宇宙戦艦YAM@TO完結編(ディンギル・アクエリアス戦役) 作:Brahma
さらに土門が負傷して...
「要塞が爆発を繰り返していますぅ。」
「これ以上ここにいるのは危険だね。千早ちゃん!ワープ準備!」
「ワープ準備に入ります。」
「??太助君、亜美、真美、もっと出力上げて!」
「だめです。波動エネルギーのリークがひどくて60%以上アップしません。」
「千早ちゃん、都市要塞の構造が誘爆でもろくなってるから姿勢制御ロケットを逆噴射させよう。そうすれば地盤を突き抜けられるよ。」
「ええ。制御ロケットスイッチオン!」
ヤマトは、無事に都市要塞からはなれていく。
150宇宙キロほどはなれたとき都市要塞の半分は巨大な爆煙につつまれて四散していくのが窓から見えた。
「都市要塞が爆破したわね...。」
「山本隊全機帰投!」
「加藤隊も全機帰投!」
「土門君」
「艦長、技師長...ヤマトヘもどってきたんですね。まるでお袋の腕にだかれているみたいだ。」
「土門君しっかりして。」
「伊織長官に伝えてください。砲撃シュミレーションのリベンジできそうもありません。すっげーくやしいです、って。」
「何言ってるのよ、がんばって...。」
それは、今回の航海の出発前のことだった。
伊織が防衛軍司令長官になったとき土門はお祝いをいいがてら長官室をおとづれた。
「長官への就任おめでとうございます。」
「なによ。いやみ?」
伊織は思わず髪をかき上げるしぐさをする。
「いやみなんていうわけないじゃないですか。それよりもこのたびの出撃から帰ってきたら砲撃シュミレーションで対決してくださいよ。」
土門は不敵に笑みを浮かべる。
「いいわ、こんどは叩きのめしてやる。」
「議員だの、長官だの祭り上げられて腕や感覚が衰えて返り討ちにされないでくださいよ。
生活班炊事科にしてやられたら恥ずかしいですよ。」
「にひひっ。この天才伊織ちゃんがあんたごときに負けるわけないじゃない。それよりも今度の戦いでもし砲撃レコードに恥ずかしい戦い方してた記録あったらただじゃおかないんだから。」
「練習に実戦に励みますからご心配なく。」
しばらく二人は無言になる。
「土門...無事に帰ってきてね...。」
それは二人ともガルマンガミラス本星へ向かった銀河系核恒星出発前を思い出したからだった。
「はい。微力をつくします。」
土門は敬礼して長官室を退室した。二人とも言葉をかわすのが最後になろうとはおもいもよらずに...
「艦長、訓練学校の校長室のとき覚えていますか?」
「あ...。」
「あのとき、自分を戦闘班にしてあげようって目が泳いでましたよ。」
「え...えへへ...。」
「うれしかったです。ありがとうございました。」
「ううん。ごめんね。頼りなくて。つらい思いさせちゃったね。」
「いえ。伊織先輩がヤマトを降りるとき推薦してくれましたから。」
「親父...お袋...そっちへもうすぐいくからね...。」
「土門くん...。」
土門の首から力が抜け、目が閉じられ、がくりと横を向く。
「土門君!!!」
第一艦橋では皆、手を目頭にあてて目を隠したり、人に顔がみられないようそっぽを向いたり、思い思いに顔を隠すようなしぐさをする。ときどきすすり泣きが聞こえてくる。
「アクエリアスはワープしてしまった。こちらもワープだけはできるようにしないとおいつけない。」
「律子さん...。」
「なんとかするわ。技術班!機関室を手伝ってなんとしても20時間以内に修理を終わらせるのよ。」
「はい。」
さて、数日前にさかのぼる。デスラー総統は、異次元断層発生に迅速に対処し、ベオバレラス市民をすみやかに移住させ、自らは領内の辺境視察にでかけていた。
「総統!東部方面軍ルント司令から緊急連絡です。」
「つないでくれ。」
スクリーンにひげをたくわえた歴戦の勇将の顔が映し出される。
「ルントか。わたしだ。そちらの様子はどうか。」
「デスラー総統...。」
ルントは片手をあげるガミラス式敬礼をして報告を続ける。
「赤色銀河が傾いていたおかげでそれほどの被害はありません。オーロラや流星雨や隕石の落下が多少激しくなった程度です。それよりも総統、異次元断層から出現した水惑星が地球へ向かっています。しかも24時間ごとに150光年づつワープをくりかえしていることが判明しました。これは自然現象とは思えません。至急地球に知らせたほうがよいかと。」
「いや、もうかれらは状況を把握している。見よ。これが地球の花だ。」
「総統?それはもしかして?。」
「うむ。彼らもこの事態に探査船団を送っているということだ。おそらくガルマンガミラス本星には、表敬の意味をこめてヤマトが派遣されたのだろう。それよりも問題はなぜ水惑星がワープするのかその原因だよ。何か手がかりはつかんでいるか?」
「実は件の水惑星が地球から天の川銀河中心部ヘ向かって3000光年の位置にある惑星の近くを通過してその惑星を水没させた時に巨大な要塞や艦隊が現れたと思われる形跡があります。ワープを繰りかえすようになったのはその後からです。」
「ふむ。そうか...地球は深刻な危機にさらされているということだな。」
「もしかして総統も?」
「君も気づいたかとおもうが、件の要塞や艦隊の主が地球を水没させて自分たちが移住しようとしている可能性が高いとみていいということだ。かってはわれわれも地球を遊星爆弾で放射能まみれにしたことだしな。あと水惑星は何回のワープで地球に到着するのか。」
「あと5回ほどです。実は地球防衛軍司令部から本星に連絡がとれないから代わりにと照会があり、彼らが土星と冥王星の空域で戦った敵の艦形とわれわれが水没した惑星付近で確認した艦形を照合したところ酷似していることが判明し、その旨を伝えたばかりです。彼らの名称はディンギルというそうです。われわれの友邦や同盟国に影響がないかつねに監視していましたが、水惑星の進路が地球へ向かっていること、太陽系が直接攻撃を受けていたことが判明したため、確実な情報として総統にお伝えした次第です。」
「あと5回か...わかった。」
デスラーは考え込む。(準備を考えるとぎりぎりで地球から150光年先の推定ワープアウト地点に間に合うな...。)
「ルント。」
「はつ。」
「今後ディンギルと思われる艦艇を確認した場合は、即刻攻撃せよ。我が友邦を攻撃しようとする輩は、我が帝国の誇りを愚弄する敵だ。戦闘体制を整えつつ、引き続き監視と警戒につとめよ。」
「はつ。」
ルントの前からデスラーの姿が消え、デスラー艦の館内ではスクリーンからルントの姿が消える。
「全艦隊、オリオン腕ゾル星(太陽)系方面へ向けて転針!」
デスラーが腕を振り上げて指を差す。
「了解。」
オペレーターの返事が艦内で返る。
青い旗艦を中心に緑色の船体色のデストリア級、ケルカピア級、クリプテラ級を従えたデスラー艦隊は太陽系方面へ向けて弧を描きながら宇宙空間のかなたへ消えていった。
なんとかワープアウトしたウルクでは、コ・ヤースが部下に命じていた。
冷静さを装うもののあせりを隠し切れない。
「岩盤そのものを曲線反重力波に変換せよ!」
「閣下...。」
「そうしなければアプス星系へアクエリアスを移送できん。やるのだ..。」
「了解。次元空間質量移送機へ充填、変換増幅!」
神殿と照射機のみになってあとの岩塊はじょじょに溶解していく。
あたかも焼き魚が骨だけになっていくようであった。
「あと3時間です。」
「ふむ。」
「後方1000宇宙キロに反応!なにかがワープアウトしてきます。
「ヤマトです。」
「死にぞこないめ。まだいたのか。」
「艦載機、水雷艇発進せよ。」
数千に達するであろうか、おびただしい数の艦載機と水雷艇が発進される。
「コスモファルコン発進!敵ワープ光線照射装置をねらえ!」
しかし、あまりもおびただしい数の艦載機に水雷艇のため、打ち落としきれない。
「右舷パルスレーザー3番、7番、9番砲塔損傷!」
「左舷パルスレーザー7番、8番、10番砲塔損傷!」
「第三主砲大破!第二副砲大破!」
「ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲は稼動させなくてはならない。波動砲は充填する余裕もないし、的がしぼりきれないわね...。」
「ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲被弾!作動しません!」
「ははははは...ヤマトよ。あと30分でワープだ。残念だったな。」
「!!」
そのとき、薄赤色の光条が闇を引き裂き、ディンギルの艦艇と艦載機、水雷艇が次々に爆発する。
「1000宇宙キロに新たな船影!ガルマンガミラス艦隊です!」
第一艦橋の雰囲気が明るくなる。
「ガルマンガミラス艦隊より通信ですぅ。パネルに切り替えますぅ。」
「アマミ...。」
「デスラー総統!」
「例の赤色銀河の件で巡視していてな。君がかってボラーから守りたいと考えていた我が国民は無事に避難させたから安心してほしい。その節は失礼したな。」
「はい。」春香は満面の笑顔で答える。
「一言礼をいいたくてな。間に合ってよかった...。」
「そうだ、人工ブラックホール発生装置搭載艦をもってきた。重力をうまく絞ってアクエリアスに照射すれば、軌道を地球からそらせるだろう。」
デスラーは好意的な含み笑いを一瞬浮かべると、再びけわしい表情になる。
「あの邪魔者はわれわれが片付ける。ヤマトははやく人工ブラックホールを発生させてアクエリアスの軌道をそらすのだ。」
「はい。ありがとうございます。」
「あ...、人工ブラックホール発生装置搭載艦から通信ですぅ。」
画面には細面、長髪のモノクルをつけたいかにも誠実さがにじみ出てくるような学者風の人物の顔が映し出される。
「天海艦長、秋月技師長」
「フラウスキー技術少佐ではないですか?おひさしぶりです。」
「地球の危機とうかがって、こんどこそ純粋に我が帝国の技術で地球をお救いしたいと総統に頼み込んできたのです。本当に間にあってよかった。さあ秋月技師長!乗り移ってください。」
「コスモハウンド二機を発進させて!ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲を搭載しているから。わたしはフラウスキー技術少佐の船に行ってくる。」
ガミラス艦載機がコスモファルコンとディンギル艦載機、水雷艇の戦いに加わり、数で優勢を誇っていたはずのディンギル軍はじわじわと追い詰められていく。
ヤマトの周辺はコスモハウンド二機がハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲でヤマトを必死に守る。たった一つだけ無事な第二主砲塔がサーモバリックモードで数百機単位の敵機を炎上させるがガルマンガミラス艦載機やコスモファルコン隊の隙間をぬって接近してくる敵機の攻撃に少しづつ被弾していく。
ディンギル艦隊もみるみる数を減らすが、水雷艇がハイパー放射ミサイルを発射し、ガミラス艦も沈んでいく。
千早が神業のような操艦技術で被弾を最小限に抑えている。これまでハイパー放射ミサイルが命中しないで済んだのが不思議なくらいだったが、ついにヤマトにもハイパー放射ミサイルが2基命中する。
「ハイパー放射ミサイル…直撃きます!」
ハイパー放射ミサイルは、船体を赤く溶解し食い込んでいく。
春香はとっさに
「総員宇宙服着用!脱出してください。」
と命じる。もはやヤマトはもたない。乗組員をなんとしても避難させなくてはならない。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。ヤマトはついにハイパー放射ミサイルに命中してしまいました。艦内に放射能ガスがひろがって、それからやがて撃沈してしまうでしょう。皆さん、今日まで良く戦ってくれました。ありがとうございます。そしてここまでがんばってくれたヤマトに心の中でお疲れ様を言ってください。皆さんの仕事は無事に地球に帰ることです。ですから救命艇に乗り移ってください。地球防衛軍司令部には伝えてありますので、まもなく救援がくるはずです。」
激しい戦闘のため、波動砲を発射する余裕がなかったヤマトに比して、デスラーはいつでもハイパーデスラー砲を発射できるよう準備していた。
「ハイパーデスラー砲発射用意!目標敵要塞!」
「ハイパーデスラー砲発射準備完了!」
秒読みが終わり、
「発射!」と宣して、ガルマンガミラスの総統自らが引き金を引く。
銀河系最強の巨砲が薄赤色の激流をはきだして、ディンギルの要塞とその周囲にいた艦艇を呑み込む。それらは、溶解され、引き裂かれ、無数の煙に変わる。溶けずに残った部分は金属片となって四散した。
ハイパーデスラー砲は要塞だけでなくディンギル軍の戦意を打ち砕いた。
残った水雷艇とディンギル艦載機の半数はヤマトとガミラス艦隊に特攻してくる。残りの1/6は降伏し、1/6はいずこかへ逃げ去り、1/6は自爆した。
ディンギル艦載機の激突で、激しくヤマトの船体は揺れる。避難の指揮を執っていた春香はその震動で投げ出されるように倒れる。
「!!」
「はるるん。」
「大丈夫。みんなは?」
「全員乗り移ったよ。」
「じゃあわたしもいくね。」
「太助っち、じつはね...。」
亜美と真美が太助に耳打ちする。
「自動ワープ機能セットした。もちかしたらヤマトは地球の近くにワープするかも。へへへ。」
太助はあきれてしまい返す言葉がみつからなかった。
「7時の方向、1500宇宙キロに船影ですぅ。船種識別完了。地球防衛艦隊駆逐艦冬月ですぅ。」
「水谷准将。」
「皆さん、ご無事でよかった。早く乗り移ってください。」
「アクエリアスの軌道、11時方向へ転針完了。軌道上に生命もしくは有人惑星はありません。」
「いくつかの砂漠惑星の近くを通過するから運がよければ生命が発生するかもね。」
「秋月技師長。お疲れ様でした。」
「フラウスキー技術少佐、地球のためにお力添えありがとうございました。デスラー総統にもよろしくお伝えください。」
小型艇が人工ブラックホール発生装置搭載艦から冬月へ向かう。
律子とフラウスキーは窓に見えるお互いの姿に対して敬礼をおくっていた。
ヤマトは煙を各所に噴出している。
「ヤマト….。」
「ヤマトへ向かって敬礼!」
皆はいっせいに冬月からヤマトへ向かって敬礼していた。
ヤマトはひときわ大きな誘爆を起こし、煙の塊になったように見えた。
冬月の艦内はすすり泣きと嗚咽に満ちた。
そのときだった。
「デスラー総統の旗艦から通信です。」
冬月の通信士が春香を呼び出す。
「アマミ…君たちのヤマトを守れずにすまん。」
「いえ、もし来てくださらなかったらわたしたちはこうして無事に生きていられなかったでしょう。」
「そうか…地球は水没しないですんで本当によかったな…。」
デスラーはかって自分が地球を遊星爆弾で攻撃したことを思い出しているのだろうか…
春香も返す言葉がみつからずしばらく無言であった。しかし、会話を再開したのはデスラーのほうだった。
「アマミ、君がボラーからわがガルマンガミラスの民を守るために波動砲を使ったが、わたしも地球人類をまもるためにハイパーデスラー砲を使うことができた。それがこれほどまでに気持ちのいいことだとはな…。」
デスラーは苦笑を浮かべる。
「はい。わたしも不思議なのですが、工作船団を守れたことよりも、ガルマンガミラスの普通に暮らしている皆さんを守れたということが今でもうれしいのです。」
「うむ…。ガミラスは地球に、ヤマトに負けてよかったのかもしれん。あの日高舞と、アマミ、君が目をさまさせてくれた…。」
「いえ…とんでもないです。」
「冬月艦長、通信機を使わせていただいた。地球の無事を心から祝福する。航海の無事を祈る。」
「ガルマンガミラスの総統御自らのご好意、地球は決して忘れません。かってはあなたと戦った日高舞も現在の司令長官である元ヤマト砲術長水瀬伊織もあなたのこのご恩を決して忘れないでしょう。お二人に代わりお礼申しあげます。」
デスラーは水谷に向けて敬礼する。水谷も答礼した。
「アマミ、いつの日かまた会おう。」
デスラーは春香に敬礼すると数秒後に画面から姿を消した。
「さあ、皆さん地球へ向けて帰還します。ワープ準備!」
「ワープ準備!」
冬月は、150光年かなたの空間から姿を消した。
「地球まで10宇宙キロ…」
「なにか、後方にワープアウトしてきます。」
「!!」
「あれは…ヤマト…。」
それは、ずたずたになって戦闘能力も一切失われていたがまぎれもなくヤマトであった。
「エネルギー反応はありません。」
律子の顔がとたんに険しくなって機関室の双子姉妹を見つめる。
「こら!亜美、真美」
「あ~りっちゃんが怒ったw。」
「うれしいくせにw」
双子を追いかけるが、隠そうとしても笑顔がもれてしまう律子はまったく威厳がない。
冬月の艦橋は明るい笑いにつつまれた。
冬月が姿を消した宇宙空間では、そのとき額に血をしたたらせた白髪で壮年の男が乗る一機のカボチャ状の宇宙船がSUSという小国に向かって航行していた。喜びにあふれる地球に知るよしもなかった。
春香は退役し、雪歩といっしょに貨物船の船長となる。千早と律子も退役し、律子は科学局の長官までのぼりつめることになる。舞は退院し、軍務ができないということでごく普通の主婦となり、訓練学校に通う娘愛の食事づくりに励んでいた。月日がたつにつれて美人ではあるがかってのアイドル、防衛軍司令長官としての前歴は忘れ去られようとしていた...。
※伊織長官とデスラー総統のセリフ等の変更と拡充(3/9,0:35)