艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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久しぶりに1週間投稿出来た喜び。
そして最後の方だけWSG系でこの海域に出てきたあの超兵器が出ます。


日誌十九頁目 第十一号作戦②

 

 

 

 空は快晴、強い日差しは春を迎えたカレー洋の沖を照らし出し、海を抜ける風に海鳥達が乱舞する中……。

 

「各艦、全主砲、一斉射、てーーッ!」

 

 伊勢の号令で日向の主砲も同時に火を吹き、隷下の鈴谷と熊野は艦載機である瑞雲を出して、零れて来る小型艦を相手取りながら弾着観測を行っていた。

 既に深海凄艦の護衛艦は翔鶴と瑞鶴の艦載機で蹴散らしている為、あとは主目標となる補給艦の隊伍と、護衛部隊の残存艦を狙うだけだ。

 日本に所属する艦娘達による第十一号作戦、その第3段階が開始され、今回は各鎮守府の作戦部隊が連携してことに当たっている為、ここまでは順調に作戦手順を消化しており消費資源とバケツの備蓄もまだ余裕があるが、それでも薄氷の上を歩くかの様に慎重に歩を進めていた。

 

 

 

『こちら藤沢第三作戦担当艦隊、敵補給艦隊の殲滅を確認した』

 

「司令部了解、ご苦労だったわね。

 戻ったらキンキンに冷えた酒とジュースがあるから、それで英気を養ってちょうだい」

 

『りょーかい、気が利くじゃない!』

 

『伊勢、飲むのは止めんがあまり羽目を外すなよ』

 

『分かってるって、それじゃ通信切るよ』

 

「はぁ……なんとか第三段階まで終えましたね」

 

「うむ、だが次が本番だ」

 

 鍋島の言うとおり、第三段階のベーグル湾通商破壊戦の次は、カレー洋に浮かぶリランカ島攻略である第4段階に移る。

 事前の偵察によれば、リランカ島には港湾棲姫の発展型である港湾水鬼と呼称された個体が確認されており、実質最終段階である第4段階の目標はこれの撃滅である。

 相手側の補給艦は先程のもので全て沈めたので、攻略対象に補給する術はない。

 

「第4段階担当の艦娘は直ちに出撃準備!」

 

「支援艦隊も順次準備をしてちょうだい!」

 

 

 

 一方ここは出撃する艦娘達の待機所、と言ってもかがのヘリコプター格納庫を間借りしているだけなのだが、そこは帰還した艦娘達も順番待ちをしていた。

 

「はいはい、押さない、走らない、衝突しないを守ってねー」

 

「あの、スキズさん、押さないと衝突で被ってるんですが」

 

「こういうのは念押しするのが一番効果的なのよ」

 

 そんな雑談をしながらスキズは艦娘達の艤装を直していく。

 と言っても彼女の艤装妖精が片っ端から行うので、彼女自身は自らの艤装と接続し、艤装内部の資材量の把握と艦娘達を通して、艦船設計図の取得をしているだけである。

 艤装自体の修復はものの数秒で出来るため、それほど苦にはなっていないのだ。

 

「今の所は順調みたいね」

 

「ああ、作戦開始から既に1週間経ったが、これほど速いペースではなかったな」

 

「それもこれもスキズの修復能力が有っての事だからね。

 明石も頑張っているみたいだけれど、やっぱり作業能力と対応数ではあなたに適わないわよ」

 

「まあ私が艦としての性能で異常なだけだけれどね」

 

 そんな中ヘリコプター甲板へ続くエレベーターに、艦娘達が集まってくる。

 作戦第四段階を担当する艦娘達だ。

 

「連合艦隊第一艦隊出るぞ!艤装の確認をした後乗れ!」

 

「同じく第二艦隊、出撃担当の艦娘は急いで!

 作戦や陣形の確認は昇降機上で行います!」

 

「支援艦隊、主力が出撃した後に進発しますので、今の内に装備のチェックをしてください!」

 

 慌しく声が響く中、スキズは目を閉じてそれに耳を傾ける。

 

「うん、やっぱりこう言うのは何時聞いてもいいわね。

 戦争自体はやってはいけない事だけれど、有事の際の緊迫した空気と言うのは活気に溢れていて、命の灯火を直接感じられるから」

 

「でも超兵器は?

 あれは明らかに異質なものだけれど」

 

「あれも人の手で作り出されたのは変わりないわ。

 でも、あの娘達は兵器としての枠組みから大きく逸脱してしまっているの」

 

「……まあ、言いたい事は理解できるわね。

 でも、あっちの戦力がわからないのが一番の不安材料かなぁ……」

 

「対処方法はこちらで用意するわ。

 シュトルムヴィントの件で、一つの鎮守府が単独で対処できない力を持っていると言うのは、提督達も理解出来ているし同じ轍は踏まないはず、でも何事にも例外はある」

 

 ただ遊弋しているだけならこちらから向かえばいいのだが、鎮守府への直接攻撃となった時はその限りではない。

 その時は必ずその鎮守府単体で対処しなければならないのだ。

 

「ぞっとしないね。

 でも、本土進攻や拠点進行の可能性が無いわけではない……っか、陸地への直接攻撃が無い深海棲艦よりやっかいだ」

 

「陸棲深海棲艦なんてのが居るから必ずしもそうではないでしょう。

 まあ、策源地にしてみれば海底一帯がそうだと考えれば、深海凄艦の方が厄介でしょうけれどね。

 熱水噴出孔や海底熱水鉱床から資源を取り出していたとしても、私は驚かないわよ」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「うーん……」

 

 日向の問いにスキズブラズニルは少し考える仕草をする。

 

「技術上は可能でしょうけれど、それを人間がやるとしたら莫大な費用と設備が要るでしょうけれど、この世界だと実験的に採掘した記録もあるし、深海凄艦が出てこなければ何時かは有数の鉱物産出国になっていたでしょうね。

 深海凄艦がその手の技術を持っているかは分からないけれど、似たような事をしているのは間違いないと思うわ。

 何事も無から有は生まれないもの」

 

「そう言うものか?」

 

「そう言うものよ」

 

 深海棲艦は過去の戦争や事故で、海に沈んでいった人々の負の感情から生まれたと言われているが、それでもこの世に固着する為に受肉するにはそれ相応の質量が必要だ。

 多くの霊が直接的に加害することは無いように、人間や遺体に取り憑いて危害を加える例は古今東西幾らでもある。

 深海棲艦もその類と仮定すれば、策源地を減らすと言う考えは強ち間違っていないのだ。

 

「まあ勿論その周辺に住んでいる生態系に物凄い負荷が掛かるけれどね。

 環境保護団体がまだ息をしているなら、その人達との戦いが待っているわ」

 

「結局最後は人間との戦いなわけか……」

 

 結論がどうしょうも無い着地点についた所で会話を切り上げた。

 

 

 

『第十一号作戦第四段階について、改めて説明する』

 

 鍋島提督が作戦に向かう艦娘達に通信を送る。

 

『我々の目的は、リランカ島に存在する港湾水鬼と呼称した深海棲艦の殲滅と、同島の制圧にある。

 これにより我々はインドとの直接交易路を繋げれるわけだが、それは恐らく敵も分かっているだろう。

 後詰の上陸部隊の為にも、そしてこの作戦の後に待っているであろう多くの人命の為にも、各艦娘はいっそうの奮励努力を願いたい。

 そして……』

 

 そこで一旦台詞をきる。

 

『そして私と北郷提督の隠し倉庫には九州産の銘酒が揃っていてね。

 最近多くの酒瓶に消費期限が迫っているのだ。

 この作戦が終わったときには、駆逐艦や軽巡艦娘も交えて宴を開こうと思う。

 勿論この作戦に参加してくれた各鎮守府の艦娘達もだ』

 

『その時には桜島で取れた野菜で鍋も用意しよう。

 それに岩川の肝付提督から九州牛を振舞いたいそうだ』

 

『ちょ、先輩方そんな話聞いてませんよ!?』

 

 それを聞いた各艦娘達は真面目な顔をしていたが、九州男児の粋な計らいに口元が僅かに緩む。

 一部苦情が出ているがそのような事はお構いなしに、艦娘達の士気が高揚する。

 

「では、我々はそんな提督方の期待にお応えしよう。

 前線指揮は横須賀のこの長門が執る!

 各員、行動開始!」

 

 各鎮守府の連合艦隊で陣形を組みカレー洋を突き進む。

 その様はまさに精強さを誇るには十分過ぎるほどの威容であり、よほどの事が無ければ突き崩せないであろうと言う印象を、内外に知らしめるかのようである。

 

「……索敵機より連絡、敵前衛集団を捕捉しました。

 水上打撃部隊が方位267と281に2つ、機動部隊が方位242に1つです。

 各艦隊は、航空機を上げて下さい」

 

 加賀の言葉に応え、方々から艦載機が発艦する。

 艦戦には烈風は元より既存の最強艦載機があるのもそうだが、中でも対深海棲艦戦初期において襲撃により開発できなくなった震電改が、各艦隊から一飛行隊ずつ放たれているのが大きな違いだった。

 しかしそれら艦戦に守られている中で、異彩を放っている航空機が居た。

 震電の戦闘攻撃機型である震雷の存在だ。

 これは航空魚雷を搭載したもので、魚雷を放った後は制空圏確保の為に奔走するというコンセプトの元開発され、スキズブラズニルから提供されたものではあるが、技術的に問題はなくても実戦経験が無かった事から不安があったが、事前の試験運用では問題ないレベルだと判断され今回の作戦に投入されている。

 

「第一次航空隊、発艦完了したわ」

 

「よし、スキズブラズニル製の新型……その性能を見せてもらおう」

 

 

 

 震電改、烈風、震雷、烈風改、彗星、そのどれもが大戦時に日の目を見ることなく歴史の裏側に隠れ、或いは燃料の不足で飛ぶ事すら出来なかった銀翼の海鳥達、それらが深海棲艦の前衛集団に到達したのは昼前の事であった。

 最初に発見したのはピケット艦として従事していた駆逐艦イ級後期型だ。

 直ぐに敵機襲来の報を近隣の深海棲艦に知らせるが、報を発した途端に彗星と流星改が数機が殺到し、魚雷と爆弾の同時攻撃を受け水柱と共に姿を消した。

 南方に待機していた空母ヲ級フラグシップを含む艦隊はすぐさま迎撃機を発艦、通報海域より西へと向かう……が、発艦中に護衛駆逐艦が敵機発見を伝える。

 震電改、震雷、そして彗星の精鋭部隊がこの方面へ向かっていたのだ。

 空母ヲ級の艦載機は直ぐにそれらの迎撃に向かうが、震電改の戦闘能力が深海棲艦の戦闘力を遥かに上回り、瞬く間に艦戦用の武装を施した艦載機が次々と堕ちて行く。

 そしてとうとう最後の艦戦が居なくなった。

 

 ―なぜ?―

 

 空母ヲ級は自問する。

 理由は明らかだった。

 震電改は高度も速度も十分であり、航空機戦においては有利とされる上方からの逆落としを、速度も高度も足らないうちに食らったのだ。

 例え性能が同じでもこの差は大きく、艦戦を食らった震電改が次の標的としたのは丸裸同然の攻撃機と爆撃機となった。

 次々と堕ちて行く艦載機を眺め呆然とするヲ級へと、震雷と彗星が低空と高空から同時に殺到する。

 そしてリランカ島南に展開していた機動部隊は、新型艦載機によって海の藻屑と化した。

 そのほかの前衛艦隊の結末は似たり寄ったりで、千機に及ぶか及ばないかの艦載機による攻撃で、轟沈や大破した艦が続出し、既に櫛の歯が落ちるどころではない大穴をあけられたのだ。

 敵の艦載機を完封し、戦艦や空母を全て根絶やしにし、残った深海棲艦もその殆どが大破と言う大戦果で、初手の勝敗は人類側に軍配が上がった。

 

 

 

「敵前衛艦隊を殲滅、空母も戦艦も全て沈没を確認。

 残った残存艦も大破、或いは中破と言った感じね」

 

「よし、続けて進撃する!」

 

 前衛艦隊を殲滅したとの報告を聞いて長門は前進する事を決めた。

 大破、中破した艦はそのまま後方に退避するだろうし、同じ場所に居てはこちらに向かってくるであろう歓迎を貰う事になるからだ。

 連合艦隊は一旦南西に進路をとり、リランカ島から見て真南に来たところで北上する事に決めた。

 

 何の問題もなく行程の中ほどまで進み、リランカ島の真南に来たところで、戦艦タ級と空母ヲ級のフラグシップを複数含む敵艦隊と遭遇、空母艦娘が着艦作業を終え、索敵機を出そうとした所だった。

 艦隊規模はこちらと同程度であり、そして彼我の距離は戦艦同士の射程圏内だった。

 

「砲雷撃戦準備!」

 

 長門の号令で戦艦娘達が主砲を敵艦隊へと向ける。

 それは向こうも同じだったらしく砲門を長門達に指向する。

 

「ってー!」

 

 長門の砲声に呼応して戦艦娘達が続けて砲火の花を咲かせる。

 相対するタ級戦艦群も射撃を開始する。

 双方の空母は砲戦距離から離脱しつつ、艦載機を発艦し制空権を取ろうとし、双方に被害をもたらした。

 

 

 

「敵艦隊を撃破したが大破艦が出たか……分かった。

 迎えの艦娘を出す。

 落伍艦はこちらに任せて君達は」

 

『了解した。

 では吉報を待っていてくれ』

 

「うむ」

 

「どうやら、一筋縄ではいかないようですな」

 

「ああ、この調子だと少々苦戦するかもしれない。

 ……しかし妙だな」

 

 艦橋の外を眺めながら鍋島は顎をしゃくる。

 

(今回の深海棲艦は予め防御を固めていたような印象だ。

 外用に機動部隊を置いていたにしては、こちらへの警戒が疎かだった。

 別の何かが……!)

「吹雪と大鳳に鋼装備を装備させて待機させろ!

 手空きの空母艦娘はステビア海へ彩雲を飛ばせ!

 紅海にもだ!」

 

 鍋島の指示は唐突ではあったが、待機している艦娘達はその意図を察知し各々に準備を開始する。

 時間が刻々と過ぎていく中、翌日の明朝には長門から通信が入った。

 

『鍋島提督!

 港湾水鬼を撃破したが、負傷した艦娘を発見!

 彼女を連れてそちらに帰投する!』

 

 その報告で沸きあがる歓声の中、悪い予感は往々にしてよく当たるものだと言う事を、知らしめる報告が入った。

 

『祥鳳偵察機から報告!

 ステビア海で超兵器らしき影あり、偵察機は報告後に撃墜されました!』

 

 灼熱の国の名を冠する超兵器が、その場に居たのだ。




はい、と言うわけでムスペルヘイムさんがご登場です。
他にも色々ネタを仕込むつもりですが、イベント海域に合わせてこのような改変となりました。
泊地水鬼さんはまだ無事です。
なお戦艦水鬼さんは……次回に出てきます。

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