艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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少し間が開いてしまった……。
4話目は早めに出せれるように努力します!


日誌三頁目 夜の帳

 

 総計時間4時間ほどの上映を終えた後、艦娘達の反応は様々だった。

 視聴が終わった後、筑波が用意していた台詞を言うと、概ねの反応は良い暇つぶしにはなったという評価が大半であった。

 そんな中、尾張は軟禁用に割り当てられた部屋に来ていた。

 付き添いは筑波と長門、それに伊勢の三人、大和も付いて来ようとしたが、流石に入れ込みすぎだと長門に叱られ、武蔵と一緒に自室へ戻っていった。

 

「とりあえず、ここが貴女の部屋に成るから。

 家具が少ないのは仕方ないけれど」

 

「贅沢はいえませんけれど、意外と普通なんですね。

 もっと質素な部屋に案内されるかと思いましたから」

 

「ここは元々、他の鎮守府からの艦娘の受け入れ場所だからね。

 補給や何らかの不調で仕方なく寄港した場合に、ここを開放して受け入れれるようにしているんだ」

 

「尤も、今は戦域が拡大してトラックやブインに鎮守府……と言うか泊地があって、我々の方が世話になる事が多いがな。

 降ろすぞ?」

 

「あ、はい」

 

 長門の肩から下ろされ、尾張はベッドの端に座る。

 

「あ、言い忘れていたけれど大本営からさっき連絡があって、とりあえず貴女の艤装だけでも直しておけって命令が着たから、明日にでも直すように指示を出しておくわ」

 

「やっぱり技術調査とかそんな感じですよね?」

 

「まあ大本営も色々考えているんでしょうけれど、時々トンチンカンな命令が来ることもあるから今一信用できないのよね。

 前にここへ視察に来たときも、鼻の下伸ばして家の娘達吟味してたし」

 

「あはは……」

 

 本当に嫌そうな顔をしながら言う筑波に、尾張は苦笑いをするしかなかった。

 

「で、早速なんだけれど、あれは……」

 

「全部私が体験したことです。

 80ノットにも達する高速巡洋戦艦も、巨大な双胴戦艦も……、全部私が相対し、そして沈めてきた超兵器という、過去の亡霊達です」

 

「亡霊?どういうことだ?」

 

「それはですね……」

 

 長門の疑問に尾張はブラウン博士の推察した超兵器の、大まかな特徴を述べて行く。

 まず超兵器が例え船体がばらばらになっても、その一部分になっても機関として動き続ける「超兵器機関」が元となっていること。

 ヴぇスビオ火山の発掘・研究施設のデータから、超兵器機関は世界各地の火山地帯に埋没していること。

 そして、自分がその超兵器の中で最高上位である究極超兵器を倒した事。

 

「とても私が居た世界の技術では不可能な代物でした。

 ヴァイセンベルガー以下の超兵器開発部門も、その構造を完全に把握をしてはいなかったと思います」

 

「いや、私達からしたらお前の世界の技術も相当……」

 

「長門、話が拗れるから黙ってて……それで?」

 

「あ、あの、えっと、1つはブラウン博士が立てた古代人達の遺産と言う説。

 もう一つは、私が立てた推察で、異星人達が置いて行った物なのではないかと言う説です。

 どっちも突拍子も無い話なんですが、経過年数からしてもそうとしか考えられなくて……。

 それになんと言いますか、部品単位と言うか、分子単位で意思が宿っているような。そんな感じもありました」

 

「なるほど……、まるで深海棲艦みたいね」

 

「話だけは聞きましたが、こっちもかなり追い詰められていたんですね。

 深海棲艦って確か昔の戦争で無くなった人々の負の念から出来たものでしたよね?」

 

「そう、故人の事を悪く言うのは良くない事だけど、死んだのならそのまま墓場から出てきて欲しくはなかったわ」

 

「あはは」

 

 しかしそんな談話も夕食が来て食べ終わった頃には終わり、そのまま就寝の時間を迎えた。

 

(今日は色々あったけれど、しばらくはこの部屋しか自由に動けないか。

 覚えてないけれどかなり酷い状態だったみたいだし、私自身の体の怪我もしばらくはこのままって言ったときの筑波さんの顔、本当に申し訳ない表情でこっちが恐縮しちゃう位だった……。

 本当に優しい人なんだろうけれど、私たちは元となった船の付喪神で受肉もしている。

 言葉にはしなかったけれど、言外に死亡している娘も居るような感じだった)

 

 相手が亡霊とはいえ、戦争をしているのだからそう言う事もあるだろう。

 筑波との談話の中で長門からその手の話も出かけたが、伊勢に止められたのがその事を察するのに十分過ぎる材料だった。

 

(違う世界、だけどどちらも人類は戦争をしている……)

 

 もしかしたらあちらの方でも、また戦争の火種が燃え広がっているかもしれない。

 そう考えると尾張はシュルツ以下乗組員達の顔を思い出す。

 勿論その中には、被弾した際に死亡した者達の顔もある。

 

(シュルツ艦長、ヴェルナー中尉、ブラウン大尉、ナギ少尉、それに皆……。

 私、ちょっと今はお荷物になっているけれど、役に立てる日が来たらきっと、皆に恥じないように頑張ります!)

 

 改めて決意したところで、尾張はそのまま睡魔に誘われるように眠りに付いた。

 

 

 

 自室で大和は、備え付けのテーブルで晩酌をしていた。

 昨日と今日とで色々有りすぎて、興奮冷めやらぬせいだ。

 未成どころか計画段階で破棄され、次級の紀伊型戦艦の片割れである尾張の救助。

 類似世界での生まれとは言え、やはり自分の妹分が出来たと言うのは、それだけでも興奮するには十分だった。

 

「大和、つまみを持ってきたぞ」

 

「あ、ありがとう武蔵。

 ……今日はごめんなさい、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって」

 

「ん?ああ、まぁ、気にすることは無いだろう。

 私だってお前と同じ様な気持ちだ」

 

 そう言いながら武蔵は大和の反対側に座る。

 持ってきたつまみは定番中の定番である枝豆と、するめを炙った物に唐辛子とネギを混ぜたマヨネーズを添えた物だ。

 そして自分用に、燗が入った徳利とお猪口を用意していた。

 

「しかし、まぁ、あいつの記録映像は規格外ばかりだったな。

 最後の辺りに映っていたあいつの主砲の連射速度、あれはあいつ専用の物だと聞いたが、あれが全ての艦に行き渡ったら、幾ら艦隊が有っても足りんな」

 

「開発するのにも予算がかかっていそうだし、量産性は壊滅的なんでしょうね。

 その辺りはあの娘が居た世界が、まだ普通だと言う証明なのだけれど。

 ……あの娘、私達とも戦っていたのね」

 

「ああ、何の因果か故郷だったこの国が、あいつの敵になってしまったからな。

 その時はあいつも苦渋の思いだっただろうさ」

 

 大和の呟きを武蔵は燗を一口飲みながら答える。

 

「だが、そう言うお前の方こそどうなんだ?

 あいつは私達が知る紀伊型戦艦ではない。

 ウィルキアという国が、あいつを紀伊型戦艦から作り変えた……」

 

「そんな事!」

 

 武蔵がその先を言おうとした所で大和が吼える。

 

「そんな事……分かってるわよ……」

 

「そうか……」

 

 自分達が知る紀伊型戦艦はこの世に存在しない。

 計画書だけが残り、設計図すら引かれていない大和型を越える巨艦は、この世界で日の目を見ることは無いのだ。

 

「だが、あいつが強力な戦艦だというのは紛れも無い事実だ。

 世界こそ違うが、私達大和型の血を引いているしな」

 

「就役してから一年、本当に濃い艦生を送って来たのよね……。

 原型が残っているのは艦上構造物だけで、敵の猛攻に対処できるように武装を変えて、それでも私達以上の激戦を戦い抜いて……」

 

 そして最後はあんなに傷が付くほどの敵と戦い、共に沈んだ。

 言葉にしなくても分かる大和の言葉に、武蔵は黙って燗をまた一口飲む。

 

「自分より強い敵と一対一で戦って勝利をもぎ取るって、どんな気分なのかしら……」

 

「さあ……少なくとも私たちでは、見つけられない答えだろうな……」

 

 超兵器という未知の戦闘艦との戦いを、尾張は1年間でそれを13回も経験したと言う。

 それ以外にも、ほぼ毎日のように戦闘を繰り広げていたのだから、その耐久性と攻撃力、そして継戦能力の高さは折り紙つきだろう。

 

「あいつの艤装の詳しい武装や性能は分からないが、恐らく整備が完了すればこの鎮守府に居るどの艦娘よりも強いだろう。

 あの映像が本当ならば、潜水艦への備えも万全なはずだ」

 

「ええ、少なくとも私達のようにはならないと思う……だけど……」

 

 対空・対艦・対潜、その全ての攻撃手段を兼ね備えた船だった頃の尾張の勇姿は、航空攻撃で沈んだ大和と武蔵にとって頼もしい姿だった。

 自分達が船だった頃は殆ど手も足も出せなかったが、あの尾張なら自分達が出来なかったことを、事も無げに成し遂げて見せるだろう。

 だがそれを大和は善しとしない

 

「だけど、それも何か違うと思うの。

 確かにあの娘の実力はあの映像の通りなのかもしれない。

 けれど……」

 

 大和がその先に言いたいことは、姉妹艦である武蔵にも居たいほど分かる。

 

(私達も今の身になる前は死地の連続だった……いや、他の艦娘達に比べたらまだマシだったかもしれない……それでも)

 

 それでも今の艦娘と言う身では、肩の力を抜いて欲しい……と武蔵は続けて思った。

 船の時には出来なかった事やしたかった事、何でも良いから第二の生き方を見つけて欲しい。

 それが私の姉の願いなのだと。

 

(しかし、それもこの戦いの行く末によるか……)

 

 深海棲艦との戦いで負けてしまっては元も子もない。

 大本営は……上は間違いなく、強力な戦力になるであろう尾張を見逃す事は無い。

 尾張がただの艦娘であったとしても、51cm砲とその威力を受け止めれる装甲と耐久力は魅力だ。

 重要な深海棲艦との戦いで、今後重用される可能性は非常に高い。

 

「まあ、その辺りはあいつに任せるしかあるまい。

 今は悪い判断が下されないように、何処かに居る神様に祈るだけだな」

 

「そう……ね」

 

「ふむ……」

 

 自分ではどうしようもない事なのに、未練がましく思う自分が情けない。

 そんな顔をする大和に、武蔵は一つ息を吐く。

 実際、大和が気にしているのはその事ではないのだろう。

 出自不明の艦娘である尾張、大和型の姉妹艦である武蔵も尾張からの気配を察し、自分達の次の世代の艦であると感じてはいた。

 

(だが本来なら存在しない筈の尾張を、私はありのまま受け入れる度量があるのか量りかねている。

 そのことを大和も同じく思っているのだろうな……)

 

 本来の紀伊型とは異なる艦娘に、翻弄されながらも静かに飲み続ける二人を、窓の外の月だけが静かに見守っていた。

 

 

 

「はい……分かりました。

 いえ、思ったより早く、そして良い返事が聞けたので安心しています。

 了解しました。明日にでも修復作業に入ります。

 では……」

 

 筑波はそう断ってから受話器を置いた。

 その口元には微笑みを、目元には今にも倒れそうなくらいの悲壮感が出てくる。

 

「被害担当艦、ご苦労だったな提督」

 

「本当よ……まあ、これで尾張の心配は無くなったわけだけれど……」

 

 長門の言葉に視線を執務机の書類に目を走らせる筑波。

 そこには妖精達が大急ぎで調べ上げた、尾張のカタログスペックが記載されていた。

 

「こんな艦娘版姫クラス、どう扱えばいいのよ……」

 

「強力な戦力がただで手に入ったと思えば良いのではないか?」

 

「こんなスペックの艦娘の修復費が、生半可な数字で出てくると思う?」

 

 長門の返事に筑波は少々棘のある言い方で応える。

 大和型でさえ耐久が1からの修復に莫大な量の資材を使うのだ。今現在尾張の修復に必要な資材の数を、工廠の妖精達が算出中であるのだが、尾張の艤装にいた妖精達も手伝っており、スペック表が早く出来上がったのは彼らのお陰でもある。

 ちなみに筑波の予想では良くて大和型の1.5倍、最高で3倍を予想している。

 

「まあ、使い時を誤らなければそんなに被害は出ないだろう」

 

「その使い時に隙が無いのですがそれは……」

 

「……まあ、あれだ。

 明日にでもあいつ自身を入渠させて怪我を治させようと思う」

 

(あ、逃げた)

 

 提督の呟きに長門は少し黙ってから、明日の尾張の予定を提案した。

 実際、尾張の性能を先方は早く見てみたいようで、このようなカタログスペックでは満足しないことは明らかだった。

 最も分かりやすいのは戦場に出して、観測機なりで映像を納めることにある。

 

「こういうのは青葉の仕事かなぁ……」

 

「足柄も写真は行ける口だぞ?

 あまり知られてはいないがな」

 

「ああ、イギリスの戴冠記念観艦式で記者を連れて行った影響だっけ?

 あの娘も結構多趣味よね。

 漫談も出来るし、剣術の腕も良いし、多言語扱えるし、偶に絵を描いてる姿も見るし……」

 

「……」

 

 そこでしばし沈黙が降りる。

 

「あれ……もしかしてあの人、結構天才肌?」

 

「まあ本人は何事にも勝つまで満足しない性質だからな……。

 どちらかと言うと努力家の方だろう」

 

「くす、それに関しては私も同じ意見よ。

 それにしてもあの娘、本当にハリアーを積んでいたのね……水上機扱いだけど。

 数は多く積めないけれど、」

 

 長門の台詞に微笑みながらスロット装備の方に目を向ければ、そこには現代兵器があったのでさらに驚く。

 

「そんなに凄いのか?」

 

「ええ、1000ポンド……つまり450kg爆弾を4~6発は積めるのよ。

 対空兵装も申し分ないし、どちらかと言うと零戦六二型に近い。

 速度も毎時1000キロ出せるから速度も問題ないわ」

 

「時速1000キロか……、確かに赤城達の航空機では追いつけないな。

 だが、発艦は大丈夫なのか?」

 

「そこも問題なし、これ、垂直離着陸できるのよ」

 

「垂直……離着陸?」

 

 長門の疑問を耳にしながら筑波は席を立って、執務室においてあった零戦の模型を手に取り、それを水平に移動させる。

 

「普通はこうやって、地面や飛行甲板を走りながら飛び上がるでしょ?」

 

「ああ」

 

「所がハリアーは、その場で静止したまま飛び上がれるの」

 

「こうやってね」と言いながら、模型を垂直に持ち上げる動きをする。

 

「はっはっはっ、提督、飛行機はそんな風には飛び上がれないぞ」

 

「まあ普通はそう思うわよね。

 この辺りは実際に見てもらわないと判らないから、あの娘が万全な状態になったら、演習で見せてもらいましょう」

 

 笑う長門を横に筑波は始めから分かっていたという顔で言うと、執務室の窓から鎮守府を一望する。

 輸送船から物資を搬入する為のクレーンのライトが点滅し、遠くの街では遅くまで残業している会社の明かりが見える。

 この状態になるまで3年程かかりまだまだ余裕は無いが、やっと市民の顔に笑顔と、仕事で疲れた夫の帰りを待つ家庭と言う、日常が戻ってきていた。

 筑波達はこの状態を維持しつつ、深海棲艦との戦いを有利に進めなければならない。

 

(道はまだ半ば、この日本と言う国だけじゃない。

 世界中の国にこの日常を戻して上げないと……)

 

 その為に尾張をどう扱えばいいのか、思考しながら執務室から出て行き、鎮守府の全施設が消灯した。




さて、第三話目となりました。
ここからが勝負所と言ったところです。
筑波が見た尾張のスペックは別に記載しますので、そちらでお確かめください。

ちなみに修理と補給に使う資源は……。
燃料:1989(内訳は修理に1719、補給に270)
弾薬:450
鋼材:3247
ボーキ:30

となっております(白目)

追記:
一昨日武蔵発見の報が出ましたね。
元乗組員の方々がまだご存命中に見つかって、本当に嬉しく思います。
遺骨は無理でも遺品の何点かは回収してあげたいものですね……。

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