艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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お待たせしました。


日誌二十六頁目 日本海鳴動②

 

 

 

 

 

『こちら自衛隊のヘリコプターからお送りしております!

 凄まじい砲撃の音と煙で、普段は静かな宗谷岬沖は今戦火の真っ只中にあります!

 海上では艦娘達と超兵器艦隊との戦闘が今も続けており、自衛隊でもこれ以上は近づけないとの事です!

 岬付近には艦娘達への補給物資が集積されておりまして……あ、艦娘達がこちらへ戻ってきました!なにやら慌てて上陸している様子ですがどうしたのでしょうか?!』

 

『撮影中失礼します!

 敵超兵器からの無差別発砲を確認しましたので、当機はこれより現エリアから離脱します!

 皆様はしっかり捕まっていてください!』

 

『着弾まで残り40秒前、当該区域のヘリ及び観測部隊は直ちに離脱せよ』

 

『こちらペリカン03了解、直ちに離脱する!』

 

『きゃあ!』

―ドアが閉まる音―

 

『急げ急げ!』

 

『これで全速力だよ!』

 

『着弾まで10秒前……5秒前……3……2……1……今っ』

 

―爆発音―

 

 

 

 

 

「う……」

 

「雪風、気が付いた!?」

 

「あ、陽炎お姉ちゃん……っ!」

 

「流石の幸運艦やなぁ。アレだけボコボコに撃ち込まれても擦り傷と気絶で済みよるんわ」

 

 陽炎に起こされた雪風が見たのは、ハリマとアラハバキの砲撃で荒地になった宗谷岬であった。

 日本最北端の碑や岬付近にあった空き家屋も、まだ一般の車が通行可能な程度に荒れた道路も砲撃によって消し飛んでいた。

 そこには嘗ての観光地点としての面影は無く、ただハリマと言う超兵器の破壊力の凄まじさを、雷撃が出来る重巡洋艦以下の艦娘達にその恐怖を植え付けるには十分過ぎる光景が広がっている。

 

「あっちこっちでほかの娘達が埋まっていたりしてるけど、まだ情報連結が繋がっているから息はあるわ。

 その後がどうなるか分からないけれど、艦娘である限り高速修復剤が効く。

 少なくとも日常生活に影響は無いけれど、下手すると精神が戦場を寄せ付けないでしょうね」

 

 そう言う陽炎も組んでいる腕や肩が震えていた。

 あれだけの砲撃を受けたのだから無理も無い。

 雪風のように砲撃地点の中心に居なくても、何時こちらに砲弾が降り注ぐかわかったものではないからだ。

 

「無事な娘はすぐに再度雷撃の準備をして!」

 

「大破や中破した娘はヘリで後方の入渠施設へ移送、小破未満の娘は補給して再出撃の用意!尾張さんと利根さんを見殺しにしたくなかったら早く!」

 

 留守役の重巡達が指示を飛ばし、砲撃を目の当たりにして震える艦娘達に激を入れる。

 先ほどの砲撃で皆半ば恐慌状態に入っているが、雪風や坊ノ岬・レイテ沖組は同じ想いを胸に抱いてすぐさま行動を開始する。

 

(また何も出来ずに旗艦を失うなんて、そんなのもうコリゴリです!

 だから尾張さん、戻るまでなんとか持ちこたえてください!)

 

 脳裏に移るのは止め処なく迫り来る敵機に対し必死に応戦するも、結局旗艦たる大和を守りきれなかった自分の姿。

 

(もう、あんな無様な姿は晒したくないです!)

 

「陽炎型のネームシップが妹に先を越されたんじゃ立つ瀬がないわ!皆行くわよ!」

 

「夕雲型だって負けてなるもんですか!主力オブ主力の力を超兵器たちに見せてやりましょう!」

 

「小さな損傷でも命取りになることもあるけれど、朝潮型も補給が終わり次第出るわ!」

 

 一気に息を吹き返した駆逐艦達を見て、他の艦娘達もそれに続くように補給を開始する。

 

『こちらアメリカ遊撃艦隊旗艦アラスカ、これより第二次雷撃の露払いとして突撃を開始する。

 甲板や舷側は抜けなくても副兵装や上部構造物に対しては効果は出せるだろう』

 

『榴弾で火災を発生させるのも手ね。

 小中口径の砲を潰せば駆逐艦が突入しやすくなるわ。

 大口径主砲?気合で避けて』

 

『ロングランス貸与されたんだから私達も気張るわよ!日本の駆逐戦隊に負けられますかっての!』

 

『アトランタさん、私達一応お客さんなんだからそんなに気張らなくても……』

 

『まあ一宿一飯の恩もあるし、やらないわけにも行かないでしょ』

 

『兎に角フレッチャー級の性能を、久々に発揮させていただきましょう。

 此処最近のホワイトハウスの引きこもり具合にも飽き飽きしてきましたからね』

 

 そんな中飛び込んできたのはアメリカからの来訪者であるジュノー基地所属のアメリカ艦達であった。

 

『こちらAWACS、尾張と利根がハリマに対し突撃を敢行、遊撃部隊はこれを援護せよ』

 

 

 

「尾張、突撃します!」

 

「駆逐艦達の敵討ちじゃ!よくもやってくれたのぅ!」

 

 尾張と利根が超兵器艦隊に対し突撃を敢行する。

 これまでの戦闘で互いの彼我距離が近付いたのもそうだが、そもそも尾張達と超兵器の速力が速すぎるのもあり、気が付けば接近戦をしていることなどあちら側でも良くあった事だ。

 

「くっ、やはり船の時のように狙えんか!」

 

「こっちに誘導しろ。まとめて串刺しにしてやる」

 

「尾張よ。アラハバキに牽制で魚雷を放つぞ!」

 

「はい!利根さん!」

 

 アラハバキとハリマが尾張達を倒す算段をつけると同時に、尾張と利根も2隻の超兵器に対して至近戦をする。

 ハリマの装甲は利根の魚雷や尾張の主砲弾で強かに叩かれており、すでに溶接部やリベットが剥がれ始めている場所もあった。

 だが尾張の主砲もその砲身が微妙に赤熱し始め、耐久度が限界に近いことを示していた。

 

「っく、利根さん、一旦主砲を休ませます!」

 

「おう、時間稼ぎくらいはするぞ!」

 

 尾張が主砲冷却用に散水を始め、利根は臨時で持たされた四塩化チタンをばら撒き煙幕を張る。

 そして零観を発艦させて超兵器の動向を注視し、砲撃を加えながら尾張と共に退避行動に入った。

 

「おのれぇ……逃がすか!」

 

「……アラハバキ、ここは一度距離を開けるぞ」

 

 飛び立つ零観を見ながらハリマが言う。

 超兵器側もレーダーで尾張達のおおまかな位置を捕捉しているが、利根の魚雷を警戒したためだ。

 それを察したアラハバキも眉間に皺を立てながら後退の準備に入る。

 魚雷を警戒して多数配置されている機銃群が海面を叩くが、煙幕から飛び出してきたのは先程受けた酸素魚雷ではなく、向こう側の世界で解放軍が大戦後期で使い始め、尚且つデータ上でしか存在を知らない新型超音速酸素魚雷が12本、超兵器艦隊に襲い掛かる。

 

「ハリマ!」

 

「迎撃を開始するが各自回避機動を行え!アラハバキ、お前もだ!」

 

「くそっ!」

 

 各ガトリング砲群や機銃を乱れ撃ちするが、予測位置よりも早く進む超高速魚雷に掠りもせず、その巨体故に舵の利きが悪いハリマの至近にまで迫った。

 

「っ!!」

 

 数本がハリマを捉え炸裂し、艤装にフレシェット弾とTNT炸薬の爆圧が襲い掛かり弾薬庫の幾つかが被害を受け、弾薬庫の誘爆による爆発が起こる。

 しかし幾重にも防護した隔壁により、誘爆による爆圧は押さえ込まれ被害は最小限に留まったが、爆発の圧力で甲板装甲が歪になってしまっていたが、ハリマはまだ良い方だった。

 隷下の戦艦や巡洋艦はその大威力に耐え切れずに、その爆圧と金属片と言う刃で艤装ごと解体された。

 

「ハリマ!大丈夫か!?」

 

「なに、少々艤装内で花火大会があった程度だ。

 だが弾薬の損耗が酷くなっている。ここで決着を……っ!」

 

 再び照準をしようと砲門を動かすがそこへ尾張ほどではないが、戦艦クラスの榴弾数発がハリマの甲板に命中し、木製甲板に着火し火災を発生させる。

 

「あっつ?!消火!消火を急げ!」

 

「何処から撃って来た!?」

 

『Hey,monster ship!How about the taste of a 12inch he shell?』

 

『姉さん、もしかしたらロシア語でしか通じないかもしれませんからそちらも』

 

『二人とも必要以上に煽らないで下さい!』

 

 態とオープンチャンネルで通信を垂れ流す犯人、それは約30km先から30.5cmの榴弾を打ち込んだアラスカ級姉妹とジュノーの声だった。

 アラスカ級が装備している30.5cm砲の射程はSHSで約35kmの射程を持ち、それよりも軽い榴弾ならばそれよりも遠くから撃ち出せるが、命中率を考慮してこの距離から撃つ事にしたのだった。

 戦艦としては徹甲弾で大打撃を与えられるよりもう嫌な事は何か?それは艦上構造物や高角砲などの副兵装を使えなくされることであり、それに加えて電気系統にもダメージが入ることである。

 

「ちぃ、今ので高角砲とバルカン砲が……」

 

 消火が終わったハリマの艤装にある高角・バルカン砲群は、ものの見事に叩き潰されていた。無事な所も電気系統の断線が発生したりで、その稼働率は5割近くまで落ち込んでいる。

 大口径副砲群は健在ではあるが、魚雷と航空機への対処手段を潰されたのは痛い。

 

「……アラハバキ」

 

「了解した」

 

 ハリマの声にアラハバキが応える。

 アラハバキが前面に立ち、手に持つ螺旋槍の電源コネクタに艤装から延ばされたケーブルを差し込み、もう片方の螺旋槍を再び繋ぎ合わせると、2本槍が回転を始めた。

 

「……あああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 観測機の存在は分かっている。

 だがそれが観測し情報を伝え、対応される前に突き進む手段がアラハバキにはあった。

 元の船体の後部に装備された大出力のロケットブースター、それが雄叫びと共に火を吹き、アラハバキの速力を通常の45ノットから、先のシュトゥルムヴィントに迫る160ノットをたたき出し、煙幕の中へと突入し……利根を押し出す尾張の姿を捉えた。

 

「極威一迅!」

 

 狙い過たず尾張の胴を穿とうと、アラハバキは2本槍を突き出す。

 

「紀伊型の装甲を甘く見ないで下さい!」

(スキズ、修理はよろしく!)

 

 尾張は左舷側の艤装を自らの体の前に引き寄せ、体を左に捻りながら彼女から向かって右側の槍に押し当てる。左舷側の装甲はアラハバキの重量と速度、そして螺旋槍の回転運動も加わり装甲を引き千切られるが、胴を捕らえるはずだった槍の軌道は大きく逸らされる。

 前世で何度も見た突進攻撃だ。その軌道もよく分かっている尾張だからこそ出来る芸当である。

 

「なに!?」

 

 思わぬ艤装運用にアラハバキは瞠目しながらも、そのまま駆け抜ける。

 

「魚雷発射じゃ!……大丈夫かの尾張!?」

 

「大丈夫です。主砲の弾薬に損害はありませんし、機関部も無事です」

 

 破損した左舷艤装の様子を確かめながら、尾張は魚雷を斉射する利根にそう返す。

 そして利根から放たれた超音速魚雷は、至近距離とも言える位置に居たアラハバキを捉える。

 

「ぐああぁ!」

 

 ハリマより薄い装甲のアラハバキは、超音速魚雷の破壊力をもろに船体内部に伝播させてしまう。だがそれでも元は通常の戦艦の3倍近い大きさを誇る巨体であり、主砲塔が2基ほどクロヒゲの如く飛び出した程度で済んだ。

 自身の最大の特徴であるドリルも、艤装側の幾つかのケーブルが千切れた程度で未だに稼動状態にあるが、舷側の回転鋸は停止してしまっている。

 

「くそ、新参に此処までやられるとは……っ!」

 

『アラハバキ、まだ行けるか?』

 

「舷側の回転鋸は止まったが、メインはまだ生きている。

 加速用のスラスターもな」

 

 ハリマの通信にアラハバキはそう応える。

 実際のダメージは主砲が吹き飛んでいるだけに留まっている。

 だが次の突撃で尾張に接触した際、自らの艤装がバラバラになる可能性がある程度にはダメージが入っていた。

 

『あちらはどうにも人型での戦闘経験に富んでいる。

 加えてこちらの艤装はどれも大柄で重く、動きが鈍くなりがちだ』

 

「だがそれを補って余りある火力と装甲がある」

 

『そうだ。

 ……だからこそお前に頼みたい事がある』

 

「?」

 

 

 

「こちらも大分押されてきましたね」

 

「こっちの戦力の大部分は通常装備の駆逐艦と巡洋艦じゃからなぁ。

 じゃがさっきの砲雷撃で少しは隙も生まれるじゃろう」

 

 魚雷の直撃を受けながらも、突撃後の慣性をそのままに去って行くアラハバキを見送り、尾張と利根はそう言う。

 アラスカ級姉妹の砲撃によりハリマはその中口径以下の副砲を尽く潰され、アラハバキはすれ違いざまに相手にダメージを与える回転鋸を潰された。

 両方の被害は、次の砲戦で耐えられるものではないだろう。

 

「兎も角これで状況は大分よくなりました。

 残る脅威はハリマの巨砲とアラハバキの高速突撃のみ、次の一当てで勝負を決めます」

 

 先ほどまでけたたましかった戦場に束の間の静寂を得る。

 それは次の激闘へ向けた、束の間の静けさであった。

 

「お主の情報では、アラハバキとやらは大気や海水から液体水素と液体酸素を精製して、それを燃焼しているんじゃったな。

 ロケットエンジンを船にそのままポン付けするなどぶっ飛んだ設計をしよってからに」

 

「まったくです。帝国も何故あんな物を作ろうと思ったのか……。

 きっとロシアか日本辺りの技術者が居たに違いありません」

 

「なにやら偏見が混ざっておるが、言いたい事は分からなくもないのぅ……」

 

 利根が頬を掻くと二人は軽く打ち合わせを始める。

 決着は直ぐそこまで来ていた。




煮詰まりすぎて底が焦げたような出来ですがなんとか投稿出来てよかったと思います。
さて、次回には日本海海戦(鋼鉄)に決着が付きます。
ロシア艦娘は……一応2人(3人?)居ますが、登場するのはもう少しあとになりますね。
艦これも1期最後と言うイベントが終わりモラトリアム期間中ですが、まだまだ駆逐艦を中心に未登場の日本海軍艦が多数居ますし、太平洋戦争に関わった欧米艦も多数出て来ていません……これ2期始まると、アメリカ駆逐艦祭りになるんじゃ……(震え声
それでは次回にまたお会いしましょう。

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