ゼロの喰種   作:gulf0205

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魔法

「ふあ……」

 

リンはあくびと共に体を伸ばした。窓の外では空が白み始めている。

辺りを見渡すと、ここは見知らぬ部屋だった。目の前のベッドには見知らぬ少女。で、思い出した。

ああそういえばこの世界に呼び出されたんだっけ。

立ち上がり、首をコキコキとならして足元の衣類に目を向けた。

洗濯機はないだろーな。水道もあるとは思えないし。となると水場は外で、これは手洗いかな。

ルイズの脱ぎ散らかした衣類をカゴに入れて、窓の外を見下ろす。

誰もいないし、飛んじゃえ。

ひょいと身を乗り出して、壁を滑り、わずかなとっかかりに手をかけて速度を殺し、着地。

 

「でも水場ってどこだろ?」

 

探検をかねてしばらく歩き回る。

この学院は中心に本塔があり、それを囲むように五つの塔が並んでいる。それらをつなぐように壁ができているようだ。

と、黒い服に白いエプロンの少女を見つけた。あれはたしかメイド服とか言ったか。

 

「ねえちょっと、そこのメイドさん」

 

「はい?」

 

なんだか日本人みたいな顔をしたメイドさんだ。黒髪に自分と同じ肌の色。

年は一六歳くらいか。年のわりに胸はまあまあそれなりに。

第一印象。美味しそう。

……なんて顔に出すことなく元の用事をたずねた。

 

「ちょっと洗い物がしたいんだけど、どこにいけばいいかな?」

 

「それならこちらです。案内しますね」

 

「ん、ありがと」

 

メイドについて歩いていく。

 

「あの、失礼ですけどこの学院の方ですか?」

 

「昨日からね。ルイズ・ふらん……なんとかって子に呼び出されたんだ」

 

「ああ、あなたが」

 

「知ってるの?」

 

「もうその噂で持ちきりですよ。あのミス・ヴァリエールが平民を呼び出したって」

 

そういえばルイズちゃんって長い名前の最後にヴァリエールがついてたっけ。

そうこうするうちに水場についた。いかにもな洗濯板まである。

手洗いなのは仕方ない。

 

「ありがと。君も貴族なの?」

 

カゴをおいて、てきとうに服を持ち、雑巾をそうするようにやってみた。

 

「いえ、わたしは使用人のシエスタといいます。わたしもただの平民ですよ」

 

シエスタは微笑みながらそう答え、リンもそれに笑顔で返す。

んー、この子を腹の足しにするのは後回しにしよう。なんかいい子そうだし、親切にしとくのも悪くなさそうだし。

そんな考えを覆い隠すための笑顔、顔に貼りつけた嘘の仮面。それをリンは顔に着けて、いう。

 

「僕はリンっていうんだ。よろしくね、シエスタちゃん」

 

「はい、同じ平民同士、協力しましょうね……あ、そんなに力を入れたらーー」

 

ビリ

 

「あ」

 

いやな音と感触。

手に持ってるものを水から出すと、よれよれになり破れたパンツが出てきた。

 

「あぁ……」

 

やっちゃったーーこれは本心。

リンのそんな様子を察してかシエスタが助けを出した。

 

「わたしが代わりましょうか」

 

疑問系にしなかったのはシエスタなりの気づかいだろう。

 

「ごめん。お願い」

 

「いえいえ」

 

洗濯を代わってもらい、リンはそれを観察する。

服や下着で力の入れ具合を変えている。見た目通り、手慣れたものだ。

 

「終わりましたよ」

 

カゴごと洗濯物を受け取る。

 

「助けられてもらってばかりだね。なんか困ったことがあったらいつでもいってよ。手伝うからさ」

 

「その時はお願いしますね、リンさん」

 

笑顔で別れて、リンはルイズの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

リンと別れたシエスタは厨房へと向かう。

その途中でリンの屈託ない、まるで子供みたいな笑顔を思い出していた。

 

「リンさん……なんだか仲良くなれそう」

 

その呟きは誰にも聞かれず、シエスタの内に秘められる。

リンがシエスタのことを「美味しそう」だの「利用できそう」などと考えていたことを、シエスタが知るはずもなかった。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

「ルイズちゃーん、朝だよー」

 

洗濯物を窓際にてきとうに干して、リンはルイズの体を揺さぶった。

当のルイズはというとゆるみきった顔をリンに向けている。

 

「もしもーし」

 

ぷにぷに、とふっくらした頬をつついてみる。柔らかい。

顔を近づけてみる。ほんのり漂う酸っぱさと、寝汗の混ざったこの匂い。

あ、やば、噛みつきたい。こう、ぶちっと。肉を口の中で転がして滴る血を先に飲み込んで……ってなに考えてるんだ。

頭をふってその考えを払い、勢いをつけて布団を剥ぎ取った。

 

「ふにゃっ!?」

 

変な声をだしてルイズの目が開いた。そしてリンを見て叫ぶ。

 

「だ、誰よあんた!?」

 

それはひどい。

 

「君の使い魔になったリンだよ。覚えてる?」

 

肩をすくめてみせると、ようやく思い出したらしい。

 

「うえ?……ああ、そうね、そうだったわよね、わたしが召喚したのよね」

 

あくびしたり目をぐしぐしやったりする。

 

「服」

 

と、いきなり言われてもリンは理解しかねる。

 

「服?」

 

「そのクローゼットのなかよ」

 

「あー取るのね」

 

クローゼットを開けて、洗ったものと同じブラウスやスカートなんかをとりだす。

 

「あと下着。一番下よ」

 

それはどうなんだと思うものの、リンだって男である。興味もあって引き出しを開けた。

わお。

てきとうにシャツとパンツを取り出してルイズに差し出すも、ルイズは目を半開きにさせたまま近づいて来て、

 

「着せなさい」

 

「いやいや、着替えは自分でやろうよ」

 

「なに言ってるのよ。貴族は使用人がいたら着替えさせてもらうものなのよ」

 

「女の子の肌を間近で見るとイロイロと困るんだよ。君だって襲われるのイヤでしょ?」

 

おもに捕食的な意味で。

ルイズは「うぐ」と複雑な顔を浮かべていた。

こちらは性的な意味で解釈したらしい。

 

「わ、わかったわよ。外で待ってなさい」

 

「そうするよ」

 

ルイズを残して部屋を出た。壁に背中をあずけて耳をすませる。

いまくらいが起床時間なのか、がさごそ、どたどた、と動き出す音が上からも下からも聞こえてきた。

足音が近づいて来て、そちらをみやる。

小柄な、ルイズよりも幼い少女がいた。特徴的な青い髪に、身長より長い杖。

 

「おはよう」

 

「……」

 

リンは微笑みながら挨拶するが、少女は黙ったままリンを見上げるだけだった。

目が合う。視線が絡む。

少女の眼差しが一瞬だが貫くような冷たさと鋭さを持った。ような気がした。

……殺すか?

リンの中にそんな考えがよぎり、即座に振り払った。この子は敵意を臭わせただけだ。いきなり手を出すのはまずい。

リンがさらに話しかけようとしたとき、隣室のドアが開いた。

出てきたのは褐色肌に赤毛と豊満な体つき。この青髪の少女とは何から何まで正反対の女性。

 

「あら、あなたはたしかヴァリエールの使い魔の」

 

「リン、っていうんだ。よろしくね」

 

「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。『微熱』のキュルケよ」

 

それフルネーム? ってくらいに長い名前。

 

「よろしくキュルケさん。そっちの子は?」

 

「……タバサ」

 

ぽつりと述べたところで、ルイズが出てきた。気のせいか慌てたようにも見える。

 

「なにしてんのよ?」

 

「なにって挨拶していただけだよ?」

 

「こんなやつと話をする必要なんてないわ!」

 

ずいぶんと嫌っているようだ。

 

「あらご挨拶ね。ちゃんと召喚できたなんて褒めてあげようと思ったのに」

 

「あんたに褒めてもらうことなんてないわ」

 

「そうよね、魔法が使えない平民が使い魔なんて、ある意味『ゼロ』のルイズらしいわねえ?」

 

ルイズの眉間に入っていたしわがさらに深くなる。

魔法が使えない平民がルイズらしい、とはどういう意味なのか、リンにはわかりかねた。

 

「やっぱり使い魔っていうのはこういうものじゃないと。フレイムー」

 

呼ぶと、キュルケの部屋から真っ赤なトカゲがのそりと出てきた。

かなり大きく、尻尾の先から火が出ている。どうやって燃えているのやら。

 

「これってサラマンダー?」

 

呻くようにルイズが問うた。嫉妬だろう。

 

「ええ。それにこの綺麗な火。きっと火竜山脈のサラマンダーね。好事家に見せたら大金を払うでしょうね。それではごきげんよう」

 

ひとしきり使い魔の自慢をしたところで、キュルケはタバサと共に去っていった。

そのさいにリンに向かって投げキッス。

リンはいつもの笑顔で手をひらひらさせ、それに応えた。

 

「人の使い魔に色目使ってんじゃないわよ! あとあんた! あいつに愛想ふりまく必要なんてないんだからね!?」

 

「ずいぶん嫌ってるね」

 

「当然でしょ! ヴァリエール家とツェルプストー家は不倶戴天の敵なのよ。おまけに部屋まで隣同士! しかも自慢するし馬鹿にするし!」

 

リンは苦笑いしながらルイズの後を歩くのだった。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

タバサはキュルケと共に食堂に向かっていた。

 

「あの使い魔の彼、なかなか人懐っこい感じよね。情熱的かどうか試したくなっちゃうわ」

 

「彼は、危険」

 

男の採点は彼女の悪い癖だ。 注意したところで治るとも思えないから、いままで黙っていた。

だがリンは駄目だ。忠告した方がいい。そう判断した。

 

「危険? リンが?」

 

首肯する。

 

「あの笑顔は自分を隠すためのもの。本当のリンは危険。関わらない方がいい」

 

タバサは無表情で本心が外に出ないようにしているが、リンは逆だ。

リンは笑顔で本心を覆い隠している。

無表情は他人を遠ざけるが、笑顔は他人を近づける。このキュルケのようにひかれてしまう。

それだけならば警戒はしないが、さきほどリンの目を見たとき、ほんの短い時間だが殺気を感じた。にもかかわらず次には何事もなかったように振舞っている。

あれは日常的に殺人を行っている可能性が高い。

死線をいくつもくぐり続けたタバサだからこそ、研ぎ澄まされた勘が告げているのだ。あいつは危険だと。

 

「あの笑顔の裏に隠された危険な顔……ああん、ゾクゾクしちゃう」

 

自分の体をだいてくねらせるキュルケを見て、忠告したのは間違いだったとタバサは自分を呪うのだった。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

アルヴィーズの食堂。

壁際に人形が飾ってある大きな食堂。ルイズに連れられてリンはここまで来たわけだが、到着するなり顔をしかめそうになった。

テーブルの上の、さぞ手間暇かけたような料理の数々。

そこから立ち上る『悪臭』に嫌気がさす。喰種のリンにはこの臭いすら嫌悪の対象だった。

椅子の前にルイズが止まり、リンも立ち止まる。

 

「感謝しなさいよね。使い魔は本当なら入れないんだから。……なにしてるのよ、椅子をひきなさい」

 

使用人として連れてきたらしい。周囲の好機の目がなんだか気になる。

 

「はい、どうぞ」

 

断って癇癪起こされるのも嫌なので素直に従った。

てきとうに理由をつけて出て行くとしよう。

 

「言っとくけど、あんたのはそれよ」

 

と、ルイズが指をさしたのは床である。床に置いてある、貧相なスープと固そうなパン。

なるほど。これが平民の扱いか。なんともわかりやすい。いや食べないけども。

 

「ごめん。言うの忘れてた。僕、普通の食べ物は食べられないんだ」

 

もっと早くに言うべきだったか。

 

「はあ? じゃあ普段はなに食べてるのよ?」

 

「それは近いうちに話すよ。じゃ、僕はそのへんうろついてるから」

 

「ちょっ、こら待ちなさい!」

 

「うん?」

 

「一時間後に迎えにくるのよ! あと勝手な真似しないでよね? 使い魔の責任は主の責任なんだから」

 

「はーい」

 

てきとうに返事をして食堂を出た。

 

「はあ」

 

ゲロが飛び散る公衆トイレみたいな臭いから逃れられて、ため息。

壁に背をあずけて腰のポーチを開き、中から最後の干し肉を取り出す。

 

「どうしたもんかな」

 

ぶちり、と噛みちぎって咀嚼した。

まずくはない。食べられることは食べられるのだが、いかんせん味が薄い。

空腹は抑えられるし腹の足しにはなる。だがそれだけだ。血肉滴るご馳走とは比べ物にならない。

『大食い』とされるリゼほどでないにしろ、リンは喰種のなかでもけっこう食べるほうだ。はやいところルイズと打ち解けたほうが身のためではある。

もっとも……自分が人からでないと栄養を取れない喰種だと打ち明けて、それでもし拒絶されたら……そのときはルイズとその使い魔が謎の『失踪』を遂げることになるだろう。

しかし可能な限りそれは避けたい。万全を期すまで捕食は隠れてひっそりとやるとしよう。

 

「リンさん?」

 

聞き覚えのある声がして、顔を向けるとシエスタがいた。

 

「やあシエスタちゃん」

 

「今朝ぶりですね。もう朝食はとられたんですか?」

 

「いやルイズちゃんにも言ったけど、普通のものは食べられないんだよね」

 

言って、最後の干し肉の最後の一口を口に放り込む。

 

「じゃあ、食べてるそれはなんです?」

 

「ひみつ」

 

笑みを向けた。こういうのは笑ってごまかすに限る。

 

「それにしても、平民って本当に貴族より下って感じだね。どこもそうなのかな?」

 

「そうですよ。貴族様には逆らえません。リンさんも気をつけてくださいね、機嫌を損ねたらなにをされるかわかりませんから」

 

「ん、わかった」

 

「じゃあ私は戻りますね。お腹がすいたら言ってください。リンさんが食べられるもの探してみますから」

 

いや探さなくてもそこらへんにいるから。

などと言えるはずもなく。

 

「そうするよ。またね」

 

代わりに別れの挨拶を言って手をひらひらさせる。

シエスタはぺこりと頭をさげて戻っていった。

 

 

 

 

 

><><><><><><

 

 

 

 

 

朝食としばしの休憩のあと、次にリンが連れて行かれたのはどこかの教室だった。

階段状に座席とテーブルが置かれ、一番下に教壇と黒板がある。

だがなによりリンの目を引いたのは様々な動物たちだった。

カラスやイヌ、ネコといったものはもちろんだが、今朝のサラマンダーや一つ目のよくわからないもの、多足のトカゲなど見たことのない動物がいた。

 

「はあ……」

 

感心するような声を出していると、ルイズに袖を引っ張られる。

 

「なにほうけてるのよ。こっち来なさい」

 

「あ、うん。ルイズちゃん、あれ全部使い魔ってやつ?」

 

「そうよ」

 

不機嫌そうな顔をして席に座った。リンもその隣に座る。

 

「なんでわたしは平民なのかしら」

 

まだ言うか。

 

「ルイズちゃんもああいうのがよかったの?」

 

「あたり前じゃない。メイジの実力を知るには使い魔を見よ、って言うくらいなのよ。平民が使い魔なんて聞いたことがないわ」

 

「つまり、ルイズちゃんにぴったりの使い魔が僕だったってこと?」

 

「どういうわけかそうなるのよね。っていうか、そのルイズちゃんっていうのやめなさい」

 

「えー? ルイズちゃんって呼び方のほうが可愛いよ?」

 

ニコニコ顔でいうと、ルイズはぶつぶつ言いながらもまんざらでもない様子。

それにしても、だ。

人の姿をしながら人ではない喰種がルイズにぴったりとはどういうことだろうか?

考えたところで、教壇横のドアが開いた。

入って来たのは恰幅のいい中年女性だ。あの年までいくと味が劣化するので、リンは特に興味がない。

 

「みなさん、おはようございます」

 

その言葉で教室が静かになった。さすがに教師と生徒か。

 

「はじめましてみなさん。私はシュヴルーズ。二つ名は『赤土』です。こうしてみなさんの使い魔を見るのは私の楽しみですのよ」

 

シュヴルーズは教室を見渡し、リンで目が止まった。

 

「中には変わった使い魔もいるようですね」

 

クスクスと笑い声。

手を振って愛想振りまこうかと思ったが、やめた。ルイズからひしひしと怒りを感じる。

 

「おいルイズ、魔法が使えないからってそこらの平民を連れてくるなよ」

 

トロトロの脂肪が詰まってそうな少年が囃し立てると、それにつられて笑い声が上がった。

ルイズが立ち上がる。

 

「違うわ! わたしが召喚したのよ!」

 

「ゼロのお前じゃ魔法が使えないだろ」

 

「ミセス・シュヴルーズ! 風邪っぴきのマリコルヌがわたしを侮辱しました!」

 

「風邪っぴきじゃない『風上』だ!」

 

マリコルヌも立ち上がり声を荒げた。

 

「あなたのそのガラガラ声は風邪引いてるみたいなのよ!」

 

そろそろ止めようか。

そう思ったところでシュヴルーズが杖を軽く振った。すると二人とも糸が切れたようにストンと椅子に座る。

 

「二人とも、お友達をゼロだの風邪だの罵ってはいけません。貴族はお互いを尊重するものです」

 

原因はあんただろ、とは言わずにおく。

 

「ミセス・シュヴルーズ、風邪っぴきは中傷ですがゼロは事実です!」

 

さらに笑い声が上がる。と、マリコルヌやその笑っている生徒らの口に赤い粘土が貼りついた。

 

「あなたたちはそのまま授業を受けなさい」

 

授業はつつがなく進んだ。

 

魔法には『火』『土』『水』『風』そして失われた『虚無』の五系統あること。

その中でも『土』は生活に密着していること。

『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』と、メイジの実力は分類されること。

そして『錬金』を使えばただの石ころを真鍮に変えることができること。

こんなに便利なら、メイジが魔法を使えない平民を見下すのも無理はない。

 

「では実際にやってもらいましょうか。そうですね……ミス・ヴァリエール、やってごらんなさい」

 

「え、わたし?」

 

なぜか驚いた表情になるルイズ。

 

「あのー、やめておいたほうがよろしいかと」

 

おずおず、といった感じでキュルケが言う。なんなんだ?

 

「なぜですか?」

 

「危険です」

 

「危険? 錬金のなにが危険なのです? さあミス・ヴァリエール、失敗を恐れていてはなにもできませんよ。早くいらっしゃい」

 

意を決したようにルイズは立ち上がった。

 

「お願いやめて」

 

それを無視してルイズは前に進んだ。

すると他の生徒たちが机の下に隠れはじめた。中には教室を出て行く者までいる。

 

「あなたも隠れた方がいいわよ」

 

机の下からキュルケが告げる。

 

「……?」

 

わからないまま、リンも机の下に隠れた。

そして、

 

「錬金!」

 

 

轟音。

 

 

教室を揺るがす爆音と空気の衝撃波。

窓ガラスが吹き飛び、ガスガスと天井や机になにかがぶつかる。

野生を取り戻した使い魔たちがいっせいに喚き出し、教室は一瞬にして恐慌状態に陥った。

 

大蛇がカラスを呑み込み、イヌやネコが乱闘を始め、なんかよくわからない生物が金切り声を上げる。

 

「ルイズ!」

 

その中でもリンの声はひときわ大きかった。

すぐさま机から頭を出して、ルイズの立つ教壇を見た。

そこにはブラウスやスカートがところどころ破れながらも、顔についた煤をハンカチで拭うルイズがいた。

 

「ちょっと、失敗したみたいね」

 

その一言でリンは安堵した。

だが他の生徒はそうでもないらしい。

 

「どこがちょっとだゼロのルイズ!」

 

「魔法が成功した回数なんてゼロじゃないか!」

 

「ラッキーが! ラッキーが食われた!」

 

ああ、だからゼロね。

ルイズへの糾弾と使い魔をなだめる声が怒号となる中、リンは一人考えた。

あの時、なぜルイズの名前を叫んだのだろうか? ルイズの身は大事だ。だがそれは貴族という後ろ盾が欲しいからであって、ルイズ自身が大事というわけではない。

しかしルイズが平気だと知ってほっと胸をなでおろした。どうしてだろう?

 

リンは頭をひねるが、答えは出なかった。

 

 

 

 

 

教壇の横で伸びていたシュヴルーズが覚醒して医務室へと連れて行かれ、ルイズとリンは散乱した教室の後片付けをしていた。

特に言葉はなかったが……先に口を開いたのはルイズだった。

 

「わかったでしょ。なんでわたしがゼロって言われてるのか」

 

「まあ、そうだね」

 

「がっかりしたでしょ。わたしみたいなのがご主人様で」

 

答えない。

同意しても否定しても、おそらくルイズは喜ばない。

 

「そうよ、わたしはゼロよ。メイジなのに魔法が使えないの! 笑っちゃうわよね」

 

「ん……魔法はまだよくわからないけど、例えば僕がその杖で魔法を使おうとしたら、ルイズちゃんみたいに爆発するのかな?」

 

「……しないでしょうね。たぶんなにも起きないわ」

 

「つまりルイズちゃんだけが爆発してしまうってこと?」

 

「ええそうよ、その通りよ!」

 

自棄になったように叫び、涙を浮かべた目でリンを睨む。

だがリンは笑顔で返した。

 

「なにがおかしいの!?」

 

「別にルイズちゃんをバカにしたわけじゃないよ。ただ、昔の僕みたいだなって、そう思っただけ」

 

リンは止めていた手を動かし、言う。

 

「僕もね、なんで普通の人間とは違うんだろうって、そう悩んでたころもあったよ」

 

「……あんた人間じゃないの?」

 

「見た目だけは、ね」

 

証明するように、赫眼ーー血のような赤黒く変色した両目を見せた。ルイズは少しぎょっとする。

 

「まあそれで、僕も必死で人らしくしようとしたんだ。無理して普通の物を食べてみたり、人間の友達を作ってみたり。でもダメだった」

 

ルイズがなぜ喰種なんて呼び出したのか、リンはわかった。

 

「ルイズちゃんはさ、僕といっしょで普通とは違うんだよ。頑張ってもどうにもならないなら、自分はそういうものだって受け入れるといいよ」

 

「受け入れるですって? こんな、爆発しか起こせないのに?」

 

怒っているのか、それとも泣いているのか……よくわからない顔になる。

 

「自分で自分を否定しちゃだめだよ。僕は人間とは違う、違うって受け入れて生きてる。次はルイズちゃんがそうする番さ。爆発しか起こせないんじゃなくて、爆発を起こせる。そう考えたらいい」

 

「ふざけないで!」

 

「ふざけてなんかーー」

 

「うるさいうるさいうるさい! あんたみたいな、あんたみたいな化物と一緒にしないで!」

 

叫び、ルイズは教室から走って出て行ってしまった。

泣かせるつもりはなかったのだが。

 

「慣れてるけどバケモノはひどいなあ」

 

呟いて教室を見渡す。

……これ全部ひとりでやるのか。




ーーーーーーーーーーーー


いせかいせんりゅー




すけすけは

気合いを入れた

1日に

(とある使い魔 さん)




あぁらうふふふ(ゲルマニアの微熱 さん)

川柳……?(偽名 さん)

きゃああああああああああ!? こここここここのバカ犬ぅううううううう!!!(由緒ある公爵家の三女 さん)

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