艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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鎮守府付近にて漂着した謎の艦娘。
警戒の為に集まっていた戦艦娘達は、大和の説得も有って彼女を警戒しながらも、艤装は専用の入渠ドックへ、そして艦娘は応急処置の為に医務室へと運び込まれた。


日誌一頁目 戦艦『尾張』

 

 

 

 

「よっと、ふう……。

 ここまで重い艤装は初めてよ。クレーンが壊れるかと思ったわ」

 

 工廠の主である明石が目の前に鎮座する艤装を見ながら愚痴るが、その目は未知の艤装への好奇心に溢れていた。

 特にぼこぼこに歪んだ三連装砲塔や、側面についている円柱状のものや、後ろのコンテナ部分は興味をそそられる。

 

「まさかこの私がへばるほどの重さだとは思わなかったよ。

 だが、助けれる命は助けなければな」

 

「私も艤装があればよかったのだけれど、今は修理中だし……」

 

 スポーツ飲料をがぶ飲みしながら言う武蔵の言葉に、大和は済まなそうに言う。

 作戦が終わった後残っていた修復剤を損傷が大きい順に使っていたが、ちょうど武蔵の艤装に高速修復剤を使ったところで切れてしまい、大和の艤装は今も修理中だ。

 ちなみにこの艤装の持ち主は医務室に運び込まれ、応急処置をしてベッドに寝かせている。

 

「もう直ぐで長距離演習か、鼠輸送の部隊が帰ってくるからそれまでは……」

 

「鼠輸送部隊、ただいま帰還しましたぁ!」

 

「あ、噂をすれば、この声は雪風だから、鼠輸送の部隊が帰ってきたわね」

 

 ドックの外に出ると、そこには貨物を積みおろす鼠輸送の艦娘達が居た。

 雪風、初霜、時雨、綾波、潮、大淀の部隊で、筑波がやぶれかぶれで編成した所謂『幸運艦隊』である。

 雪風と大淀以外は全員第二改造済みで燃費は余り宜しくないが……。

 

「司令官、途中でバケツが10個くらい落ちてたから拾ってきたよ」

 

「おお、流石幸運艦隊、ちょうど良い所で持ってきてくれたわね!」

 

 筑波が時雨の報告を聞いて狂喜乱舞する。

 バケツとは高速修復剤の俗称で、これを使えばどんなに激しい損傷を受けた艦娘の艤装も、そして艦娘の怪我も一瞬でよくなると言う優れものだ。

 ちなみに艦娘に使うと多少の快楽も得られるが、人間が使うと下手すると快楽死する危険性があるので、間違っても使ってはならないと言う決まり事があり、つまり試した人間が居たと言うなんとも言えない証拠である。

 

「あの、何か……あったんですか?」

 

「それがこの近くにある岸壁の洞窟で艦娘が漂着してて、まあ大和さんの艤装と一緒に直しちゃおうと思ってね~」

 

「ああ、そこにちょうど私達が帰還したと言うわけですね」

 

 潮の疑問に明石が答え、初霜が納得する。

 そして好奇心が勝って入渠ドックの中にある件の艤装の元まで、バケツを運び込んだ。

 

「わぁ~、艤装の基礎部分の大きさは大和さん達より一回り大きいですね。

 主砲のジョイント部分の配置は長門さん達っぽいですけれど、これって主砲を四基積んでいたってことですよね?」

 

「そうみたい。

 ただもっと気になることがあるの」

 

 綾波の質問に大和が答えるが、さっきから感じていた違和感を確かめようするように、あの艦娘の艤装へと近づく。

 

「この主砲の径、多分51cmはあると思うんだけれど、明石さんはどう思います?」

 

「え、そう言えば確かに46cmにしては少し大きいなぁって思いましたけれど……まさか!」

 

「はい、多分ですがこれ、51cm砲の三連装砲なんじゃないでしょうか?

 大淀さんはどう思います?」

 

「……大和さんの言う通りかもしれません。

 しかも今は歪んだりしていますが砲身の長さも、恐らくここの戦艦達が使っている主砲の標準口径、つまり45口径を超えています」

 

 大和の言葉にその場に居た全員が固まる。

 それは有り得ない言葉であると同時に、そこまでの火力が必要な敵と彼女は戦ったと言う証でも有った。

 

「本当に、何と戦ったんでしょうね……彼女は」

 

 艤装から放たれる異様な雰囲気と不気味な沈黙が満ちた入渠ドック内に、大和の呟きがただ響くのみだった。

 

 

 

「いい加減に……沈め!」

 

『ククク、ソノ勇マシサ、何処マデモ勝利ニ固執スル精神、人ガ生ミ出シタ我々ノ廉価版ニシテハ、ナカナカヤルデハナイカ』

 

 互いに砲火を交え、中破と言っても良い損傷を負った両者は、何度目かの言葉を交えた。

 

「違う!私は貴方達とは違う!

 私は、日本で生まれ、ウィルキアの人々を守り、共に戦ってきたただの艦!

 貴方達の様にただ戦いに固執するような超兵器とは違うわ!」

 

『デハナゼソノ人間達ハオ前ヲ見捨テタ?

 本当ハ奴等モオ前ノ事ガ恐ロシクナッタノデハナイカ?』

 

 その言葉を聞いたとき、彼女の中で何かが切れた。

 と同時に急速接近し、ほぼ零射程で対消滅反応で失った3番砲塔以外の51cm砲をフィンブルヴィンテルの喫水線に叩き込む。

 

『グッ!?』

 

「……その言葉、聞き捨てなりません」

 

 さしもの究極超兵器もこれは効いたのか苦悶の声が上がり、反対に尾張の口からはどす黒いまでの暗さを秘めた声が出てくる。

 

「貴方に分かる訳がない。

 私を信じて送り出してくれたあの人達を、私の艦長の気持ちを、貴様の様な愚鈍な脳筋オバサンに分かる訳がない!」

 

 再び51cm砲が吼え、今度は反物質砲がある構造物に直撃、発射口が歪に歪み、同時に発射されようとしていた反物質弾が接触し、片側の構造物が丸ごと消えてなくなる。

 

『グアアアアァァァァッ貴様ァ!?』

 

「そうよ。

 例えこれで永遠の別れになっても、あの人はきっと私の事を忘れない」

 

 その言葉と同時に捲れあがったフィンブルヴィンテルの装甲に各砲身を差込み。内部構造物へ直接攻撃を仕掛ける。

 

『アッ!?ガッ!調子ニ、乗ルナ!』

 

 お返しとばかりにレールガンの砲弾と、レーザーが尾張に襲い掛かる。

 レーザーは電磁防壁で阻まれるが、レールガンは尾張の主砲やVLS付近に突き刺さる。

 VLSは誘爆し、砲塔の防盾はボコボコに歪み始める。

 

「あぐっ!?……ふふ」

 

『何ガ可笑シイ!』

 

「これで逃げられませんね……お互い」

 

『マサカ……貴様!』

 

「一人で死出の旅路に出るのは寂しいでしょう?

 ……付き合って差し上げますよ。永遠にね!」

 

 尾張が言い放つと残りのVLSハッチが開放され、アスロックや対空ミサイルが飛び上がり、一旦空高くまで飛んでゆくと反転して戻ってくる。

 そしてさらに船体を押し当て、主砲を相手の内部構造物まで深く付く立たせ、砲身を奴の中枢部分にある脳味噌に向けたまま完全に固定させた。

 これでは満足な回避運動は出来ない。

 

『止メロ!止メロ!』

 

「Goodbye, Ms. scrap.」

 

『止メロオオオオオッォブァ!?』

 

 主砲が吼え、内部構造を突き進み、装甲の反対側に飛び出し、そのまま中枢部分に突き刺さると同時に、信管が作動しないようにセットされたミサイル群がそれに続き、運動エネルギーを使ってそこに突き刺さる。

 あっという間にハリネズミとなった脳味噌で爆発が発生し、断末魔の途中でフィンブルヴィンテルの声は、潰れた蛙の様な声を出してその動きを止めた。

 

「やっと、静かになったわね……?」

 

 そこで尾張は今倒した敵から異常な振動を感じ取った。

 

「ああ、超兵器機関が耐えられなくなりましたか……。

 あれだけの兵装を維持していたのですから、爆発規模はグロースシュトラールの比ではないでしょうね……」

 

 そういっている間にも、フィンブルヴィンテルの艦尾から黒い光が上ってくる。

 どうやらこれが超兵器機関の真の暴走らしい。

 

「ふふ……、これでこの世界に平和……と言っても課題は山積しているでしょうけれど、一先ず戦争は無くなりそうですね……。

 少しの小競り合いはあるでしょうけど、諍いがなくなっては停滞して、外敵からの防御が出来なくなってしまうでしょうね」

 

 超兵器の様な兵器を過去の人間が作れたとはとても思えなかった。

 恐らくはこの星の人間以外の生命体、例えば異星人とかそういった類だろう。

 

「まったく、発つのなら、後を……汚さずに、して欲しいもの……で……す」

 

 そこで尾張の意識は途絶え、沈み逝く究極超兵器とともに空間の歪みへと飲み込まれてゆく。

 

 

 

「う……ここ、は?」

 

 そこで目が覚めた。

 周囲を見回すと木とコンクリートで出来た部屋、消毒液の臭いもあるので恐らく医務室だろうと当たりをつける。

 

「(状況を……確認しないと)あっ、つ~~!」

 

 体を起き上がらせようとし、力を入れるが激痛で苦悶の声が漏れる。

 見れば体のあちこちは包帯だらけで、血が滲んでいる場所もあった。

 

(誰かが治療してくれたのかな?……治療?)

 

 そこで尾張は自分の事を思い出す。

 自分は所謂幽霊の様な存在だ。

 多少の物理的悪戯、ポルターガイストを起こす事もあるが、基本浮き出た怪我は船体の修復と共に消えるのが常だった。

 

(これが受肉と言うものなのでしょうか?

 少し苦労しそうですが、これはこれで新鮮な感じがして少し楽しいですねっと、あったあった)

 

 そう思いながら、壁に立てかけてある松葉杖を発見する。

 痛む体をどうにか起こしてベッドから下り、そこへ足を引きずりながらなんとか辿り着く。

 

「ううん……人間って大変ですねぇ。一旦大怪我を負うとここまで動きづらくなるなんて……ふぅ……」

 

 無理に動いたせいか体のあちこちから悲鳴が上がっているが、それも松葉杖を付けば多少は痛みが治まった。

 

(さて、私の『体』は何処かなぁ~っと)

 

 目を閉じて気配を探る。

 自分とあの『体』は一心同体だ。

 詳しい場所は分からずとも、方角と反応の強さはある程度分かる。

 

(あっちか……でもちょっと小さく感じ……おっと)

 

 反応を確認して医務室の扉を開けようとするが、その先に人の気配が有った。

 

(う~ん、警戒してるのかなぁ……。

 まあ仕方ないよね。行き成りボロボロの船が現れたら、何か騒動ごとに巻き込まれたと思われても仕方ないし、それ以前に私は戦艦だからね。

 まあ話が分かる人かもしれないし、下手な小技を使わずに正面から行こうかな)

 

 そう思ったと同時に医務室の引き戸を開ける。

 

「え?」

 

「は?」

 

「お?」

 

「ん?」

 

 そこには4人の女性の姿があった。

 腰とかには戦闘艦の武装を小さくしたような物を携え、呆けたような、信じられないものを見たような声を出しながら、こちらを見ていた。

 

「あの、えっとこんにちわ……で良いのかな?」

 

「あ、ええ、こんにちわ」

 

「おい陸奥」

 

「だ、だって!」

 

 同じ物を付けた長髪の女性と短髪の女性……陸奥と呼ばれた女性がなにか問答をはじめる。

 

「君、大丈夫なのか?」

 

「あ、はい!これくらいの傷は何時ものことですから!」

 

「い、何時ものって……」

 

 おかっぱ頭の女性の質問に何でも無いかのように答えると、髪を後ろで結った女性が顔を引きつらせながら困惑の表情を作る。

 

「あ、その前に自己紹介が必要ですよね?

 私、近代改修型実験戦艦尾張と申します!」

 

「う、うむ、長門型戦艦の一番艦長門だ」

 

「同じく、二番艦の陸奥よ」

 

「伊勢型航空戦艦の一番艦、伊勢よ」

 

「同じく二番艦の日向だ」

 

 一通り自己紹介が済むと、長門が何かに気が付いた顔をする。

 

「随分長い肩書きだな……。

 えっと、近代改修……」

 

「近代改修型実験戦艦です。

 元は紀伊型戦艦として建造されたんですけれど、訳有ってこっちの肩書きになってしまいまして」

 

「ん?待て、今紀伊型戦艦と言ったか?」

 

「はい、そうですが?」

 

「……それはどっちの紀伊なんだ?」

 

「元は超大和型戦艦という計画で、そこから正式に着工が開始しました。

 まずは一番艦の紀伊が完成して慣熟航海に出て、その後完成直後だった私をウィルキア亡命政府が奪取して、命名前だったこともあってこの肩書きと、縁起が悪いと言うことで外されていた尾張と言う名前を付けられました」

 

「……伊勢すこしこっちに」

 

「あ、うん」

 

 尾張の説明を聞いて長門と伊勢は少し離れた場所に来た。

 

「あいつの話、どう思う?」

 

「嘘を吐いている様には見えないね。

 少なくとも深海棲艦のスパイと言う感じでもないし、その辺りは武蔵と大和が保障したでしょう?」

 

「そうなんだが、しかし超大和型は……」

 

「うん、少なくとも私達の記憶では計画段階で中止された戦艦だね」

 

 二人の間に沈黙が下りる。

 少し離れたあちらでは陸奥と日向、そして件の尾張が談笑していたが、自分達の妹も同じ疑問を持っているはずだ。

 

「それに、ウィルキアという国も聞いた事がない。

 つまり、余りこう言う事は言いたくはないが……」

 

「うん、私も多分長門と同じ意見だよ」

 

「「平行世界から来た艦娘」」

 

 二人の意見が合致する。

 本来ならスムーズに進むはずの状況だが、尚の事複雑な迷宮へと足を踏み入れてしまった心境になる。

 

「どうすれば良いと言うんだ……」

 

「笑えばいいんじゃないかな?」

 

 頭を抱える長門が呟くと伊勢も投げやり気味な返事を返す。

 艦娘になってから長くやってきたが、似たような事案は度々あった。

 扶桑型姉妹の航空戦艦化、だが今回の件はそのどれにも当たらない初めての事象だ。

 まず扶桑型姉妹の件は、既に彼女達の姿があったからであり、計画案もあった事から具体的な改造案も出ていた。

 しかし尾張は、計画段階で設計図すら引かれていない超大和型戦艦の艦娘な上、不可解な単語が言葉の端々から伝わってくるのだ。

 

「一先ず、彼女から詳しい艦暦などを聞いて、実態を把握するしかない」

 

「それしかないかぁ……じゃあ彼女の艤装は?」

 

「提督には彼女から話を聞いてから返すように進言してみる。

 自分の一部がどうなっているか分からないのは、不安で仕方ないだろうからな」

 

「まあ、そうなるか」

 

 一通り方針が決まった所で、長門は通信機を取り出す。

 

「提督、こちら長門だ」

 

『あ、長門?どうしたの?』

 

「彼女が目を覚ましました。

 信じられない速さです」

 

『え、もう!?だって、貴女や大和の判断じゃしばらくは眠っているだろうって……』

 

 長門の報告に筑波は狼狽したような声を上げる。

 

「どうやらあの程度の怪我は彼女にとっては日常茶飯事のことだったようです。

 今も自力で松葉杖を使って立っています」

 

『日常茶飯事って……一体前はどんなところにいたのよ……』

 

 続く長門の声に筑波の声に戸惑いと少しの怒りが入る。

 

「その事を彼女から詳しく聞くつもりです。

 失礼ですが、提督にはご足労願おうかと……」

 

『分かったわ。

 じゃ、切るわね』

 

 その声と共に通信が切れ、長門は通信機をしまうと日向と共に再び尾張の元へ向かう。

 

「もう直ぐこちらに我々の提督がいらっしゃる。

 それまでここで待機していてくれるか?」

 

「ああ、えっと、まあここで我侭言っても仕方ないですよね……。

 分かりました」

 

「……少しは抵抗したりすると思ったんだがな」

 

 尾張が素直に従うのを見て長門は少し驚きを現しながら

 

「私はウィルキア近衛軍の所属です。

 たった一年の所属期間でしたが、それでも何時如何なる時も冷静に、そしてウィルキア王家の敵となったものには対しては、王の剣と盾になって戦ってきました。

 最後の戦いは……ちょっと退艦してくださった乗組員達には、余りお見せたくはありませんけれど……、それでもあの人達に……シュルツ艦長達にとって、最高の艦である戦いが出来たと思います」

 

 そう言い切った尾張の顔は、とても晴れ晴れとしていて、そしてとても寂しそうな顔をしていた。

 

「つまり、お前は……自分が沈んだ事を」

 

「はい、あの状況から助かる見込みはゼロです。

 最後はシステムがフリーズしちゃって覚えてませんけれど、あの最後の化け物と一緒に北極の海に沈んだんだと思います。

 皆、平和に暮らしてると言いなぁ……」

 

 化け物。北極。沈んだ。

 その3つの言葉が出たとき、長門達は目の前の存在が途轍もない事をやらかしたのだと感じた。

 しかも言葉の節からは、それが最後の戦いだったと言う雰囲気も感じ取れ、そして最後はその敵と共に沈んだと言う、およそ軍艦としては最上級の沈み方をしたのだと確信する。

 

「そうか……お前は、とても良い生き方をしたのだな」

 

「あ……、はい!」

 

(まったく、なんて清々しいまでに真っ直ぐな性格だ)

 

 その明るい笑顔に、長門は羨ましく思うと同時に嫉妬を覚える。

 

「あ、長門、彼女の入渠はどうするの?」

 

「む……、そう言えば失念していたな……」

 

「ああ、大丈夫ですよ。

 私、前は船体の修理が完了するまで傷が癒えなかったですから、少しくらい我慢は出来ます。

 あ、それとちょっとお聞きしたいことがあるのですが……」

 

「ん?なんだ?」

 

「スキズブラズニルという船はご存知でしょうか?」

 

「……いや、北欧神話の神の船としか知らないな」

 

「そう……ですか……。

 じゃあ、しばらくはこうですかね……」

 

 長門の返答に、尾張は「やっぱり」と言う顔をしてから、傷ついた自分の体を見つめる。

 入院服から見え隠れする血が滲んだ包帯が痛々しく、今にも倒れそうなのに元所属していた所の矜持なのか、その存在感を衰えさせないのは流石と言ったところだろう。

 それだけでも、余程の歴戦を戦い抜いた戦艦だというのが見て取れた。

 

「それがどうかしたのか?」

 

「いえ、あの工作艦があれば直ぐに元通りに修復できるのにって思ったんです。

 でも、居ないんじゃ仕方ないですよね……」

 

 その言葉を聞いて長門達は唖然とする。

 目の前の艦娘は間違いなく大和型を超える、巨大な軍艦が元となっているのは間違いようが無い。

 その船体を直ぐと言える短期間で直してしまえる工作艦とは、一体どういうものなのかと言う興味と、彼女がいた場所の恐ろしさが感じ取れる一言だったのだが、この尾張がまだ艦娘としては生まれたばかりだと言うのが、長門達に僅かな安堵をもたらした。

 

「いや……、その残念だが、艤装が直ってもお前がその状態ではとても出撃は出来ないだろう。

 どうやらお前は軍艦としては一人前のようだが、艦娘としては半人前のようだな」

 

「え?」

 

「詳しい事は提督に説明をした後だ。

 伊勢、日向、彼女をベッドまで運んでやってくれ」

 

「あいよ、じゃあ日向そっちもって」

 

「ああ、これぐらいは容易い事だ」

 

「え?え?」

 

 尾張が両脇から支えられて、そのままドナドナと医務室へ連れ戻される。

 一応軟禁部屋も用意されているが、今の彼女は満足に動ける様子でも無いので、そんなに心配は無いかとも思ったが。念には念を入れなければならない。

 大本営からの指示も仰がなければならないのは勿論で、精密検査を行って尾張が艦娘側か深海側かを見極めなければならない。

 既に血液サンプルは科学研究所に送られているので、早ければ1週間後には結果が報告されるだろうと、長門と筑波は考えていた。

 だがそんな中でも1人、無条件で彼女を迎えている艦娘が居た。

 

(大和、確かにお前達にとって彼女は、存在しない筈だった妹分なのだろう。

 だが、だからこそ私は、お前達が彼女をしっかり見張る義務があると思うのだ。

 そしてなによ……)

 

 長門は窓から尾張の艤装が保管されている入渠ドックを見た。

 そこからは目が光る埴輪の様な影が、おどろおどろしく見えるような感じがする。

 

(あのような艤装をつけた艦娘が居てたまるか!)

 

 そう突っ込まざるを得ない長門であった。




艦旗:妖しいパワーの旗
効果は妖しいパウァーにより敵の照準を狂わせたり、発見を遅らせたりする。
きっと他の艦にはこう見えているに違いない。
つまり見なかったことにしようとしたり、意味不明なものを見てSAN値直葬したりして効果が発揮されていると言う妄想。
長門が感じ取った怪しい雰囲気は、主にこれが原因。
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