艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

10 / 32
今回は唐突な戦闘有りです。
ただ状況ゆえに見栄えがしないのが難点。


日誌五頁目 洋上航海試験

 

 

 

 暫く海に出た余韻を楽しんだ後、尾張は待機していた艦娘達に合流した。

 

「尾張、護衛艦隊に合流します」

 

「よろしくネー。

 私はさっき自己紹介したから良いけれど、私の妹達と他の娘がまだでしたネー。

 じゃあ比叡からお願いしマース!」

 

「はい!金剛お姉さまの妹分の比叡です。

 昨日の車椅子の人が艦娘だったのは意外でしたけれど、今日は金剛お姉さま達と一緒に随伴します!」

 

「同じく、巡洋戦艦の榛名です。

 貴女が尾張だったのですね。本日はよろしくお願いします!」

 

「金剛型巡洋戦艦の四番艦、霧島です。

 貴女のデータ、たっぷり取らせてもらうわね」

 

 金剛姉妹の自己紹介が済んだところで、正規空母の艦娘が前に出る。

 

「翔鶴型航空母艦1番艦の翔鶴です。

 今日はよろしくね」

 

「同じく2番艦の瑞鶴よ。

 速力では駆逐艦と同等の速度を出して見せるわ」

 

 翔鶴姉妹の紹介が終わると、次は昨日見た鉢金を巻いた軽巡の艦娘と駆逐艦娘達が前に出た。

 

「川内型軽巡洋艦、2番艦の神通です。

 今回は駆逐艦の娘達と共に随伴いたします。

 皆さん、挨拶を」

 

「陽炎型駆逐艦の7番艦の初風よ」

 

「同じく、8番艦の雪風です!」

 

「9番艦の天津風よ」

 

「10番艦の時津風だよぉー」

 

「高速重雷装駆逐艦の島風です。

 こう見えても40ノットも出せるんだから!」

 

「以上12名が、今回Youに随伴する艦娘ネー」

 

 最後に島風の紹介が終わったのを見て金剛が閉める。

 

「見た限りかなりの練度をお持ちのようですね。

 この数で来られたら私でもただではすまないかも……兎に角、今回はよろしくお願いします!」

 

「じゃあ、まずは湾の外に出ましょう!

 全艦、前進微速ネー!」

 

 ここで読者方に説明すると、艦隊を組んで移動する場合、その速度は一番遅い艦の速度域に合わせて動くのが常だ。

 だがここで尾張と金剛達の間に、相互理解が進んでいなかった。

 

(何やっているのかしら?)

 

 最初に気が付いたのは瑞鶴だった。

 微速のこの時点で艦娘同士の速度に差はあまり出ない。

 その筈なのだが、金剛達よりも尾張の方が頻繁に速度調整を行っていたのだ。

 このとき金剛達は、尾張の最大戦速を大和達と同様、27ノット辺りだと仮定していた為、自分達の微速より僅かに速度を落として進んでいた。

 

(まあ初めて艦娘になってから、速度調整に手間取るのは仕方ないわよね)

 

 その辺りは自分も経験済みなので、その時は特に問題視していなかった。

 そしてとうとう外洋に出た後、暫くして速度制限外に到着した。

 

「じゃあまずは航行演習……と言っても、revisionみたいな物だし、とりあえず艦娘の体でどこまでやれるか試すと良いネー」

 

「え、好きに動いちゃって良いんですか?」

 

「OK、OK、No problemネー。

 神通達も付いて行くからYouの好きな様に動いちゃいなヨ!」

 

「了解、じゃあまずは前進半速から行きます。

 あ、神通さん」

 

「はい?」

 

 尾張に呼ばれて神通は怪訝そうな顔をする。

 

「辛くなったら言って下さいね」

 

 当初尾張の言葉はただのこけおどしと、その場に居た艦娘たちは思っていた。

 だがここで悲劇が起こる……。

 既に半速の時点で、尾張の加速性が想定を大きく上回っていた。

 神通もこれには慌てて、自身の速力を上げて追随する。

 この時点で尾張の速度は12.5ノット、だが問題はその後だった。

 尾張が原速まで持っていくと17.5ノットにまで増速、この時点で金剛型ならば第一戦速に入っており、強速に入って更に5ノット増速、22.5ノットにまで達する。

 その後の第一戦速から27.5、32.5と増えて行き、第三戦速で37.5ノットになった。

 この時点で神通と陽炎型駆逐艦達が脱落する。

 最後は島風のみとなり、その島風も第四戦速の42.5ノットの時点で、暫くは粘ったが足を縺れさせて脱落した。

 随伴艦が脱落したことに気付かず、ランナーズハイになっていた尾張は、そのまま第五戦速まで増速、本人の通常航行時の最大速度である47.5ノットに達したところで、金剛から通信が飛んで漸く止まったのだった。

 

「なんで戦艦なのに島風が追いつけないのー!」

 

「すみません……久しぶりの海で少しはしゃいじゃって……」

 

「一体どんな機関を積んでるネー……」

 

「えっと7500馬力の主缶が14基、それに回転効率52%のタービンが4基ですから、218,400馬力ですね」

 

 ちなみに、現在の大型船舶用の2ストローク低速ディーゼルの回転効率が55%である。

 実は謎の装置のお陰で71ノットまで出せるが、流石にその辺りを言うのは控えた。

 

「Oh……」

 

「大和型より約70,000馬力も上って……、何と戦ってたのよ」

 

「ですから、昨日主力艦の皆さんに見ていただいたあの巨大兵器群とですよ。

 これだけ出せないと戦闘距離の維持が出来なかったんです。

 速力40ノット出せるのがざらでしたし、艦船型で最大93ノット出せるのも居ますから」

 

「93ノット……」

 

「それって旋回は大丈夫なの?」

 

 色々と規格外の話をされて、翔鶴が尾張に問う。

 

「舵の利きは巡洋艦クラスですし、火力も巡洋戦艦級の30.5cmと最低限のものですが、口径は長大です。

 見た目通りの砲だと甘く見ていると痛い目を見ますよ。

 その巡洋戦艦……ヴィルベルヴィントって言うのですが、一隻でアメリカの太平洋艦隊の半数が中破ないし大破と言う大損害を出しました」

 

「あのアメリカが……」

 

「流石に同情するわね……。でもあんたはどうやって倒したのよ?」

 

「まあ超高速で巡洋艦並みの舵利きとは言え、それでもコースが読めてしまえばこちらのものです。

 煙突を破壊して速度が落ちたところで喫水線に一斉射、あの頃はまだここまで改修されていなかった上に、主砲もやっと45口径の3連装4基だったし、自動装填装置も開発が終了していなかったのでので苦労しました……」

 

 尾張は懐かしそうに語るが、その内容は艦娘達からしてみればトンデモな内容だったので、揃いも揃って疲れたような顔をしていた。

 普段から川内と那珂に振り回されているあの神通でさえ、四つん這いになって「戦艦ってなんでしたっけ?」と呟く有様だ。

 

「ん?今自動装填装置って言った?」

 

「はい、そうですが?」

 

「え、なに、じゃあ貴女の主砲は、その大きさでありながら46cm砲より早く装填できるの?」

 

 これは大きな情報だったが、尾張の口から出たのは藪から蛇どころの物ではなかった。

 

「はい!前は砲の上げ下げも含めて36秒くらいかかったんですけれど、最新型の自動装填装置を搭載してからは17秒程に短縮したんです!」

 

「じゅ、17秒……」

 

「た、確かに、ノースカロライナが15秒で装填したと言う記録がありますが、大和型の主砲以上のサイズの主砲でその装填時間は……、装填機構がどうなっているのか気になります」

 

「じゃ、じゃあ他に何かすごい事はありますか!?」

 

 比叡が尾張にそう言うが、それがパンドラの箱の始まりだった。

 

「えっとですね……」

 

 

 

 そしてここは提督執務室、室内に居るのは大和に武蔵、長門と陸奥、赤城と加賀に大鳳が入室しており、筑波を含む一同は金剛の艤装に付いているマイクで、尾張と彼女達の会話を聞いていた。

 

『対空ミサイルとASROCのVLSに、対空パルスレーザー、35mmCIWS、RAM発射機に……あ、あと照明弾発射機もありますね!』

 

「なんだこれは、どうすればよいのだ」

 

「わたしにきかれても、こまる」

 

 行き成り出てきた尾張の武装の数々に、長門と陸奥は混乱した。

 

「流石に、これは判断に困るわ……」

 

「ミサイルがあるって言うことは、もう防空の備えは万全と言うことですよね?」

 

「え、じゃあ私達空母の出番は……」

 

 正規空母代表で来た加賀、赤城、大鳳も、尾張の言葉で自分達の存在意義に揺らいでいたが……。

 

「皆さん、確かに尾張は対艦対空対潜において万全の娘ですが、決して一人で何でも出来ると言うわけではありません。

 戦艦は一隻では艦隊としての盾として脆過ぎますし、なにより投射量で負けては艦隊決戦でお話にもなりませんから、その時には私達他の戦艦も尾張の助力となるでしょう。

 そして空母には戦艦には出来ないアウトレンジ戦法が出来ます。

 尾張が敵の航空隊を撃滅したのなら、もう相手に航空機は居ないわけですから、航空母艦の皆さんは後顧の憂いなく、自らの航空機を敵艦隊に差し向けられます」

 

「問題はそれを支える燃料と弾薬なんだけれどね……」

 

 大和の言葉に筑波がどんよりとした顔で呟く。

 今回の尾張の艤装への修理と補給で、資材がまた空になってしまったのだから、また一から資材集めを再開しないといけない。

 勿論ポケットマネーと言うか、伝を借りて資材を融通してもらうことも出来るが、その後の事は深く考えたくないので、あまりその手は使いたくないのが筑波の気持ちである。

 

「でもまぁ、これであの娘の武装は大体分かったかな……。

 まさか対空戦に使用できるパルスレーザーまで積んでるとは思わなかったけれど」

 

「そんなにすごい物なのか?」

 

「一般的に工業用の金属加工に使われる事が多いけれど、多分尾張が積んでいるのはそれよりも強力なものね。

 レーザーは文字通り光の速さで飛んでいくから回避する暇も無いわ。

 ただ空気中の塵とか天候の影響も考慮に入れないと、とても使えたものじゃないけれど……、尾張の方はどうなのかしらね?」

 

 そう言いながら筑波は金剛にそういった質問をするように指示を出す。

 

『ところでさっきLaserという単語が出てきましたけれど、尾張のは雨天でもそれは使えるのデスか?』

 

『あっちの方では雨天でも使ってました。

 ちょっと減衰が多くて撃墜率は落ちますけれど、それでも牽制射撃程度にはなってましたね。

 あ、あと駆逐艦程度の相手ならこれで対処する事も多かったです』

 

「ふむふむ、雨天でも使えるとなるとこれはかなり強力な装備ね。

 駆逐艦程度の装甲なら簡単に食い破れるなら、これはもう高角砲みたいな扱いでいいんじゃないかしら」

 

「そう言えば、スペック表のスロット装備にもそんな事が書いてあったな。

 対空火力は既存の艦娘を大きく上回るか……」

 

「でも単独では数の暴力で押されかねないわ。

 特に深海棲艦は無尽蔵ってくらいに出てくるから……、生産とか維持に制限がある人間にとっては脅威だけれど」

 

「確かに、いくら強くても弾薬や船体の強度以上の物量で来られたら、いくら個艦優越でもやられてしまうからな……すまん」

 

 長門が最後に謝る。

 それは大和と武蔵に対しての謝罪だった。

 彼女達はその身に何度も航空魚雷と爆弾を受け、その結果沈んでしまったのだ。

 

「いえ、長門さんの言う事は正しいです。

 だからこそ隊伍を組んで、艦隊を形成し、互いの目と耳を使って死角を減らし、脅威から身を守ると同時にそれを排除するんです。

 単艦で出来る事など、たかが知れています……」

 

 大和の言葉が出ると同時に、演習は次の段階へ移る。

 

 

 

「じゃあ今から射撃訓練に入りマース!

 今駆逐艦達が標的ブイを5個置いたから、合図したらそれをshootするデース!

 Hitしたら色が吐いた煙幕が出るから、それが撃破した証になるネー」

 

「了解です。

 ……火気管制砲戦モード、レーザー測距開始。

 AV-8BJ発艦!目標の上空で待機!」

 

 尾張が合図を出すと、艤装の後ろにあるヘリポートからハリアーが飛び立つ。

 轟音を撒き散らしながら垂直に離陸し、そのまま標的ブイの元へと飛び去って行く。

 

「今のがYouの艦載機ですか!?」

 

「ハリアーの発展型です。

 爆弾も1500ポンドが装備できて爆撃任務も出来ますし、特製の57mm機関砲で攻撃も可能です」

 

「57mmって、それもう機関砲じゃなくて砲じゃ……まあ自動で連射できれば、どんなものでも機関砲になるけれどさ……」

 

 瑞鶴がAV-8BJの兵装に突っ込みを入れるが、余りにもかけ離れ過ぎて疲労の色すら見える。

 ちなみに機関砲の定義は人に頼らず自動で給弾でき、尚且つ40mmから57mmまでの物らしい。

 

「画像リンクを確認、標的をレーダーでも補足……補正完了。

 やり方は私の好きにしても?」

 

「OKネ~。

 じゃあYouの力見せてくだサーイ!」

 

「主砲、10連射用意!

 目標、仮想第一目標、第一射撃ち方始め!」

 

 金剛の合図と共に、尾張の主兵装である超長砲身の51cm砲が一斉に火を噴いた。

 その轟音は火山の噴火のように爆圧を発生させ、圧縮された空気の壁が物理的な衝撃となって海面を叩き大きく抉り、響き渡った轟音は群青の空と蒼海に何処までも響き渡る。

 

「装填完了!第二射!」

 

 そう言うなり、きっかり17秒で第二射目を発射する尾張に、周囲の艦娘達は目を見張った。

 

「すっご……」

 

 初風の一言が、その場にいた全員の気持ちを代弁する。

 弾着を待たずに撃つのもそうだが、本当に17秒で装填を完了させたのだから当然である。

 そのまま第一声の言葉通り、10連射すると砲身から陽炎が立ち上り、砲撃の際に発生した熱量の凄まじさを物語る。

 そして尾張が第一目標と言っていた中央の標的から、命中した事を知らせる蛍光煙幕が立ち上る。

 

「第一目標の撃破確認!

 急速冷却、散水始め!」

 

 尾張がそう言うと同時に加熱された砲身に水が掛けられ、砲身に当たった傍から蒸発し濃い水蒸気が発生し、砲身の中にも水を撒いているのか、砲口からも勢い良く水蒸気が出てくる。

 

「砲身冷却までに次目標へ指向開始、目標、仮想第二目標と第三目標!」

 

 尾張が命令を下すと艤装内の妖精が砲塔に指示を出し、左右の砲塔がそれぞれ別の目標へと指向する。

 

「冷却完了後、順次射撃。

 冷却完了まで5秒……3,2,1,済射!」

 

 再び咆哮が鳴り響く。

 そうしている内に標的ブイは最後の一つとなった。

 

「そう言えば、あのブイは海中にも当たり判定はありますか?」

 

「え?あ、はい。

 海中にも、魚雷用の当たり判定があります」

 

「なら最後はあれで行こうかな……。

 各砲、標的の手前10m付近を指向!」

 

 尾張の命令と共に、砲身が僅かに下を向く。

 

「あ、まさか……」

 

「済射!」

 

 榛名が呟くと同時に尾張から12発の砲弾が発射される。

 砲弾は低い弾道で飛翔して行き、尾張の宣言どおりブイの手前10m付近に着弾、しばらくすると蛍光煙幕が立ち上った。

 

「水中弾!?」

 

「まさか、あんな入射角で発生するなんて……」

 

 比叡と霧島は水中弾効果に懐疑的であった。

 そもそも水中弾自体が偶発的に起きる物であり、それを解析して作られた九一式徹甲弾と一式徹甲弾でも、その発動率は通常弾よりわずかに高い程度であり、入射角が深いと殆ど発生しないのが常識である。

 それを尾張が装填していた徹甲弾は、12発中どれだけの数が発動したのかは分からないが、あの入射角で水中弾を発生させたのは間違いない事実であった。

 

「うん、新型徹甲弾の調子も良いみたいですね」

 

「徹甲弾に調子も何も無いような……」

 

 尾張の呟きに榛名が誰に宛てるでもなく答える。

 

「うーん……ここまでハイスペックだと、補給の時が怖いわね。

 さっきの提督の悲鳴を聞けば察しが付きますけれど」

 

「確か弾薬も燃料もすっからかんで、何時沈んでもおかしくない状態だったって、明石さんが呟いてたのを、雪風は聞きました」

 

「え、てことは結構な状態だったんだ……。

 あんたをそこまで追いやるなんてどんな奴だったのよ……」

 

「それは……あ」

 

 瑞鶴の疑問に答えようとした所で尾張は言葉を切った。

 

「どうしたの?」

 

「なにか聞こえたような……。

 海中から何か、水が流れ込むような……」

 

「え!水雷戦隊!」

 

「はい!聴音開始します!」

 

 尾張の呟きに瑞鶴と神通が互いに掛け合い、三式水中探信儀で聴音を開始する。

 

「……いた!

 4時の方向、距離は……約1.3kmです!」

 

 天津風からの報告で神通は頷く。

 

「対潜用意!

 第十六駆逐隊は駆逐艦は単横陣を組んで、対潜行動を!

 島風さんは私と一緒に艦隊を守ります!」

 

「「「「了解!」」です!」だよ~」

 

「島風も行きたい~。

 でも艦隊を守るのも大事だよね。

 十六駆の皆~、頑張ってね~!」

 

 島風は少し不満気味だったが、自分に納得させると初風達を見送った。

 

「これは、島風さんの俊足で直ぐに対応させる為に?」

 

「はい、潜水艦が先程のだけとは思えないので、別方向から来る可能性があるのを考慮してこの配置にしました」

 

「うーん、ASROCは使えるけれど、今はあの娘達の錬度を見る事にします。

 データリンクが使えれば、こちらでも捕捉できるんですが……」

 

「出来るよ」

 

「へ?」

 

「データリンク、出来るよ」

 

 尾張が呟いた事に、島風が答える。

 

「実際には艦娘同士の情報共有能力ですね。

 こうして艦隊を組んで海上に出ると、艤装が近場にいる艦娘たちと情報共有できるんです。

 もっと情報が欲しい場合は、指定の艦娘の事をイメージして下さい。

 そうする事でその娘からの情報量が増えますので」

 

「えっと……あ、本当だ」

 

 霧島の言葉通りにすると、尾張は時津風からの情報量が増えたのを確認した。

 彼女達は初風の指揮の元、三角観測で既に潜水艦の位置を特定し、対潜攻撃を行っている。

 

「私も高性能のソナー積みたいなぁ……。

 今積んでいるの零式聴音機だし、機関や主砲の音で探知距離も長くないし」

 

「あ、その辺りも大和型譲りなんですね~。

 自分で言うのもなんですけれど、そう言う話を聞くとちょっと誇らしいです」

 

 自分の聴音機の性能に溜息をする尾張に、比叡が応える。

 彼女は大和型のテストベッド艦として使用されたので、その関係で装備に関しては詳しいのだ。

 

「あ、でもSH-60Jが乗せれれば探知距離が伸びるかな?

 話で聞いた開発で出ればいいんだけれど……」

 

「それやられたら、駆逐艦の仕事が無くなっちゃう……」

 

「でも、索敵範囲が広がるのは良い事だと思います。

 それに駆逐艦の仕事は何も対潜だけではありませんし、対空射撃も数が多ければ多いほど良いのですし、それに夜戦火力では私達巡洋艦と同じくらい、駆逐艦も高い火力を有していますから、一概に陳腐化されるとは言い難いです」

 

 神通が島風の言葉にそう返す。

 確かに尾張の対空火力は強力だが、対空戦闘では対空砲の数が物を言うのであり、尾張一隻の対空火力では良い的になるだけだ。

 ミサイル万能説の際、戦闘機から機関砲が外された時の様に、格闘戦能力の皆無が被撃墜の増加に繋がったのと同義である。

 その戦訓は勿論艦娘たちは学んでおり、幾ら高性能な兵器や兵装が出てきても、それに頼りすぎるのは良くないと言う意識もしっかりと芽生えていた。

 話している間にも、何本も巨大な水柱と爆音が起きていたが、それもぱったりと止んだ。

 

『神通さん、海上に浮遊物を確認。

 敵の潜水艦を沈めたわ』

 

「分かりました。十六駆は戻ってきてください。

 ……おかしいですね」

 

 初風の報告を聞いて神通は呟く。

 

「うん、神通の言う通りデス。

 近海の対潜哨戒は隅々まで行って、ここ最近は見なかったデスね」

 

「それに、ここまで沿岸に近付くのは稀です。

 まして、潜水艦がここまで来るのは今回が初めてですね」

 

『ちょ、ちょっとこれなんなの!?』

 

「どうかしましたか?」

 

 金剛と翔鶴が会話を続けていると、初風が慌てた様子で通信が入り、神通が応対する。

 

『どうしたもこうしたも、まだ潜水艦が居たのよ!

 方位1-7-5、数は3!』

 

『こちら雪風!方位0-9-3に潜水艦確認です!数は5です!』

 

『時津風も確認したよ~!

 方位0-3-6、数は2……違った!4です!音響が重なってた~!』

 

『こちら天津風、方位1-8-9に潜水艦を確認!

 数は6!』

 

「なんですって!?」

 

「囲まれた?!」

 

 続く続報でその場に緊張が走る。

 

「……ASROCハッチ開放」

 

 尾張が呟くと艤装のASROC-VLSのハッチが開く。

 

「尾張、戦闘に参加します。

 金剛さん、宜しいでしょうか?」

 

「Umm……、仕方ないデスね。

 Youの力、私達に見せるネ!」

 

 尾張の提案に金剛は暫く悩んだが、戦闘参加にGOサインを出す。

 

「了解、各駆逐艦の観測情報から、敵潜水艦の場所を特定……音響と位置特定完了!

 諸元入力後、命令を待たずに済射!」

 

 尾張がそう宣言してから暫くすると、VLSから炎と白煙が勢い良く噴出し、ASROCがVLSから飛び立つ。

 諸元入力されたASROCの、合計18発は目標へと飛翔を開始した。

 

「あれがミサイル!」

 

「ミサイルと言うよりは、対潜ロケットの発展型です。

 射程は約11km、そしてUBFCSによって音響誘導します」

 

 ASROCは目標上空まで飛翔すると、ブースター部分を分離、対潜魚雷が落下傘を開いて降下し、そのまま着水すると入力された音響を探し出し誘導を開始する。

 

「ASROC全弾頭の誘導を確認、着弾まで約20秒……」

 

 尾張が呟くと暫く静寂が広がり……、20秒後に着水した所から爆音が響く。

 

「……全弾炸裂を確認、浮遊物の確認をお願いします。

 まだ海中が波打っているので、例え生き残りが居てもこちらには攻撃してこないでしょう」

 

『りょ、了解!

 第十六駆逐隊、浮遊物確認を開始します!』

 

 初風たちは暫く浮遊物の確認を行い、18隻分の浮遊物を発見して無事に脅威が去ったことを確認した。

 だが……。

 

(これだけ陸に近い場所で18隻も潜水艦が出てくるなんて……。

 前の対潜哨戒からそんなに時間は経っていないし、一体何が……)

 

 神通は胸中に浮かぶ不安を押さえ込みながら、そう思案するしかなかった。




アニメとかで試作機の試験中に戦闘が起こるのは当たり前(キリッ
と言うわけで今回は対潜戦闘を行いました。
ASROCは飾りじゃない。
え?前に書いた艦娘版にあるスペックと違うって?
……あれはあくまでゲームでの仕様ですし(顔逸らし

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。