艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar- 作:渡り烏
読者の中に地元の方は居るのかな……。
「以上が、今回の戦闘報告となります」
「ん、ありがと。
しかし、改めて見ると本当に常識外れね。
大本営にはどう報告しようかしら……」
霧島から受け取った報告書を片手に、頭を抑えながら苦笑いしつつ筑波がごちる。
その報告書の経過報告にはこう書かれていた
-突発的対潜戦闘報告書-
1023時、未確認艦娘である尾張の試験航行中、神奈川県藤沢沖5km地点にて深海棲艦の潜水艦を発見。
第十六駆逐隊による対潜行動を開始する。
1026時、これを撃破するも、それに刺激されたのか不明だが潜水艦隊の3個小艦隊によって包囲され、尾張に搭載されていた対潜兵装による一斉掃討に入る。
尾張からASROC18基の発射を確認、経過を観察する。
1027時、ASROC18基の起爆を確認、撃沈確認を実行。
1035時、敵潜水艦隊18隻の撃沈を確認し、報告に戻るため試験航行を中断し、所属鎮守府である藤沢基地へ帰投を開始。
1042時、藤沢基地に帰投する。
「しかしこんなに近い距離まで入られるなんて……。
横須賀の方は何をやっていたのかしら?人の事言えないけどさ」
「今月の頭には総出で対潜行動をやっていましたから、あちらも油断していたのかもしれません。
それでもここまで接近されるまで見つけられなかったのは痛いですが……」
「……神通さん、少し良いですか?」
筑波と榛名の問答に大和が割って入る。
「はい、何かご不明な点でも?」
「気になったのですが、発見したのは貴女方から1.3km地点に近付くまで、気付かなかったんですよね?
戦艦である尾張の水中探信儀が探知するまで」
「はい……申し訳ありません。
完全に私達の落ち度です」
「いえ、それは勿論反省することなのですが、それよりも何でここまで慎重に接近してきたのかが気になるんです。
あちらはここまで近付くより、若干離れた場所から魚雷を発射出来たでしょう。
しかもその時、艦隊は足を止めていたのですから、狙いをつけるのも難しくは無かったはず」
「もしかしたら、こうしなければならない理由があったのかもしれないな」
「改めて考えてみれば、私もそう思います。
あちらからこちらを攻撃する瞬間は幾らでもあったはずですし……」
大和の言葉に武蔵と神通は同意する。
魚雷は確かに狙いを付けるのが難しい兵器だが、ここまで接近して発射する必要の無い兵器でもある。
特に潜水艦の場合は、自分が発射した魚雷の爆圧から身を守るために、安全距離である1.5km以上から発射するのが常だ。
にも拘らず、深海棲艦は安全距離範囲の内側から、魚雷を発射しようとした。
「……もしかしたら、私を狙っていたのかもしれません」
「え?」
唐突に言った尾張の声に筑波が聞き返す。
「突然現れた私と言う艦娘の存在に慌てて、何時もどおりに撃っては当たらないと思ったと考えれば……」
「ふむ……、確かにそれならそこまで接近した説明は付くけれど、問題はなんでこんな沿岸近くまで接近してきたかね」
「その辺りはなんとも言えんな。
そもそも深海棲艦の行動を読むのは不可能に近いし、予測は立てれるがあくまで予測の範囲内での話だ」
「えっと……こことここと……あとこの辺りね」
「一番近くに潜んでいたのは0-3-6の4隻ね。
本土からそんなに離れていないし危なかったわ」
「なんだかパニックになったイルカみたいな感じですねぇ……」
「……パニック?」
雪風の一言に筑波が反応する。
「そう言われれば、なんだか慌てて出てきた感じがしましたね」
「と言うか最初の潜水艦がやられたのに反応して、大慌てで逃げ出そうとしていた感じでした。
ASROC……でしたっけ?それが発射された後の動きなんかは、私達から遠くに逃げようとしている感じだったし、0-3-6の4隻の内1隻なんかは、岩に引っ掛かったのか、途中で動きを止めてました」
「……」
駆逐艦娘達の言葉を聞いて、尾張は思案する。
尾張が聞いた限りでは、深海棲艦は過去に戦没や遭難した船の乗組員の無念が、怨霊化した物と聞いている。
陰陽道で言う陰が深海棲艦ならば、それを陽側に傾かせたのが艦娘であるとも。
その怨霊の塊である深海棲艦がパニックになる事態……。
「っ……」
その時脳裏に過ぎったのは、グロースシュトラール暴走時の怨嗟と悲鳴の声。
その多すぎる思念を思い出し、尾張は額を押さえる。
「尾張?大丈夫?」
「……はい、ですが、その前に長門さん、一つ確認したい事が」
筑波の心配する声に尾張は応えながら、長門にそう問いかける
「ん?なんだ?」
「深海凄艦は過去に海で亡くなった人達の、無念や怨嗟が寄り集まった物、そう捉えてもよろしいですか?」
「ああ、まだ暫定的だが……、まさか心当たりがあるのか?」
「あくまで予測の内ですけれど一つだけ……。
その前に超兵器という存在について、改めて説明をさせて頂きます」
尾張は黒板を使って、ブラウン博士が解析した超兵器に関する情報を開示した。
超兵器の主な特徴としては3つ。
1.超兵器はその動力源として、超兵器機関を使った兵器群であるということ。
2.超兵器機関は例え粉々に破壊されたとしても、その核たる超兵器機関は『生き続けている』こと。
3.その動力源である燃料が不明である事。
「問題は2つ目と3つ目についてなんです。
機械なんですから曲がったりすれば修理が可能なことは、帝国とアメリカで既に実証されています。
ですが、エネルギーの供給もなく動き続けているというのは、常識的に考えればありえない事です」
「そうね。
確かに普通の機械ならそこまでされたら普通は……」
「そこで私が思い出したのは……、レーザー戦艦であるグロースシュトラールと戦った時の事なんです。
あの戦いで私の砲弾があの船の艦橋に直撃し、一時は操舵不能な状態に陥っていました。
ですが……乗り込んでいた乗組員の悲鳴と共に船体が発光し始めて、再起動したんです」
「あのシーンね……」
水雷戦隊以外の部屋に居た彼女達が思い出したのは、あのレーザー戦艦が発行し始めたシーンだった。
あのシーンだけはなぜか音声が砲撃の音だけだったのを思い出す。
「その時の悲鳴がこちらですが……、一応心の準備だけはしてください」
CDに焼き出したそれを出しながら言った尾張の忠告に、艦娘達は自分達が乗っていた乗組員達の悲鳴や怒号を経験しており、恐らくそれと同じだろうと思っていたからだろうと、直ぐに返事を出してしまった。
だが、筑波だけは尾張の言に違和感を覚え、少し考えてから許可を出した。
「では……」
CDをPCの読み取り機に入れると、音声ファイルをPCが自動再生する。
そこから漏れ出てきたのは悲鳴、助けを求める声、様々な怒声が聞こえてくるが、それら悲鳴の主は一様にこう訴えてた。
-飲み込まれる-と。
僅か数秒間だけの通信音声が終わると、執務室内は静かな沈黙に包まれる。
「私はこう仮定していました。
超兵器は外宇宙からか、もしくは古代人の遺物なのだと……ですが、深海棲艦との比較でその考えが変わりました。
そのどちらかは分かりませんが、超兵器機関の根本は、人間の負の感情を糧に動き続ける狂った兵器だと」
「つまり、貴女は超兵器がこちらに来ていて、負の存在である深海棲艦を糧に活動を開始していると?」
「そこまでは分かりません。
ですが、警戒は強めた方がいいと思います……もし、もし超兵器が出た場合は……」
-私が相手になります-
「……っ!……っ!」
太平洋のとある海域、その海上で中破になった空母ヲ級のフラグシップが、荒々しく呼吸をしていた。
膝はここまで来るまでに疲労が蓄積して震え、立つのもやっとと言う状態だったが、迫り来る脅威を他の深海棲艦のコロニーに伝えなければと、僅かに残った戦意で奮い立たせる。
彼女に随伴していた戦艦達は足止めの為に残り、周りには通常の軽巡や駆逐艦等の小型艦艇が僅かに残るのみで、艦隊としては頼りない有様だった。
「あらあら、もう鬼ごっこはおしまいかしら?」
「!」
だが、そんな彼女達の戦意を踏みにじるようにあの声が聞こえてきた。
「30ノット……『たった』それだけの速力で、まあ良く持ちこたえたものだわ」
振り返るとそこにいたのは、あの『悪魔』だった。
長大な主砲身を備えた砲塔を備え、見た事もない艤装で身を固めたそれを、ヲ級が睨みつけるとそれを遮る様に、深海棲艦の軽巡の中で最新型のツ級が立ちふさがる。
「……」
「……」
一瞬視線を合わせると、ヲ級は苦悶の表情を浮かべてその場から離れ、ツ級は改めてそれに対峙する。
「あら、今度はあなたが相手をしてくれるの?」
「……」
「そう……じゃあ、沈みなさい!」
その声と共に、夜の海で砲声が鳴り響いた。
翌日の朝、昨夜で尾張が出した超兵器出現の説は保留となり、原因不明と判断して大本営に報告書が渡される結果となった。
そのような結果になったのは当然だと、尾張は藤沢市の鵠沼海岸を歩きながら思案していた。
(今の状況だと、仮に他の国が襲われたとしても通信はできるけれど派遣は難しい。
でも何とかしてあげたいのも事実……)
「おはようだな、尾張」
「あ、武蔵さん、おはようございます」
「ふふ、私の事も姉と呼んで良いんだぞ?」
「からかわないで下さいよ……」
武蔵のからかいに尾張は恥かしがりながら言う。
「あの時はちょっと……なんと言うか舞い上がっていたんだと思います。
船の時は大和さんも武蔵さんも敵でしたし、違う存在とは言え私の前身となった姉妹なのに、私は……」
「まあ、大和も同じ事を言っていたな。
しかし、お前はお前だろう?この世界では計画段階で終わった超大和型ではなく、紀伊型戦艦を改修し続けた尾張と言う存在だと、私はそう思っているさ」
「武蔵さん……」
「しかしまあ……流石に私も大和もお前には勝てそうに無いな。
航空機でやろうにもレーザーで防がれる、砲撃しようにもこちらより遠くから、しかも弾着修正なしで撃ってくる、しかも装填も早いし命中率も良いと来た。
弾切れを待つまでこちらは何もできやしない」
「そんな事ないですよ!私だって、高練度の艦隊が分散して突撃してきたら、流石に対処のしようがないです。
単艦で相手にしていたと言うのも、相手が同格の艦があったとはいえ、基礎訓練を終えたばかりの錬度が低い艦隊ばかりでしたし、皆さんくらいの練度だった確実にやられてました」
第十六駆逐隊の展開速度を思い出しながら尾張は答える。
水雷戦隊は艦隊機動の基本となる全てが有るゆえに、その所属艦艇の練度を見るのには最適の材料であり、特に難易度が高い対潜戦闘では、その経験と知識が多く求められる。
勿論、艦種毎の特徴もあるので完璧にとはいかないが、おおまかな推測には使えるので問題はない。
「ふむ、あの戦闘からそこまで読むか。
こちらでの私達とは違って、随分と使い込まれて……大事にされてきたのだな」
「はい……ですが強くなり過ぎた私は、最後は独立したシステムに全ての指揮権を委譲され、最後の戦いで敵と共に沈みました。
あのまま居れば、確実にウィルキアと日本に……、艦長達に再び火の粉が降りかかると思って……」
「その二つの祖国と乗員達への深慮、本当に見事なものだ。
だが、過去に囚われていては先に進む事などできんぞ?」
「過去……」
尾張の呟きに武蔵は頷く。
「うむ、私達大和型も、こちらでは決戦兵器としての側面と、艦隊保全と言う名目で余り実戦には出れなかった。
その上無残にもその本領を発揮できずに、航空攻撃で沈んでしまった。
ここに着任した当初こそはそれを引き摺ってはいたが、幸いにも艦娘と深海凄艦による新しい次元の戦闘で、私達戦艦にも出番が出てきた。
大型艦ゆえに必要な補給はでかいが、その分以上の働きをしていると言う自信もある」
「そう言えば、私がここに流れ着く前に大きな作戦で大和さんと一緒に、敵の指揮艦クラスの深海棲艦を沈めたって言う報告書を見ました。
戦艦水鬼……でしたっけ?良くあんな装甲お化けを倒せましたね」
「ああ、大和が試製51cm砲であいつの装甲を食い破った所を、私と同時射撃で撃ち込んでやったのさ。
弾薬庫があったのか凄い閃光と爆音がしてな、しばらくは目と耳が利かなかったくらいだ」
「まあそうなりますよねぇ……」
敵艦の爆沈は尾張も何度も見てきた。
それが至近だったり遠くだったり、下は駆逐艦から上は超兵器まで、様々な船の爆沈を尾張は見てきたのだ。
そのどれを見た時も、思った事は同じだった。
「あんな沈み方だけは嫌ですねぇ……」
「まあ、苦しまずに逝く事はできるがな」
二人揃って言いつつ、桜が咲いた山の方へと視線を向けると、満開になった桜が咲いていた。
遠方から花見をしに来たのか、大人と子供の笑い声が聞こえてくる。
「こうして毎年桜を見ているとな、桜を見に来る家族連れの声が多くなって来るんだ。
自分達が戦う事で、市民に平和が戻ってくるのを楽しめるのは、元は軍艦であった頃に出来なかった事から来るのだと、年を経る毎に実感する」
「ですが、戦いは何時までも続くものではありません。
何時かは終わらせなければなりませんし、そうしなければ、彼等の中で眠りに付いている恐怖心を、完全には取り除けません」
「流石に、最後まで戦い続けた奴は言う事が違うな。
まあ、お前の様な奴だからこそ、こうして話題にもなるんだろうな」
「え?」
武蔵が指を刺すと、そこにはカメラを構えた幾人もの人影が見えた。
生憎と基地の範囲はフェンスに囲まれ、警備の人員が回っている為、進入する事はできそうにもないが、そのレンズは尾張と武蔵を捉えており、中には集音マイクを向けている者も居る。
「私達の"ファン〟だそうだ。
しかもお前の事は早晩に、ネット上に公開されているぞ?
幸い戦闘の様子は広まっていないが、艤装の様子からかなりの近代兵装だと言うのが予想されていたな」
「何時何処でも、そう言うのは無くならないのですね。
ですがそう言う好奇心も、人間が繁栄して来た理由の一つかもしれませんが……。
そうなると、私の事は近日中に公表されるのでしょうね」
「ああ、提督もあの後大本営からそう言う意図の話が来たそうだ。
公開する際は、大和と私も同席するらしい」
「大和型を超える戦艦だから……つまり客寄せですか」
武蔵の言葉に尾張はそっけない感じで応える。
その目には見飽きたと言う色が見えるのを、武蔵はしっかりと捉えていた。
「客寄せは嫌か?」
「気が進まないのは確かですが、それが任務だと言うならやるしかありません。
しかし、私は戦艦尾張、それ以上でも以下でもないのです」
「……それで良いと、お前の信愛する艦長は思うのか?」
ただ自分の役割のみに邁進する尾張を見て、武蔵は眉根を立たせながら言う。
沈んでしまった船を想うのは有り得るが、その船がこうして人の形となって居るのを想像して、想ってくれる人など居ない事を自覚しながらも、そう問い立たせる事しかできなかった。
「ふふ、愚問ですね……と言いたい所ですが、恐らくあの人は、人の形の私の事も愁いてくれているでしょうね」
「は?」
だが尾張の口から出てきたのは違った答えだった。
「最後の最後、……南極の海で別れる時に私の事を知覚してくれたのは、少なくともシュルツ艦長だけでした」
「つまり……お前は……」
「あ、でも直接言葉を交わしたとかそうじゃないんです。
ただ、最後に私の事を見送るように命令を出してくれた時、お互いにその姿を確認できたと言うのを察しただけですから」
最後の戦いの前、シュルツと自分が視線を合わせたのを思い出す。
何かの偶然だったのかもしれない……だが、今の尾張にはそうだと至る確信めいた物があった。
(艦長、私は戦い続けます。
それが戦艦として生まれた私の運命(さだめ)であり、存在意義なのですから)
自分でも未練がましいと思う。
だが、それこそが尾張が尾張たる証なのだ。
「ん?」
「あれは……」
そこで浜辺に何かが打ち揚げられているのが見えた。
そしてそれが、異常の始まりであった……。
藤沢基地:
太平洋戦争当時、海軍の飛行場として建設された。
湘南海岸の江の島の西側から引地川を北上した東側の丘陵上南端部にあった。
さらに北上すると厚木海軍飛行場がある。滑走路は、北南方向だった。
終戦後は民間飛行場となり、廃止後の跡地の大部分は荏原製作所の藤沢事業所となった。
(Wiki:藤沢飛行場の概要より)