艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar- 作:渡り烏
あとアレが嫌いな人はブラウザバック推奨です。
「ふぁ~……眠い」
「もう少しで交代の時間だ。
もうちょい頑張れ」
観艦式から数日空けた横須賀の海上自衛隊基地、その波止場で警備いる自衛隊員が2人居た。
新月で月が隠れている夜中、片方は欠伸を上げながら、もう片方は眠気に襲われながらも意識をしっかりと保っていた。
「しかし、こうも暇だとな。
まだ周辺哨戒任務がある護衛艦乗りの連中は仕事が有って羨ましいよ」
「こうして沿岸警備している俺らだって重要な任務だぞ。
まあ、確かに護衛艦の連中に比べたら地味だけどな」
「お前だってそう……ん?」
「どうした?」
「いや、今海が光っ」
その言葉が最後まで出たか否かの所で、周囲は轟音と爆炎に包まれた。
「今の爆発音は何だ!」
鎮守府内の私室で寝ていた北条だが、爆発音と共に目が覚めた。
取り急ぎ制服を小脇に抱えて司令室へ到着し、管制を担当している大淀に尋ねる。
「現在状況把握中!
恐らく砲撃による攻撃だと思われます!」
「状況把握は後回しだ!出せる艦娘を全て出せ!」
北条の言葉に従って大淀が鎮守府内に警報と、緊急事態を知らせる館内放送を行う。
先程の爆音で殆どの艦娘達が起きていたが、海上自衛隊基地が襲われたと言う衝撃による動揺が大きかった。
「超兵器の可能性もある。
吹雪には対超兵器装備で出撃させろ!」
「了解!
続けて知らせる。吹雪は対超兵器装備で出撃せよ!
繰り返す、吹雪は対超兵器装備装備で出撃せよ!」
(初めての……ううん、二回目の超兵器戦かもしれない出撃……。
もし超兵器だったら尾張さんが居ない今、皆を守れるのは私だけだ!)
「吹雪、抜錨します!」
周りの仲間達が次々と出撃する中、吹雪は海原へと躍り出た。
着水後莫大な推進力で水面を蹴立て、舞い上がる水渋きは受けた勢いをそのままに、蹴立てた本人の名を冠するように舞い散る。
そしてその速力であっという間に、最初に出撃した最前列の大和へと追いついた。
「先行して目視で確認します!
この湾内で電探に引っ掛からないという事は、かなりの隠密性を有してるはずですから!」
「分かりました。
でも、サボ沖の二の舞は……」
「大丈夫です!
あの時の二の舞には絶対になりません!」
「では」っと敬礼してから吹雪は全速力で現場へと向かう。
時速60ノット以上の速力で疾駆する吹雪は、あっという間に現場へと到着する。
「ひ、ひどい……」
燃え盛り着底した護衛艦達、弾薬が未だに炸裂を続ける弾薬貯蔵庫、砲撃によって激しく破損した建造物、周囲から鳴り響くサイレンと怒号、そして悲痛な叫び。
素人目から見ても壊滅状態だった。
在日米軍の施設も同様の被害を受けている。
『こちら北条、吹雪君、状況は?』
「壊滅……です。
海上自衛隊、横須賀基地及び、横須賀在日米軍基地は、壊滅、しました……」
『……そうか、吹雪君、君の所見での判断はどうだね?』
「それですが……あ!」
応えようとすると、波間で浮かんでいる人影を見つけ接近する。
顔に火傷を負っていたがまだ息が合った。
「生存者を確認!
大丈夫ですか!?」
「うっ……君は……」
「今上げれそうな場所へ向かいます!
もう少しだけ頑張って!諦めないで!」
男性自衛官を肩に担ぎ、そのまま近くの浜辺へと向かう。
そこにはちょうど別の自衛官が居た。
「おい、君は艦娘かね!?」
「は、はい!この人をお願いします!」
「分かった!
ここに手を出した奴にガツンと一発食らわせてやってくれ!」
「はい!」
吹雪はその自衛官に負傷者を預け、自衛官からの声援に応えると踵を返して再び沖に出る。
だがその間にも新たな攻撃は無かった。
「すみません。
哨戒再開します!」
『いや、大丈夫だ。
しかし、一体どうやって砲撃距離にまで近付いたのか……』
『割り込み失礼します』
吹雪が北条と話していると、尾張の声が割り込んできた。
「尾張さん!」
『状況は把握しています。
私が急行していますので、もう暫く持ちこたえてください!』
「はい!っ!」
吹雪がその声に応えると同時に、海中を突き進み何かを捉えそちらに振り向く。
そこには幾本もの雷跡があった。
何本かの雷跡は見慣れた酸素魚雷のものである事が伺えた。
「迎撃!」
吹雪の艤装にある35mmCIWSが火を噴く。
改装設計図で別々に装備されているCIWSは、互いに別々の目標を捕らえ的確に迎撃してゆく。
迎撃と同時に吹雪はその速力で回避しようとするが、何本かの魚雷は吹雪に追随しようと方向を変えた。
「誘導魚雷!?」
CIWSの迎撃目標を誘導魚雷に切り替え、なんとか迎撃に成功する。
残りの無誘導魚雷も迎撃し、夜陰に束の間の静けさが戻る。
(今のは確かに私を追尾していた……。
ドイツの娘達も誘導魚雷は開発していたって聞いたけれど、ビスマルクさんもレーベちゃん達もそれを積んだ記憶は無いって言ってたし、やっぱり今回の件は超兵器によるも……っ!)
そこまで考えて後で動いたような気配があった。
だがそこへ振り向いても何も居ない。
「っく!」
吹雪は何発か速射砲で至近の海面に打ち込む。
だが手応えも無く、砲弾は海面を叩くだけだった。
(ど、どこに……)
『吹雪ちゃん?どうしたの?』
「尾張さん、今回の件、超兵器によるものなのでしょうか?」
吹雪は先程の出来事を出来るだけ詳細に伝える。
その間にも周囲への警戒は忘れない。
『……恐らく何らかの視覚妨害装置とステルスを併用した物でしょう。
しかし、一体何時から……まさか!』
『尾張君が観艦式で感じた気配か!?』
「でも、幾ら視覚的な迷彩を施しても限度が!」
『それに関しては私から説明するわ』
新たにスキズブラズニルの声が入る。
『恐らく今回の敵は光学的に完全に遮蔽したものでしょう。
所謂光学迷彩と言うものね』
『だが、それでも航跡などは残る筈だ。それをどうやって……』
『……護衛艦の航跡を利用して自らの航跡を隠していた?』
『尾張ちゃん、私も同じ考えよ。
しかも今は真夜中な上に今夜は新月、航跡の視認は難しくなる。
デジタルビジョンで追跡も考えたけれど、あれは処理の問題で航跡を見えなくしてしまうし……』
「そんな……」
視覚的な対抗手段が悉く潰された。
これが超兵器の恐ろしさなのかと、吹雪は改めて感じる瞬間だった。
『こんな事なら照明弾発射機も乗せておくべきだったわ……。
ごめんなさい吹雪ちゃん』
「いえ、私も具申しませんでしたし、お互い様です」
スキズブラズニルから謝罪の言葉が出るが、吹雪もデジタルビジョンの便利さに目が眩んでいた。
―ミサイルは決して万能の兵器ではない―
ミサイル万能説の教訓が蘇る。
例えデジタルの信頼性が高くなっても、アナログ的な対抗手段が無いのは欠点になり得ると言うのを、吹雪は身を持って実感した。
「それに司令官が私に保険として、スロット装備の照明弾を持たせてくれました。
今回はそれで何とかして見せます!」
『ふふ、流石は駆逐艦界のドレッドノート、勇ましいわね。
では、健闘を祈るわ』
『私ももう直ぐそちらへ付きます。
無理はしないで!』
二人は吹雪を戦闘に集中させる為に通信を切る。
当の吹雪も速射砲に照明弾を装填し、ばら撒けるように準備した。
(初めての1体1での超兵器戦……尾張さんはいつもこんなに緊張して戦ってたんだ!)
負ければ味方とその国土が蹂躙され、そこに製鉄所や鉱山、そして造船所があれば敵の策源地となる上に、奪還しようとしてもそこには当の超兵器が居る。
悪夢以外の何者でもない。
(お願い、相手の航跡を照らし出して!)
願いを込めながら照明弾を全周囲にばら撒く。
照明弾は一つの不発も無く深淵を思わせた海の夜陰を暴き出し、その海上を照らし出した。
それを確認すると、吹雪は速射砲の砲弾を装填しながら周囲に目を凝らす。
(……居た!)
そこには不自然に掻き分ける波があった。
だがその主の姿が見えない。
「当たってぇ!」
思わずそう叫び、速射砲のトリガーを引く。
照準を自動補正された速射砲はその連射力と精度で、吹雪が狙いを付けた辺りに高速で155mm砲弾を叩き込む。
『「ギギギギ?!」』
何発か手ごたえがあると、奇妙な……昆虫の様な鳴き声が響く。
「へ?」
吹雪が間の抜けた声を出すと、夜陰にその正体が現れた。
それは……ぱっと見では人間台の油虫であった。
「ひ、ひゃあああああああああああ!?」
吹雪は思わず叫び声を上げ、速射砲と超音速酸素魚雷を叩き込む。
ただの油虫なら艦だった時には乗艦していた船員達と共に見慣れているが、このような大きさは流石に慣れとかそう言う次元ではなく、ただただ生理的・精神的両面に直で衝撃を与えるものであった。
幸い最初の被弾が当たり所の良い箇所だったのか目標は動いておらず、続けて叩き込まれた砲弾は油虫を蜂の巣にし、速射砲と魚雷の装填した分が空になる頃には沈黙して波間に浮いていた。
「あうう……怖かったよぉ。
し、しれぇ、こちら吹雪です」
『吹雪君、大丈夫かね?』
精神的に大ダメージを受けながらも、超兵器らしき物を撃破した吹雪に北条から通信が入った。
「は、はいぃ、あと、目標は沈黙しました」
『そ、そうか……ん?沈黙??君一人でかね!?』
北条の声に喜色が入った。
なにせ超兵器かもしれない敵艦を倒したのだ。
しかも改修を受けたとは言え、自分が初めて部下にした艦娘がだ。
勿論この通信は他の艦娘にも届いており、聞いた方は祝勝ムードだった。
「すみません。
少し休憩を頂いてもいいでしょうか?」
『そうさせたいのは山々だが、とりあえず沈黙した敵艦の形状を報告したまえ』
「えっと……その……、あまり驚かないで欲しいのですが」
『うむ』
「……油虫です」
『ふむふむ、油虫か……なんだって?』
吹雪からのあんまりな報告に思わず北条は聞き返す。
普段のまじめな口調など何処吹く風だ。
「ですから油虫です!Gです!台所とかの水周りに居るアレです!黒くて硬くててらてら光ってて暗くて狭くて湿ったところが好きなわりに速い生物です!しかも人間台の!」
『お、落ち着きたまえ吹雪君!』
当然この通信を聞いていた艦娘達も、改装を受けてから初めての戦闘の相手が、まさかアレだったというのを想像し、最後の吹雪の台詞で昆虫状のエイリアンが出てくる、とある海外のSF映画を思い出した艦娘も居た。
尾張が吹雪の元に駆けつけたのもちょうどその時だった。
「あの……ちょっと今の通信を聞いたのですが」
『おお、尾張君!何かね!?』
「その……私も今対象を見たんですが、仮にもですよ?
仮にもアレが油虫と同じような繁殖力というか、生産性を持っていたとしたら……いえ、何でもありません」
『『『……』』』
もうそこまで言ってしまったのなら全て言ったも同じだった。
吹雪もサッーっと顔色が蒼くなる。
『た、対象を仮称Gと命名!
直ちに東京湾中を捜索し、殲滅しろ!』
北条の悲痛な、そして情けの無い声音で出された命令が鳴り響いた。
そしてG殲滅作戦は、2日間ぶっ続けで行われ、結果的に発見した対象は65匹、そして未だに捜索は続いていた。
北条提督は日誌にこう書き記している。
―まことに物量と精神面でも攻め入る恐ろしい超兵器であった。
後日現物を見たが、体の下側にはアメリカの試作ステルス艦であるブラック・シャドウを思わせるものがあり、死んでも波間に浮かんでいるため生死の判別が付き難く、姿形も油虫に酷似しているために、倒すのも死骸を回収するのも恐ろしく時間が掛かった。
このような精神面でも攻撃してくると言う兵器は、我々でも開発し長年使い続けてきたが、超兵器の深淵の一つを見た気分であった―
尚、この事件で重傷者は出たが、死者・行方不明者はゼロと、奇跡的なものだった事を付け加える。
だからブラウザバック推奨だって言ったのにぃ!
はい、というわけで思いの他筆が進んだ17話です。
今回のイベントのイライラを全てこの話に叩きつけました。
ええ、アレですとも、誰がなんと言おうとも、しかも人間台の。
本当に申し訳ない。
でも反省もしない。
今回出てきたアレは、WSC3のアレの弱体化バージョンです。
つまりWSC3のステルス性能と光学迷彩にWSG2の武装と速力を乗っけたハイブリット種です。
でも航跡は残ります。