艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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準備回なので特に動きなしです。
でも賑やかな会話シーンが作れた事には個人的に満足しています。


日誌二十四頁目 日本海鳴動①

 

 

 

 

 新潟は新潟港、そこには佐渡島から一時帰宅を終えた一般人が溢れていた。

 

「黒潮のお姉ちゃんありがとー!」

 

「気ぃつけて帰るんやでー!」

 

 黒潮を初めとした連絡航路の警備を終えた駆逐艦娘達が、子供達やお年寄りと別れの言葉を交わしていた。

 

「無事終えることが出来てよかったです……」

 

「そうですね。

深海棲艦との一時休戦協定を結んだ後とは言え、言う事を聞かない深海棲艦もいるでしょうし、それらの襲撃が無くて私もほっとしています」

 

 尾張と舞鶴の雲竜が互いに言葉を交わす。

 日本海はオホーツク海と東シナ海の哨戒で、一種の聖域となっている海域であり、余程手練の潜水艦でなければ進入は可能であるが、月に一度日本近海の重点哨戒も行われている為に、その精鋭潜水艦もその度に駆逐され一定の安全が保たれている。

 

「さて、ではそろそろ皆の母港に……」

 

「残念だがそれはまだ出来そうにない」

 

 雲竜の言葉を遮るように、横須賀の北条提督が現れてそう言った。

 その顔には影が落ちており、その場に居た艦娘達が静まるには十分な雰囲気を出していた。

 

「先ほど、幌筵泊地の留守を任されていた艦娘から連絡が入った。

アメリカの艦娘が複数緊急寄港しているらしい」

 

 続けて出た言葉に日本の艦娘達はどよめく。

 前世では敵対していたアメリカの艦娘達が寄港して居るという事は、彼女達の感覚からすればまずありえない出来事だ。

 特に戦中生まれの艦娘達はそう思うだろう。

 

「そして、キス島へ出撃していた艦娘達から例のノイズを検出が報告されている。

これを受けて幌筵泊地と単冠湾泊地は一時放棄、アメリカの艦娘と共に大湊警備府へ退避する決定が、大本営から発令された」

 

「北条提督、その件のアメリカの艦娘達の構成は?」

 

「こちらでの分類では巡洋戦艦2、軽巡洋艦1、駆逐艦3の編成だ。

彼女達はアラスカでの定期パトロール中に、深海棲艦と……報告された状況からして超兵器2隻とその護衛艦隊との戦闘に遭遇、帰投するのは困難と判断、激化したところで周辺の基地に退避勧告を発しながら退避行動を開始、今に至ると言う事だ」

 

 超兵器2隻と言う情報が出て尾張以外の艦娘に動揺が走る。

 先日のシュトゥルムヴィント1隻でもあれだけの被害が出たのに、今度は2隻同時に相手取らないといけない上に、加えてここに居るのは大規模作戦に参加できないまでも、通常海域での活動では問題ないレベルでの戦力しか居ない。

 

「一先ず、会わなければどうにも出来ませんね。

北条提督、大湊警備府へ向かいます」

 

「うむ、移動には新潟分屯基地からC-2輸送機で向かう。

艤装も一緒に積載する」

 

 大湊警備府では海上自衛隊第25航空隊が使っていた滑走路があるが、開設当時に艦娘の緊急配備の為に短かった滑走路の延伸がなされ、大型の輸送機でも無理なく離発着が可能となっている。

 そのお陰でAL/MI作戦では一旦艦娘達は大湊に集められ、その後幌筵泊地へと移動した後AL作戦に赴いた。

 今回もその例に倣い、尾張を初めとして対抗できそうな艦娘をC-2輸送機5機で大湊に向かう。

 

 

 

「今回の超兵器は2隻と言ったが、一方は双胴の戦艦、もう一方は通常の胴体だが布で隠した長物を装備した超兵器だそうだ」

 

尾張達を乗せて飛び立ったC-2輸送機の中で、北条提督と旗艦を勤める艦娘達が会議を行っていた。

 

「双胴の方は恐らく超巨大双胴戦艦ハリマでしょう。

速度は超兵器の中では55ノットと平凡ですが、最大の特徴はその排水量を生かした超大口径主砲と防御力、100cm砲と恐らくそれに耐えうる装甲でした」

 

「うむ、私も君が提出した書類で性能等は把握している。

しかし、いざ目の前に現れるとなると恐怖しか沸いて来ないな……」

 

北条提督の言葉に艦娘達が頷く。

 

「今回やってくる超兵器は、前回のシュトルムヴィントの様な試作型ではないです。

超兵器機関の性能をある程度把握し、莫大なエネルギーを存分に使った正式版と言っても良い代物です」

 

「ふむ……だがもう一方の超兵器が分からんな」

 

「艦娘形態……と言えばいいのでしょうか。

その姿になって外観も変わってしまいますし、一から特定をし直さなければなりませんね。

ノイズ波形が分かれば一発で分かるのですが」

 

「生憎と彼女達は逃げるのが精一杯で、そのような暇など無かったようだからな。

現物は現地で見れば分かるかね?」

 

「超兵器はどれも特徴があるものばかりですから、その部分が分かれば特定は簡単です」

 

「勝率は?」

 

「……私一人では難しいでしょう。

やれと言われればやりますが、勝率は限りなく0に等しいです。

ですが」

 

尾張は同じく留守役であり、呉から派遣された利根に視線を向ける。

 

「利根さんの酸素魚雷があれば、その勝率は確実に上がります。

当てにしていますよ?」

 

「う、うむ!ままままかせるが良い!」

 

 妹の筑摩が居ない上に尾張からの期待が上乗せされ、周りから見ても気の毒なくらいに緊張している利根、彼女にとって今回が初めての対超兵器戦なのだ。

 細かい打ち合わせをしているうちにC-2輸送機は無事大湊警備府へ到着。

 到着を待っていた艦娘達に出迎えられ、先に呉から駆けつけていた毛利提督が一歩前に出る。

 

「北条提督、お疲れ様です」

 

「状況は?」

 

「現在超兵器艦隊は幌筵泊地と単冠湾泊地付近を通過、抵抗戦力がないと見るやこれを無視し、抵抗する深海棲艦を蹴散らしながらオホーツク海を西進中です。

このまま行けば樺太に到着し、宗谷海峡かタタール海峡を通過するでしょう」

 

「そうなればウラジオストックのロシア艦娘艦隊が出てくるな。

そう言えばロシアのカムチャツカなどの基地はどうしたのだ?」

 

「っは、最初はロシアの艦娘艦隊も警告を発していましたが、超兵器艦隊はそれを無視して通り過ぎさり、ロシア側もAL列島での戦いが伝わっているのか、それ以上の事はせずに早々に退いたようです」

 

「懸命な判断だが、一歩間違えれば壊滅していてもおかしくなかったな」

 

「その通りで」

 

二人の会話を聞いている後ろで尾張は思案する。

 

(ロシア海軍の艦娘に攻撃しなかったのは、恐らく前の世界での記憶との関連付けが残っているからの筈、でもそれだけだと無視した意味が説明できないし、日本の艦娘を狙ったシュトルムヴィントの説明が出来ない)

 

 弾薬や燃料に関しては深海棲艦から強奪すれば問題ない。

 かといって修理の問題であるならば超兵器自体は問題ない上、護衛艦隊は恐らく使い捨て同然の扱いになるだろう。

 ともすれば残る可能性は……。

 

「同盟とかそう言うのは関係ない。

シュトルムヴィントは単純に捕食行動に出ただけ、そして今回の二隻は……私を殺しに来たのですね」

 

尾張はそう、最後の部分はぽつりと小さく呟いた。

 

 

 

「初めまして、私は横須賀鎮守府の提督をしている北条と言う」

 

「私は戦艦娘の尾張と申します。

先の超兵器戦で一応功労者(MVP)に推されました」

 

「OH!貴女が噂のMonster Slayerね!

私はアラスカ、一応種別としてはアラスカ級大型巡洋艦のネームシップよ」

 

 大湊警備府の談話室でアメリカ艦娘と面会した北条と尾張がまず自己紹介をする。

 尾張の方は艤装を外してあるが、大和型のどちらでもない容姿から推測したのだろう。

 アラスカが身を乗り出し、自己紹介をしながら右手を差し出すと、尾張もそれに応えてアラスカの手を握る。

 

「ちょっと姉さん……すみません姉が粗相をして、私はアラスカ級大型巡洋艦の2番艦グァムよ。

普段はこんなだけど、作戦中とかはしっかりしているから安心してください」

 

「メリハリは大事ですから気にしていませんよ。

それよりも、超兵器接近の知らせをして頂きありがとうございます。

もし貴女方が来なかったら、対応が大幅に遅れるところでした」

 

 仮に彼女達が来なくても、周辺警戒している軽空母艦娘から報告が来るのだが、それでも対応に遅れが出るのは間違いは無い。

 

「それにしてもよく無事に超兵器を撒けましたね」

 

「なに、あの戦争から今までの気象データで大方の天候も把握しているし、深海棲艦を釣ってそこに駆逐艦の煙幕やら不完全燃焼での黒煙やらで煙に巻く。

あとは化物同士で潰しあっててくれって具合だよ」

 

「押し付けられた方はたまった物じゃないでしょうね。

でもそうね……だとしたら今回の戦いが終わった後は、そのあたりを一回私が出張って掃除するべきかしら」

 

 空母水姫の報告の通りならば、深海棲艦と超兵器が交戦したあたりで生き残りが居るならば、それが変異種になっていないとも限らない。

 人類側でそれに確実に対処可能なのは尾張と、スキズブラズニルで改装を受けた3人の艦娘のみ、深海棲艦側でも棲姫クラス以上の者でなければ確実な対処はできないなど、かなりの強さを誇っているとされている。

 

「あー、何か私達不味い事をしたかな?」

 

「さて……どの辺りから話しますか」

 

 その後北条提督と毛利提督、そして尾張による現状における超兵器が深海棲艦に与える影響などを、掻い摘んで彼女達に説明するとその顔色が青色に染まってゆく。

 それもそうだろう、なにせ恩を与えたと思った相手に自分たちは逆に仇を与えたと気付いたのだから……。

 

「わ、私達なんて事を……」

 

「大丈夫ですよ。

今回の件は各国に説明していなかった私達の責任ですし、仮に貴女方が来なくても多かれ少なかれ変異種は出ていたでしょうから」

 

「それよりも先に対処すべきは超兵器だ。

一先ずは正体が判明しているハリマへの対策だが、尾張君から何か対処法はないかね?」

 

「対処法と言っても今までと大して変わりはありません。

ただ持てる火力を全て動員して、ハリマの装甲接合部分が緩むまで攻撃するだけです。

勿論その間にもあちらからの攻撃が来ますから、それを避けながらになりますが……向こうには発砲遅延装置等の補助兵装は無いですし、被弾率はそこまで高くないはずです」

 

「流石に100cm砲に対する防御装甲は抜けないか……。

となると頼みの綱は尾張の主砲と酸素魚雷と言う事になるな」

 

「ええ、幸いにも宗谷海峡かタタール海峡で迎え撃てる状況です。

仮にタタール海峡へ向かった場合でも、上の方でロシア側から領海内への侵入の許可も貰っていますから、我々は遠慮なくロシアの領海へ侵入することが出来ます」

 

「よし、では大方の段取りは決まったな。

あとは艦隊編成だが……」

 

「戦艦は本土で留守役となっている伊勢型と扶桑型、それに北条提督の大和型が居ますけれど、やはり砲撃火力の主軸は尾張君になるでしょう。

航空戦力は雲竜型と蒼龍・飛龍の正規空母が居ますし、軽空母も多数残っています」

 

「だが肝心の魚雷火力が足りないか……。

駆逐艦を掻き集めて飽和雷撃をするしかないか」

 

「各鎮守府の重雷装巡洋艦の3人は軒並み連れて行かれたからな。

無いもの強請りをしても仕方あるまい」

 

「次発装填装置付きの艦娘以外は魚雷放出後補給に戻らせた方が良いでしょう。

島影などに補給艦を配置すれば再出撃までの時間はかなり短縮されるはずです」

 

 

 

「なんだか一国相手に戦争を仕掛けているような雰囲気だな」

 

「実際超兵器は1隻でも普通の国一つの海岸線を押さえ込めますから、強ち冗談とは言えないですけれどね」

 

 歴戦の提督が二人で作戦立案をしている後ろで、尾張はアラスカ達と雑談をしていた。

 

「しかし貴女方の話ではやはりアイスランドの辺りから出撃したと見るべきですね」

 

「ええ、私達も貴方の実力を見た後は本国に帰って、司令にしっかり報告するわ。

とは言っても、私たち程度では何の役にも立ちませんが……」

 

 アラスカ級は大型巡洋艦の名の通り、重巡洋艦以上の防御力と攻撃力を持つ事を主眼に入れた艦で、過去のドイッチュラント級装甲艦や、太平洋でライバルになる日本海軍が”持つであろう”仮想の艦型、秩父型大型巡洋艦に対抗する為に作られたものであるが、その攻撃力と防御力は中途半端な性能となっている。

 しかもCIC能力も低い上に、速度性能と旋回性能が共に不足気味なため、終戦後は特に改装を加えられることも無く早々に退役した。

 

(スキズで改装をしてもらえば多少はマシになると思うのですが……)

 

「だから貴女の様な大柄の船体が羨ましいし恨めしくもあるわ。

まあ、そんな事を言っても詮無き事だけどね」

 

「しかし速力は33ノットと高速です。

それを生かして引き撃ち戦法を行えば、重巡洋艦を主眼に置いた艦隊に対しては有利に戦える筈ですが……」

 

「それも相手が付き合ってくれればの話ですし、航空攻撃をされたら私達程度の防御力では……」

 

 自らの腕に装備された機銃群と、腰周りのVT信管などで有名なアメリカの12.7cm連装両用砲を示す姉妹。

 特に目立つ40mm4連装機銃と、20mm単装機銃から編み出される対空砲火は効果的だろう。

 だがそれを発揮できるのは同じ航空機で数を減らした航空機相手であり、発艦したばかりの艦載機をそのままを相手にするのは無理に等しい。

 

「アラスカさん、グァムさん、私に貴女方が抱える悩みは恐らく完全に理解する事も、分かる事もできないでしょう。

ですが、どうか自分達が受け持った使命だけは、自分の立脚点だと思って大事にして欲しいのです」

 

「自分達の……」

 

「使命……」

 

 二人の返事に尾張は頷くと、再び言葉をつむぐ。

 

「私は生まれ持って恵まれたこの肉体(船体)と、そして与えられた盾と矛(艤装)で私を生んでくれた故郷と人々を守る。

……貴女達は?」

 

「そんなの……決まってるじゃん」

 

「ええ、この身が失敗作であろうと、生み出されてから変わることは無いわ」

 

「私も!」

 

「「「私達も!」」」

 

 尾張は6人の言葉を聞いて頷きながら問い掛ける。

 

「なら……貴女達の立脚点を聞かせて?」

 

『『『星条旗の元に自由の国の大地と国民を守り、それを害する敵を粉砕する!

星条旗よ永遠なれ(Stars and Stripes Forever)!アメリカ海軍万歳!』』』

 

 そんな様子を提督二人は、大方の打ち合わせが済んだところで見物していた。

 

「尾張君は発破が上手いな」

 

「ええ、流石英雄が乗った艦なだけはあります。

異世界の彼女の艦長も鼻が高いでしょうな」

 

「さて、詰め将棋の行程は大体出来た。

こういうイレギュラー要素が大きいときは、あまり完璧を求めては万が一の時動きが硬くなってしまう」

 

「あとは尾張君と利根君、そして艦娘達の力を信じましょう。

我々はもしもの時に備えて各方面に連絡するしかありません」

 

 迫り来る危機の中、二人の提督は人事を尽くして天命に全てを任せた。




なんとか1ヶ月以内に投稿する事に成功、この調子を続けたい所存です。
次回には超兵器二人との顔合わせと前哨戦、次々回には再びステビア海超兵器戦、その次に再び日本海超兵器戦へと場面を移したいですね。
両超兵器戦は話数としてステビア海を1話、日本海を2話でやるつもりです。

そして感想ありがとうございます。
誤字報告も評価もどんどんして頂けるとありがたいです。
それでは次回にお会いしましょう。

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