艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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朝霜ー!
どこだー!


日誌十六頁目 観艦式

 

 

 

 蒼空の空に銀翼が煌き、過ぎ去った後にはレシプロ音とは別の轟音が鳴り響き、高速で大気を切り裂く。

 この世界では既に哨戒用と化したジェット機、F-22・F/A-18E・F-35Aの編隊だが、そのサイズは小さく、所謂艦娘サイズと呼ばれる大きさだ。

 F-22が制空権を取ったのを確認し、F/A-18Eがバンクを振りながら緩降下、その後機体を安定させてから、翼下にある対艦ミサイルを浮遊標的に向けて放ち、即座に離脱する。

 防空艦として設置された標的は、あえなく対艦ミサイルの直撃を受け爆煙と共に消失し、それを見計らったかのようにF-35Aが大型艦として設置された標的に殺到し始める。

 胴体内部に装備された1500ポンド爆弾を投下、至近弾と直撃弾を受けて標的は破裂、訓練海域にある大型の海上目標はこれで全て倒された。

 

「吹雪、突撃します!」

 

「吹雪を援護するぞ!」

 

 大型艦が居なくなったのを確認して、海上から高速で接近する二つの影が海面を擦過する。

 時速60ノット以上で接近するのはスキズブラズニルで改装された吹雪と、ヘリ搭載高速巡洋艦と化した利根であった。

 両名はそのままの速度で目標群へ接近、すれ違いざまに新型超音速酸素魚雷を放ってからその場を離れる。

 数瞬の内に巨大な水柱が天高くまで昇り、それを確認すると吹雪は152mm速射砲を、利根は203mmAGS砲を構え再び再接近、標的群を挟む形となって円を描きながら的確に砲撃する。

 暫くそれを続けると標的は全て無くなっていた。

 

「演習終了!

 各自戻ってきてください!」

 

 尾張が号令すると吹雪と利根が戻ってくる。

 傍にいた大鳳も艦載機の着艦を終えた後二人の横に並んだ。

 

「大分今の艤装に慣れてきたみたいね。

 吹雪ちゃんと利根なんて、最初の時は旋回する度にすっ転んでたのに」

 

「うむ、何時までも慣れないのはいかんからな!

 尾張に頼んで自主練習をしておったのだ!」

 

「私も尾張さんと利根さんと一緒に訓練をしていましたので、早く慣れる事が出来ました」

 

「私も、流石に60ノットと言うのは未知の領域なのでどう指導すればいいのか、良い経験になりました。

 やはりこうして一緒に何かをするというのは心地良いですね」

 

「でも残念です。

 この艤装を深海棲艦に使えないなんて……」

 

 今回作成された艤装を持った彼女たちは、超兵器への対抗チームとして結成される予定だ。

 勿論全員通常の艤装を用意している為、深海棲艦向けの対策も万全である。

 と言うのもこれには深海棲艦側との密談があり、利根と大鳳が改装を受ける前に尾張と筑波、そして北条の3人はヲ級を介して空母棲姫と連絡を取った。

 あちらとしても超兵器の行動は目を上のたんこぶらしく、既に大西洋の一部が超兵器によって制圧されていると言うので、改装に関しては了承を得たのだが、次の条件が付いた。

 

 ―スキズブラズニルによる改装を受けた艤装を、超兵器及び深海棲艦の規格から外れたもの以外に対して使用しない事。

 尚、通常個体でも、対超兵器作戦行動中に敵対行動をした場合は、その限りではない―

 

 どうも大西洋で突然変異した深海凄艦が居るらしく、今までの深海棲艦との共食いの様相を呈している様で、それら突然変異種と超兵器に対しては使用しても良いという合意がなされた。

 これは無駄な要素を取り除き、双方共に戦場のコントロールをしやすいようにする為だ。

 幸い突然変異種への対応は、姫・水鬼クラスの深海棲艦で対処できているようで、今の所援軍要請を出すつもりは無いとの事だった。

 

「あちらもしっちゃかめっちゃかですからね。

 本拠地も移動しているのかわかりませんし、落ち着くまではどうしようもないです。

 さて、報告書を書いて、ご飯でも食べに行きましょう」

 

「そうね。

 それにしても最近静かね」

 

「そうじゃの。

 なんと言うか、沖の方からピリピリした雰囲気が漂ってきておる。

 これは何かでかいのがきそうじゃ」

 

 感としか言い様が無い物言いだが、尾張にも利根達が言いたい事は分かるつもりだ。

 不自然に静かな海は、何かよくないことが起きる前兆。

 魚介達が忌避するように居なくなり、貝類はその硬い殻を必死に閉じてそれを過ぎ去るのを待つ。

 何処か高い場所へと避難しているのか、カモメやウミネコもその海域からは居なくなっていた。

 地震か津波、それと同程度の事態を恐れての動物的行動は、海で生きる者は必ずといって良いほど、それを見逃すわけには行かない。

 

「さて、とりあえずはお腹を満たして、十分な休息を取りましょうか。

 今日は金曜ですし、女将さん特製のカレーが待ってますよ」

 

「おお!それは良い事を聞いた!

 では皆の衆、先に行くぞ!」

 

「あ、利根さん待ってくださいよ~!」

 

「ふふ、では尾張さん、スキズさん、お先に失礼しますね」

 

「はい、お疲れ様、報告書も忘れないようにね~!」

 

 尾張の声に3人が手を振って応えると、そのまま宿泊先である藤沢基地へと戻っていった。

 

「さて、今回は誰が来るのやら」

 

「誰が来ようとも同じです。

 私が捻じ伏せてあげます」

 

「ふふ、それこそ私の尾張ちゃん。

 でも、残念ね。

 あなたの活躍の場が制限されるなんて」

 

「この世界は彼女達の物です。

 私達の様なイレギュラーは、本来この場に居てはいけない存在です。

 勿論、これから相手にする超兵器も……」

 

「……そうね。

 でも全部の超兵器を倒した時はどうしようかしら、いっそ南極辺りで独立でもする?」

 

「ふふ、それも良いかも知れませんね」

 

 戦後の話としては物騒な話をしながら、二人も藤沢基地へと帰路につく。

 そして、その日が来た。

 

 

 

 観艦式。

 それは帝国海軍から自衛隊が発足し今に至るまで、時折途切れながらも3年に一度は催される国民・隊員双方の士気を高める為であり、外国へその精強さを見せ付ける為に行われる行事である。

 自衛隊が発足されるまでは、皇室や華族の者のみにしか見れなかったが、深海棲艦から奪還した東京湾の中で、実に10年ぶりに執り行われていた。

 

『続きましては、前方を航行します『かが』左側より、各鎮守府を代表する艦娘達と擦れ違います。

 皆さん、足元に注意して、彼女達の勇姿をご覧下さい!』

 

 序盤に現在自衛隊が持ちえる航空機や、護衛艦艇の紹介を終えた所でアナウンスが流され、汎用護衛艦の『あきづき』の甲板から観客が上半身を乗り出す。

 

「おお、来たぞ!」

 

 観客の一人がその姿を確認して指差す。

 少し遠いがそこには上は大和型から下は睦月型まで、各鎮守府から選出した艦娘達が列を成して、護衛艦隊の中心へと接近していた。

 カメ子が望遠レンズでピントを合わせ、しきりにシャッターを切ると同時に手を振る。

 乗りの良い艦娘の何人かはそれに応えるが、艦隊運動に乱れは無い。

 その中にはドイツから来た艦娘であるビスマルク、Z1、Z3、プリンツ・オイゲン、U-511も含まれていた。

 

「おお、ドイツの艦娘も一緒に出ているのか」

 

「彼女達もこの日本を守っていてくれるからな。

 出てこなきゃこっちから文句を言ってやるってもんよ」

 

「違いない!」

 

 そんな観客の声が彼女達の耳に入る。

 海風が強く、時には雨で声が聞こえなくなりそうな事もあるため、彼女達は海上の音には敏感になっているのだ。

 

「な、なんだか気恥ずかしいね。マックス」

 

「そうね。でも、民間人を守るのは私達の務め、当たり前の事しかしてないわ」

 

「それでも感謝してくれてるのは違いないし、私達はそれに答えるだけよ。

 ドイツの艦娘として恥じる事のないように、これからも頑張らないといけないわ」

 

「私も酒匂や長門に負けないように、頑張る!」

 

「ゆ、ユーも、ハッちゃんやゴーヤたちに負けないように、頑張り……ます」

 

『それでは皆様にはこれより、新しく艦娘達の仲間になった艦娘をご紹介いたします!

 幻の超大和型戦艦と言われ、設計図すらなかった状態でしたが、防衛省技術研究所と艦娘技術研究所が持てる技術を結集し、現代化に成功させた新艦娘の尾張です!』

 

 ドイツ組の士気が上がる中、全ての艦娘達が『あきづき』の横を通り過ぎた後、アナウンスで表向きの尾張の紹介が流される。

 先程まで艦娘達が通ってきた軌跡をなぞるように、その威容を『あきづき』や他の護衛艦に乗船している観客の前に現す。

 

『尾張の特徴は51cm三連装砲を4基、そして近代化の先を行く現代化改装により、高性能20mm機関砲やアスロック垂直発射機と言った。現代兵装も扱えるオールマイティな艦娘へと変貌しました!

 そしてその防御力も、自らの主砲を撥ね退けるほどに強靭に出来ており、先の超兵器シュトゥルムヴィントによる襲撃事件でも、その防御力と攻撃力でもって打ち倒しています!』

 

 尾張の紹介とその戦果がアナウンスされると同時に、観客が乗っている護衛艦からカメラのシャッターが切られる音が鳴る。

 声援も聞こえると尾張は微笑みながら手を振って応えれば、シャッターの数も激増した。

 

『尾張、大丈夫?』

 

「あ、大和さん、ええ、これくらいなら大丈夫ですよ。

 今は原速も出していませんし、通常艦艇との艦隊行動の慣らしとしては十分かと」

 

『いえ、そうじゃなくって、貴女自身の事よ。

 昨日まで吹雪ちゃん達の相手をしていたわけだし、今日なんかこんな風に衆目を集める役目をしているわけだから……』

 

「それこそ望むところです。

 どの道超兵器が出てくるまで私の出番はありませんし、借りに対深海棲艦戦に出るとしたら大規模海戦海域に、超兵器が出るくらいしか……っ!」

 

 喋っている途中で気配を感じ、言葉を切ってレーダー索敵に力を入れる。

 だがレーダーが初期同然の尾張では限界があった。

 

「……筑波提督、これからデモンストレーションとしてF-35Bの出撃をしたいのですが」

 

『え、でも……』

 

「嫌な気配がします。

 他の艦娘達や護衛艦にも周辺警戒をさせてください。

 観客の方々には悟られないように」

 

『……少し待って』

 

 そう言い残して筑波が一旦通信を切る。

 しばらくすると艦娘達が所定の位置に付き、艦載機発艦のデモンストレーションを行う旨のアナウンスが流れる。

 

『艦載機による偵察を許可します。

 皆、周囲に注意して』

 

「『了解』」

 

 結果だけを言うならば、この艦載機発艦デモンストレーションと称した偵察行動は空振りに終わり、観艦式は何事も無く終了。

 収容艦となっていた『かが』へと帰還して、一路横須賀へと戻った。

 

 横須賀に戻った後は艦娘との交流会だ。

 主に横須賀の金剛姉妹や料理好きな艦娘達が、観艦式の航海中に限られた材料で茶菓子を作り、不慣れな状況で疲れているであろう観客達に振舞う。

 最初こそおっかなびっくりだった参加者は、次第に打ち解けていった。

 尤も、今日まで金網越しではあったが交流していたカメ子達が、率先して艦娘達と触れ合っていたのが最大の要因だろう。

 

「普段は煩わしいけれど、こう言う時は助かるわ」

 

「大井っちは男苦手だもんねぇー。

 まあ私もちみっこ達は苦手だけどさ」

 

 周りが騒がしい中、佐世保の北上と大井が壁際で駄弁っていた。

 

「おーそっちは佐世保のあたし達じゃん」

 

 不意に自分の声で声を掛けられる。

 そこには自分達とは違い、髪の毛を所謂お団子頭にした北上と、ツインテールにした大井の姿があった。

 

「ここのあたし達じゃん、最後に会ったのは……尾張が来る前にやった演習の時以来だっけ?」

 

「そうそう、佐世保の球磨ねーちゃんにコテンパンにされて、帰ってから球磨ねーちゃんからの特訓がきつかったのなんのって」

 

「お陰で私達、あの時には駆けつけれなかったのよね」

 

 北上(佐世保)が確認の為に話題を振ると、最後に会った日を振り返りつつ、遠くでカメ子に囲まれている尾張のほうに4人が顔を向ける。

 

「あの人が来てから大分目まぐるしくなったよね。

 特に軽空母組がさ」

 

「艦上偵察機と攻撃機積んで警戒してるんだっけ?

 今の所出現の報告は無いみたいだけれどさ」

 

「その辺りが不気味なんだよね。

 まあ出てきたらその時に考えましょ」

 

 北上同士がそう話しているのとは別で、大井同士がどっちの北上さんが素晴らしいか自慢合戦をしていたが、至極どうでも良い話であった。

 

 

 

「では、皆さん、本日はお疲れ様でしたー!」

 

「「「「お疲れさまー!」」」」

 

 その日の夜、横須賀鎮守府にある大食堂で、横須賀の艦娘達と共に打ち上げを行っていた。

 そんな席の片隅で、藤沢から派遣された長門と陸奥が、横須賀鎮守府の食堂食に舌鼓を打っていた。

 

「この姿では初めての観艦式だったが、無事に成功してよかった」

 

「そうね。

 でも、あの時の尾張ったら何に反応したのかしら?」

 

「分からんが、もしかしたら尾張特有の感覚かも知れん。

 あいつは嫌と言うほど超兵器との戦いを経験したから、そのせいで超兵器に対する感覚が鋭敏になっているのか、それともただの勘違いだったのか」

 

「私達の電探にも怪しい影は無かったから、尾張の気のせいだとは思うけれど……ちょっと嫌な感じよね」

 

「どの道出てこなければ対応策が取れないからな……」

 

 そう話している間にも夜は更けてゆく。

 近付く新たな脅威に気付かぬまま……。




何かの行事で何事も無かった用に見えても、裏ではナニかが迫ってきていたのは、物語ではよくある話です(キリッ

そして執筆中にいずも型ヘリ搭載護衛艦の2番艦が進水しましたね。
命名には思わず『ふぁ!?』ってなって、思わず強引に差し込みましたがw
配属が何処になるかが気になる所です。

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