艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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今回は前後編に分けます。


日誌十四頁目 神々の船 前編

 

 

 

「スキズブラズニル!」

 

「おー、尾張ちゃんじゃない。

 そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、スキズとかそんなでも良いわよ?」

 

「あ、はい、ってそうじゃなくて、何で貴女がここに!」

 

「あー、それねぇ、ちょっとその前にこれ何とかして、このままじゃあたし動けないし」

 

「今、工作班を呼んだ。

 もう少しすれば艤装も出せれるだろうが、まさかこれほどの規模の艤装だったとは……」

 

 北条も尾張から出された今までの戦闘記録は見ていて、スキズブラズニルのその巨大さを知ってはいたが、まさか艦娘になってもここまで艤装のサイズが大きいとは思いもしなかったのだ。

 幸い使い古された小型船を作る為の船渠を使用していた為、少しガワを外せば艤装を取り出すことができるだろう。

 

「艤装の取り外しは……ええっと、これかな?」

 

 艦娘としては先輩である尾張が各々の艤装を外していく。

 一先ず今回呼び出された4人の艤装は解析に掛けられ、既存の艦娘との差異は無いか調べられる事になるのだが……。

 

「あたしの艤装、その解析に掛けれるのかしら?」

 

「さあ?」

 

 スキズブラズニルの艤装は超大型だ。

 高さは12m、横幅も24mほどある為、解析には時間がかかるだろうし、万が一損傷した場合現行の修復装置では対応できないだろう。

 

「でかあああああああああああい!

 説明不要!」

 

「いや、説明は要るでしょう」

 

 あまりの異常事態に、工作班に先駆けて来た明石が叫び、大淀がそれ突っ込む。

 そしてスキズブラズニルに質問を始める。

 

「この鎮守府に所属している工作艦の明石です!

 あのポッドみたいなのは何ですか!?」

 

 明石が指を刺すと、そこには10個の「HLG.SYSTEM」と書かれた円筒状のポッドが有った。

 

「ああ、あれ?

 あれは艦を……こちらで言う艤装の修復と補給、そして改装する為のもの、所謂船渠よ。

 私は基本はドッグ艦なのだけれど、その機能は大破した艦の完全修復から改装をまでを、前線で出来るようにする為に造られたの。

 まあ最大で10隻まで対応できるから、余程の事が無い限り海上で対応できるわね」

 

「見たところ滑走路もあるが、どれだけの機種に対応できるのだ?」

 

「固定翼機なら戦略爆撃機のB-1まで対応できるわ。

 流石に実寸サイズは無理だけれど」

 

「いや、まあそこは仕方が無い。

 しかしその船渠、尾張君の艤装が入りそうに無いのだが?」

 

「ああ、これはね……」

 

 スキズブラズニルが艤装を操作すると、ポッドの真ん中が割れてその中から工作機械が展開し、艤装を受ける為の台座が出現した。

 

「こういう風にして、艤装を受けて修理・改装をするの。

 その気になれば300m越えの巨大空母まで対応できるわよ?」

 

「ふむ……、つまり現行の艦船の艦娘の殆ど対応できるのだな。

 これは今後の作戦展開が多いに変わるぞ」

 

「あら、随分との見込みが早いのね。

 そう言う男の人、私は好きよ?」

 

「今晩辺りどう?」と言うような雰囲気の目線を送られ、北条は静かに首を横に振る。

 

「生憎と私には妻子が居るのでな。

 これ以上はあいつに迷惑を掛けられん」

 

「男としても申し分なし、奥さんは幸せ者ね」

 

「あの……スキズ」

 

「ああ、貴女の艤装のメンテナンス今からしましょうか?

 こっちでは出来ない箇所もあるでしょうし、その辺りはどうなのかしら?」

 

「あ~、それ言われると否定できないです……」

 

 スキズブラズニルの指摘に明石が頭を掻く。

 実際シュトゥルムヴィントとの戦いで大分ガタが来ていた。

 そのことを伝えると……。

 

「じゃ、ここに置いて頂戴。

 私の装備を実演して見せる良い機会なんだから、あと少し弄らせなさい。

 貴女の意見も取り入れるから」

 

「はぁ……、まあ変に弄られるよりはいいですね」

 

 尾張が艤装をドックに置くと、直ぐに工作機械が艤装に取り付き、装甲を剥がされ内部機構が丸裸になると、マニュピレーターアームが殺到し整備を始める。

 ちなみに中に居た妖精達は、艤装が置かれた際には既に外に出てくつろいでいた。

 

「あー、電装系に大分負担があるから丸ごと交換しちゃいましょう。

 それに……あらら、ターレットや主機の機構にもガタが来ているわね。

 でも何とか整備したと言う感じが出ているわね。

 これは貴女が?」

 

「あ、はい」

 

「良い仕事をしているわね。

 自分で分かる範囲は自分で修理して、あとはこの艤装の子達と一緒にやったんでしょ?

 とても根気を込めてやったけれど、力及ばずって感じが出ているもの、良くやった方だわ……大事に扱ってくれてありがとうね」

 

「っ、はい!」

 

 尾張の再設計兼整備士に評価してもらい、明石は息を詰まらせたあと返事をする。

 尾張の機構には明石にとって未知の部分も多く、それらは尾張と艤装妖精達と共に行っていたのだが、流石にVLSなどの兵装には手が出せなかったのだ。

 

「……私はただ作業するだけだから見るだけなら構わないわよ。

 あとちょっとした質問もね」

 

「見学させていただきます!」

 

 スキズブラズニルの言い分に明石は歓喜を顕わにしながら返事をし、後ろについて短い問答を重ねていく。

 

「あれはもう完全に仕事モードに入ってますね。

 すみません北条提督、我等が母港がこのような艦娘で……」

 

「まあ見た感じからして仕事一辺倒という感じだからな。

 それに我等が母港と言うのは……」

 

「言葉通りの意味ですAdmiral北条。

 ウィルキア解放軍は、あのスキズブラズニルを基点に活動をしていました。

 勿論亡命政府などはありましたが、実質海軍の軍事はスキズブラズニルと言うドック艦が担っていたんです」

 

「陸路での進軍は、餌に釣られた熊が通せんぼをしていたので断念し、仕方なく海路で本国を目指す事となったのです」

 

「うむ、詳しい戦闘記録は目を通してある。

 しかし、世界が変わってもあの熊には困ったものだな」

 

 尾張とU-513の言葉に北条は薄く笑う。

 世界線が違うのにその国の性質は変わっていないと言うのは、その手の研究者ではない北条にとっても貴重な声だったし、知的好奇心が沸き起こる良い起爆剤だ。

 あれからML諸島以西の太平洋における深海棲艦との戦闘も劇的に沈静化し、一般人は日本の大勝利やら深海側の謀略じゃないか等を口にし、マスコミは少しでもそのネタやお零れに期待し、国内の鎮守府や大本営の門に張り付いている始末である。

 

「さて、これで無事に全ての艤装核の開放が成ったわけだが、出来れば尾張君が言っていた改装も見てみたいのだが……」

 

「え?やっちゃっていいの?私、手加減はしないわよ?」

 

「「「う……」」」

 

 スキズブラズニルの言葉で僅かに身構える提督と艦娘達、当たり前だ。

 尾張を艦橋と船体以外、原型が無いほど改装してしまえる彼女の手にかかれば、昔の自分しか知らない身でそれを扱え切れるか不安になったのだ。

 

「あの……とりあえず私の艤装の燃焼室の改良をお願いします。

 確か原子炉εまで開発できてましたよね?」

 

「ああ、あれ?ええっと……ああ、あったあった。

 あの時は急いでいたから積めなかったのよね……。

 ちょっと許容重量的にきつくなっちゃうけれど、それでかまわないわよね?」

 

「はい、お願いします」

 

「じゃあボイラーを全部撤去して、原子炉を……この余剰だと5基かしら?

 予めその分のスペースを確保しておいたから楽だわー」

 

 工作機械が動き出し、艤装が隔壁に囲まれ設計図の様な画面が現れる。

 

「これは?」

 

「あ、これ私の元の姿ですね」

 

「そうよ。

 これはあの艤装を元の艦船に置き換えた云わば改装図、それを元の形で見せる事によって、今の自分の艤装がどういう状態か、そして何処を注意すればいいのか。

 それを分からせるための物よ。

 システム名はHLGシステム、何処の誰かが言ったか知らないけれど、ヒラガシステムと呼ばれているけれど」

 

 そう言いながらもスキズブラズニルは尾張の改装図を弄くり始める。

 ボイラーを全て撤去し、そこに新しく『原子炉ε』と描かれたパーツを設置していく。

 見た目だけでは簡単に見えるが、それが技術的どれほど高度なものかは関係者から見れば一目瞭然だ。

 まず機関はその艦にとっては一生物であり、余程の事が無ければ頻繁な交換などありえない。

 

「なるほど、理に適っている。

 しかし、そう頻繁に機関を変えていては大変ではないかね?」

 

「普通はそうね……でも、私とこのシステムがあればそれが成せる。

 造船技術では私の右に出る者は皆無に等しいわ」

 

 その返答には確固たる自信が声に乗せられていた。

 そうこうしている内に改装とメンテナンスが終了したのか、隔壁が開いて尾張の艤装が出てきた。

 

「これで機関の改装とメンテナンスは終了したわ。

 速力は53.4ノット、謎の装置のお陰で舵の利きは元より高いけれど、一応気を配ってね。

 それと、万が一の場合は炉心への即時注水と鉛の注入が行われるから、その分の重量も嵩んじゃうけれど……貴女なら余程の無茶をしない限り大丈夫でしょ」

 

「はい……でも、一応は気を配っておきます」

 

「ご、53ノット……」「また、早くなるのか……」「非常識すぎますわ……」

 

「提督、先程原子炉と言っていたが一体何なのだ?」

 

「あ、えっと……」

 

 長門の質問に筑波は声を濁す。

 長門の経歴ではこの手の話は一種の仇であり、見回すと長門以上に長生きした雪風や隼鷹が、渋い顔をしている。

 

「……そうか、そう言うことか」

 

「あ、長門!」

 

 自分の質問でそんな顔をされれば、自分にとって最も嫌な事だと察した長門は直ぐに当たりをつけ、そしてスキズブラズニルと尾張の元へ歩みを進める。

 

「尾張、先程の原子炉と言うもの、それは信頼における物なのか?」

 

「長門さん……」

 

「なによー、わたしの作ったものにケチを付けるつもり?

 大体、尾張が進んで装備した言っていったんだから、それだけ私の事を信頼している証でしょう?」

 

 長門の問いかけに尾張は少し気後れし、スキズブラズニルは不満げな顔で反発する。

 尾張はここに居る艦娘達の、船だった頃の艦暦を見て知っているのでそう言う反応だが、スキズブラズニルはそれを知らない……知らない筈であった。

 

「ふぅん……心に強烈な閃光、そして莫大な熱量と風。

 なるほど、そう言うことね」

 

「な!」

 

 自分の事など知らない筈の彼女が、抽象的な部分を的確に言い当てた事に、今度は長門の方が狼狽した。

 

「それに……あらら、この世界の人間も随分な事をしたわね。

 こんなに綺麗な娘をあの手この手で苛めるなんて、とんだサディストかつ排他的な思考しかしなかったのね。

 それでも貴女は耐え抜き、そして人目も触れずに密かに眠りに付いた……いいわねその反骨精神、気に入ったわ」

 

「お、お前に私の何が……」

 

「分かるわよ。

 私はスキズブラズニル、伊達や酔狂で神々の船と名付けられたわけではないわ。

 私の分析力を甘く見ないことね」

 

 その冷ややかな台詞に、場の空気が凍る。

 そしてその場に居た全員が思った。

 彼女は姿形や役割は違えこそ、尾張と同等の存在なのだと。

 そう思っていた矢先に、不意にスキズブラズニルが纏っていた雰囲気を霧散させる。

 

「あらやだ、柄にも無い事をしちゃったわね。

 こう言うのは尾張の役割だったかしら」

 

「ちょっとスキズ、私は貴女ほど腹芸なんて出来ないわよ?」

 

「当たり前じゃない。

 貴女、下手に策を弄するよりも真正面から切り合った方が性に合ってるものね。

 まあ私もだけれど……あと原子炉の事は安心していいわ。

 大体、そんな柔な物を『私の』大事なこの娘に持たせるわけが無いでしょ」

 

「むっ」

 

「『え』」

 

 スキズブラズニルがイヤに強調して言った単語に、藤沢の大和が反応したと同時に周囲の全員から声が漏れる。

 

「え、尾張とスキズってそんな関係なの?」

 

「違いますよ!

 私はノーマルです!」

 

「何を言っているのよ。

 私に隅から隅まで見せてくれたじゃない」

 

「むむむっ」

 

「ん?大和?」

 

 筑波と尾張が加わり、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ始める大和を見て、武蔵が怪訝な顔をする。

 

「大体、あれは換装に必要な措置であって、そういった行為をする為ではないでしょう」

 

「あらぁ、私は身体の検査をしたと言う意図なのに、どうしてそうなるのかしら?」

 

「ええ、私だって前は船でしたけれど、こうして受肉した体を持ってからは性欲だって溜まるし、それを発散する為に自慰行為だってするわ。

 大体、性欲を定期的に発散させないと逆に身体に悪いし、精神的にも滅入ってしまうからこれも体調管理の一環よ。

 それに、私の中(艦内)でそういった行為に及んでいた所を見たのだって、一度や二度ではないですし」

 

「ふむ、そう切り返してきたか。

 なかなかやるわね」

 

「褒められても嬉しくありません」

 

 眼前で繰り広げられる大人な会話に、この場に居た駆逐艦の艦娘達は興味津々であったが、それに気付いた戦艦や空母達によって、丁重に自室へ返された。

 

「な、な、なんて破廉恥な……」

 

「ううむ、ここまではっきりと言われると逆に冷静になるな」

 

「尾張君もなかなかに大胆な女性だな。

 私としてはもう少し御淑やかな方が良いのだが」

 

『おや、毛利提督は朝倉提督の様な女性が好みですか?』

 

「一条君、そう言う事が言えるのは嫁を取るまでだ。

 毛利君もそろそろいい歳だろう?」

 

「私は既に意中のものが居りますし、近々正式に籍を入れる予定です。

 式は……このご時勢ですが盛大に上げようかと思います」

 

 尾張とスキズブラズニルの話題で思い出したかのように、毛利提督から重大発表が出てきた。

 

「ほう?それは目出度い事だ。

 相手は……前々から噂があった扶桑姉妹かね?」

 

「まあ……最初期には彼女達の砲火力にも助けられましたし、今まで第一線で苦楽を共にしてきましたからね。

 そんな中で二人とも個人的な仲も深まってしまいまして、重婚と相成りました。

 最近では男性人口も減ってしまいましたし、誰も文句は言わないでしょう」

 

「見事な甲斐性に天晴れと言ったところだな。

 大切にしろよ?後で何か土産でも用意させよう」

 

「はっ」

 

 ここで一先ず会話に見切りを付け、今回開放された各艦の来歴を聞く作業に入る事となった。




スキズブラズニルの艤装表現がすっごい面倒だった(脳を酷使した人並みの感想
とにかく中枢構造物の両側面にポッド状の浮きドッグがあって、使用する時はそれが展開される感じです。
元は1箇所しかないけれど、10枠もあるしこうなった次第です。
しかし疲れた……あと暑い。
皆さんも熱中症にはお気をつけ下さい。
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