艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar-   作:渡り烏

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今回はちょっと『燃え』に挑戦。
典型的過ぎて誰得かもしれませんが、これが筆者の限界でございます。
というか全体的に俺得すぎた感も……。


日誌四頁目 蘇る戦神

 

 

 

 

 カポーンっとタライが鳴り、濛々と湯気が立つ中、何かが水に入る音が響く。

 

「あつつ……、かなり沁みますね」

 

「その怪我ではしょうがないでしょうね。

 私も、そこまでの怪我はした事は無いけれど……」

 

「姉様に肩を貸してもらいながらの入渠……、なんて羨ましい事を……」

 

「はい?」

 

 扶桑に肩を貸してもらっている尾張が、山城の呟きを聞いて返事を返そうとした所で、その半身が、高速修復剤入りの湯船の中に完全に浸かる。

 

「う……うぅん……ああ……」

 

 暖かいお湯が下半身を包み込み、そのまま扶桑の姿勢が下がるにつれて、どんどん体が沈み込んで行く感覚が、心地よく感じられて口元から艶の有る声が漏れる。

 

「あ……ん……ふぅ……気持ち良いですね~」

 

「ちょっと……、その感覚は分かるけれどさっきの卑猥な息遣いは何なのよ」

 

「あ、すみません……あまりに気持ちがよくて」

 

 とうとう肩の近くまで浸かると一息つくが、先程の息遣いを山城に咎められてしまった。

 ここは艦娘用の入渠施設、源泉から湧き出た温泉を使った大浴場、海の幸と山の幸をふんだんに使った料理を出す食堂、人間と変わらない艦娘をマッサージする女性職員が通うマッサージルームなど、多目的娯楽施設の様な様相を呈している。

 

「最初見たときは旅館か何かだと思ったんですけれど、結構手が入ってますね」

 

「あら、尾張さんは良い感をしてるわね。

 ここ、元々旅館だったの」

 

「ええ!?あ、でもそうか。

 深海棲艦で海上移動を制限されていたからその間に……」

 

「そうよ。

 経済活動が目に見えて減ったから、多くの宿泊施設が畳んでしまったから、それを国が借りて鎮守府の一施設として使っているの。

 ここに働いている人の多くは、ここが旅館だった頃に働いていた人達で、食堂を切り盛りしているのも、元女将さんと厨房長を兼任していた旅館の主人よ」

 

 山城の言葉を聞いて尾張はほっとする。

 旅館の経営が厳しくなっても、こうして国が保護してくれる場合もある事を認識したからだ。

 

「でも、全ての旅館やホテルがそうして保護されているわけではないわ。

 中には本当に廃業してしまって……」

 

「分かっています。

 だから、扶桑さん達はそう言った不幸の憂き目にあった人達の分も背負って、挫けそうになったら仲間と一緒になって、深海棲艦と戦ってきたんですよね」

 

 尾張の言葉に扶桑と山城は真剣な眼差しで彼女を見る。

 

「私は、ここに来てからたった2日しか経っていません。

 装備の修理も出来ていないし、艦娘としての性能もちゃんと見せていないのも事実です。

 でも……」

 

「でも?」

 

 扶桑の台詞の後に一息吐いた後、目元に力を入れる。

 

「私はウィルキア王国近衛軍の戦艦尾張です。

 近衛軍の恥にならないように……そして、艦長達に恥じないような艦娘で居たいです」

 

「ふん、そう言うのは、洋上に出てから言いなさいよね」

 

「勿論、十分な演習を終えたら何時で「ぎゃあああああああああ!!?」……って今の何ですか?!」

 

「今の声、提督のよね?」

 

「また、何かあったのかしら?」

 

 

 

 一通り修復剤入りのお湯に浸かり、見事に傷一つ無い体になった尾張は仮縫いの海軍服を着て入渠場を出ると、一路自らの分身が納まっている入渠ドックに向かった。

 ……のだが。

 

「ふふふ……、燃え尽きたわよ……真っ白に……」

 

「て、提督!ほら、あれですよ!彼女の実力を見るための、今まで艦娘達にタッチしてきた分のお布施だと思って!」

 

「誰がレズビアン提督だとこらぁああああ!」

 

「ひ、ひええええぇぇぇぇ!?そこまで言ってませんよ~!」

 

「H、Hey、提督!とりあえず紅茶でも飲んで落ち着くネー!」

 

「は、榛名はどうすれば……」

 

 入渠ドックの前では、金剛姉妹が筑波相手に何とか落ち着かせようと格闘中だった。

 

「一体何が……」

 

「ああ、多分貴女の艤装の修理に使った資材の量を見たのね」

 

「その通りよ……」

 

「あら、明石さん……大丈夫?」

 

 山城の声に反応して、少々虚ろ気な明石を見た扶桑が心配そうに尋ねる。

 

「私は良いんだけれど……はい、これ貴女の艤装の修理と補給に使った資材の量」

 

「あ、はい、えっと……ああ、やっぱりこれぐらいかかっちゃいますか。

 前は各国に支援してもらって、修理に使う資材を融通してもらっていましたけれど、考えてみればあの頃の私って恵まれてたんだなぁ……」

 

「何それ……すっごい羨ましいんだけれど……」

 

 修理・補給の報告書を見た尾張の一言に、その場にいた全ての艦娘の声を代表して、筑波が恨めしそうな台詞を呟く。

 その代わり祖国を失っているのだが、そんなことを言っても無駄だと悟って尾張は苦笑いを浮かべるだけに留めた。

 

「それにしても補給なんてよく出来ましたね。

 私の武装、殆ど近代兵器ばかりなんですけれど」

 

「ああ、その辺りは大丈夫なのよ。

 艦娘の艤装に使う資材は、燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトの4つに分かれていて、どんな弾薬や規格鋼材でも、それに該当していれば補給できるのよ」

 

「へー便利ですね」

 

「その代わり功績毎に所有資材数が定められてて、それ以上持ちたければ自分の艦隊を使って遠征したり、出撃途中で拾って来るなりするしかないのよ」

 

 筑波の言葉に尾張は「ふむふむ」と相槌を打ちながら聞き入る。

 元々艦隊旗艦としての能力も備えている為、この位の情報整理はお手の物だった。

 暫くあれこれ聞いていると、工廠から重苦しい音が響いてくる。

 

「貴女の艤装の修理が終わったわね」

 

 筑波の言葉と共に、奥から台座に乗せられた尾張の艤装が出てくる。

 その表面は新品同然に輝き、破壊されていた主砲や対空火器も綺麗に修復されていた。

 

「こうして見るとやっぱり大きいわね」

 

「私達の艤装より横幅が大きいわ……」

 

「いや、姉様、この娘の存在自体が規格外ですし、……それより」

 

 山城が呟くと同時に尾張の艤装に目を向けると、そこには『ゴゴゴゴゴッ』と擬音を発していそうな目が光る埴輪の影が……。

 

(((何あれ)))

 

「あ、艦旗を変えておかないと」

 

 周りが困惑する中で尾張だけが艤装に近寄り、艤装の妖精達と一言二言会話をすると途端にその影はなくなった。

 

「え、なに、急にいなくなったんだけれど」

 

「え?何がです?」

 

「い、いえ、何でもないわ。

 それよりそれは何?」

 

 筑波が尾張の手にある布切れを指差す。

 

「あ、これは艦旗です。

 ほら、よく船とかで国籍表示とかで掲げているじゃないですか」

 

「ああ、あれね……ってそんな装備聞いたこと無いんだけれど」

 

「え?でもこれ便利なんですよ?『妖しいパワーの旗』って言って、何でか敵の攻撃が若干ぶれるんですよね」

 

 そういって尾張が広げて見せたのは。おどろおどろしい埴輪が描かれた旗だった。

 

(ああ、あれがさっきの元凶か……)

 

「なんかよく分からないけれど、とりあえず納得はしたわ……」

 

「私も、これに関しては深く考えないようにするわ」

 

 筑波はどこか納得したような顔になり、逆に扶桑姉妹は疲れたような顔になっていた。

 

「Hey!YouがNew faceデスか?」

 

「え、あ、はい」

 

「Oh!よく見たら昨日のWheel chairの人じゃないデスかー!

 貴女が新しい艦娘だったのネー!お名前を聞いてもOK?」

 

「えっと、本日付で配属しました。

 近代改修型実験戦艦の尾張と申します」

 

「私は金剛型戦艦のネームシップの金剛デース!

 Hum、Owari……聞かない名前デスね?

 霧島はドウ?」

 

「私も聞いた事は……いえ、確か計画艦の中で候補として名前だけはあったような」

 

「あ、榛名も聞いた覚えがあります。

 ただ、尾張と命名予定だった計画艦は2隻あったような……」

 

「うう、私は聞いた覚えがありません……」

 

 金剛姉妹が各々自分の言いたい事を言うと尾張に視線を向ける。

 

「元は超大和型戦艦、紀伊型戦艦の二番艦として建造されまして……。

 えっと、ちょっとSFな感じなんですけれど、平行世界から来た艦娘と言えばいいんでしょうか。そんな感じの出自なので、皆さんにとって私は……」

 

「Oh、それなら確かに記憶に無くてもしょうがないデース」

 

 尾張が最後まで言う前に金剛が言葉で遮る。

 

「えぇぇ……、金剛姉様それで良いんですか?」

 

「ん~、No problemとは言えないデスけど、こうして目の前にいるのを否定するのは、自分を否定するのと同じだと思ってマース。

 それにこうしてみると、やはりヤマト達の血を引いているのだと分かりマース!」

 

「へ?こうしてって……あ」

 

「おはよう、尾張。

 調子はどうかしら?」

 

「ふむ、どうやら艦娘用の入渠を行ったみたいだな」

 

 尾張が振り向くとそこには大和と武蔵の姿があった。

 

「はい、お陰様で無事に傷も癒えました。

 ちょっと血が足りていない気もしますけれど、今から戦闘に出ても問題ありません!」

 

「ほう、流石は私達大和型の後継艦なだけはあるな。だが……」

 

「はぁ~、出費が嵩むわ……。

 大本営に連絡して、緊急の予算を組んでもらって資材を回してもらわないと……、お手柔らかに頼むわね?」

 

 武蔵がそう呟きながら目線を筑波の方に向けると、彼女はたっぷりと溜息を吐き、愚痴りながらも承諾の意を出す。

 

「え?え?」

 

 尾張が一人だけ状況が飲み込めていない。

 そこへ大和が助け舟を出す。

 

「武蔵は、貴女と演習がしたいそうよ」

 

「え、でも私……良いんですか?」

 

「ああ、だがその前に、航行訓練を一通り終えてからだな。

 随伴は金剛達高速戦艦と正規空母2人、駆逐艦娘5人とそれを統率する軽巡1人が行う」

 

(うぅん……清々しいほどに警戒されてますね……。

 少なくとも大和さんはその気はないみたいですけれど、ここは下手な出方をせずに素直に従いましょう。

 装填してある砲弾も全部演習弾みたいですし)

「分かりました。

 でも、手加減はしませんからね?」

 

「そのつもりで来て貰わねば困る。

 何、なんなら金剛達や駆逐艦を置いてけぼりにしても構わんさ」

 

 昨日の映像を見てこの啖呵であるのだから、武蔵はあの映像を真実とは思っていないか、若しくは可能性として考えているが、自分の目でみなければ納得しないと言ったところか。

 兎も角、尾張はここで自分の実力を見せなければならない。

 例えそれが孤立を招くことになっても……。

 そう思いつめていると、武蔵が尾張の傍に近寄ってきた。

 

「心配するな。

 少なくとも大和と私はお前の事を疑っていない。

 存分にお前の力を見せてくれ」

 

「あ……はい!」

 

 小声で聞こえた武蔵の言葉に、尾張も小さく、しかし元気のある声で答えたのだった。

 

 

 

 艤装を腰に取り付けて海に続く船台の上に立つ。

 船台と言ってもそんなに大きなものではなく、小船がやっと載るくらいの小さなものだ。

 

「元々ここは小さな漁港だったんだけれど、深海棲艦の群れが湾内まで入り込むこともあってそのままになっていたの。

 そこに艦娘の登場でここも鎮守府として再建して、この町も艦娘補助制度でなんとか持っているって感じね」

 

「艦娘補助制度……ああ、艦娘を受け入れた町、或いは都市に何らかの負担軽減を行うんですね」

 

「と言ってもほぼ出来レースだけれどね。

 結局選ばれたのは海上自衛隊の基地があった場所と、旧日本海軍の基地があった場所かそれに縁がある沿岸の土地だけ、他は見向きもされなかったわ」

 

 そうしている内に抜錨の準備が整った。

 

「船の時とは違って火入れとかする必要はないわ。

 装着した時には機関は動き出しているし、水に浮く機構も稼動している。

 あの娘達みたいにね」

 

 そう言って筑波が指差した方には、尾張の警護をする為に既に水上で待機している艦娘達が居た。

 皆一様に水の上に立ち、尾張が来るのを固唾を呑んで緊張したように見守っている。

 

「準備は良いかしら?」

 

「あ、少し待ってください。

 皆、艦旗の準備を!」

 

 尾張が艤装の妖精達に指令を出す。

 最初こそ妖精の存在に固まっていたが、そのうちの何体かは見覚えのある顔をしていたので、それを見た後は自然と受け入れられていた。

 

(そうだ。

 私だって無傷で戦ってきたわけじゃない。

 何人も乗組員の人が戦死したし、事故で甲板から落ちた人も居た。

 私だけの問題じゃないんだ)

 

 そうしている内に、妖精達の手によって艦旗が掲げられる。

 それは日本とウィルキアの旗、本来なら一つだけ揚げられる国籍旗ではあるが、尾張はあえてこの二つの旗を掲げた。

 

「尾張、抜錨準備整完了!

 抜錨します!」

 

「船台滑走開始!」

 

 尾張の声と共に筑波が合図を出すと、明石が船台を操作して尾張とその巨大な艤装が動き始める。

 船台に取り付けられたワイヤーが、地面をこすりながら船台が滑走する様は船の進水式さながらである。

 そしてとうとう海へと到達すると、足の艤装が海面を掴み付いた勢いのまま海面を走る。

 

「おっとと」

 

 海面の上に立つという初めての行為に戸惑いながらも、しっかりと立っているのは元々の船の安定性故か、特に危うげもなく海面に立ち自分の力で前に進み、大きな船跡を残しながら湾内をゆったりと航行を始めた。

 

『『おおー!』』

 

 その歓声は尾張が無事に海面に立ったからなのか、それともその巨大な艤装をつけて滑走する迫力からなのか。

 何れにしろ別世界の戦神がこの海に降り立った。

 

「綺麗……」

 

「ああ、同時に、力強くも感じる」

 

 大和の呟きに武蔵が答える。

 その姿は本来の元は違えど、内に秘めた鼓動は間違いなく、帝国海軍が大和型を超える為に生み出そうとした超大和型、その名に相応しい力強さと美しさを秘めていた。

 

(シュルツ艦長……私はまた、この場所へ帰ってきました……。

 ここにはウィルキアという国はないけれど、志しは変わりません。

 どうか武運長久を……私は、ここで再び戦場に身を委ねます)

 

 目を閉じ、改めて決意表明を心の内で行い、目を見開き、目の前の海を睨む。

 この広い海原のどこかに潜む深海棲艦という名の敵が居る。

 その事実を再認識すると、胸中に激しい炎が煌々と燃え上がるのだった。




尾張ッ復活ッ!
艤装の修理も(資材的な意味で)多大な犠牲を経て完了し、とうとう尾張が艦これの海に降り立ちました。
次回は航行演習と射撃演習です。
攻撃面はあまりやり過ぎない程度に抑えますが、その辺りは賛否分かれるかもしれませんけれど、がんばって書きたいと思います。

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