艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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副題はその話の体を表すと、個人的に思っています。
たまに合わないのもちらほらしますが……、これは合っているよね?(震え声
そして今回は少し短め、具体的に言うと原稿用紙一枚くらい短い。


日誌九頁目 疾風、止むべし

 

 

 

 

「そろそろ合流海域ですね」

 

 藤沢基地を出てから暫くした後、赤城達支援艦隊は別途で支援艦隊の合流海域へ向かい。

 尾張達は数日の公開の後、他の鎮守府との合流海域へと至った。

 

「尾張さん、方位2-0-9に味方艦隊を補足したよ」

 

「あ、少し進路がずれていましたか。

 進路修正、方位2-0-9へ」

 

「発光信号を送ります」

 

 大和が発光信号を送ると、向こうからも返答が来た。

 それを確認して近付いてゆくと、そこには別の大和が居た。

 

「ああ、えっと……藤沢基地所属の尾張以下12名、ただいま到着しました」

 

「横須賀鎮守府艦隊旗艦の大和です。

 それでちょっと問題が発生しまして……」

 

 今自分の艦隊に居る大和とまったく同じ容姿の大和に動揺しながらも、尾張は何とか挨拶をするが当の横須賀所属の大和は、申し訳なさそうな表情でそう切り出す。

 

「どうやらブインとショートランドの艦隊が、合流せずに先行してしまった様で……」

 

「……止めはしたんですよね?」

 

「勿論です。

 ですがあちらは無線を切っていたみたいで、呼びかけにも応じませんでした。

 恐らく、あの二つの鎮守府のいがみ合いが原因ではないかと言う予測が……」

 

「不味いですね……。

 超兵器はそんな生ぬるい相手ではありません。

 すみませんが、私は一度艦隊を抜けて先に当該海域に急行します!

 藤沢基地連合艦隊の指揮は大和さん、貴女に任せます!」

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?!」

 

 突然の尾張の申し出に、呉鎮守府所属の陸奥が思わず声を掛ける。

 だが、その陸奥に振り向いたときの尾張の顔には戦意と、そのような判断を下した提督二人に対する義憤に、その端正な顔を歪ませていた。

 

「独立行動は私が最も得意とする行動です。

 私の足の速さはご存知でしょう?」

 

「それはそうだけれど……、そちらはそれで良いの?」

 

 尾張の言葉に他の鎮守府の艦娘達は困惑するだけであり、その実力の一端を見た事がある藤沢基地の艦娘達は、ただ静観するだけであったが、そのように呼びかけられると藤沢基地の大和が口を開いた。

 

「尾張」

 

「はい、何でしょう」

 

「無理はしませんね?」

 

「確約は出来ません……ですが、出来る限りの努力はします」

 

「「……」」

 

 その掛け合いの後数拍を置いた。

 

「じゃあ行って来なさい」

 

「了解、こちら尾張から藤沢基地へ、尾張はこれより独断先行に入ります」

 

『了解、こちらでも詳細は聞いているわ。

 独断先行を許可します。

 貴女の真の実力、この世界に見せてもらうわよ』

 

「ご期待に沿えるように努力します。

 ……藤沢基地艦隊旗艦を、尾張から大和へと委譲します」

 

「大和、委譲を承認します。

 ……気を付けてね」

 

 その通信を終えると、尾張と大和は互いに敬礼を交わして右手を下げる。

 敬礼を終えた尾張は主機の出力を上げ、沖ノ島へと進路を取るとその速力をどんどん上げていく。

 

「急速前進!」

 

 タービンが甲高く吼えさせ、一時的に速力を限界以上に上げた後、最大船速で水平線の向こうへと消えて行く。

 一方で尾張の有り得ない加速を見せられた大和達は、呆然と尾張が引いた波を眺めていた。

 

「あの人、まだあんな隠し玉があったのですね……」

 

「普通ならタービンに相当負荷がかかりそうだが……、大丈夫なように設計されているのだろうな」

 

「今の見た?」「有り得ない加速だったよね……」「島風よりずっと早いんじゃない?」

 

 最大速度を実際に見ている神通の呟きに武蔵が応える中、尾張の加速性を目の当たりにした他の鎮守府の艦娘達は、各々に感想を述べていた。

 

「……」

 

「あら?どうしたの?」

 

 そんな中ヲ級が大和の肩をつつき、正方形の物体を差し出すと同時にカンペを見せた。

 

「えっと……『それは我々が放つ瘴気を無効化させる物、それさえあれば迷わずに目的地につける』って、良いの?これって利敵行為でしょ?」

 

 その大和の言葉に『それは私がこの海域で落とした物で、貴女はそれを偶然拾っただけ』と書かれたカンペを出した。

 今の海域は深海棲艦の瘴気が漂っており、一度制圧した海域では完全にではないが、瘴気が薄まっているのもあって多少は航行しやすくはなる。

 しかし未知の海域では進路の当たり外れはあるが、決して大厄には会わない羅針盤が頼りとなるのが普通だが、ヲ級から渡された物を受け取った今は、その羅針盤も正しくしっかりと北を指していた。

 

「まぁ、使えるものなら何でも良いさ。

 ……お前も先行して行った方が良い。

 仇、取りたいのだろう?」

 

「……」

 

 武蔵の言葉にヲ級は敬礼をし、空母ならではの高速でもって尾張が向かった方向へ移動を開始した。

 それを確認した大和達は顔を見合わせる。

 藤沢の艦隊が合流した今ここに留まる理由は無い。

 そう示し合わせたように、艦娘達は一路沖ノ島へと向かった。

 

 

 

(目標地点まであと6時間……、この辺りは向こうでは沖ノ鳥島って呼ばれていた辺りだよね)

 

 前の記憶と照らし合わせて海原を突き進む尾張、途中でブインとショートランドの艦隊との遭遇もなく、沖ノ島近海まで来てしまった。

 電子系では既に超兵器ノイズが観測されており、近くまで迫っているのが伺える。

 そんな時、遠くからくぐもる様な砲声と爆音が聞こえてきた。

 

(戦闘が始まっている!

 急がないと!)

 

 尾張は主機に鞭を入れながら海原を突き進み、同時に艦載機の発艦準備も進める。

 その最中に、困惑した様子の空母艦娘の姿を見つけた。

 

「やっと追いつきましたよ!」

 

『あ、貴女は!?』

 

 尾張の声に反応したのは赤城の艦娘だった。

 

「藤沢基地所属の尾張です。

 突然ですみませんが直ちに前衛の艦娘を退かせて下さい!

 あれは確実に倒せる状況でないと危険です!」

 

『ブイン所属の赤城です。

 そうしたいのは山々なんだけれど、相手の速力が上回っていて離脱出来ないの!

 長門達主力艦も疲弊しているし、軽巡や駆逐艦達も防戦で手一杯みたいだし……』

 

「私が突撃します。

 その隙に前衛を下がらせてください。

 ハリアー発艦!」

 

 受け答えの最中に発艦準備を整え、爆装したハリアーが飛行甲板から飛び立ち、迷いも無くヴィルベルヴィントの元へと向かった。

 そして程なく戦況の様子が伝えられる。

 

(長門型姉妹が大破、伊勢型の伊勢も大破しているわね。

 航空母艦はさっき会った4人で全員みたいだし、ブインとショートランドの編成は航空機動部隊編成みたい……。

 重巡も4人が中破しているし、軽巡と駆逐艦達は良くやっているわ)

 

「発、藤沢基地所属の尾張からブイン、ショートランド両艦隊へ。

 我、超兵器戦へ突入す。

 両艦隊は当方突撃の際に発生する隙にて、直ちに超兵器の射程外へと退避されたし」

 

『援軍か!?助かった、今から長門達を下がらせるから君も』

 

「ハリアー部隊、爆撃を開始」

 

 日向の声が終わる前に、尾張はハリアーに攻撃開始の旨を伝える。

 

『ハリアーだと!?

 この世界ではそのような物は』

 

「それが慢心だと言うのですよ。

 戦場では最悪の事態に備えて、常に準備をしておくべきです」

 

『貴様……何者だ!』

 

「ウィルキア王国軍近衛軍所属、戦艦尾張だと言えば思い出しますか?

 まああの時は、私も薄っすらと意識がある程度でしたから、覚えが無いのも無理はありませんけれど」

 

『……くく』

 

 尾張のその言葉を聞いて、ヴィルベルヴィントはしばし黙った後、口元から漏れるような笑い声が聞こえてくる。

 

『あはははは!まさかお前がここに居るとわな!

 いや……私がここに居るんだ。お前が居ても不思議ではないか』

 

「それはどうでしょうか?

 端的に言えば、貴方がここに来る事はまずない筈です。

 ……もっとも、考えないようにはしていましたが、こうして前に出てこられると困りますね……。一つだけ聞かせていただきます」

 

『ん?なんだ?』

 

「貴女の『ご主人様』は何処に居るのかしら?

 っ!」

 

 尾張はわざと強調するように言った直後、ヴィルベルヴィントからミサイルが発射されたのをレーダーで察知、尾張はVLSから対空ミサイルを発射してこれを迎撃を開始する。

 

『今からそっちに行ってあげる』

 

 さっきとは打って変わって、抑揚がない声音で返信が帰ってきた。

 どうやら癇に障ったようで、ハリアーからの情報で負傷した艦娘達を無視し、尾張の方へと急速接近している。

 当然その間にもハリアーを通じて相手の情報を収集し続ける。

 

(推定速度は……180ノット(メートル換算で約時速333km前後)ですか。

 これでは旋風ではなく疾風ですね)

 

 そこまで考えていると後方から複数の飛行物体が接近してくるのを確認する。

 振り向いて望遠レンズで確認すると、それは深海棲艦が使用する航空機だった。

 

(あのヲ級の航空部隊?

 方角からしても私が来た方向だし、あれだけの数の艦娘が居て早々やられる事はない筈だけれど、一応対空戦闘準備をしましょうか)

 

 その気になれば攻撃態勢に入った時点でも、十分に対応できる能力を尾張は保有している。

 FCSで各対空兵装をウォームアップさせ、万が一の場合に備える。

 だが尾張のそんな心配は杞憂に終わり、航空部隊は尾張の頭上を通り過ぎ、一路ヴィルベルヴィントが居る方角へと飛んでいき、尾張の手前へ通信筒が落ちてきた。

 それを無造作にあけて中に入っていた連絡文を見る。

 

「えっと……、『我、後方にて航空支援に徹する。必ずあの悪魔を倒して欲しい』……ですか。

 ふふ、怨霊たる深海棲艦に悪魔呼ばわりされるなんて、業が深いですね」

 

 尾張はその連絡文を丁寧に小さく折りたたみ、服の胸ポケットの中へとしまう。

 そして主砲の指向試験を開始し、機械的なトラブルが無いか確認した後、徹甲弾を装填する。

 

(概算でも私との交戦開始距離に入るまでの時間はあと10分かかる。

 それまでにヲ級の艦載機とハリアーで何処まで削れるか)

 

『こちら横須賀鎮守府の赤城です。

 尾張さん、そちらの状況はどうですか?』

 

「こちら尾張、交戦開始距離まで残り10分と言う所です。

 目標の速力は約180ノット、私が把握していたときよりも高速です。

 これより目標をヴィルベルヴィントから、シュトゥルムヴィントへと変更します」

 

『180ノットですって!?』

 

『横須賀鎮守府の加賀です。

 その速力だと魚雷による攻撃は難しいわね……』

 

「航空機による魚雷攻撃は広く散布してください。

 敵速と舵の利きを考慮に入れた大まかな旋回半径を送ります」

 

 尾張は暗号通信で赤城達へ通信を送った。

 

『受け取りました……ですがこれは』

 

「まだ隠し玉があるかもしれませんし、アレはここで確実に殺ります。

 艦載機は勿論、貴女方も十分に警戒してください」

 

『了解し……』

 

 返答の途中で通信が途切れる。

 超兵器ノイズの濃度が高まった為だ。

 ここから先は、通信出力がノイズの出力より低い通信は一切この領域内には届かない。

 

「来ましたか……」

 

 尾張はそう呟くと全砲門を前方に集中させ、ASROCVLSも開放してレーザー誘導に切り替える。

 このASROCは筑波達が知るASROCとは別物であり、レーザー誘導で直接対艦攻撃も出来るのだ。

 

「くははは、良く逃げずに居たものだな!

 今すぐその身体をボロ雑巾にして、腸を啜り出してやる!」

 

「暴力的な愛情表現をありがとう。

 ですが私にはそのような趣味はないのでお断りします。

 第一から第四主砲、目標を指向、進路予測」

 

 尾張は突っ込んでくるヴィルベルヴィント改め、シュトゥルムヴィントの予測進路上に照準を合わせる。

 後は目標がそこに来るのを待つだけだ。

 

「……主砲一斉射!」

 

 近似世界の海原で、鋼鉄の咆哮が嘶いた。




やっと尾張の砲口から実弾を出せました。
そしてASROCは例のバグ技(もしかしたら仕様)、主砲で敵艦を照準した後ASROCを選択するとあら不思議、攻撃力1000の対艦ミサイルの出来上がりです。
VLS一基辺りの総火力では特殊弾頭VLSよりも高いと言う有様。
まあ弾頭が魚雷だしね仕方ないね。
そして何気にプロローグでもこれ使っていたりします。

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