東京メリー   作:雨守学

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蓮子視点の話です


幻想郷の少女たち

私が星なら、貴女はそれを包んでくれる大きな空。

空と星は、一緒になれない。

一緒に見えて、ずっと、遠い存在。

私は、貴女と、ずっと、一緒になりたかった。

 

私が星なら、貴女の空に落ちるだろう。

天文学的な数字の海を、何年もかけて。

だけれど、そんな膨大な海を渡る間に、私は死んでしまうだろう。

 

貴女が星ならば、ぐっと、近づくことが出来るのに。

私が空なら、貴女と同じであれるのに。

貴女が私なら。

私が貴女なら。

空である貴女と、星である私が、もっと、近く、似たような存在ならば。

同じ空を見れたなら、同じ星を見れたなら。

同じように生きて、同じように死ねるなら。

 

貴女が、人間であったなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、縁側に座っていた。

冷えた湯呑と、齧ってある煎餅。

揺れる髪。

束ねた髪。

「……え?」

束ねた髪……?

そういえば、帽子は?

「というか……どこよここ……?」

立ち上がる時、気が付いた。

赤い服を着ている。

袖が服と別になっていて、腋が露出している。

「……?」

歩むたびにきしむ床。

和風な作りの家。

縁側の向こうには、遠く、山々が見える。

「よう、----。起きたのか」

声の方を向くと、魔女のような帽子を被った少女が立っていた。

「あれ……----……」

ほにゃららとは、私の事だろうか?

「あー……そういうことか。だとしたら、名前を聞かなきゃな。私は霧雨魔理沙。お前は?」

「蓮見ウサ子」

「……やっぱりそうか」

少女は何か考えた後、縁側に座った。

「座れよ」

少女の言う通り、座る。

ここは、幻想郷なのか。

でも、この格好は一体……。

「ウサ子、お前はいつここに来た?」

「いつって言われても……今、気が付いたらここにいたんだよね。ねぇ、ここは幻想郷なんでしょ?」

「ああ、そうだ」

そういうと、少女は煎餅を齧った。

「……あ! そうだ……私、あのカフェで二人と話してて……それから……」

「それから?」

「……気が付いたら、ここに」

「なるほどね。だが奇妙だ。どうしてお前が----の姿なんだ?」

「そのほにゃららって誰?」

「私の……まあ、友達みたいな感じ?」

そういうと、少女は照れたのか、頬を掻いた。

「それと……」

そこまで言うと、少女は黙り込んでしまった。

「それとなによ」

「ウサ子」

「ん?」

少女が箒に跨る。

「乗れ」

「え?」

「乗れって」

「……それに?」

「そうだが?」

「……」

「……言いたいことは分かる。分かるけど、乗れよ」

箒に跨る。

凄く恥ずかしい。

「……これでいい?」

「しっかり掴まれよ?」

「え?」

瞬間、物凄い勢いで箒が飛び出した。

咄嗟に箒を掴んだけれど、今にも落ちでしまいそうだ。

「ちょちょちょ……!」

箒は容赦なく加速し、やがて雲を突き抜けた。

「スピード……! スピード緩めて……! 手が……握力が限界……!」

「ほいよ」

箒は徐々にスピードを落としていった。

「うぅ……何なのよもう……」

「大丈夫か?」

「大丈夫なわけないよ! なんだってこんな……」

下を見ると、雲が流れているのが見えた。

その隙間から、とても小さな集落のようなものが見える。

「ヒッ……!」

咄嗟に少女の肩にしがみつく。

「高いところは苦手か?」

「苦手じゃないけど……さすがにこの高さは……。それに……安全装置もなにもないし……」

「安全装置?」

こんな貧弱な箒一本でこんな高いところに来たのか。

これにはライト兄弟もびっくりだろう。

「貴女、魔法使いか何か?」

「人間の魔法使いだぜ」

「人間の魔法使い……?」

「ひみつのアッコちゃん的な感じよ」

「……なにそれ?」

「お前、向こうの世界から来たのに知らないのかよ?」

 

しばらく上空を飛んでいた。

その間、少女は何も言わなかった。

「ねえ、景色を見せてくれるのは嬉しいけど、説明ぐらいしたらどうなのさ?」

「説明も何も、何か感じないのか?」

「何も?」

「……っかしいな」

私が景色を見ると、何か起きるのだろうか。

「そういえば……貴女、メリーって知らない? 貴女のような金髪の女の子なんだけど……」

「メリー……? 名前は知ってるが、見たことはないな」

「名前を?」

「アリスが教えてくれたんだ。蓮見ウサ子、メリー」

アリス。

人形町のアリスか。

私とメリーが初めてコンタクトを取った、あの。

「魔法使い仲間なんだね」

「まあ、そんなところか?」

「じゃあ、早……姫草ユリ子は?」

「ああ、知ってるよ。東風谷早苗の事だろう?」

「本名を知ってるの!?」

「ああ、東風谷早苗……そいつが今回の異変のカギとなるかもしれん」

「え?」

箒は下降を始めた。

霧のかかった湖の上。

ひんやりとしていて、少し肌寒い。

その向こうには、紅い屋敷が見える。

「あ! あの屋敷は……」

「お、何か思い出したか?」

「神保町の……。パチュリーとかいう魔法使いがいる……」

「神保町……?」

あの列車は見えない。

この世界は幻想郷。

だけれど、どうも変だ。

私たちが迷い込んでいた幻想郷とは、少しだけ違う。

現に、この格好は一体。

「メリー……か……。そうだ! もしかしたら、お前の言うメリーがいるかもしれん」

「本当!? どこどこ?」

「マヨイガだ」

「え!?」

 

しばらくすると、人っ子一人いない集落のような場所に出た。

なるほど、マヨイガだ。

「えーっと……確かこの辺り……」

その時だった。

「うお!?」

少女の叫びと同時に、箒が横にスライドした。

首がむち打ちみたいに痛くなる。

「痛っ……! なに急に!? 安全運転で頼むよ!」

「宇佐見蓮子……」

聞き覚えのある声だった。

鳥肌が立つ。

「狐か。血相変えてどうした?」

谷中で私たちを襲った、あの狐女が、そこにいた。

「霧雨魔理沙、宇佐見蓮子を渡せ……!」

「宇佐見蓮子……? こいつの事か?」

狐女の目は、怒りに満ちていた。

「お前、本名は宇佐見蓮子って言うのか?」

もう本名がバレてる以上、隠す必要もないだろう。

「う、うん……」

「……なるほど、宇佐見……ね……。おい、狐。お前はどうしてこいつが宇佐見蓮子だと思ったんだ? ----の姿をしているのにさ」

「----様がマエリベリー・ハーンとして目覚められたのだ。つまり、お前もそうだと思ってな」

メリーが?

ということは、ここにメリーがいるということ?

「マエリ……なんだって?」

「メリーの事よ! 貴女、メリーをどうしたのよ!?」

「安心しろ……。----様には申し訳ないが、心がマエリベリー・ハーンである以上、動かないように軟禁している」

「そんな……」

「霧雨魔理沙……そいつをこっちに寄越せ。それでこの異変は解決だ」

「ならば、一つ約束してもらおうか。名前を取り返したとして、----を殺さないと誓えるか?」

「----は異変の首謀者だ……。異変の首謀者を痛い目にあわせるのは、お前たちがいつもやっていることではないか」

「交渉決裂だな。蓮子、しっかりつかまっておけよ」

「え?」

また箒が急加速した。

あの狐女に向かっている。

「馬鹿が……。宇佐見蓮子を渡せ……!」

狐女は例のごとく光の玉を何発も発射した。

結局のところ、あれはいったい何なのか。

「一発で決めてやるぜ」

少女は小さな八卦炉を取り出した。

「マスタースパークだぜ!」

少女が叫ぶと、八卦炉からまばゆい光とともに、巨大なレーザービームのようなものが発射された。

その光は、狐女の光る玉をかき消し、狐女の体を焼いた。

「ぐああああああ……!」

狐女の生々しい叫び声が響く。

やがてレーザービームが終わり、辺りには焼けこげる匂いが充満していた。

「最大火力だぜ」

「す、凄い……」

「へへへ、だろ?」

「く、くそ……」

狐女はボロボロになっていた。

「狐、----を出せ。お前がやらなくても、私がこの異変を解決してやるよ。私はその道のプロだからな」

「黙れ……! ----の肩を持つお前の事など……!」

「もう一発欲しいか? 言わなきゃ撃つ! いや、撃つと言うか? ああ?」

少女はまた、八卦炉を構えた。

「人間の分際で……!」

「お、まだやるのか。いいぜ、死んじまっても文句言うなよ? 死人に口なしなんだからよぉ!」

「やめなさい」

また、聞き覚えのある声。

「早苗さん……?」

「早苗? 東風谷早苗の事か?」

「蓮子さんですね? 良かった……無事でしたか…」

早苗さん……なんだけど、早苗さんも格好が違う。

私の緑バージョンみたいな服装をしている。

空を飛んでる。

空を、飛んでる。

「さ、早苗さん……空……空、飛んでるよ……?」

「えぇ」

「えぇって……」

「それは後にしましょう。今は……」

そう言って、狐女の方を見た。

「八雲藍……メリーさんを返してください……」

「東風谷早苗……!」

「安心してください。私はこの魔女の味方でも、貴女の味方でもありません。ただ、蓮子さんとメリーさん……私の友達を返してほしいだけなのです」

「早苗さん……」

「ふん……!唯一の部外者であるお前など信用できるか……!」

「そうとも言い切れないのです」

「なに……?」

「貴女に名前を支配されてから、私は蓮子さんとメリーさんが何をしているのか分かるようになりました」

「あのカフェに来たのも……」

「えぇ、それと……私の中で、誰かが囁くようになったんです」

誰か……。

まさか、早苗さんも私たちと同じように、誰かが……。

「蓮子さん、そして、メリーさん……お二人を……幻想郷に帰せと……」

「私たちを……幻想郷に……?」

「本能か……」

少女はそういうと、帽子を深くかぶった。

「私の中に誰かいるのか、もしくは、名前を奪われた為に幻想郷の本能を植え付けられたのかは知りません。ですが、私自身、私の知らない誰かになってしまう気がして怖いのです。だから、私も早く解決したいのです。そのほにゃらら……蓮子さんの中にいる誰かが名前を奪ったというのなら、その人が知っているはずです。この全てを終わらせる手段を……」

狐女は黙ったまま、じっと早苗さんを見ている。

「蓮子さんもメリーさんも助けたい。そして、私自身も……。なので、決して部外者ではないのです」

「……お前にできるのか?」

狐女は、静かに、だが、怒りを含めながらそう言った。

「少なくとも、お二人よりは穏便に解決出来るでしょう。どちらも、どちらかには渡したくないでしょうから」

「私はいいぜ。----が無事ならそれで」

少女はニヤリと笑った。

「……いいだろう。だが、----様がどうするかは別だ。覚悟しておけ……」

「交渉成立ですね。では、メリーさんのところへ案内してください。それと、蓮子さんはこちらで預かります」

そういうと、早苗さんは私を抱きかかえた。

「さ、早苗さん……」

「お怪我はありませんか?」

「うん! それにしても、凄いね。早苗さんの力は本当だったんだね。蓮子さん、早苗さんの事見直したよ」

「今までどんな風に思ってたんですか?」

 

私たちは狐女の後を追った。

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