艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar- 作:渡り烏
やっぱり海外のストラテジーゲーは底なし沼しか無いと改めて痛感。
「観艦式までの間に、本日は今回回収された艤装核の開放を行う事となった」
あの対超兵器戦から2週間が経ち、北条提督がそう言い放ったのが先週の事であった。
モニターには再び全ての鎮守府との回線が繋がっており、開放の様子を見る事が出来るようになっている。
そしてその両脇には元ブイン・ショートランドの提督であった、室田口と富長が控えていた。
彼等はあの後審議に掛けられたが、結果的にだが艦娘の轟沈を防いだ事と、シュトルムヴィントの戦力データを手に入れたことで、航空攻撃が円滑に行えたのが幸いし、二人は横須賀鎮守府の提督補佐として、新たにスタートを切れた。
そしてブインとショートランドには、新任の鮫島中佐と田中少佐が新たに入り指揮する事となるのだが、それはさて置き今回は未知の艤装核開放とも相まって場は緊張していた。
全ての艤装核は一度横須賀鎮守府に集められ、また預けられていた鎮守府の提督達もここに来ていた。
「まずは駆逐艦の艤装核からだな」
「うむ、では先陣を切らせてもらう」
佐世保の鍋島提督が、自らの鎮守府で保管していた駆逐艦の艤装核へ歩み寄る。
既に妖精達による儀式は終了しているので、あとは彼が呼び出せば良いだけの状態だ。
何の変哲も無い艤装核ではあるが、あの超兵器から出てきたこともあり、何が出てくるか分からないのが実状であり、それ故に尾張を含む主力艦は完全武装で待機していた。
(確かに恐ろしくも感じるが、それではあの超兵器に立ち向かうなど到底不可能だ。
ならば……)
「君がどのような艦娘なのか分からぬが、健やかな女子であると願おう。
自分勝手な希望だと自覚しているが、どうか君の姿を我々の前に現してほしい」
前文句を言いながら鍋島は艤装核に触れる。
前文句は必要なく、ただ手を艤装核に触れれば良いのだが、事が事なだけにその内心が漏れ出てしまっているようだ。
だが当の艤装核はその思いを知ってか知らずか、発光し始め徐々にその光度を高めていく。
「さて……どのような娘が来るのか」
鍋島の呟きに反応するように、急激に光が収まって行く。
そして完全に光が収まったところで、艤装核のあった場所にいたのは赤毛の少女だった。
「……あれ……あたし、それにここは」
「初めましてかな。
私は日本国所属の鍋島と言う、旗艦は?」
「あ、はい、私は……ウィルキア解放軍所属、A級駆逐艦のラタトスクです。
霧は……ちょっと苦手です」
「ラタ……トスク?」
彼女がそう自己紹介したところで、鍋島の後ろから尾張の声が響いた。
「尾張君?」
「あの……え、今尾張って」
「そう、私が……あの時貴女を迎えに行った戦艦尾張よ。
……久しぶりね」
鍋島の訝しげな声を余所に、互いの存在を確かめ合う。
「あ、はい!
お久しぶりです!
あ、あの、何処から話せば……ええっと……」
「大丈夫、今はちょっと立て込んでいるからゆっくりと話せないけれど、後で時間が取れたら話を聞かせて?」
「はい!」
「尾張君、その艦娘は君の……」
「はい、同僚と言うか……戦友です。
あ、勿論性能面は英国のA級駆逐艦のままです」
「あ、ああ、それは何よりだ」
(もしかしたら尾張君の様な、とんでも性能な駆逐艦だと思っていたが、杞憂だったか)
鍋島が内心そう思っているのを余所に、呉の毛利提督が準備していた。
その傍らには朝倉提督の姿もある。
「さて、次は私が行かせて貰おう。
しかし先程の様子から、また尾張君と縁がある艦が出てきそうだな」
「しかも普通の娘で良かったと安心していますわ」
毛利の呟きに朝倉も扇で口元を隠しながら安堵した表情をする。
『しかし、それがまさかあのような事になるとは、この時思いもしなかったのであった』
「ちょっと一条提督?
あまり不安を煽るような発言は控えて頂きたい物です」
『ははは、これはすまんすまん』
「まあ二人が乳繰り合っている間に、私は尾張君の仲間が出る事を願って行かせて開放をさせてもらおう」
「乳繰り合ってなどいません!」
『僕はそのつもりはないんだけれどなぁ』
後ろの二人を余所に毛利は駆逐艦の艤装核に手を触れる。
(さあ、君の姿をここに居る皆に見せてくれ)
先程と同規模の輝きが艤装核から放たれる。
そして現れたのは先程のラタトスクとは違い、日本人女性の少女の艦娘であったのだが、彼女は自分のする事が分かっているかのように、姿勢を正して敬礼をする。
「改秋月型防空駆逐艦、大月です。
殿の肉薄攻撃でも脱出任務でもどうぞこき使ってください。
以降、よろしくお願いします」
「あれ……、大月なんて娘居たかな?」「いえ、私も終戦まで居ましたけれど、そのような娘は……」「え、と言う事は……」
「……」
周囲のざわめきを余所に、大月は尾張の方へ向く。
「お久しぶりです……尾張殿。
あのあとの武勲はどうでしたか?」
「あ……う……っ」
大月の声に尾張は身体を強張らせ、うめき声の様な声を出し、最後には申し訳なさそうな表情で大月を見ていた。
「……その顔だと艦長について何かあったらしいと見える。
ああ、提督殿、先に挨拶せずに失礼しました。
自分は大月と申します」
「私は毛利と言う、呉の提督をしている。
これからも頼む」
「最善を尽くしましょう」
「うむ、まあ今は尾張君の知り合いが増えた事を喜ぶべきだ」
「それでは、実質最後の通常艦になる私も行きますわ。
少し大きいですけれど、潜水艦の娘達からは潜水艦だと言っていたから、きっと大丈夫でしょう」
『それがどう聞いても、フラグにしか見えないのはなんでかねぇ……』
「だまらっしゃい!
さあ、出ていらっしゃいまし!」
一条の言葉を聞き流して朝倉は艤装核へと歩み寄り、そう言いながら艤装核へと触れる。
そしてドチャっと言う音と共に現れたのは……横たわった鮫だった。
「「「……ひゃぁああああ!?!」うわああああああ?!」ぎゃああああああ!!」
その場に居た尾張を除く全員が恐慌状態に入る中、やおら先程の鮫が立ち上がる。
「Guten Morgen,Admiral。
Uボート513番艦改め鮫型潜水艦U-513です。サイゴーって呼んでください。
ちょっと魔改造されたけれど、潜水艦には変わりはないから安心してね」
と思ったら背中が開いてその中からドイツ系女子の艦娘が出てきた。
どうやら鮫なのはガワだけだったようだ。
「えっと、サイゴーさん……で良いのかな?」
「あれま、尾張さんじゃないですか。
うん、貴女の心臓(主機)の音で分かります。貴方は尾張さんですね。
それに貴女はラタトスクさんに……貴女は聞きなれない主機音ですが?」
「うむ、改秋月型の大月だ。
尾張は横須賀脱出時にその援護にあたっていた」
「おお、貴女があの大月さんですか。
戦闘記録での果敢な突撃、日本帝国海軍の敢闘精神には驚嘆させられました」
どうやら初対面の者も居るらしく、会話が進んでいるがそこで北条が咳払いをする。
「どうやら、尾張君の知り合いが出てきてくれた様で何よりだ。
どうだろう、ここで一旦解散して午後に改めて最後の一つを開放すると言うのは」
「はい!」
正直通常規格の筈だった艤装核の開放で、先の二人は普通の艦娘だったのに、最後の最後で鮫型潜水艦なる妙なものが出てきたので、周囲の人間や艦娘達は疲れてしまっていたので、北条のこの提案は救いの手だった。
そして各提督方は上級士官用の休憩室でうな垂れているなか、朝倉だけが俯いていた顔をがばっと上げる。
「それもこれもウィルキアと言う国の研究機関が、みょうちくりんな物を作るからですわ!」
「いや、まあそうなのだが、兵器には多様性というのも確かにあるのだ。
かの英国で悪名高い動くビッグボビンを見たまえ、現場を見ていない研究者が日夜苦労して作り上げたのがあれだ。
きっとウィルキアも思考錯誤して、あのような鮫の皮を被った潜水艦を開発したのだろう」
「しかし……元はドイツのUボートと言っていなかったかな?」
「「「「……え?」」」」
朝倉と毛利の会話に北条の一言が投げつけられた。
そしてその場に居た四人の提督は北条を見、そしてあの時のU-513の台詞を思い出す。
「Uボート513番艦改め……」
「鮫型潜水艦U-513……」
「ちょっと魔改造されたけれど……」
「潜水艦には変わりはない……」
「まあつまり、既存の艦艇すら改造する術を持ったのが、尾張君が言うスキズブラズニルと言うわけだ。
しかも当時の科学技術以上の開発能力を持ち、それを生産するだけの能力を持ったな……」
「まさか……いえ、あの尾張さんを見たらそれも有り得る事だと思いますわ」
「それに、コンテ・ディ・カブール級と言う前例もあるからな。
一概にも不可能ではないと言うのが分かる」
およそやろうとは思わない前例ではあるが、実際コンテ・ディ・カブール級戦艦は、元はWW1基準の戦艦だったのだが、諸外国の戦艦の強化に恐れをなしたイタリア海軍は、同級戦艦を「誰テメェ」と言うぐらいに改装したのは有名な話である。
尾張も元は51cm連装主砲3基だったのに、今では3連装4基という意味不明なぐらいの大改装を受けている。
「まあ残りの開放作業が残っている。
これからの事を考えるのはそれが終わってからでも遅くはなかろう」
「しかし、もし彼女の母港が来たらこれからの戦いは楽になるかもしれませんね」
「いや、むしろ窮地に陥るかも知れん」
鍋島の一言にその場に居た全員が彼に顔を向ける。
「古今、生き物と言うのは外的圧力や気候の変動で進化をしてきました。
深海凄艦が生き物かどうかは別として、我々のみが力を増強できると言うのは、早計だと思われます」
「つまり、深海棲艦も新型を出してくる……と?」
「その公算が高いかと思われます」
鍋島の予感は酷く冷たく、そしてなによりもこの先の激戦を案じさせるには十分であった。
しかし、過去の深海棲艦との戦史からしても、彼の予想は正しいことが裏付けられる。
艦娘が強くなる度に、深海棲艦も新型を続々と出して来た。
だが、艦娘と彼女等を指揮する提督は歩みを止めるわけには行かない。
暁の水平線の向こうへ勝利を轟かせるまで……。
「さて、休憩も済んだのでメインディッシュと行こうではないか」
「開放するこちらの身にもなってください……」
北条の言葉に筑波は涙目になりながら艤装核に近付く。
大きさ1.5mの特大艤装核だが、戦艦か正規空母の艤装核が1mほどなので、どれだけ規格外なのかが分かるだろう。
「スゥー……ハァー……では、行きます」
一息深呼吸を吐くと、しっかり目を見開いて筑波は艤装核に触れる。
だが、輝きの具合が何時もと違い弱々しいのだ。
「……失敗か?」
「いえ、反応自体はあります。
ただ、何時もより反応が薄くて……まだ何か足りないのでしょうか?」
開放作業の補助についていた大淀がそう応える。
彼女曰く、観測では確かに開放状態ではあるのだが、それは例えるならば雛鳥が自らの殻を破るのに、苦労していると言う状態であると言う。
「なるほど……今までの様には行かないと言う事か」
「しかし、このままでは……」
その後、試行錯誤を重ねる事となった。
提督である筑波の求めには反応を示していた為、最初は北条を含めたこの場に居る提督にも艤装核に触ったが、反応は変わらなかった。
次に異例ではあるが、艦娘にも触れてもらう異なる。
だが反応が少しばかり強くなるだけで、最後に尾張達の異世界艦娘が残った。
「最後に貴方達だけれど、何が起こるかわからないわ」
「いえ、これも何かの縁でしょうから……」
「まず誰から行きましょうか?」
「ラタトスクか大月からかしら?」
一先ずラタトスクと大月から触れてみる事となったが、これも多少光が強くなっただけで変わった様子はなかった。
次にU-513が触れると、他の艦娘とは違う反応を見せた。
「何て言うか、凄く興奮している感じですよね」
「そうだな」
今までがピカーと言う感じだったのに対し、ビッカンビッカンという光り方をしているのだ。
この時点で尾張は既に予想がついていたので、小声でU-513と確認しあう。
「まあ予想は出来るのですけれどね」
「十中八九、私達の母港の可能性大ですね」
「どんな艦娘になるのか今から不安しかないのですが」
「アッパー系MADか、ダウナー系MADか、気弱科学者かのどれかですね」
「最後に救いがある分良心的ですね」
「貴女達何こそこそ話してるのよ……」
駄弁っていると筑波から咎める様な言葉が出てきたので、尾張は素直に彼女の隣に立つ。
ある程度覚悟はしているが、この世界であの浮きドッグ艦の存在が、どのような影響を与えるかが気になっていた。
だが……。
「成る様に成るしかないですね」
「尾張?」
尾張の呟きに筑波が怪訝な声音で尋ねるが、どこか諦めたような顔をしている尾張を見て、直ぐに嫌そうな顔をした。
「これ以上面倒なのを入れるのはいやよ?」
「大丈夫ですよ、いざとなったら私が止めに入りますから」
「逆に言うと貴方じゃないと止められないのね……」
溜息を吐き、筑波は改めて艤装核に手を着け、尾張もそれに倣って艤装核に手を着ける。
すると今まで以上の輝きを放ち始めた。
「くっ……」
「ちょっと、これ何カンデラ出てるのよ!」
「サングラスを持ってきておいて良かったな」
「はい」
毛利と朝倉が開放時の輝きに瞼を閉じているのを余所に、北条と鍋島はサングラスをかけて何とか耐えていたが、それでもキツイ輝きに目を細める。
――メキッ――
「え?」
その音が聞こえたのは偶然だったのか、それとも北条に運が有ったからなのか分からなかったが、音が聞こえてきた上の方に視線を向けると、そこには天井に何かがめり込んでいた。
「は?」
一瞬目を瞬かせ、やっとそれが艤装の一部だと言うのを理解した。
それと同時に、光が収まるとその全景を捕らえた。
「多目的浮きドッグ艦スキズブラズニルよ。
とりあえずどの娘達から弄ればいいのかしら?
……あとこの状態から何とかして」
ジーパンに袖の長さが若干合っていないの長袖のシャツ、そして白衣姿で銀髪の髪を持ち、さらにその背中に一目では捕らえきれないほど、巨大な艤装を背負った女性が、艤装が天井でつっかえて仕方なさそうに胡坐を掻いて座っていた。
さあ、やってまいりました。
……やってしまったとも言う。
と、とにかく最初の犠牲者(生贄)は決まっていますので、その辺りは既にゲームのほうで実験済みですし、どうにかなります!
駆逐艦界のドレッドノートと言えば誰か察しが付くはず……。