門のハンターといったところだ」

 

事情を察したのか、ウェールズは困ったような、残念がるような顔をする。

 

「リンが喰種なのは知っているとも。しかし貴族派には『アオギリの樹』という喰種集団がついている。喰種に対抗するには喰種の力を使うしかない。どうかわかってほしい」

 

「アオギリ……」

 

呻いた。

多数確認されている喰種集団の中でもひときわ規模が大きく、11区を囮としたコクリア襲撃を実行し、大幅な戦力増強を行った組織だ。その『アオギリの樹』がこのハルケギニアにも結成されているのか。

しかも喰種という呼び名を知っているところを見ると、ウェールズはそれなり以上に遭遇しているのかもしれない。

 

「まずは武器を返そう。だが暴れないでくれよ?」

 

ウェールズは机の下からクインケやワルドとルイズの杖を取り出し、机の上に置く。

どうやらクインケは無事らしい。

それに手を伸ばすと、遮るようにウェールズが手を置いた。

 

「その前に聞かせてほしい。リンはこの『箱』を捨てるようにしきりに言っていたが、これはいったいなんだ?」

 

やはり捨てようとしたらしい。ジロリとリンを睨む。そのリンは苦笑して顔をそらすのだった。

 

「我々が使う、喰種を殺すための武器です。これならば喰種に対して致命傷を与えられる」

 

「……なるほど」

 

ウェールズも苦笑いをし、クインケから手を離した。改めて受け取る……傷もついていない。大丈夫だ。

ルイズとワルドが杖を取る。ワルドのは杖と言うべきかレイピアと言うべきか迷うところだが。

ワルドはその時しっかりと自己紹介し、貴族の礼節を踏まえた言葉を交わす。

 

「ねえルイズちゃんーー」

 

リンが口を開いた。

 

「ーーなんでこの人が王党派だって気付いたの?」

 

その疑問はハヤトも抱いていた。

 

「あんたがここにいたからよ」

 

ない胸をはって、さも当たり前のように言ってのけた。

 

「それだけ? 顔もルーンも隠してたのに?」

 

「他に理由ある? だいたい使い魔と主人の関係はどちらかが死ぬまで続くのよ? 顔を隠したくらいじゃわたしの目はごまかせないんだからね」

 

そういうものなのだろうか。

魔法に関しては無知もいいところなので、無理やり納得するしかない。

いやまて、それなら俺とアンリエッタ姫はどうなるんだ? 死ぬまで一緒? ……ウェールズ皇太子には黙っておこう。

 

「君はずいぶんと彼のことを信頼しているようだ」

 

そのウェールズがにこやかに笑い、話題を変えるように一息吐いた。

 

「そろそろ本題に入ろう」

 

その一言で、部屋の空気はぴんと張る。

 

「ミス・ヴァリエール。君は王党派の元へどのような用件があってやってきたのかな?」

 

「アンリエッタ姫殿下より親書を持ってまいりました。ですがその、ここでは……」

 

「わかった。みんなは退出してくれ。ミスタ・ハヤト、その右腕は負傷しているようだね? 医務室で治療を受けるといい」

 

「感謝します」

 

腕の治療は本当にありがたい。

部屋を出ようとすると、壁に背中を預けていたリンが歩き出そうと一歩踏み出す。

その口元はうっすらと笑んでおり、薄ら寒いものが背中を這った。

クインケの武器展開スイッチに親指を乗せるが、この狭い場所では分が悪い。

 

「リン、君は残るんだ」

 

ウェールズが引き止め、リンは残念そうに肩をすくめてみせるのだった。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

ハヤトやワルド、そしてウェールズの部下たちの退出を見届け、リンはまた壁に背中を預けた。

クインケはそのままだし『白鳩』は船に乗ってくるし、殺そうと思ったけれどウェールズに引き止められるしでもう最悪。

リンは特にすることもないので、ウェールズたちの方に気を向けた。

ウェールズはルイズに向き直ると、用件の続きを促す。

 

「リンは同席させても問題ないね?」

 

「もちろんですわ、殿下」

 

言って、ルイズは懐から蝋封のされた手紙を取り出し、それをウェールズへ両手で差し出す。あれが親書らしい。

 

「確かに受け取ったよ」

 

ウェールズは手紙を手にし、椅子に腰掛けて封を開いた。

ここからではその内容は見えない。見えても読めないのだけれど。

 

「……」

 

その手紙を読むウェールズの顔は、どこか沈痛な面持ちだった。

 

「そうか……彼女は結婚するのだね」

 

アンリエッタ……ウェールズの恋人とかいう噂として、たまに耳にする。

そしてウェールズが誰かからの手紙を繰り返すように読んでいることも、リンは知っている。

 

「話はわかった。だが手紙はいまここにはないんだ。ニュー・カッスル城まで来て欲しい。そこで渡そう」

 

「わかりましたわ、殿下」

 

「それとリン」

 

「んー?」

 

そんな風に返事をするとルイズが目で「こら!」と訴えてくるが、笑みで返しておいた。

 

「さっきの喰種ハンターだが、くれぐれも手を出すんじゃない。いいね?」

 

「……」

 

それには苦笑して肩をすくめるだけ。

喰種に仲間意識なんて持っていないが、自分と同じ喰種を殺しまくっている『白鳩』は敵でしかない。

それに手出ししない、なんて約束はできない。

 

「いいね?」

 

だが強い口調で言われてはうなずくしかなかった。

 

「わかった、わかりました、うん。でも向こうから仕掛けてきたら反撃するよ?」

 

「そうならないように僕から言っておくよ。まあ、つもる話もあるだろう? 二人ともくつろいでくれ」

 

 

 

 

場所を変えて、船の舳先。

頭上にはたくさんの星々と、半ば重なった二つの月が浮かんでいた。

 

「僕がいない間さ、朝はちゃんと起きられた?」

 

「当たり前じゃない。子供扱いしないでよね」

 

「そう? 僕が起こさないとずっと寝てたけど?」

 

リンにとって一六歳のルイズはまだ子供みたいなものだ。

 

「う、うるさいわね。あんたこそちゃんとウェールズ様の役に立ってたんでしょうね?」

 

「もちろん。んーと、メイジと傭兵の団体さんを追い払ったのと、『人喰い鬼』の三人組を返り討ちにしたのと、あとは『人喰い鬼』に捕まっていた村人たちを助けたね」

 

得意げに話した。

自慢すると同時に、それだけの使い魔を召喚したことをルイズに自覚して欲しかった。

 

「そ、そのくらいできて当然よね、わたしの使い魔なんだもの」

 

それが本心であれ、ただの強がりであれ、ルイズは胸を張って見せる。

 

「そうだね、ルイズちゃん。だからさーー」

 

ルイズの頭に右手を置くように撫でる。

メイジの実力を知るにはその使い魔を見よ。ならばこれだけの功績を挙げた使い魔を持つルイズは、それに見合った力を持っているのだろう。

 

「ーー君もゼロなんかじゃないよ」

 

月明かりでもわかるほどにルイズの顔が赤くなった。おまけに目を見開いて、口は強く閉ざされる。

 

「う、ううううるさいうるさいうるさーい! そんなこと言われなくったってわかってるわよ!」

 

右手を払いのけられ、久々にルイズの騒々しい声を耳にした。

可愛い妹を見るように、リンは笑顔を向けるのだった。

そうやって再開に和んだころ、顎髭の長身男ーーワルドとかいったかーーがやってきた。

 

「やあ、君が彼女の使い魔の、リンかい?」

 

「ん、そうだね。あなたは?」

 

「僕はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド……ルイズの婚約者さ」

 

面食らった。

こんやくしゃ。

つまりあれだ、ルイズの結婚相手というやつだ。

 

「そうなの?」

 

「わたし、まだ、そんな……」

 

もじもじとしおらしくなるあたり、本当のことらしい。年齢差考えろよ。

ワルドは手すりに腰を乗せ、にこやかに笑む。

 

「返事ならまだ待てるさ。それにしても、君は『人喰い鬼』……ただしくは喰種か。それと同時にガンダールヴでもある。伝説に出会えて光栄だよ」

 

「ガンダールヴ? なにか知ってるの?」

 

この返しには意外だったのか、ワルドは目を開いた。

 

「自分のことを知らなかったのかい?」

 

「だって忘れてるみたいだし。ねえ?」

 

背中に背負うデルフの鍔に指をひっかけ、少し引き出した。デルフはカチカチと金具を鳴らして不満そうに言う。

 

「仕方ないだろ。もう何千年も昔のことなんだからよ」

 

「インテリジェンスソード……また珍しいものを」

 

そしてワルドは語った。

始祖ブリミルと、その使い魔の伝説だ。

 

 

 

すべての魔法の開拓者、ブリミルには四人の使い魔がいた。

 

一つは神の左手、ガンダールヴ。

彼はあらゆる武器を使いこなし、ブリミルの盾として一騎当千の働きを行った。

 

一つは神の右手、ヴィンダールヴ。

彼はあらゆる動物と心を交わし、ブリミルと四人の使い魔を好きな場所へと運んだ。

 

一つは神の頭脳、ミョズニトニルン。

彼はあらゆる道具を理解し、操り、ブリミルに知恵を授けた。

 

最後の一つはまったくの不明。

名を記すことさえも憚れ、四体目がなんなのかはなにもわかっていない。

 

 

 

それを聞いたリンは自虐的に笑う。

 

「四体目は喰種だったりして」

 

神様扱いされている人物の使い魔が、人を喰らう化物だなんて言えないだろう。

 

「その可能性もある」

 

ワルドが相槌を打って、デルフは過去を懐かしむように声を出す。

 

「ああそうだった。俺の相棒はガンダールヴだ。最初の相棒がその力を持っていた」

 

「なにか思い出した?」

 

「思い出したぜ。俺はガンダールヴの、メイジ殺しの武器として設計されたんだ。そして相棒にはガンダールヴの力……武器を理解し、使いこなすって能力が与えられるはずなんだが……むう?」

 

「なに?」

 

「……そのガンダールヴのルーンなんだけどよ、どうも相棒にはまるっきり力を貸してないみたいなんだよな」

 

「どうして?」

 

「言っちゃあ悪いがおめえは『人喰い鬼』で人間じゃない」

 

チクリと胸が痛む。

わかっていることを断言されると辛いものがあるが、黙っておいた。

 

「その『人喰い鬼』の部分を抑え込むのに力をほとんど使っちまってるみてえなんだよな」

 

「そうなんだ?」

 

左手の甲を見つめる。

喰種の部分がむき出しとなったら、はたしてルイズをどうしていただろう?

それを考えるとぞっとする。無意識に考えていないようにしていたが、意識して考えてみようか。隣に立つルイズの柔らかそうな肉付き、太もも、二の腕、小ぶりな胸、美味しそうな内臓……。

そこまで考えると思考があやふやになる。考えが乱れて想像していたものが霧散する。あれ? そういえばなに考えてたっけ?

リンの左手の甲に浮かぶ文字状の印が、微かに光を放っていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いせかいげきじょー





??「タケ、ハヤトがいなくなってずいぶんたつね」


??「ねえタケ、きみReになってもまだ上等捜査官止まりなの?」


??「タケ、タケ」


??「ちょっとアンパン買ってきて」


??「ついでに梟の右腕持ってきて」


??「タケ上・等・捜・査・官」


??「タケ、聞いてる?」


??「あ、イグザ壊れたからあげる。嬉しいでしょ?」


??「タケってやっぱりたけのこ派? 以外ときのこ派?」


??「タケ、そろそろ昇格できないの焦ったほうがいいよ」


??「ハヤトのやつでも有馬避けできるっていうのにタケときたら」


??「タケ、今度の週末空いてるかカネキに聞いといて」


カネキって誰ですか?


??「……白秋です……」
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